14.情報収集
黒虎を討つのは決まったが、どこに潜んでいるのか、まずはそこからだ。事務所にあるモニタで行方を追っているのだが、その姿は映らない。一体どこに?
奴等の姿が映らないとみると昴はどこかへ電話をかけ出した。聞こえてくる話の内容からして黒虎を見つけるためのものだが、一体誰にかけているのだろう?
話を終えると昴は俺と真壁さんに声をかけ、共に事務所を出る。車に乗り込み、向かった先はとある駅横の駐車場。そこから歩きで地下にある駅の構内へ。改札を通らず、駅の隅の方に見える駅関係者専用と思われる鍵付きの柵によって立ち入りを禁止された扉の前で昴はポケットに手を入れる。そこから鍵を取り出し、柵の鍵を開け、その先の扉を開けた。扉の先は真っ暗な通路があり、俺達はその中に入る。扉を内側から鍵を掛け、壁にある電灯のスイッチを入れた。明かりによって見える通路は狭く、コンクリートの壁に囲まれたそこは季節外れの冷たさを感じる。点検用の通路か何かだろうか。奥へ進むと電車の騒音が響き耳が痛い。早く目的の場所に着かないだろうかと考えていると開けた所に出た。そこには線路があり、向かい側には扉が一つ見える。あれが目的地か?
左右から電車が来ていないことを確認し、駆け足で扉まで行く。一つ息を吐き、中へと入った。
そこにはうちの事務所とは比べものにならないくらいのモニタがあり、数人の男がそれを監視していた。その中から長と見える男がこちらに気付き近付いてくる。
「よお、若頭久し振りだな。」
昴に声をかけるその壮年の男は腹が出ており、悪代官と呼ぶに相応しい人相をしている。
「ああ。神崎、電話で話した通り、お前の知ってる黒虎の情報を教えてくれ。」
その神崎は情報屋らしく、首都圏のあらゆる情報を集めているとのこと。
「そうだな、奴等このモニタに映るところには居ねぇな。」
「そうか、お前の所でも・・・。」
「いやいや、そうじゃねぇ。監視カメラの設置してある所には居ないってことさ。奴等は今下水道に居るのさ。」
下水道。そんな所に居るから分からなかったのか。
「下水道と言っても、ここ東京の地下にあるのはそりゃ凄いもんさ。良くテレビでやってんだろ、東京の地下に色々な空間があるって。下水道にもそんなのが幾つかあってなそこを拠点にしてんのさ。地図も用意してるから持ってきな。」
「助かるよ神崎。」
「まあ仕事だからな。報酬はいつも通り口座に振り込んどいてくれや。」
分かってるという風に手で合図する昴。後で聞いたのだが、報酬の額はとんでもなかった。だから久し振りなのだろう。
神崎から受け取った地図は新宿の下水道のものだった。構造図に少し書き足した様なものだが、書き足したものこそ地下に眠る大きな空間、奴等の拠点だ。
場所は掴んだが、どう攻め入るか問題はそこである。問題は三つ。一つ、奴等の人数を把握できていないこと。二つ、事務所に居ない仲間を人質として盾にされるかもしれないこと。三つ、最大の敵、孔浩然をどう倒すか。これらを解決しなければ、上手くはいかない気がする。
そこら辺はどうなのかと昴に問いかけようとしたが、見えるその横顔はいつもの無邪気に悪い企みをしているものだった。まあ昴の頭にはとっくにそんなこと入ってるか。
急いで事務所に戻り、組員を集めた。
「聞けお前ら、黒虎の拠点が分かった。今からそこへ乗り込む。ただ今回はちょいとおちょくってやろうと思ってる。それに使うのがこれだ。」
そう言う昴の手には殺虫スプレーがあった。
「新宿の地下にはおびただしい数のゴキブリが居る。そんな中、これを下水道に噴きかけたらどうなると思う?下水道のゴキブリはパニックになって逃げまわる。奴等の拠点に逃げ道を限定してやるとそこにゴキブリ達は集まるのさ。さすがの奴等も一匹や二匹じゃ気にしないだろうが、それが千、万となるとただごとじゃ無くなる筈だ。パニック状態の敵を狩るのは簡単だろ?さあ、準備をするぞ!」
「はい。」
黒装束に着替え、装備を整えた。上手く行くかは分からないが、作戦としては面白い。
事務所を下り、車に乗り込もうとするが、肝心の殺虫スプレーの数が無いことに気付く。神崎の所に行ってそのまま買い物もせず戻ってきたので無理もない。まずは買い出しにいかねば。しかし、この格好で町中は歩けない。この空気を嗅ぎ取った徳本は服を着替え直した。そんな徳本は俺を見ると「お前も行くんだよ!」と怒鳴ってくる。気付かないと思ったが、駄目か。大人しく着替えるとしよう。




