第13話
長らく投稿せず申し訳ありませんでした。
投稿の間隔は開き気味になりますが、完結まではもっていきたいと思います。
いつもと違う枕の感触に少しの不快感を抱きながら翔人は目覚めた。
無機質な自分の部屋とは違う、明るい色のカーテンから注ぐ朝日がまぶしく枕もとを照らしていた。
「おはよう」
目の前にクスリと笑うミズキがいた。
ああ、そうか。
翔人は昨晩のことを思い出した。久しぶりの感覚だった。
「寝起きのショウはやっぱりかわいいや」
「……っ。かわいいって言うなよ」
「その反応もいつも通り」
部屋の空気は冷たかったけれど、布団の中はほんのりと温かい。けれど、いまだに触れあっている肌は熱かった。
「起きて朝ご飯にしよっか」
「そうだな」
ミズキは先にシャワー浴びてくると告げて布団を出た。目の前をほんのりピンク色の下着が通過していく。
しばらくしてくぐもった水の音が聞こえてきた。
ミズキと交代して翔人もシャワーを浴びる。ぼんやりとしていた頭がゆっくりと目覚めていく。
白兎荘では朝にシャワーを浴びることができない。
けれども翔人は朝シャワーが好きだった。そこだけが不満である。
「待ってたよ」
翔人が頭を拭きながら出てくると、トーストがちょうど焼きあがるところだった。
ミズキが手早く作ったスクランブルエッグと共に食べる。前日の残り物なのだろう。タッパーに入ったマカロニサラダも食卓にあった。
「おいしい」
素直に感想が口をついて出た。
他人が作ってくれたごはんなんて久しぶりだった。
白兎荘に人がいなくなってからは当然自分しか作らなかったし、雪菜が来てからも作るのは翔人だった。
雪菜はそもそも自由気ままに周りをうろついては話しかけてきて邪魔をしてきたものだ。その上、簡単な作業を任せてみても惨事になる始末。
作ってくれた人と共に囲う食卓は、すさんでいた心に安らぎをくれた。
「今日、どうしよっか?」
朝食を食べ終わり、コーヒーをすすっている。
「お互い休日でしょ? このままショウが帰っちゃうのも嫌だなって思って。どこか行かない?」
「いいよ」
翔人も休日でもあるので一緒に過ごしたいなとは思っていた。正直、ミズキの部屋でまったりするだけでもいい。
そもそも、どこかに出かけるにもネックがあるのだ。
「けど、俺は替えの服もないし、お金も昨日使っているから財布の中にはそんなに残ってない。思いっきりは遊べないよ」
「そっか。じゃあ、昨日と同じでいいや。今度は最初から二人で回ろう?」
それくらいならお金もあるだろう。
すっからかんというわけではない。
「そうしようか」
そう言って翔人は席を立つ。
キッチンに行って再びカップにコーヒーを淹れてきた。
「もう少しゆっくりしてから」
また座って、幸福そうな吐息と共にコーヒーを飲んだ。
ミズキは一瞬頬を膨らましたが、すぐに笑顔になった。
「ほんと、変わらないね」
* * *
昼食をショッピングモールの中で食べることにして二人はアパートを出た。
一切服を変えずに出歩くのはさすがに嫌だったので、コンビニで下着の替えを買ってきて履き替えた。それ以外は消臭スプレーだ。
昼時の混む時間を避けて昼食を済ませ、ゆったりとショッピングを楽しんでいた。
せっかくだし、服を見ていこうというミズキの提案でいくつかのショップを回った。
翔人はお金も無いし、特に買い足したい服もなかったがミズキが嬉々として服をあててくるのを見ていると、自然と笑顔になってくる。
「楽しかった~」
「歩き回って疲れたし、少し休憩しよう」
翔人は近くにあったベンチを指さし、ミズキを連れて座る。
「ほんと、すぐ疲れたって言うんだから。今度はちゃんとお金持ってこようね。そんでお揃いの色の服を買うの」
ミズキが目を輝かせながら笑う。
「ペアルックでもするのか? 恥ずかしいだろ」
「完全にお揃いだと恥ずかしいから、色だけ揃えるの。黄色系とか」
「黄色はミズキには似合うけど、俺には似合わないなあ」
「そうかな?」
「黄色ってミズキみたいな明るい子が着るから似合うんだよ。俺には似合わない」
翔人の持っている服はすべて暗めの色だ。
明るい色の服は避けてしまっている。似合う似合わない以前に明るい色の服を着ていると落ち着かないが。
「確かにショウは明るいって性格じゃないね」
「だろ?」
「けど、明るい服を着たら明るくなるかもよ? 身に着けているものによって人の性格も変わるんだから!」
「誰がそんなこと言ったんだよ」
「知らない」
よく分からない一瞬の間。
その僅かな時間のあとに二人の口からクスリと笑いが漏れた。
ミズキといるとこういう何でもないことで笑えるから落ち着く。
そんな心の平穏を久しぶりに感じた。
そう、感じていた。
「宇良くん?」