4、~人の軌跡と神の力~
快晴。
台風の去った翌朝は、昨晩の騒ぎが嘘のように清々しいものだった。
ただし、それは梅雨の真っ只中でなければの話であり、この季節では最も嫌な天気である。
「あぁ~ぢぃ~っやべぇなこれ・・・」
「異常気象かよ・・・」
学校への通学路を歩きながら、黐桜と裂魁は額に滲む汗を拭き、赤くなった顔を手で扇いだ。とは言え、太陽は彼らをカンカンに照らし、蒸し暑さがひく事はない。二人はうんざりと、しかし力なくその元凶を睨み付けた。
「つーかレイは?」
いつもは三人で家を出ているが、今日は黐桜と裂魁だけだ。
澪織は二人が起きる頃に朝食だけ用意してさっさと一人で出て行ってしまった。
二人に向かって何やら話していたが、黐桜は寝ぼけていたのでよく覚えていない。
「あ~なんか、朝っぱらから親父達に呼び出しくらったらしいぜ?んで、一足先に学校行くって。・・・聞いてなかったのか?」
「ん、半分寝てた!」
「自慢げに言ってんじゃねぇよ。俺達にも召集かかんだぞ」
「げっ、マジで!?」
黐桜は明らかに嫌そうな表情になり、ため息をつきながら両手で頭を抱えた。
「それ100パー昨夜の事だろ?レイ呼んだなら良いじゃん!俺いらねーじゃん!」
「知るか。俺に当たんな。どうせ来んのは親父と宮都さんぐらいだろ?大丈夫だ」
「ぐらいじゃねぇよぉ~」
その時、ふと裂魁が歩みを止めた。 黐桜は怪訝そうに首を傾げる。
「姉貴が呼ばれたのは、昨日の詳細を報告する為だ」
「へっ?あぁ、そう・・・。ってそれさっき聞いたぞ」
「俺達にも召集をかけてくるだろうって」
「いや、だから聞いたって!何だよ?なんか都合でも悪ぃのかぁ?」
「俺達以外も召集されるかもって話だ」
「はあ?俺ら以外、・・・って」
何かを悟った口ぶりの裂魁について行けず、苛立ち始めていた黐桜だったが、最後の言葉を聞きハッとした。
「〝ガーディアン〟全体で動くってのか?昨日の事は、そんなヤバい事なのか?」
「まあ、規格外だった台風の中起きた、規格外な出来事だからな。実際、三人共死にかけてたし。むしろ動かない方がおかしいわな」
≪Guardian≫
余計な争いの根絶の為、各専門機関から選りすぐりの人材を選出し設立した〝護衛部隊〟。
その名の通り、≪守護者≫の役目を持つこの組織は、世界に10ある巨大都市に一つずつ本部を置き、その他の街にも必ず支部を一つ構えているのだ。
ガーディアンは、世界中に点在する10の本部の最高責任者である10人の幹部と、それを統率しているトップにより、仕切られている。
隊員は普段、教職員や警官などとしても勤務し、中には学生もいる。
無論、実力や本人の意思を尊重しているので、年齢基準が広いと言っても入隊は中学生からである。
かく言う澪織もガーディアンの隊員の一人であり、黐桜と裂魁の親も重役として所属していることもあり、二人も近いうちに入隊する予定なのだ。
「襲ってきたヤツも気になるけど・・・」
「あ?」
「俺を助けてくれた・・・、〝あいつ〟は敵じゃねぇよ、絶対・・・」
「!」
眉間にシワを寄せ、言いにくそうに言葉を紡いだ黐桜に、裂魁は目を見開き、表情には驚愕の色が浮かんだ。
が、すぐに目を吊り上げ、黐桜を睨み付ける。
そして苛立ちを含み、トーンを低くした声を荒げた。
「てめぇはバカか!?昨日会ったばっかの奴を、なに簡単に信じてやがる!?殺されかけただろーが!!!」
「怒鳴んなよ!それから助けてくれたんだろ!?だから大丈夫って思ったんだ!」
「昔っからその能天気さで何でもかんでも信用しやがるじゃねーかッ!!何回騙されたら学習すんだよ!?あの女の方こそ、ホントの敵だったらどうすんだ!!」
