19.組長
「それで頭、まずは何をするんです?」
「そうだな、今東帝会で跡目の話が出てるだろ?うちの親父も候補なんだがあの体の具合じゃ厳しい。そこで親父に口利きして俺を候補に潜り込ませて貰うのさ。」
東帝会、それは俺達松本組の親組織になる。その跡目というのは会長のこと、つまり一番上に立つと昴は言ったのだ。確かにその地位ならば他の組も力に加えられる。だが・・・。
「まあ、俺らは間違いねぇと思ってますが、他が厳しくないですか?今は安藤のオジキと春田のオジキ、それになんと言っても鈴川のオジキ。この三人をどうにかしないといけませんぜ。」
話に出たその三名は東帝会の傘下、他の組の組長である。
まず、安藤組組長、安藤秀樹。自分の拳一つで成り上がった武闘派とのこと。
次に春田組組長、春田明。三人の中で一番若く三十三才、それに頭がズバ抜けて良いらしい。インテリヤクザというやつだ。その頭脳と資金力で瞬く間に組長まで登り詰めたらしい。
そして最後に鈴川組組長、鈴川総一朗。古参の組長で、その伝説は数多い。ヤクザになって直ぐ、敵対していた武闘派の組の組長を完膚無きまでに叩きのめし、その組を一人で潰したり、不意討ちで、腹をドスで多く刺されたにも関わらず、翌日には何も無かったかの様に過ごしていたなど人かと疑いたくなるものばかりらしい。
「勝算はあるさ。お前らは付いて来てくれりゃそれで良い。」
まったく、格好つけるな昴は。まあ、言った限りはなんとかしてしまうのだろうが。
「まず狙うのは安藤だ。奴は暴力により、成り上がった典型的なヤクザであり、頭はあまり回らない方だと聞く。つまりは上手くやれば、勝ち目がある相手という訳だ。戦い方はもう俺の頭にはある。それを実行する手助けを頼むぞ。」
「はい。」
話が終わり、昴は松本の親父に連絡を取り、一人親父の元に向かう。残った俺は組員達と話をした。実際の所、昴をどう思っているのか。
すると皆口を揃えて「頭なら間違いなく会長の器だ。」と言う。皆信じて疑っていない。頭が切れるのは知っていたが、聞いた話の中で、その喧嘩の腕もあるという声もあった。それを知るのは真壁さんだ。昴が松本組に入る際、真壁さんが気にくわないと喧嘩をけしかけたが、あっさりと返り討ちにあったらしい。
なる程、まだ俺も全てを知る訳では無いということか。
話を一通り聞き終えると、酒と煙草を買って来いとお達しがあった。勿論、徳本先輩と共に。
コンビニにて買い出しを済ませると、あとは事務所で飲み会となった。ヤクザは綺麗な女の居る店で飲んでる印象であったが、そうでもないらしい。ヤクザが出入りし過ぎると客足が悪くなる為、みかじめ料を取るときにだけ行き、それ以外はあまり行かない様にしているのだとか。それに店がヤクザと契約していると役所に知れると条例違反となり、営業停止処分となる場合もあり、わざわざこちらの収入が減ることをしない様にしているらしい。思っていたより不便だが、ヤクザも仕事。金を稼げなければ意味が無いということか。
酔いが回ってきた頃、昴が事務所に戻ってくる。その顔付きはいつも通りだ。俺にも酒をくれと伸ばす右手に缶ビールを渡す。それを一気に飲み干すと話を始めた。
「予定通り親父から組を貰うことになった。組長になる訳だが、俺は前に出て指揮もするし、喧嘩もする。分かったか?」
「はい!」
「じゃあ今日は騒ぐぞ!」
「はい!」
酔いに拍車がかかり、より賑やかになる。めでたいことなのか、公安である昴にとっては枷となるのかは分からないが、今日はこの雰囲気に呑まれよう。




