#6 近未来の「カップ焼きそば」は今とほとんど変わらなかった!
今回の作品は『ときえん』シリーズ(http://ncode.syosetu.com/s7141c/)より。
今回の登場人物
・エズミ
・ナミ
・マリア
時は今から33年後の2050年――。
ある土曜日の昼下がり、音楽準備室には1人のふくよかな女性が電子ポットで湯を沸かしていた。
「今日は寝坊しちゃったからお昼ご飯の準備ができなかったんだよね……」
音楽室には吹奏楽部員がわいわいと弁当を広げている。
普段は彼女も一緒になって昼食を取っていたが、その日は準備することができなかったのだ。
彼女は「何かないかなぁ……」と言いながら、その部屋の中を探し始める。
棚の中から机の中までくまなく探し始めたが、現段階では食べ物の姿は見当たらない。
普段は整理整頓されている音楽準備室はその女性が食べ物を探すために散らかしているといった状態だ。
「あれー?」
「エズミ先生、いますかー?」
女子生徒たちがエズミと呼ばれたふくよかな女性を呼びにその部屋にやってきた。
音楽準備室は楽譜などに埋もれており、彼女の姿がないと察する。
「普段なら「ハーイ!」って返事するのに……」
「い、いないよね……」
「お昼誘ったけど、いないなら仕方ないよね」
「そうだね」
彼女らはその部屋から出て行き、他の部員と昼食を再開した。
*
「ぶはぁ! さっき、ナミとマリアの声がしたけど、どうしたんだろう?」
あちこちに譜面が入った袋が散乱している中、エズミはかき分けながらそこから顔を出す。
遠くから「エズミ先生がいなくなった!」と騒ぎ始めていたため、「実は譜面に埋もれてたんだよ……」と彼女は譜面が入った袋の束を置きぼやいていた。
「あっ、こんなところにカップ焼きそばが転がってた!」
机の引き出しの手前方にカップ焼きそばが1つちょこんと置いてある。
カップ焼きそばは現代とほとんど変わらない。
「ちょうどよくお湯を沸かしてるところだし、これにしよう!」
エズミは消費期限は大丈夫かどうか不安になり、確認してみたところ、まだまだ切れていなかった。
彼女は安堵した表情を浮かべながら、カップ焼きそばのフィルムを破り、蓋からソースとふりかけを取り出す。
その焼きそばのかやくはすでに麺に混ざっており、そのまま沸騰したお湯を入れて3分間待てば完成することができるタイプのもの。
「カップ焼きそばを探しているうちにお湯が沸いてたんだね。沸かしてることすら忘れてた」
エズミが気がついた頃には電子ポットの湯はすでに沸き、保温にセットされていた。
それを忘れていた彼女が凄い。
「さてさて、急いで作って食べないと、午後の練習が始まっちゃう! あと、片付けないと……」
エズミは容器に書かれた線まで湯を入れ、待っている間に散らかしたものを片づけてを始めた。
*
あれからきれいに片付け終え、彼女はカップ焼きそばの湯を切ろうと容器を持ち、湯切りをするため、流しに向かう。
「……あれ……? さっき、お湯を入れたよね……?」
本来ならば、湯切り口のシールを剥がすと湯を切ることができる。
しかし、湯切り口から湯は出てこなかった。
「なんでだろう?」
エズミは記憶を辿り、「あっ!」と何かを思い出したようだ。
彼女は湯を入れたあと、机とかの後片付けをしていたことに――――。
「もしかして、入れておいたお湯は全部麺とかやくが吸っちゃったのかな……」
彼女はおそるおそるカップ焼きそばの蓋を開けると、先ほど本人が言ったとおり、入れておいた湯がすべて麺に吸収されていたのだ。
「片付けはあとにすればよかったなぁ……」
流しから離れたエズミはそのままソースとふりかけを絡め、後悔しながら食べ始め、その光景を隙間から覗いていた部員たちはなんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。
2017/05/07 本投稿