表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

プロローグ

 

 俺の周りから誰もいなくなった。

 かわりに、女がやってきた。



* * *


「……」


 後ろを見れば、食器を食卓に並べて夕飯はまだか、と台所に立つ翔人を見つめる女がいた。

 翔人はあの日から何度目か分からないため息をつく。

 一体、どこで間違えたのだろう。

 知り合って二十四時間と経っていない人間、しかも女の子を自分の家に泊めるなんて。

 女の方から泊めて欲しいと言ってきたけれど、このシチュエーションには多少やましい想像が掻き立てられる。翔人だって、健全な年頃な男で、一人暮らしだ。そこに泊めて欲しいなんて言う女の子が現れた。

 何日かたった今でも、何も事件が起こっていないことは、褒められるべきだろう。


「翔人ぉ。ご飯まだ?」


 何回目の問いかけだ。居候の分際でよくも催促できるものだ。


「待ってろ。何回言ったら分かる。食いしん坊が」


 同じことを何回も聞かれているせいか、翔人の声は少し苛立ちを含んでいる。だが、怒ることができない。


「たくさん食べたほうが元気になれるんだよー!」

「ガキか」

「子供じゃないし。二十歳だもん」

「はあ……」

「またため息ついたー。幸せ逃げちゃうよ?」

「……」

「無視した! 雪菜泣いちゃう!」

「……」

「……泣いちゃうよ?」

「……泣け」

「酷い! 鬼だ!」


 いい加減にうるさくなってきた、この女。本当に居候か?

 翔人のことを鬼だなんだと言いながら女は泣きまねをし始める。うるさい。

 手元で炒めている野菜が色づいてきた。どうやら夕飯はできあがったらしい。


「ほら、皿よこせ」

「……はい」


 泣きまねをやめて、シンプルな大皿を手渡してくる。翔人はそれに野菜炒めをフライパンから移す。特にこだわりや特徴の無い、ただの野菜炒めだ。

 食卓には野菜炒めと冷凍食品の唐揚げ、味噌汁、白米の二人分が向かい合っていた。少し前まで、一人分だったのに。

 翔人はフライパンに水をはってから食卓についた。

 さっきまでうるさかったのに、翔人が座るまで女は手を付けずに待っていた。こういうところが律儀だから怒るに怒れない。

 いや、怒れないのにはほかにも理由がある。

 一つ、女。

 二つ、かわいい。

 かわいい女の子には怒れないのは男の弱みか。しかも同い年相手だ。


「「いただきます」」


 二人でちゃんと手を合わせてから箸を取る。

 基本的に騒がしいが、ところどころに育ちの良さが見て取れる。

 真城雪菜。

 雪の日の夜、知り合ったばかりで、この家に泊めてと要求してきた女。無防備にもほどがある。




 はて、俺はどうして雪菜と食卓で向かい合っているのだろう。



次回の投稿は12月1日(木) 23時です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