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リセットウォーズ  作者: 誠也
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2.参加

 昴の話を聞いてから数日経った。しかしながら何の音沙汰も無い。今まで通り普通に働いては、帰って寝る生活だ。

 そんな生活にも新たな道具が増えた。電話機だ。スマートホンと言うらしいが、何が何やら。購入の説明を受ける際呪文の様な言葉ばかりで頭が付いていかない。取り敢えず、使いながら慣れる他ないな。

 そうだ、試しに電話をかけてみよう。とは言え今知っているのは渡辺と昴しか居ない。電話機に番号を打ち込む。


「はい、新宿警察署渡辺です。」


 何だかきちんとした挨拶で、おかしい。


「おっ、繋がった。俺だ、桂だ。」

「桂?ああ、どうしたんだ?」


 急に砕けたな、まあこの方が話しやすい。


「いや、電話機を買ったからかけてみようと。」

「そう言うことか、まあ今仕事中だからあんま長電話はできんけど。最近どうだ?こっちには慣れたか?」

「お陰様で。それで渡辺に何か礼をしたいんだが、何が良いだろうか?」

「礼?あんた律儀だなぁ。なら今度一杯飲みに行こうや。そんとき話を聞かせてくれ。」

「分かった。じゃあまた連絡してくれ。」

「あいよ。」


 渡辺も元気そうだ。次に昴に電話をかけてみる。


「誰だ。」


 いつもと違い低く、慎重な印象を受けるその声は確かに昴のものだ。


「桂だ。昴だよな?」

「何だ右京か。どうした、スマホ買ったからかけてみた感じか?」


 そう、昴から右京と呼ばれる仲になった。それがとても嬉しい。


「ああ、序でに前言ってた件なんだが。いつ頃動きそうとか分かるか?仕事を休むとなると親方に連絡がいるんだ。」

「ハハ、成る程な。そこん所は問題ねぇな。あの親方もこっち側だから。」

「なっ!昴、お前端からそのつもりで親方の所を紹介したのか!」

「いやいや、そんな事はねぇよ。考え過ぎさ。」


 何だろう、途端に信用が薄らいできた。いや、元々昴は裏社会の人間。もう少し慎重になるべきだったのだろう。


「そんで、次の予定が三日後だ。右京はまだ声をかけるのを止めとこうかと思ったけど、どんなもんか見に来るかい?」


 派手な喧嘩と称するそれは如何程のものか、興味はある。俺は了承し、昴が当日迎えに来ると話がついた。

 話の中で銃の腕や人を殺すのに躊躇いがあるか等普通に暮らしていれば何ら関わることの無い事柄を多く確認されたが、俺の頭が麻痺しているのだろう、それら全て問題無いと答える。

 最後に「頼むぜ。」と言われ、電話は切れた。三日後か。銃は使えるのは使えるが、腕と言っても零戦の機銃が主だったから何とも言えないな。俺は戦力になるだろうか。取り敢えず、こちらでも準備はしておこう。

 翌日仕事終わりに買い出しに出る。そして、硬く薄い鉄の板と裁縫道具、それから包帯に、水筒等思い付く限りの必要そうな物を買い揃えた。部屋に戻ると鉄の板を軍服に縫い付け、銃弾の対策とする。縫い付けた後に着てみるが、それ程重くなく普通に動けた。リュックには救急道具に重くならない程度の食料を詰める。こんな所だろうか。

 更に翌日、仕事中に親方から呼び出しを受ける。親方は歳も五十が近いと言うのに逞しい体つきをしており、その拳骨はとてつもなく痛い。厳格な親方からの呼び出しは大方叱りを受けるもので、同僚達は皆声を揃えて「御愁傷様。」と言う。しかし、今回は別である。明日の件について親方にも昴から連絡が入っている様で、休みを貰い、「死ぬなよ。」と肩を叩かれた。寂しそうな顔に初めて親方の優しさを見た。

 そして当日。夜から始まるそうだが、その前に渡す物があると昼間、部屋に昴がやって来た。こちらは準備万端と用意したものを身に付け待っていたのだが、昴に笑われてしまう。


「何だよそれ、遠足にでも行く気か?」

「これはそんなにおかしいか?」

「ああ、今すぐその軍服着替えろ。」


 まだ昼間だと言うのにそんなやる気満々な格好をするなということらしい。確かにまだ昼間だ、こんな格好をしていたらまた渡辺にしょっぴかれるだろうな。

 いつも着ている楽な格好に着替え、下まで降りる。外には黒く光る車と黒の正装を着た体格の良い男が立ち待っていた。男はこちらに一礼し、車のドアを開ける。俺と昴が乗り込むと何処かへ向け出発した。


「取り敢えず、右京は今の銃扱ったこと無いと思うからこれから試し打ちしてもらおうと思う。まあ、昔のと大きくは変わりゃしねえと思うから、直ぐ慣れるさ。」


 そう言って連れて行かれた場所は港にある大きな倉庫だった。搬入口横にある扉から中へ入る。壁沿いに十数個のコンテナと端の方に机と椅子があるだけの広い空間。昴はコンテナの一つから拳銃を取り出した。それを手渡される。軽く小さいな。昴の付き人の男が人を模した的を用意し、それに向かい銃を持つ腕を伸ばす。引き金を引くと銃弾は的の右太腿に当たった。


