第3話 どうして何を書けばよいのか分からないのか
小説は好きだ。でも、小説を書くとき何を書けばよいか分からない。それでは完成度が上がりません。しかし書けない。
そんな人は意外と多いです。
それは多くの場合に、手段と目的と結果の関係性がおかしくなることで起きています。
手段と目的と結果とはなんでしょうか?
手段とは、小説です。
目的とは、書くべき対象の表現です。
結果とは、褒められることです。
目的における書くべき対象とは多くの人によって異なりますが、大昔の定義で言えば主題、つまりテーマであると言えるでしょう。
テーマとは何でしょうか? それは作品が表現すべき題材です。もしくは表現したい題材と言い換えることができます。
アフリカにおける経済活動? 日本刀を持った女の子の活躍? 魔法使いの学校に入学した主人公の学校生活? 異世界の料理? ゲーム世界に閉じ込められた登場人物のデスゲーム?
しかし大ざっぱなテーマは大ざっぱな目的でしかありません。もう少し細かいほうが良いでしょう。詳しくは後述します。
手段と目的と結果の関係性を時系列で並べましょう。
○ 手段を利用して目的を達成し、結果を得る。
これは問題がありません。
では、何を書けばよいか分からないときはどうでしょう。
× 結果を得たいので手段を利用する。
なぜかただの願望になっています。しかも目的がありません。そうです。書きたいんだけど書きたいことがない人は、書くべき対象が存在していないことが多いです。
わたし自身は小説を誰かに教わることなく来ましたが、小説を書くことについて教わりたいという人には必ず最初に言っている言葉があります。
「書きたいものを書いてください。書いたものについて、どうやればもっと良くなるか考えましょう」
小学校の作文の授業みたいな言葉ですね。書きたいものというのは作者自身が抱えているテーマです。
作者の持つテーマとは常に変化し続けます。もったいつけずに使いましょう。
作者の抱えるテーマが作品に強く反映されたとき、その作品はテーマ性が強い作品となります。
抱えているテーマが軽ければテーマ性も軽いでしょう。
抱えているテーマが重ければテーマ性も重いでしょう。
書くことが先にあるとき、テーマ性は薄くなりがちです。人気が出たらこんな展開にするからここはこうしておこう……ここは大事だけどもっと人気が出てから書こう……ああ人気が出るかも分からないのに書くのは面倒になってきたぞ……第一話は全然読まれなかったし……。と、不思議なことに人気があれば完成させることが前提になっています。そんなとき作品の質は無限に低下していきます。
どこまで書くかを決める。方向性の変更があってもいい、きりのいいところまで書く。それが大事です。
作者は作品をコンスタントに書きますが、心が抱えるテーマは都合よく生まれてくるものではありません。
それでも、書きたい。作者はとにかく書きたいのです。もし書きたいのであれば、書くためのものだけを残して全て捨てましょう。書くマシーンになりましょう。
そうなると借り物のテーマを使用してでも書くことになります。周囲のテーマをうまく使って、組み合わせて、そこに少量の借り物のエッセンスを足して、最後の隠し味に自分の持ち味を足して、そうです書くのです。
調べ物をするためのインターネット環境を使わない時間を決めましょう。科学が進歩していつでもどこでも作品を生み出せるようになりました。そのために世の中には昔と比較にならないほど作品が溢れているのです。小説が好きだとそれらを読みたくなります。でもあなたの時間は有限なのです。
日本に存在する小説作品の絶対数が爆発的に増えています。そうなるとあなた自身も次から次へと作品を生み出さなければいけないのです。新しい作品はすぐに過去となります。
この傾向はこれからも続くでしょう。だから書きましょう。
そしてこれが本題です。心の抱えるテーマが無いけれど借り物のテーマを使うのも嫌だと駄々をこねていると作品は書けません。
書きたいものが分からないのに書けるのは他人の注文に対して作品を書くときだけです。自分の作品を書きたいのに書きたいものが分からないなら手段と目的と結果の関係性がおかしくなっています。心をリセットしましょう。
テーマの細かさについて補足します。
テーマが細かい作品では「飢餓に襲われた村の住民が旅の商人から食料を買い付けるためにどのような行動をするか」であったり「肉親を殺された警察官の主人公が捜査を行って犯人を追い詰めていく」など。
テーマが大ざっぱな作品では「ゲームの世界で野菜を育てる」であったり「俺は無敵すぎてつまらないからスローライフをおくる」という傾向があるように思います。
テーマとしては強くても具体的でないパターンとして「希望と絶望」とか「愛と憎しみ」など概念による抽象的なものもあります。恋愛小説は「恋愛」で勝負します。
注意する必要があるのはテーマだけでは何を書けばいいか分からないということです。
何を書くにしても話の筋は必要です。書くものは書く、書かないものは書かない。割り切って話の筋を考えましょう。
執筆中に話の筋を判断できるなら話の筋を事前に用意する必要はありません。ただ散漫にならないようにしましょう。
昔のテーマ作りと今のテーマ作りに差はあるでしょうか?
答えはノーです。今も昔もテーマ作りの善し悪しや質は変わっていません。表現方法の変化があるのみです。
ラノベなキャラクターが軽いノリで戦ってなんとなく流れで愛する人を救ってしまっているのと、病気の妹の手術代のために重苦しい世界で命がけで金持ちと戦う少年は、同じ作者が書けばきっと表現が違うだけでテーマとしては同じなのです。
手段と目的と結果の関係性が崩れないようにしていきましょう。
以上。