1、~騒動の嵐~
人には、男と女の他にあと3つの性差があり、計6種類の性別が存在する。
生来カリスマ性やリーダーシップを有するα。
いわゆる一般人で、最も数の多いβ。
生殖に特化し、男女関係なく妊娠できるΩ・・・。
そして人は、神より〝神通力〟という能力と、魂の名〝真名〟を与えられた。
しかし、己の真名を知るのは〝対〟と呼ばれる〝もう一人の己〟のみ。
様々な形で転生を繰り返す〝二つの魂〟は神との契約の下、今世もまた巡り会う。
* * * *
新月の夜。
いつにも増して濃い闇に加え、星空は分厚い雨雲に覆われている。
民家などの明かりさえ無ければ、何も見えないほどに暗いだろう。
テレビのニュースでは、今晩にも街に上陸するであろう、今年最大規模の大型台風に関する情報や警告が延々と報じられている。
住人は自然と声を潜め、街は水を切ったように静まり返る。
ウゥゥゥウゥゥッン!!!!ウゥッウゥウゥゥゥッ!!!!!!
・・・このけたたましいパトカーのサイレンさえなければ。
ファンッファンッファンッファンッファンファァアァンッッッ!!!!!
「うるせぇーー!」バコンッ 「痛ッ!?」「お前もなぁ!」
雑音を遮断するように両手で耳を塞ぎ、天井に向かって絶叫した少年。
その頭を、もう一人の少年が丸めた教科書で、後ろから容赦なくひっぱたいた。
「何すんだアホ裂魁あぁ!」「黙れバカ黐桜!部屋ん中で叫んでんじゃねぇっ!」『自分も叫んでるよ、裂魁』
大声を出した黐桜に怯まず、裂魁は負けない声量で怒鳴り返した。
机を挟み、二人と向かい合うように座っている少女からすれば、どっちもどっちである。
だが、ここで口を出せば言い合いがヒートアップするのは必然。
二人より少し年上に見える彼女は、自身の思いをソッと胸の内にしまい、彼らの喧嘩を静観する。
「レイも何とか言ってくれよこのバカに!俺よりパトカーの方がうるせーだろ!?」「誰がバカだてめぇー!こんな時ばっか姉貴を頼ってんじゃねぇぞぉ!」
・・・という訳にはいかない。
自分まで喧嘩に巻き込まないでほしいと、レイもとい澪織はため息混じりに思う。
しかし、黐桜の言い分も無視できない。裂魁の言うことは最もだが、この騒音に参っているのはみんな同じだ。
彼ら学生達は台風で自宅待機を言い渡され、数日前から自宅に閉じこもっている。
同じ頃から住人達に避難勧告が出され、しばらく騒がしかったものの、それが終われば後は静かだった。
しかし今から一時間ほど前、静けさに包まれていた街が急に騒がしくなったのだ。
台風が近いというのに、警官達が走り回り、無数のパトカーが出動し、窓からはその赤い光が見える。
住人達が不審に思うも、警察は何の説明もしない。不安を煽られて当然だろう。
『そこまで追いつめられてるの・・・?』
澪織は立ち上がり、窓のカーテンを開ける。
「警察の人達、〝力〟が使えてないみたいね」 「え?」
澪織の呟きに黐桜たちは言い合いを止め、裂魁が怪訝な表情で尋ねる。
「どういうことだ?」
「今、一番騒ぎが大きくなっている所に思念を飛ばしたわ。だけど私も途中で弾かれた。周りの人達も困惑してるのよ。まだ使いにくい、って段階みたいだけど・・・影響は周囲にも」
裂魁と澪織は、なぜ警察が情報を公開しないのか理解した。
黐桜は自身の体にも異常がないかをチェックしている。
「少しでも〝力〟が使えない事が分かればよけい混乱する。それを避ける為か」
「警察には〝a〟もいっぱいいんのに・・・」
「それでも、もう一時間は経ってる。つまり、それだけ実力者達が手こずってるって事」
澪織の考察を聞き、黐桜の表情にも不安がよぎる。
それを横目に見ながら裂魁は窓の前に立つ。外は土砂降りの雨が吹き荒れている。
「この台風、〝神通力〟でもどうにもならなかったんだよな」
「そう言ってたわね、先生達。確かに、いつもなら台風が来ても直撃はない。お父さん達が進路を変えたりしてくれるから」
今回はそれすらもできなかった。黐桜は改めて今回の台風にキナ臭さを感じる。
その時、テレビの画面が切り替わった。
「あれ、どうしたんだ?」 「なんか新しいニュースでも入ったんじゃ・・・」
『臨時ニュースをお伝えします。たった今入った情報によりますと一時間ほど前、宝泉院財閥の支社が謎の盗賊団に襲撃されたとの事です。警察はその対応に追われ・・・』
「・・・えぇッ!?」 「おぉ~すげぇコトする奴もいるもんだなぁ」
「レイー、大丈夫か?」
一瞬のフリーズ後、澪織は叫び声を上げ、裂魁は口角をつり上げ、黐桜は放心した澪織を心配する。
黐桜達が住む街は、経済の発展した近代都市。あらゆる企業の支社や支部がある。
世界の大財閥、黒い噂も絶えない、陰から政治を操っていると言われる有力者。宝泉院財閥現会長・黒廻は、勢力拡大の為、二年前に本社の取締役から支社長を一人派遣した。この街での活動は、彼を中心としている。
悪名高いとは言え、その力は確かなモノ。嫌う者は多いが、歯向かう者はいない。
その派閥に手を出すなど、真っ向から宣戦布告するようなものである。
三者三様だが、驚いた事は確かだ。
その時、
ピシャアアアアアァァッ!!!!!! 「うわあっ!?」「きゃあっ!」
突然、外が光ったかと思うと、地響きのような雷鳴が響き渡る。
驚いて悲鳴に近い声を上げた黐桜達をよそに、部屋は真っ暗闇に包まれた。
テレビも街の電灯も消えている。 そして、三人の携帯が一斉に鳴りだした。
「停電!?それに地震速報まで・・・!」
「かなり大きいのがくるわよ!二人とも、何かに掴まっ・・・!」
ドン、ッッッ!!!!! 街が、揺れた。