「お前は心が狭ぇだけだろうがこンのっアホ!中身カラっぽの石頭ーー!!」
「どういう意味だゴラアァ!!!?つーか中身カラなのはてめぇだあぁ!!!!」
元来、犬猿の仲である二人は、些細な言い争いから、アッサリ互いの胸元を掴む取っ組み合いへと発展する。
ギャーギャー喚き散らしながら、道の真ん中でもみくちゃになられる行為は、周りにとってはた迷惑以外の何物でもなく・・・。
「何やってんだお前ら」
「「んあっ!?」」
それぞれの両頬を抓っていると、背後から呆れ返ったような声音が聞こえ、その方向を振り返る。
そこには、紺碧色の短髪の少年が一人立っていた。
黐桜達と同じ中学の制服を纏い、声に違わず呆れ顔で、ゆっくり二人に近づいてくる。
「ふはっ!ほはひょお~」
「悪ぃ、黐桜。何言ってるか全然分かんねぇ」
「ひいふふへ、ほかがむ・・・」
「裂魁・・・」
埒があかない、といった具合に首を振り、少年はいがみ合う二人を引っぺがした。
「こんなとこでバカやってたら、そのうち通報されんぞ。あと遅刻するから、とっとと行くぜ」
「違ぇーって!これは、裂魁が分からず屋だから!」
「なっ!?どさくさに紛れて何言って・・・っ!」
「あ~言わなくていいから。お前らの喧嘩の理由って、たいてい下らない事だし」
「「冷てぇぞ久我ぁ~~~!!」」
我関せず、と少年・久我は歩を進める。
黐桜と裂魁も喧嘩を止め、その後を追う。
静かになった二人を確認すると、久我はやれやれといった具合でもう一度首を振ると、話を再開した。
「四葉さんから連絡きたんだけど、お前ら昨日大変だったんだって?」
あの騒動の後、澪織は黐桜の父・四葉に大まかな実状を報告していた。
その最中、彼の所にも連絡が回ったのだろう。
久我も黐桜達同様、ガーディアン入隊予定の人材。
情報を共有していなければ、後々面倒が発生してしまう事があるからだ。
「ああ。けど正直何が起きたかよく分からねぇんだ。危なかったのは確かだけど」
「ホントだよ。ベランダから落とされるし、変なの来たし・・・」
「お前らやレイさんが一か所に集まってた事もあるかもな。仕方がないけどよ」
「でも台風の事が分かってから、親父達が言いだしたんだぜ?レイ達といろって。なのに・・・」
「裏目に出たと言やぁそれまでだろ。それより、・・・ホントに大丈夫か?」
急に立ち止まり、心配の表情を浮かべた久我に、黐桜だけでなく裂魁もきょとんと目を丸くした。
「今朝、父さんから俺や先輩達にも召集がかかるって聞いた。今回の奴らが、本気でお前らを狙ったなら・・・」
「おいおい、心配しすぎだろ」
「久我も昔っから心配性だもんな~」
「!」
笑い飛ばした二人に、今度は久我が目を丸くする。
同時に二人は、彼の言わんとしている事を理解していた。
「無用な心配だ。ガーディアンに入隊する事はずっと前から決めてた。その引き金が今回の事になっただけだ」
「こんなんでビビってたら、父ちゃん達に笑われるぜ!それに・・・」
強気に言ってのけた裂魁に続き、黐桜もニカッと明るく笑って言った。
「今度は久我もいてくれんだろ?」
「・・・要らない世話だったみたいだな」
自然と浮かぶ笑みをそのままに、三人は再び歩き出した。
「お前ら二人の喧嘩を止める役、いつの間にか俺になっちまってるからなぁ」
「久我は俺らの母ちゃんだもんな!あっ、ブレーキみたいな?」
「ぜってぇー違うから。てか、誰が母ちゃんだ」
「いやいや、お前ならきっと良妻賢母なれるから。自信持てって」
「持てるかあぁ!なんっも嬉しくねぇんだよっ!!!」