16.対決
暗がりを走る先にはもう黒い物は居ない。下水道内を足音が響くのだが、自分のものと遠く奥の方から微かに聞こえるものの二つ。その音を頼りに進んでいたのだが、ふと音が止まる。梯子を登る様な音や、水の音はしない。こちらに気付いて待っているのだろうか。
俺は走る足を徐々に抑え、息を落ち着かせる。暫くして見えてきたのは忘れようも無いあの銀髪だった。
「おい、お前らよくもやってくれたな!邪魔ばかりしやがって!」
孔は怒りを露わにしている。先に仕掛けたのはこちら。それに対して怒った黒虎を更に攻め立てたのもこちら。その怒りは分からなくも無い。
「こちらにもやらないといけない理由があるからな。」
「黙れ、そして死ね!」
孔がこちらに向け走り出す。俺は銃口を孔へ向けるが、その素早さに照準が合わない。仕方なくおおよその場所に撃ち込もうとするが、既に孔は手の届く距離まで来ていた。引き金を引こうとすると、孔は俺の持つ銃を掴み、強引に銃口をこちらに向けようとする。それに抵抗している内に、鳩尾に鈍い痛みを感じた。うっ。視線を落とすと孔の右膝がそこにはあった。
緩みそうになる右手に力を入れ直し、銃だけは渡さないようにと孔の手を振り解く。勢いはそのまま銃を後方へ投げ飛ばした。
力を出し切れない銃への頼りはもう捨てる。後は体に染み込んだものに委ねよう。
まだ痛みを残したまま意識だけは緩めず、神経を研ぎ澄ませる。殴り掛かろうとする孔の右拳をいなし、服を掴む。勢いを利用し背負い投げをかける。孔の体は浮き上がり、決まったと思った。しかし、孔は浮いた体を捻り、その背中が地に着くのを回避する。その後、互いに掴みあったまま膠着状態が続いた。身のこなしでは負けているが、力は互角というところ、次の一手をどうするかそれで勝負が決まる。
前に後にと崩し、機会を窺う。今だ!小内刈りをかけそのまま押さえ込む。暴れ回る孔を必死に押さえる。落ちろ、落ちろ、落ちろ・・・。孔の動きが止まる。
やった・・・。気持ちが緩んでしまった一瞬、押さえている孔の力が増す。そのまま、振り解かれてしまった。
「この野郎!」
まだ地に体が付いたままの俺に殴りかかろうとする孔。そのとき、複数の足音が響いた。
「桂!」
組の連中だ。孔は「ちっ。」と舌打ちすると、攻撃をやめ、足音とは反対の方へと走り去っていった。
後を追おうにも、もうすっかり力が抜けてしまっているこの状態では危うい。長く息をつき、仲間の到着を待った。
やってきた仲間から拠点に居た黒虎の残党は始末できたと話があった。また、こちらにも被害がでたことも。これで日本に居る黒虎はほぼ壊滅。残るは孔浩然だけ。逃げたあいつがまた何をしてくるか分からないが、今日の所は一先ず、風呂にゆっくりと浸かりたいとそう思う。




