12.襲撃
黒虎の追っ手から逃れ、息も落ち着いてきた所、俺の住むマンションに着いた。
京子がここへ来るのは部屋の紹介があった時以来だ。まだ落ち着かない彼女に座布団を渡し、俺は茶を用意した。それから彼女にゆっくりと話す。今回の経緯について。
俺が話し終えると彼女は暫く黙った。頭の中で整理がつかない様だ。
「京子、あのな・・・。」
固まる彼女に言葉をかけようとすると
「私帰る。」
と彼女は急に立ち上がり、玄関のほうには歩み始める。俺は咄嗟に彼女腕を掴んだ。
「待ってくれ京子。」
「離して、嘘つき!私そういうの怖いし、関わり合いたくないの!」
その言葉に俺は返す言葉が無かった。無理もない。彼女は初めヤクザと関わり合いがあるかもしれないと俺を避けていた。そんな彼女を騙し、危険な目に遭わせたんだ。自然と彼女を掴んでいた手が緩む。すると彼女は強く俺の手を振り解き、部屋を出て行った。
まずかったよな。もっと早くに打ち明けるべきだった。そうすれば、臆病で慎重な彼女をさっきの様な気持ちにはさせなかった筈だ。いつの間にか忘れていたんだろう彼女と居るのが心地よすぎて。深く息をつく。
悔やんでばかりいても仕方ない。取り敢えず、黒虎の連中をどうにかしないと外も歩けない。俺の所に来たということは他の人達も危ないだろう。聞いた話だと奴等は日本に数百人居るというから、こちら一人に対し、さっきみたいに二人以上で確実に潰しに来てるかもしれない。連絡して、集まっていた方が良いな。
早速昴に電話をかける。
「おう右京、逃げれた様だな、大丈夫かい?」
まるでこっちが襲われたのを知ってるみたいな話し方だ。尋ねると、
「ああ、事務所のモニタだよ。お前も知ってるだろ?これで、外の監視カメラをハッキングしてあちこち見れんの。これで今皆を見守ってるから安心しな。」
あれでさっきのを見てたってのか?ならもっと早く教えても良いだろうに。いや、それ以前に普段の何気ないことすら見られているというのか?これはあまり良い気分では無いな。
「なあ、見たのなら分かると思うが、組の奴等を集めた方が良いんじゃないか?一人で居る所を襲われたらひとたまりもないぞ。」
「どうかねぇ。そこいらは微妙だな。こっちの拠点がバレたら爆弾放り込まれて一瞬で終わりさ。まあ、一人で居ても危険なのは危険だけど。まあ、あとほんの二日ぐらい我慢しとけば俺が何とかするさ。だから信じて待ってくれよ。」
二日。その二日で昴は何をするのか分からないが、今はそれを期待する他無い。了承し、電話を切ろうとすると、昴がそれを止める。
「おい右京!あの女の子何で帰しちまってんだ!今黒虎の連中が彼女に近付いてってるぞ!」
きょ、京子が!
「昴、京子は今どこに居る?」
「お前居るのマンションから東の方に郵便局があるだろうその近くだ!」
電話を切り、外へと駆け出す。俺のせいだ。どうか無事で居てくれ京子!間に合えと力の限り足を動かす。心臓が強く脈打ち、本能が動きを抑えようとしても。
少しして、見慣れた背丈の彼女が見えた。その背後には二人の男が居る。見るにさっき襲って来た二人の男だった。アイツら、京子を狙いやがって!
近付いて行くと、俺の走る足音に気付いたのか京子と男達はこちらを振り向く。
「京子!」
奴等は狙いをこちらに変え、走り近付いて来る。俺は勢いそのまま男の一人に殴りかかる。向こう側も走り近付いて来たことも相俟って威力が増したのか、男の左頬に直撃したその拳一つで、気絶させるに至った。
だが、安心するにはまだ早い、もう一人いる。男は倒れた仲間を一瞥すると、物凄い形相で襲いかかって来た。力任せに腕を振るい攻撃してくるのだが、焦っている様に見え、こちらが冷静になれる。
辺りはざわつき、人が集まりつつある。このまま長引かせるのもあまり良くない。
俺は男の服を掴み出足払を掛けた。そのまま絞め技に持ち込み、男を押さえる。落ちた所でほどき、近くで怯えていた京子の下に近付いた。
「すまない京子。結局俺はお前をまた危険な目に遭わせてしまった。できるなら、またお前の傍に居させて貰えないか?その奴等から守る為にも。・・・まあ、襲われるのは俺が原因何だが。」
彼女は目が合ったまま黙り続ける。
「やっぱり駄目だよな。分かった、今の言葉は忘れてくれ。あと、知り合いに警察の男が居るからそいつに声を掛けておく。渡辺って言うんだが、俺と違ってちゃんとした奴だ。・・・今まで嘘をついててごめんな。じゃあ、もう行くよ。」
彼女に背を向け、その場から去ろうとすると後ろから服を掴まれた。
「待って。その、私もどうしていいか分からない。今まで右京くんと過ごした時間は心地良かったから。でも、怖いの。さっきみたいにまた襲われると思うと怖くて・・・。」
言葉に詰まる彼女の体を引き寄せ抱き締める。そして彼女の頭に手を置き、
「分かった。気持ちに整理がついて、まだ一緒に居てもいいと思えたら連絡して欲しい。俺は待ってるから。」
と彼女に告げた。手をほどき、俺は家に向け足を進める。その心には言い表せないものを抱えて。




