17.休日
下水道から地上に戻る。一つ深呼吸し、車に乗り込む。行きより広い車内に見える顔は皆疲れている。今回こちら側の被害として五名の命が失われた。その亡骸達は後日改めて弔うこととなっている。
黒虎との戦争。これで一つ幕となったが、奴等の本拠地は中国本土。また大人数を引っさげてやってくるかもしれない。そうなったときにまた勝てるだろうか・・・。
でも今日の所は取りあえず休む。もう体を動かすのはしんどい。
事務所に戻ると昴から簡単に話があり、逃げた孔の行方を追っていること、死体の処理を下の組に任せたことが告げられ、解散となった。
終わって帰ろうとする俺を昴が呼び止める。いつものように二人屋上に上がる。そして「お疲れさん。」と缶コーヒーを手渡された。
「右京、今回はいろいろ悪かったな。孔の相手を任せてしまったり、後はほら俺の不動産屋の女の子のこととか。」
「ああ、京子のことなら、あれは俺が悪かったんだ。黒虎の連中に襲われたのだけが原因じゃないさ。」
缶を開け、コーヒーを飲む。砂糖が良く効いた甘い味わいが口の中に残る。
「そうか・・・。そうだ、確か三日後のお前休みだよな?ちょっと出かけないか?」
「ん、まあ特に用はなかったから大丈夫だ。」
「じゃあ、予定入れんなよ。」
そう言った昴は事務所の方へと下りて行った。
今度は一体どこへ連れて行かれるのやら。コーヒーを飲み干す。さて帰るか。
翌日からまた土工の仕事に戻る。まだ体の痛みと疲れは抜けないが、比較的楽な作業が続いたのでそれ程苦では無かった。だからといってあまり気を抜いてはいられない。失敗があると親方の拳骨が飛んでくるからだ。そう考えていると、隣の同僚にその拳骨が飛んできていた。やっぱり気は抜けない。それから何事も無く、休みの日を迎える。
昨日昴から電話が入った。とある喫茶店まで来てほしいと。喫茶店ということはまた何かしらの仕事の話があるのだろうな。そう思いながら目的の場所へと向かった。
辿り着いたそこは想像していたものと違い、凄く洒落た雰囲気の内装で、客には女性が多い。店の入口で戸惑っていると、先に店に来ていた昴がこっちだと声をかけてきた。
「おはよう。どうしたんだ、そんな疲れた顔して?」
「いや、こういう店にあまり慣れていなくてな少し緊張してるんだ。」
「ハハッ。そうかい、まあ経験だな。」
「それより、今日は何があるんだ?」
「ああ、もうちょっと待ってな。」
少しして、俺達の座る席に一人の女性がやって来る。「お待たせしてすみません。」と震える声を発する方を向くと京子の顔があった。顔を合わせるとびっくりした様子で直ぐに顔を背ける。そして昴は俺の隣の席へと京子を座らせた。
「悪いね香川さん呼び出しちゃって。」
「いいえ、そんな。」
軽い様子の昴と怯える京子。
「おい、昴これはどういうことだ!何で京子を呼び出したんだ!京子は・・・!」
怒りの言葉を向ける俺を昴が手を遮る。
「まあ、待ってくれ右京。香川さん、今回はこっちのゴタゴタに巻き込んでしまってごめんね。一般人の君に被害が及んでしまったのは俺の責任だ。どうかお詫びをさせて欲しい。」
「そんな秋川オーナー、お詫びなんて。」
頭を下げる昴に戸惑う京子。どうしたら良いのだろうと混乱しているのか次の言葉が出て来ない様子だ。
「ああ、香川さん。君が俺の仕事のことだとか怖いと感じるものが苦手なのは分かってる。お詫びをしたからといって、更に巻き込むとか、オーナーの権限で君の仕事をどうこうすることは決して無い。そこは分かって欲しい。」
その言葉にゆっくりと頷く京子。
「それから、俺と右京のことを話そうと思う。きっと右京のことだからそこら辺は伝えてないだろうから。」
こちらを向く昴。確かに何も教えていない。隠しごとをしていたから前の様なことになった。ここは一つ昴にお願いしよう。
頷くと、昴は俺と出会ったときのことから今までのことを京子へ話した。俺が過去からやって来たこと、路頭に迷いそうになったときに助けて貰ったこと、そして昴の手伝いをするようになったこと全てを。
さすがに嘘と思われるような話だから信じて貰えないと思ったが、思いの外京子はすんなりと受け止めた。
「何と言いますか、嘘の様な話ですけど、今までの右京くんを考えると何だか納得しました。」
「良かった。だから右京が俺と同じ仕事をしていても、右京は右京として見てもらえたらと思う。勝手なお願いだけどね。」
京子の表情が少し柔らかい。
「じゃあ、俺は先に帰るよ。お金は置いとくから、後は二人でゆっくりと。」
と昴は帰って行った。二人になった途端、物凄く気まずくなる。さっきのは第三者から話を聞いただけで、まだ俺達の間には蟠りがあるのだから。どうしようか。
「「あの。」」
声が重なる。互いに譲り合うと、どちらが先か決められず、笑いが起こった。
「京子、今日はごめんな。」
「ううん、さっきの感じだと右京くんが言って、私を呼び出した訳じゃないんでしょ。だったら別に謝らなくてもいいよ。それにいろいろ話も聞けて少しスッキリできたし。」
その後は席を向かい合う形に座り直し、以前のように互いの話をした。やっぱり、彼女との一時は心地が良い。昴ありがとう。




