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作品の完成度を高める方法  作者: 石宮鏡太郎
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第6話 書き方の完成度

 書き方の完成度とは何でしょうか?

 人によってそれぞれですが、わたしは物語そのものを書けているかだと考えています。


 わたしは自分自身の書いてきた作品について見直しているうち、同じ内容で同じようなことを書いていても差が出ることに気づきました。

 昔書いた良い作品、最近書いた悪い作品。

 文章や物語の作り方は最近のほうがレベルが高いのですが、作品として見たときに昔書いた良い作品に敵わない。なぜか?


 考えた末にこの不可思議な事実に対して1つの結論を出しました。書き方の差です。

 どんなに実力があっても書き方が悪ければ実力を発揮できません。逆に、書き方が良ければ技術的に拙くてもいいのです。

 わたしの到達した結論では書き方の善し悪しがそのまま作品の完成度に直結します。書き方を良くするための思考をまとめていくと次のようになりました。


『作品において書き方の決定的な差は国語の能力でも文章力でもなく物語を書いているかに集約される。』


 では書き方とはなんでしょうか? なぜ物語を書いているかが重要なのでしょうか。その理由を極限まで突き詰めました。


『動作より行動、行動より物語。』


 たった14文字ですがわたしの思想の全てが詰まっています。

 文学作品では行動を書いて物語を浮かび上がらせることがありますが、その手法は究極的には心であったり事象であったりを浮かび上がらせるのが目的です。しかし物語を書いて心や事象を浮かび上がらせられるに越したことはないと思われます。


 テニス少年がスポーツドリンクを飲むという行為でその差異を例としたいと思います。

 文字数差があるため、だいたい500文字を目安とします。

 まずは動作です。動作はとにかくつまらないので苦痛を感じたら読み飛ばしてください。


 ******************

 例1 動作


 少年はベンチに置かれた水筒に対して正面に立ち、中腰になって腕を伸ばした。

 腕を伸ばした先にあるのはメタリックな黒系色でコーティングされた金属製の水筒だ。

 引き上げるようにして持ち上げ、蓋を開ける。中にはスポーツドリンクが入っている。持ち手の肘間接を曲げながら水筒の飲み口を下唇に乗せた。さらに底側を上へ持ち上げて水平に近づけるとスポーツドリンクが口の中に流れていく。

 彼は厳しい練習をしている。来週は大会だ。少年はダブルスの選手であるため休憩は少ない。また、ダブルスの練習や試合を意識した練習試合をしているため運動量は多い。それでも大会で勝つために練習している。

 練習場の周りで犬の散歩をしている少女がいる。練習場のテニスコートは2面で、そこで練習している7人を首を回しながら見た後、ベンチで休憩している少年に気づいた。犬のリードを引きながら空いている手を振ろうとわずかに持ち上げたが周囲のテニス部員に目をやり恥ずかしさが勝って止めた。

 少年は背筋を伸ばしてもう一度スポーツドリンクを飲もうとしたが、中身は空だったので諦め、駆け足で練習に戻っていく。


 ******************


 次に行動です。


 ******************

 例2 行動


 少年は汗をかいていて喉が渇いていた。喉が渇いていたから練習の合間に休憩を取って飲みに来たのだ。喉を潤すためがぶ飲みする。勢いがありすぎて多少こぼれたが気にはしない。

 彼は来週の大会にダブルスの選手として出場するので追い込み練習を行っている。休憩は少ないが勝つために一生懸命だから気にならない。

 練習場の周りで犬の散歩をしている少女がテニスコートで練習している部員を見ている。少女はベンチで休んでいる少年を捜していた。そしてベンチで休憩している少年に気づくと犬のリードを持っていないほうの手を振ろうとしたが周囲の目が気になり恥ずかしくて止めた。

 少年は格好良くスポーツドリンクを飲もうとしたが水筒の中身はすでに空だった。少女の前で空の水筒を飲もうとしたのは失敗だった。これからはもっと大きな水筒にしてもらおうと思いながら勢いよく練習に戻っていく。周囲は少年と少年の関係をなんとなく知っているので苦笑いした。

 こうして暑い一日は過ぎていく。

 ******************


 最後は物語です。


 ******************

 例3 物語


 汗まみれの少年がベンチに駆け寄って水筒に手を伸ばした。水筒は早朝に母が用意してくれたものだ。中身のスポーツドリンクを喉の奥へ豪快に流し込む。唇の端から零れた冷たい雫は首のほうに流れて汗に混じっていく。

 彼は来週の大会に向けて練習中で、今日の練習内容はいつも以上に実践を想定したものになっている。ここでいい結果を出して良い調子で大会に臨みたい。

 練習場の周りでは犬をつれた少女がテニス部の練習を見に来ていた。似たような格好で練習しているテニス部員たちに目を走らせたあと、ベンチにいる少年のことを見つけてほんの少し微笑んだ。リードを持っていないほうの手を少しだけ持ち上げて、でも顔を赤くしてリードを両手で握りなおした。

 少年は少しだけ姿勢を正すと今度はもう少し格好よく飲もうとした。しかしもうスポーツドリンクは残っていない。もっとあればいいのに。そんなことを思いながら少年はペットボトルを置いて勢いよく練習に戻っていく。急に張り切り始めた少年に周囲は苦笑いをするが、少年がそれに気づくことはない。

 空は青くて今日は暑い。大会当日はもっと暑いだろう。少年は母にもう少し大きなペットボトルを買ってもらおうと思うのだった。

 ******************


 3つの差は作品が内包する物語をどれだけ物語として書けているかに尽きると思っています。


 書き方の完成度を上げることは作品における物語をどれだけ伝えられるかに直結します。

 作者の脳内の素晴らしい物語は、より良い書き方によって読者に届けられるべきです。

 誰かと話をするとき、伝え方というのは大事です。伝え方が悪ければ事実が伝わりません。

 同じように、物語の伝え方が悪ければ大事な部分が伝わりません。読む人に小説世界の事実を伝えるのではなく、小説世界の物語を届けましょう。無味乾燥な事実の羅列よりも伝えたい物語そのものを届けるべきです。

 最後にもう一度書きます。わたしが一番大事だと思っていることです。


『動作より行動、行動より物語。』


 以上。

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