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暁のアルヴァスレイド  作者: 並兵 凡太
第一章  叛逆の刃
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第3話 気配

 戦闘から帰って、サハラたちは格納庫へ《アステロード》を収める。

 サハラがコックピットを抜けて、格納庫に足をつける頃には、セイゴ隊のメンバーは揃っていた。

 隊長のセイゴは腕を組み、サハラを睨む。

 そのセイゴがサハラへ小言を言う前に、一人の少女がサハラへ声を掛けた。


「サハラ、お疲れさま」


 サハラと同年程の少女は。ふんわりしたボブカットの少女の雰囲気はどこか和やかで、そのパイロットスーツとは不釣り合いだった。


「あぁ、ありがとうマオ」


 小春日(コハルビ) マオに礼を言うと、もう一人、サハラに近付いてくる。


「熱くなりすぎだよお前さぁ」


 またサハラと同じほどの少年。オレンジ色の髪の彼は管制のアランだった。


「だって……」

「だって、じゃないだろ」


 後ろからそう冷たく言ったのは眼鏡をかけた長身の青年。白雨(ハクウ) シューマ……彼もまた、セイゴ隊のメンバーだった。

 セイゴ隊が全員揃ったのを確認し、隊長であるセイゴが声を掛ける。


「ロッカールームに来い、話だ」



「サハラ」

 隊のロッカールームにて、隊長であるセイゴは問題児の名を呼んだ。

「『突っ込み過ぎるな』と毎度毎度言っているが、お前今回も突っ込んだな」

「……すみません」


 ベンチに腰を下ろしたサハラが、ぶっきらぼうに応える。しかしその口調に反省の色は見られない。


「学習しろよ、いい加減さ」


 それを見ていたシューマが口を挟むと、サハラは立ち上がってその言葉に噛みついた。


「でも《エンジェ》も《アルケン》も落としただろ!」

「サハラ」


 セイゴが落ち着いて、それを嗜める。彼はシューマを睨むと、サハラに再び向き直った。


「戦果をあげるのは良いが、まずは味方のことを考えろ」

「……」


 座り直すサハラ。ただし、反応はしなかった。

 セイゴは続ける。


「一人が勝手に動けば、お前だけじゃなく仲間の命まで危険に晒されるんだ」

「あっ、わ、私は……」

 『私は大丈夫ですから』と、フォローするマオをセイゴは手で制した。

「いつまでも東雲博士の息子、と呼ばれたいのか」

「っ!」


 俯いていたサハラがセイゴを睨み返す。

 セイゴはそれに怯むことなく続けた。


「なら一人前の行動が出来るようになれ」


 それだけ言うと、セイゴはロッカールームを出て行った。

 どこか重い雰囲気の中、シューマとアランも出て行き、残ったのはマオとサハラの二人。

 そんな中、マオはゆっくりとサハラの隣に腰を下ろした。


「……隊長、優しいね」

「……あぁ」


 サハラは低く同意した。

 自己保身に動くような隊長であれば、自分のような隊員は切り捨てるだろう。しかしセイゴは己の部下として、ちゃんと監督してくれていた。

 わかってる。わかってるが、俺にも俺の戦い方がある。そんな我が儘な言い訳が、サハラの中をぐるぐるとしていた。

 そして、『東雲博士の息子』という言葉が、なおサハラを悔しくさせていた。


「サハラはサハラだと、私は思うけどな」


 サハラの心中を知ってか知らずか、マオはそう呟く。


 サハラの母親――東雲アシェラは、堕天機の開発にも関わった人物だった。それ故に、サハラは母親の名を語られるのがあまり好きではなかった。


「ありがとう、マオ」


 サハラは重苦しいものを抱えたまま、立ち上がった。


「ちょっと俺、《アステロード》見てくるよ」

「うん」


 サハラは格納庫の方へ、ロッカールームを出た。



 自機アステロードを見上げながら、サハラはもやもやとしたままでいた。タラップからコックピットに上がろうかとも思ったが、そんな気分でもなかった。


「元気ないな、ボウズ」


 突然声をかけられ、サハラはそちらを振り返った。

 そこにいたのは、作業着を着た壮年の男性。豪快なあごひげが、彼の性格をそのまま表しているようだった。


「あぁ、おっちゃんか」


 サハラがおっちゃんと呼ぶ彼の名は(ざん)() ゴロウ。セイゴ隊の《アステロード》たちを整備する、熟練の整備士だった。

 ゴロウはサハラの隣に立つと、肩に手を置いた。


「どうした、セイゴに怒られたか」

「……あぁ」

 その朗らかな性格だから、だろうか。サハラはゴロウにはいつも素直になれた。

「そうかそうか」

