22.会長
夕方まで時間を潰し事務所に戻ると缶は片付けられており、酒の臭いはましになっていた。
「おう、お帰り。書くもん書いてもらったか?」
「ああ、この通り。」
昴に紙を広げてみせる。
「うんうん、これで取り敢えず安藤組はうちの傘下になる訳だ。さて、次の話をしようか。皆集まってくれ。」
そう声をかけると昴の前に集合した。
「次の標的だが、鈴川だ。」
その言葉に皆驚きの表情を見せる。鈴川って皆が化け物と噂してる奴だったか。
「親父、春田のオジキではなく、鈴川のオジキを攻めるんですか?」
「ああ、鈴川だ。俺が思うに春田が一番の難敵だと思ってる。それは春田の情報が出てこないからだ。全く何も分からない相手に挑む訳にもいかないだろ?だから鈴川から当たる。だが、鈴川はそれは伝説の多い化け物だ。それこそ真っ向勝負ではかなり分が悪いと思う。だからまた作戦を練って奴を倒すのさ。それでその作戦なんだが・・・。」
昴が話を続ける中、事務所にある固定電話の着信音が鳴った。なんだ?話を中断し、真壁さんが受話器を取る。その話をする様子から相手が上の地位のものだと分かるが一体何の話をしているのだろう。
「・・・分かりました。失礼します。」
「どうした真壁?」
「沖田会長からです。今から本部に来いと。」
「そうか、分かった行ってくる。そうだな、真壁と右京。お前ら二人も付いてきてくれ。」
沖田会長。東帝会を統べる人物だが、まだ顔を見たことは無い。本部へ行く車の中、会長について聞いてみると、今跡目争いをしている鈴川並みの伝説を持っているようだが、昔のことであり、今の組員にはただ凄い人という印象らしい。過去の傑物というところか。
本部に着くと、黒服の組員が立ち並び物々しい雰囲気を醸し出していた。
「よお、秋川。最近偉くなったらしいじゃないか。」
声のする方を向くと、キリッとした顔立ちの男が居た。この場に居なければ、エリート官僚とも見える育ちの良さと爽やかさもある。これが噂に聞く春田か。
「いやいや、春田程じゃ無いさ。」
「ハハハ。その顔今はなって感じがはっきり出てんぞ。まあ、その方が張り合いがある。俺も負ける気は更々ねえがな。」
成る程、安藤よりも手強そうだな。
話も程々に、本部の中へと入って行く。前来たときには見なかったが、内装も豪華なもので、どれだけ悪いことをして稼いだ金が注ぎ込まれているのだろうと思ってしまう。奥へ進み一室へと入る。そこは一人掛けのソファーが多く向き合って並び、奥にはそれらを一望できる様に少し高い位置に一つのソファがある。そしてそこには短髪の白髪の老人が一人座っていた。見た目の雰囲気は松本元組長に似ている。俺達はその前まで行き向かい合う。
「会長、お久し振りです。」
「おお、来たか。呼び出して悪いな、鈴川の奴がまだ来ん。おめえらアイツの席だけ空けて座っとけ。」
なんだろう、拍子抜けする程、優しい声色に物腰。これが本当に東帝会を纏める会長なんだろうか?横を向くと真壁さんは緊張した面持ちのままだ。見た目に騙されてはいけないか。気をつけておいた方がいいな。
少しして、また一人部屋にやって来た。強面の渋い男、安藤よりは体は小さいが、その内には無駄のない鍛え抜かれた肉体が服の外から見ても浮き出てきており、一目で怪物だと分かる。あれが鈴川。
「遅れてすみません会長。」
「いい、いい、そんなに遅くは無い。さて揃った所で話しをしようか。まあ、この顔ぶれを見れば分かると思うが、跡目の話しだ。おめえらも気になってんだろ?今の組ん中はそればっかりでいけねえからとっとと話しつけてえんだ。老いぼれに楽させろよな、おめえら。」
「すみません会長。それで誰が次の跡目なんですか?」
「ああ、わしとしては鈴川、おめえがいいと思ってたんだが、この若い奴らもギラギラしてんだろ?面白えのが出て来たとおもってな、そこでおめえら三人で殴り合って残った奴に跡目をやろうと思ったのさ。手っ取り早いだろ?」
三人で殴り合い・・・。それだと腕の立つ鈴川が有利な気がする。
「まあ鈴川に分があるとは思うが、おめえらもこいつを超えることができなけりゃ会長の器じゃねえってことさ。分かったら明日正式にやるから今日は休んどきな。もう帰っていいぞ。」
話しはそこまでで部屋を後にする。
「なあ秋川、手を組むか?」
部屋を出て早々春田がそう言った。まだ鈴川も隣に居るんだけどな。
「春田、わしがここに居るのに面白いことぬかすのう。まあそれでもわしは構わんが。」
そう言いながらも鋭い眼光を向ける鈴川。
「その話乗るぞ春田。鈴川相手は厳しいとは思ってたからな。」
「じゃそういうことだ鈴川。」
「カッカッカ。良いだろう、わしもそう真っ向から言われれば文句は言わん。楽しみにしておこう。」
笑いながら帰って行く鈴川を見届けた後、春田も「頼むぞ。」と昴の肩に手を置いて帰って行った。
これは面白くなってきた。しかし、この場に居ない跡目の候補だった安藤が少し不憫に思えてきたな。まああれは自業自得だが。
帰る車の中、じっと外を眺める昴の顔は緊張の中に堪えきれない笑いが混じっていた。一体何を思っているのか。
そんな中、昴に電話が入った。話す内容は分からないが、しまったなという顔を見せている。
「・・はい、それではまた連絡します。失礼します。」
「何か変な依頼でもあったのか?」
「ああ、実は・・、いや、そうだ右京お前行って来てくれよ。」
「ちょっと待て、まず内容を聞かせてくれないか?」
「悪い悪い。ん、丁度事務所に着いた所だから屋上で話そうか。」
昴の話を聞くため屋上へと上がる。
「それで、何をするんだ?」
「ああ、公安の仕事が入っちまってな、しかも明日からとか言うのさ。明日は跡目の件があるし、どうしたもんかねってな。そこで右京に頼みたいのさ。」
「それは仕方ないな。分かった、公安の仕事を俺が代わりにやれば良いんだな。」
「悪いね。それで今度の仕事はぼったくりバーの排除。新宿にあるビルなんだが、そこは北朝鮮工作員の拠点なのさ。そこを潰すのが今回の仕事。どうかい?」
北朝鮮の工作員。前にちょっと話を聞いたが黒虎とは違う厄介さがあるとか。だが、今回は公安の仕事。俺が国のために動ける仕事だ。
「やるさ。今回の仕事の人数は?味方は居るのか?」
「もう一人だけな。ただ、そいつ面倒臭い奴なんだ。ちょっと我慢してもらうかもな。」
昴に面倒臭い奴と言わせる奴か、どんなだろう?
「まあ、とにかく頼んだぜ。」
「任せとけ。」
そう言って俺達は拳突き合わせた。




