#9 カップ焼きそば、異世界へ!?
今回の作品は『ひょんなことがきっかけで異世界で洋菓子店を始めちゃいました!』(http://ncode.syosetu.com/n8356cn/)より。
今回の登場人物
・如月 蓮
・如月 萌
・ショコラ
・チョコ
・ミルク
・ココア
ここは現実世界でも日本でもない異世界・ベルディ。
蓮と萌はたまの休日に近所のショッピングモールへ買い出しに出かけていた。
「カップ焼きそばか……懐かしいなぁ」
「でも、この世界にカップ焼きそばがあるのって珍しくない?」
「そう言われてみればそうだね……」
彼らが元いた場所では当たり前に売られていたカップ焼きそばなどといった「インスタント食品」。
ベルディのように「洋菓子」自体知らない地域に「インスタント食品」を食する風習があるのだろうかと蓮達は思っていた。
「こういう時はショコラさんに訊いてみようよ! 何か分かるかもしれないよ?」
「久しぶりに行ってみるか!」
「うん!」
蓮達はかつて彼らがはじめてベルディを訪れた時の案内人であったショコラが経営するホテルへ向かった。
「ショコラさん、いますかー?」
蓮がフロントから彼女を呼ぶと、「ハーイ! その声は……」とどこかの部屋から元気よく彼らのところに駆けつける。
「蓮さん、萌さん、お久しぶりです!」
「お久しぶりです」
「ショコラさんもお元気そうで何よりです」
「2人がここにいるということは何か訊きたいことでもあるんですか?」
ショコラが蓮達に問いかける。
萌が「ええ」と頷き、こう続けた。
「実はさっき、近くのショッピングモールで生活用品の買い出しに出かけてた時に思ったんですが……」
「ベルディにカップ焼きそばとかを見かけたので、食べる風習ってありますか?」
彼女から引き継ぐように、蓮が質問する。
ショコラはハッと気がついたような表情をし、「つい最近入ってきたんですよ。私はまだ食べたことがないのですがね……」と肩を竦めながら答えた。
「つい最近なんですね」
「ハイ」
「僕達も買い出しに出かけてた時に驚いたのでつい……」
「いやいや、いいんですよ!」
彼らはカップ焼きそばがベルディに売り始めたのはつい最近だということに――。
「そういえば、今日はチョコが遊びにくるはずなのですが……」
「チョコさんがくるんですか?」
「ええ。ちょっと面白いカップ焼きそばの作り方を思いついたみたいでして……」
彼女が少し呆れ始めたタイミングを見計らったかのように「ショコラ!」と聞き覚えのある声が彼らの耳に飛び込んできた。
不動産で仕事をしているチョコがショコラのところに駆けつけたのである。
「チョコ、遅かったね」
「出かけようとしたら、お客さんがきちゃってね」
「あっ、蓮と萌もいる! 久しぶり!」
「「お久しぶりです」」
彼女が蓮達に手を振ってきたため、彼らはそれに答えるように振り返す。
「ショコラのとこのキッチンって空いてる?」
「空いてるけど……」
「よし! お邪魔しまーす! アレ?」
「……チョコってば! キッチンはもう少し奧だよ!」
チョコが躊躇せずに、ショコラのホテルのキッチンに乗り込もうとしたが、掃除用具入れの扉を開いていた。
その光景を見ていた蓮達は呆れながら彼女らのあとをついて行く――。
*
キッチンに着いた途端、チョコは事前に準備しておいた紙袋からカップ焼きそばの他になぜかニンジンやピーマン、レタス、キュウリなどといった野菜が出てきた。
「さて、今から「チョコ流カップ焼きそばの作り方講座」を実施します!」
「チ、チョコさん……」
「何?」
「なんで、野菜が置いてあるのかなぁと思いまして……」
「ああ、コレ? 実はこれらも使うんだよね。何を作るかはお楽しみにだけど」
「「……はぁ……」」
カップ焼きそばを作るだけなのに、サラダの材料が出てくるのかが理解できない蓮達。
彼女はショコラからエプロンを貸してもらい、話しながら説明し、石鹸で手を洗う。
「まずはカップ焼きそばを作る前に下拵えをします」
チョコはピーマンとニンジンを千切りに刻み始めた。
それは日頃から自炊をしているのかもしれないと思わせるような速さで刻んでいく。
「次にカップ焼きそばを作ります!」
次に彼女はようやくカップ焼きそばに手をつけ、外に覆われているフィルムを剥がした。
蓋を開け、ソースやふりかけの小袋を取り出す。
チョコが用意したカップ焼きそばは麺とかやくが混ざっているものだったため、あとは湯を入れ、3分間待って湯を切り、ソースやふりかけを混ぜ合わせる。
それが一般的なカップ焼きそばの作り方。
「野菜を刻むところ以外はほとんど一緒じゃないですか?」
「萌、面白くなるのはここからだよ?」
「大人しく見てますので、続きをお願いします」
「ハーイ」
しかし、彼女は湯を沸かしている間にその容器の中に、先ほど刻んだニンジンとピーマンを入れた。
数分後に湯が沸き、麺とかやく、刻んだ野菜が入ったカップ焼きそばの容器に必要量より少し多目の湯を入れ、蓋を閉める。
蓮と萌が嫌な予感をしている時、チョコはガラスボールを取り出し、レタスを手でちぎり、サラダを作っていた。
「よし、お湯を切らないとね!」
「なんか嫌な予感……」
「ちょっと! ショコラ、なんか言った?」
「いや、何も……」
ショコラは彼らと同様に嫌な予感を察している模様。
彼女はそんな彼女らを横目に湯切り口のフィルムを剥がし、湯を切った。
「さて、仕上げだよ!」
チョコはカップ焼きそばの蓋を開け、ソースと麺を混ぜ合わせ、最後にふりかけをかけてカップ焼きそばを完成させた。
「こ、これで完成したの?」
「うん! みんなで食べよう!」
「「ええっ!?」」
「サラダもあるからねー。どうぞ」
彼女はカップ焼きそばとサラダをきっちり4等分にし、試食してみる。
「ニンジンが固い……」
「ちょっと気持ち悪く……」
「えっ!? ショコラ、萌!」
「ちょっと斬新でしたかね……嫌な予感がしたのもそのせいかも……」
「そ、そんなに……」
チョコが作るカップ焼きそばは斬新かつあまりにヘンテコなものとなってしまったのだ。
*
そして、翌日――。
「「おはようございます!」」
「おはよう。ミルクさんにココアさん」
職場体験にきているミルクとココアが元気な挨拶で店にやってくる。
しかし、店内には蓮の姿しか見当たらない。
ココアが「あれ、萌さんは……?」と彼に問いかけた。
「萌なら部屋で寝込んでるよ」
「熱とかあるんですか?」
「熱じゃないんだ。呪い(?)のカップ焼きそばを食べてから、体調を崩してるんだ」
「呪いのカップ焼きそば……」
「「食べたくないですー!!」」
彼女らはその話を聞いて厨房の隅で怯えるのであった。
2017/08/19 本投稿