 ゴロウはそんなサハラを笑い飛ばす。

「オレはお前さんの戦い方、嫌いじゃないがな。……でももうちっとだけ、仲間のことを考えられるようになりゃお前さんはもっと良いパイロットになれるさ」

「……ありがとうおっちゃん」


 サハラはふっと息を吐くと、切り替えたように話題を変えた。

「そう言えばアンゲロスの回収は?」

「あぁ、今やってるとこだ」


 アンゲロス。

 それは、天使の機体が戦場に遺す結晶体の名前だった。


「……しっかし皮肉なもんだよな」

 ゴロウが、にやりと笑いながら語る。

「天使の遺すアンゲロスが、天使を倒す堕天機の動力になるんだもんなぁ」


 そう、アンゲロスは堕天機の動力源だった。

 故にカトスキアは戦闘後、天使の遺したアンゲロスを回収し、新たな力として再利用するのだった。


「でもそのせいで、堕天機には活動限界があるだろ」

「そりゃそうさ」

 サハラの言葉に、ゴロウは深く頷く。

「アンゲロスには未知の部分も多い。人体に与える影響もはっきりとはわかってないからな」


 その通りだった。そして、それを解明するのがサハラの母、アシェラの仕事である。

 あぁ、また母さんのことが――サハラがそう思った時だった。


 ビーッ! ビーッ!

 格納庫に、サイレンと放送が鳴り響く。

『天使の襲来を確認。天使の襲来を確認。カトスキア各員は戦闘態勢に移行せよ。繰り返す――』

 途端に、格納庫は怒涛の勢いで動き始めた。


「またかよ!?」


 サハラがそう吐き捨てる。天使が連続で襲来することは過去なかった訳ではないが、それにしても珍しいケースだった。


「畜生っ」


 舌打ちと共にタラップを駆け上がろうとするサハラを、冷静にゴロウは制する。


「待てサハラ。セイゴ隊はさっきまで出撃していたんだ。まだ動きはわからん。ロッカールームに戻るんだ」


 ゴロウはそれだけ言うと、走り去っていく。

 サハラは一旦タラップを降りると、元いたロッカールームへ駆け戻った。



 サハラがドアを開けると同時に、ロッカールームにオペレーターであるアランの通信が鳴る。


『全員揃ってるっ!?』


 サハラはロッカールームを見回す。今いるのはマオと俺だけ――と、その間にシューマとセイゴが部屋に駆け込んでくる。


「揃った!」


 セイゴの代わりにサハラが応える。するとアランが、彼らへの指示を告げた。


『今回次元の(ゲート)が開いたのは旧市街地上空』

 旧市街地。ユデック基地から少し離れたところにある場所だった。かつては市街地だったそうだが、天使の襲来によって今は無人の場所だ。


『確認されてるのは《エンジェ》と《アルケン》だけなんやけど、まだ次元の(ゲート)が開いてる。セイゴ隊には緊急で出撃してもらうってことです』

「でも《アステロード》の活動時間はまだ完全に回復してないぜ?」

 シューマが口を挟むとアランは知ってる、と応じた。

『それも承知ってこと。まぁ他の隊も出るから、そう長い戦いにはならないでしょ』

 最後のはアランの希望的観測だろう。アランはそれだけ伝えると、後はコックピットの中で、と言って通信を切った。


「行くぞ」

 セイゴの一声で、俺たちは格納庫へ走り出す。



 タラップを駆け上がったサハラは、コックピットに飛び込みつつ《アステロード》を起動させる。

 いつものように感触を確認しながら、機体の活動時間へと目を滑らせた。

 通常の活動時間十二分に対して、現在画面が映し出した数字は、七分だった。


「やっぱ短いじゃねぇか……!」


 少し苛立ちを感じながらも、サハラは出撃の合図を待った。

 セイゴ隊は活動時間の関係上指示があるまでコックピットで待機。アランから伝えられた指示だった。

 しかし二分としないうちに、再びアランの通信が入る。


『セイゴ隊に出撃命令! セイゴ機から順に発進ですっ!』


 それを受けて、四機の《アステロード》が動き始める。セイゴ機、シューマ機、マオ機、そしてサハラ機。

 カタパルトに《アステロード》の足を乗せると、サハラは息をフーッと息を吐く。……実はまだ、胸のもやもやは晴れていなかった。


「仲間を考える……」


『――アンゲロス波長確認。ハッチ解放。カタパルト推力正常。進路クリア――』

 アランの発進シークエンスを聞きながらも、サハラはどこか自分に言い聞かせているようだった。

『――《アステロード》、発進どうぞ!』


「東雲サハラ、4番機行くぜッ!」

 迷いを振り払うように、サハラは叫んだ。

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