「一発目で的に当てるとは中々いいんじゃないか。」

「胸を狙った筈なんだが、やはり銃の腕は期待しないでくれ。」

「まあまあそう言わず、他のも試してみようぜ。」


 拳銃以外にも銃があり、小銃、散弾銃、機関銃それぞれを試した。どれも同じ様なもので、強いて言えば小銃が合っている様に感じる。

 それから服だが、用意した軍服では駄目らしく、昴から袋を渡される。袋の中にはピッチリとした黒のシャツとズボン、それからポケットの多い黒のチョッキが入っていた。夜に動くからなるべく暗く、闇に溶け込む方が良いということ、それから用意した鉄の板よりも強固な守りがこのチョッキにはあるとのこと。着てみると案外心地いい。それに軽く、動きやすい。

 しかし、これ程の道具どうやって・・・。


「今更だが昴、お前は何者なんだ?」

「聞きたいか?」


 そう妙に怪しい笑顔を見せる昴に、少し怯む。


「やめておこう。」

「そうかい?また聞きたくなった言ってくれりゃいい。」


 こいつ俺がもう聞かないものと思いこんなことを。また時が来たら、聞くとしよう。

 そのまま倉庫の中で夕食を取る。カップ麺を啜る音だけが寂しく響く倉庫で、しっかりとそれを味わう。噛み締める毎に気を高める。


「時間だ。行くぞ右京。」


 車に乗り込み、目的の場所へ移動する。数十分後着いたそこは歓楽街に近い地下の駐車場。直ぐ真上の通りには飲み屋の明かりが灯り、行き交う人々もまだ多かった。こんな所で本当に銃撃戦の様なことをするのか?

 駐車場から建物の中に入る。エレベーターに乗り込み三階のボタンを押した。その階に降り見えるのはトイレと部屋の扉が二つ。その内の一部屋に入ると、多く画面が展開し、街や何処かの建物の中の様子が映し出されていた。そして、俺と似た様な格好をした男達が二十人寛いでいる。しかし、昴を見ると皆立ち上がり、整列した。


「頭、準備はできてます。何時でも行けます。」

「了解。お前ら、今日の叩くのは言った通り、浜崎組の組長浜崎康明だ。奴は今入り浸っているキャバクラで機嫌良く飲んでる。その帰りを討つ。安田、倉本、田中、真壁、佐々木は浜崎を残りは事務所を潰せ。最後に確認だが作戦が頭に入ってない奴は今直ぐ言え。・・・よし、大丈夫だな。」

「待て、俺はどうすればいい?」


 慌てて昴に聞く。


「右京は事務所側に行ってくれ。徳本、世話を頼む。」

「はい。」


 徳本と言う俺と年の近そうな男が近付いて来た。


「お前が例の新入りか、徳本だ。まあ今日は付いて来たらそれでいい。」

「お、徳本が先輩面してるぜ。」

「いいでしょもう。初めての下なんすから。」


 皆に笑われている徳本は俺を除きこの中で一番下なのか。


「桂右京だ。よろしく頼む。」


 徳本に握手を求めると、少し強めに握り返された。


「おう。だが、俺のが先輩だ。敬語使え、敬語。」

「よろしくお願いします。」

「それでいい。」


 したっぱとは久しい感じだ。まあ、面倒にならぬようにだけは気を付けよう。

 挨拶が済むと皆装備の最終確認をし移動する。俺達浜崎組の事務所を攻める班は、駐車場に止めていた大きめの車二台に分かれ乗り込む。少し窮屈だが、人数のわりに静かな空間だ。車は十五分程進んだ所で、路地に入る。狭い道だが丁度今乗っている車が通る分の広さはある。そして、ある建物の裏で止まった。どうやらここが、その事務所らしい。車が止まってからは周りの動きが変わる。一人は何かメーターの様な所で、銃を数発撃ち込む。しかし、発砲音が小さい。これならば何か缶が倒れた位にしか思われないな。

 その後他の者は事務所に乗り込み始めた。ドアを開けると中は暗く、元々中に居た者達は「どうした!」や「早く明かりをつけろ!」と騒いでいる。その騒ぎの間、()()()は一人また一人と確実に仕留めていた。手際が良いな。辺りには血が飛び、何が起こったか分からず逃げ惑う者も居る。しかし、先輩方は容赦しない。一階に居た者は全て地に伏している。上の階にも上がり、残りが居ないかも隈無く確認し、車に戻った。戻ったら戻ったで直ぐにその場を離れる。ここまでの間時間にして十数分だろうか、恐ろしく早い。

 静かな車の中不意に口が開いた。


「いつもあんな感じ何ですか?」


 皆の顔が一斉にこちらを向く。そして徳本が口を開いた。


「おう新入り。これが俺達のいつも通りだ。」

「何言ってんだ徳本。お前一人仕留め損なってただろ、俺が代わりに殺ってなきゃ逃げられてたかもしんねぇんだ。」

「それに作戦はいつも頭が全部考えてんだ調子に乗るな。」

「そんな、今日厳しくないっすか。」


 車内に笑いが起こる。そこで改めて皆俺に自己紹介をしてきた。「思ったより、動じなかったな。」とか「こいつは早く追い抜いて良いぞ。」と徳本を指差して言ったり等、大分砕けた雰囲気だ。やはり、事の前にはとてつもない集中が殺気となり、張り詰めた静かな車内となっていたのだろう。


「次はお前も参加だからな。」

「はい。それで、この隊の訓練等はいつやってるのですか?」

「訓練は特にやって無いぞ。それに隊って何だよ、俺達は別に軍隊じゃ無いだろ。」

「えっ?」

「えっ?ってお前、何か知らずに付いてきたのか?」


 車内が妙な空気になる。


「俺達はヤクザ。松本組の組員だ。」

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