#11 夢の中のトラウマ
今回の作品は『闇医者・悪役令嬢』シリーズ(https://ncode.syosetu.com/s0121d/)より。
今回の登場人物
・ジャスパー
・木野 友梨奈
この話はとある病院に勤務している医者の話である。
ただいまの時刻は午前3時を少し回った頃、カタカタとパソコンのキーボードを叩く音が響き渡る診察室。
「さて、学会の資料を作り終えたし、看護師からの連絡がないから、軽く巡視したあと、少しだけ仮眠を取らせていただこう……」
外科医や内科医は緊急ではない限りは夜間に手術はないため、学会の準備などに時間を費やすことができるのだ。
彼は回転椅子から立ち上がり、診察室の戸締まりをし、懐中電灯を片手に各病室の巡視を始める。
しかし、彼は当直室ではなく、ある患者の病室で眠りについてしまった――。
*
軽快なリズムの音楽が流れている空間に彼はいた。
「これは何かの手違いなのでは……」
ここはどこぞの料理番組だろうと彼は思っていたが、何か違和感を覚える。
明らかに手が小さく、調理台は彼の身長には届いていないため、ご丁寧に台が準備されていた。
試しに「あー」と声を出してみると、普段話している声よりもはるかに高い。
白衣は着ていないことだけは気がついていたが、鏡が置いていなかったため、彼の今現在の外見がどうなっているのか分からない状態である。
「ええっ!? 僕は子供に転生したということか!?」
よって、そうなるのは事実。
誰もいない料理番組のようなセットの中で少年(中身は36歳男性)の声が響くのであった。
*
少年は仕方なく「うんしょ」と言いながら台の上に登る。
彼の視線が一気に広がった。
目の前にはシンクと蛇口といった水回りはもちろんのこと、電子ケトルや箸、フォーク、なぜか手紙とカップ焼きそばが置いてあった。
「これはなんだろう?」
少年は手紙に興味を示し、その封をハサミで切り、それを広げる。
「『任務・カップ焼きそばを作れ』?」
その手紙にはたった一言しか書いておらず、子供が読んでも支障がないように、漢字にはすべて読み仮名が振られていた。
「わざわざ読み仮名を振らなくても……」
彼はこうぼやきながら小さな手でカップ焼きそばが包まれているフィルムを剥がす。
ここからはいつも通りだと自分の心の中で言い聞かせながらその蓋を開けた。
「ソースとふりかけの袋はあるけど、かやくの袋がないよー……」
そのカップ焼きそばはかやくの袋は存在しない。
なぜならば、麺とかやくが混ざっているタイプのものだからである。
しかし、少年はそのことを知らずに容器の中や先ほど剥がしたフィルムなどを探し始めた。
「うぅっ……ないよー……あっ、麺に混ざってた!」
彼はようやくかやくが麺に混ざっていることに気づき、無邪気に喜んでいる。
次の工程はカップ焼きそばの蓋に図とともに書いてあるためそれを見ていた。
「次はお湯を沸かさないと」
少年はあらかじめ用意されている電子ケトルに水道水を入れ、沸騰するまで待つ。
「沸いた! お湯を容器に注がないとね」
数分後、電子ケトルから湯気がシューシューと出、湯が沸いた。
そして、彼はその湯を決められた線まで注ぎ、先ほどまで開けたままにしてあった蓋を閉め、3分間待つ。
このスタジオらしきところには壁時計やストップウォッチは存在していない。
「時計がないから、なんか落ち着かない……」
少年はそろそろかなぁ……と思い、フォークで麺を1本食べてみた。
「ちょうどいい麺の硬さだから、お湯を切ろう!」
彼は麺の硬さで湯を切るタイミングを見計らい、湯切りの爪を立て、「熱い……」と言いながら、一気に湯を切ろうとしたやさき、容器に入っていた麺とかやくはすべてシンクに落としてしまったところでカップ焼きそば作りは終わってしまった。
*
「イヤーーーーッ!」
その叫び声とともに彼は目が覚めた。
それと同時に「なんで!?」と女性の声が耳に飛び込んでくる。
「な、なんで、ジャスパー先生がこんなところにいるんですか!?」
「ゆ、友梨奈さん!? いつの間に!?」
「ずっとこの部屋のベッドで寝ていましたよ? なんか1、2時間くらい全然身動きが取れなくて……」
よって、ジャスパーと呼ばれた男性は友梨奈と呼ばれた女性の病室で寝ていたということになるのだ。
「す、すみません」
彼は彼女に謝り、ゆっくり身体を起こした。
友梨奈は呆れたように体勢を変える。
「ゆ、夢だったのか……」
「私はどんな夢を見てたのか気になりますけど」
「それは僕のトラウマなので、あまり話したくはないのですが……」
「話してください!」
「はぁ……」
ジャスパーは彼女に夢の中でカップ焼きそばを作って失敗したこと、実際にそれを作ってみたことはあるが、また失敗してトラウマになってしまったことを嫌々ながら話すのであった。
2017/11/07 本投稿




