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凪ぐ  作者: ネァー
3/5

2、~闇からの襲撃~

「裂魁ッ!レイッ!大丈夫か!?」「えっ、ええ・・・」「なんとか・・・」


黐桜は戸棚に背中をぶつけたが、幸い大したダメージにはならなった。

立っていられない程の揺れに襲われ、裂魁と澪織も机や椅子にしがみつき耐えるが収まる気配はなく。


「これが全部、台風の影響だってのか!?絶対おかしいだろ!」

「姉貴!親父か四葉(よつば)さんに連絡を・・・!」

「む、無理よこんな状態じゃあっ・・・きゃっ!」


「うあ!?」   「おい黐桜!」


揺れが一層激しくなり、澪織は掴んでいた机から引き剥がされ、そのまま黐桜に激突する。

裂魁の叫びも虚しく、黐桜はガラス窓に叩き付けられ、口から呻き声が漏れた。


「くっそ!」 『このままじゃ冗談抜きで大惨事だ!とりあえず二人を・・・』


「裂魁!上っ」「!?」   タンタンタンタンタンっ


澪織の叫びに、裂魁はとっさに横に跳んだ。それを待っていたかのように降ってきた鉛筆やコンパスが床に突き刺さる。天井を見上げるとまだ刃物が浮かんでいた。


「ポルターガイストで済まされるレベルじゃねぇな・・・!」

不安定な状態で、裂魁と澪織は体制を整える。

不敵な笑みを浮かべ、右手を肩の高さまで上げた弟を見、澪織は叱るように言う。


「ダメよ、裂魁!アンタの力じゃ大火事になっちゃうわ!」

「分ーってるって!黐桜ー!」

「あったま、下げろぉ!」


片膝を立てた黐桜が両手を突き出すのと、刃物が落ちてきたのは同時だった。


疾風払(しっぷうばら)いっ!」


ブワアァアアアァアァァァッ


黐桜から発生した突風は、向かってくる刃物を全て弾き、薙ぎ払う。

全てが床に落ちる頃には、地震も収まっていた。


「はあぁ~ビックリしたぁ~」

「ホント、何だったんだよ・・・」

「まだ停電してるけど、みんなに連絡はできるかな・・・」


三人はその場にへたり込む。

長いような短いような時間帯の出来事だったが、外はまだ台風の真っただ中だ。

澪織は自分の携帯を探し始めた。黐桜と裂魁も体の力を抜き、リラックスしている。


__全員、完全に油断していた。     カタカタカタ・・・ッ  「?」


バリイィンンッッッッ     「「「!?」」」


後ろのガラス窓が小さく振動し始め、不審に思った黐桜が振り向いた瞬間。

それは勢いよく、砕け散った。


豪雨が部屋に入り込み、澪織は思わず瞑った目を腕で覆う。

黐桜は窓から離れようとしたが、それは叶わなかった。


「うわああぁっ!」

「おい、何してんだ!?」

「分かんね、けど・・・わゎっ!」


何かに掴まれる感覚に気づいた時、黐桜は外へ引っ張り出されてしまっていた。

石造りのベランダに引き摺り出され、全身まんべんなくびしょ濡れになる。


視界すら危うい中、黐桜の視線の先には裂魁がいた。

力の限り、こちらに向かって手を伸ばす・・・その姿を。 黐桜も手を伸ばした。


しかし、彼らは互いのそれを掴めなかった・・・。


「っ・・・しゃあねー。黐桜!てめーも後で親父達に謝りに行くんだからなぁ!」

「はぁ!?何言って・・・」

「ちょっと、裂魁!」


裂魁のやらんとしている事に気づいた澪織だが、裂魁は既に腕を振り上げていた。


小火山(しょうかざん)!」


ドゴオオオオォォォンンッッ!!!!!!


降り下ろされた拳が地面にめり込み、裂魁の周囲が炎に包まれる。

ヒビを伝い、突き上げられる様に炎が溢れ出た。

小さな火山がいくつも噴火するのを、裂魁の瞳が映し出していく・・・。 


炎に勝る深紅の双眸は、決して他の色には染まらず、濁らされることもない。

同色の髪に少し入った群青色が、幻影的に映えていた。


「黐桜!飛べッ!」

「おう!風衣(かぜごろも)っ」


カアアァァァッ


黐桜の手が輝き、風に包まれた体は瓦礫が当たらないように宙に浮く。

裂魁もなるべく力を抑えたようで、ベランダは半壊を免れていた。

澪織は心配そうな表情だが、部屋の中から大人しく様子を窺っている。


「バカ黐桜!お前のとこは足場ねぇーんだから、慎重に戻って来いよ!」

「分かってるよ!たくっ、どうせ助けるんなら力使わないでほしいぜ・・・」


危うく火傷するところだったと脱力しつつ、風を操り、部屋を目指す。

最早シャワーと化した雨のお陰で、濡れていない所はない。

とりあえず風呂の前で良かった~、と思いながら黐桜は飛んでいく。


「え?」


自分で飛んでいる時と違う、不可解な浮遊感が全身を襲った。


「な、なにこれ!?」


数秒前まで問題なく飛んでいた黐桜が、まだ足場のない所で落下し始めた。

自分の意志でも、他者に何かされた訳でもない。


前触れもなしに、神通力が〝消えた〟のだ・・・。


黐桜がそれを自覚する数秒前、裂魁と澪織にも異変は起きた。

二人の足元、裂魁は先ほど自分で作った地面の(ひび)、澪織は何もない部屋の床から。

現れた〝黒〟に体を絡めとられた。そして、その体を床と地面に縫い付けられる。


『なに、!意識が・・・っ』  『視界が、奪われる?この感覚は・・・!?』


〝黒〟に呑まれ、視界を遮られ、落ちていく。

薄れゆく意識の中で、〝黐桜〟も消えて、呑まれて・・・、


     『死ぬのか?』      『!?』


ボンヤリした頭に響く、静かな声。驚愕し、何も見えない目を見開いた。


   『ここで終わるのか?』



こんな訳の分からない状態で終わりたくない・・・

                           ・・・死にたくない!



「イヤだ!」


黐桜は叫び、手を伸ばし、〝黒〟から這い出る。



『なら、諦めるな』


〝黒〟ではない〝影〟に、再び視界を塞がれ、


最後に目に焼き付いてきたのは、美しい〝白銀〟・・・。

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