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セカンドライフカンパニー

作者: ナゴタク

この作品は、僕が20歳のころ(28年前)から構想していた作品です。年金問題を近未来志向で描いた短編小説です。

 セカンドライフと言えばなかなか良いイメージではあるが、俺の場合はそんな事はなかった。

 

 2032年8月、俺はこの度定年を迎える事となった。

昭和の時代から働き続けて仕事は何処にでもいるサラリーマン、なんとか部長職まではなれたが役員までは届かず晴れて65才で勇退する事になった。(この会社は役員は定年無しらしい)

 たしか5年前までは70歳定年制だったはずだが、また元に戻ったようだ。

しかし、その分定年後は国から生活には困らない様に「セカンドライフ」を死ぬまで保障されているというからこれは良い時代になったもんだ。

 最初はその「セカンドライフ」と言うのも眉唾に考えていたのだが、俺の先輩やらの話を聞くと、それはとても快適な生活らしい。ネットテレビでも毎回の様に「セカンドライフカンパニー」やらの特集をしている。時々「セカンドライフ陰謀説」なるものもネットで見かけるが、周りの年寄り達の笑顔を見るとそんなオカルトも信じるのが馬鹿である。


 いつも通りに朝6時の目覚ましがなった。目覚ましと同時に寝室一面に微かなミントの香りがして俺の目を覚ましてくれる。最近のマンションは「エアーフレグランス」とかいって住人の生活に合わせてその時々にあった香りを出す機能が標準装備でついている。例えばくつろいでいる時はオレンジ系の香り、寝る前はバラの香りとか。ま、色々だ。(あまり詳しくない、スマン)

しかし今朝は昨日の送別会の酒が残って頭が痛い・・・とりあえず洗面所に向かい顔を洗う。歯ブラシを取って歯磨きジェルをスプレーした瞬間に、ハタと気づく「俺、定年したんだ。もう早起きする事なんて無いんだーヤッホー!!」恐らく誰か見ていたら気が狂った親父にしか見えないのだろう・・・幸いなことに俺は独り身だし周りに気を使う事は無いのだ。


 ネット新聞を読み、ネットテレビを小一時間ほど見ていると、あ、この時代ほとんどの情報媒体はネットだ、投影型ホログラフみたいな物でマッチ箱(名前はあるらしいが俺は『マッチ箱』と呼んでいる)の様な箱から好きなサイズで映像が投光される仕組みだ、もちろん映像のサイズは手で変えられる、15年前に流行ったタブレットの様なものだ。ま、小さな箱だから持ち運びは便利だ。ちなみに通話もできるし、万歩計にもなる。余談か・・・

 さて、新聞を読みテレビを見ていると玄関からピンポン♪ 早速マッチ箱を玄関に向ける。スーツ姿の男2人が玄関越しの映像で見える。そう、このマッチ箱はインターホンの映像も映してくれる優れものだ。

「おはようございます、『セカンドライフカンパニー』の者です。」

おや、久々の来客だ、「おお、セカンドライフのやつだな。ま、上がってくれ」

「すいません、朝早くから、お邪魔させて頂きます。」

男2人は腰を低くしながら申し訳ない様子で入ってきた。

1人は40代のがっちりした男で、もう1人はスラットした病弱なイケメン風な男だ。

 早速、上がると病弱イケメン男がマッチ箱を出し「セカンドライフ」の説明を始めた。

これは、年金崩壊後に行われた国の壮大なる事業で年金又は生活保護受給者を救った素晴らしい計画という事を熱く語っていた。ま、俺にすればどうでもいい事だけど。横のガッチリ男がニコニコとううなづきながら俺を見ているのが気持ち悪かったが。

 今日のところは説明だけにして明日は3泊4日のマレ-シア旅行らしい..え?旅行??

65年間生きてきた中で海外旅行は初めて、新婚旅行でさえ国内旅行だった。ちなみに言うと俺はバツ2、2回目の離婚で俺が結婚生活は向かない事を知り未だに独身だ。だが彼女はいるぜ、いや、先週まで居たが正解。俺の私生活では他人との協調性が無いらしい。会社ではバリバリのリ-ダーだがな、いやだったが正解か。とりあえず俺は2人が帰ったのを見届けると部屋中駆け回った、興奮を抑えるためか部屋中にラベンダーの香りが漂った。やるぜ!「エアーフレグランス」!! でも、はしゃいだ所で誰にも迷惑はかけてないのだが。

 

 次の日はやっぱり6時の目覚ましで目を覚ました、と言うか興奮のあまり寝られなかったのだが。それでも部屋中に漂うミントの香りが朝の清々しさを演出していた。今日は朝から「ミストシャワー室」に向かった。部屋に入ると四方八方にある噴霧器から霧が出る仕掛けである。温度、霧の強さ、霧が当たる場所も選べるし、オート機能を使うと立っているだけで顔以外全身洗ってくれる。いわゆる全自動人間洗濯機である。顔は息苦しくない程度に霧を浴びゴシゴシと擦るだけで綺麗になる。温度を上げるとちょっとしたサウナにもなる。これも俺のマンションは標準装備だ。ま、近頃はどの家もあるらしいが。

 風呂ミストシャワーも入ってさっぱりした所で冷凍サンドイッチを電子レンジでチンして引き立てのコーヒーを入れる。世の中便利にはなったがコーヒーだけは豆から挽いたのをのむ事にしている。10年前にアフリカ革命が起こってから民主化が進みアフリカ共和国となってアメリカに次ぐ第2の世界大国になり、アフリカ産の穀物類が非常に安く手に入る事で俺でも高級コーヒー豆を買えることが出来た。まぁ国と国との争いも少なくなってきているからいい時代になったもんだ。

午前10時きっかりにピンポン♪と玄関のチャイムがなり昨日の男2人がやってきた。

「おはようございます「セカンドライフカンパニー」の者です。旅行のお支度は出来ましたでしょうか?」

「おお、出来ているよ。で、何時に出発なんだ?」

「あ、昨日もご説明差し上げましたが当カンパニーの誇る垂直着陸機「セカンドライフ号」がこの屋上に来ていますので、そちらにお乗りになり空港までご案内差し上げます。」

さらに続く、

「その空港で当カンパニーがチャーター致しました、次世代超音速旅客機「コンコルドマークⅢ」が待機していますので、そちらに乗って向かいます。飛行時間は空港まで15分、マレーシア航空まで30分となっています。」

「なぬ、コ、コンコルド??」

なんと、日本でも就航してたんだ。たしか、大気圏を超えて目的地まで行く奴だったな。Gは大丈夫か?

しかし、「セカンドライフ号」ってなんか変な名前。しかも、説明している病弱イケメンの横でニコニコしながら俺を見てうなずいているガッチリ男はやっぱり気持ち悪い・・『こっちみんな!!』って言ってやりて。

 とか言ってる間にマンションの屋上に到着。この時代ビルの屋上にヘリポートが設置されているのは常識で緊急用に使用を制限されてはいるが、特に「ドクターヘリ」とかはよく離発着しているのを見かける。何かと忙しいお偉いさんとかも特別許可で「スカイタクシー」とかを利用している。

 屋上について驚いた。「セカンドライフ号」とは名ばかり。

「これ、オスプレイじゃね?」と思わず口走ってしまった。

「あ、これはアメリカ軍の『Ⅴ-22』の次世代機です。」

病弱イケメン君が多少無表情で説明を続ける。

「プロペラの消音装置を向上させ、一番の懸案事項であった操縦の難しさもパイパーコンピューターのお陰で、この10年間通常飛行時の事故発生率0%です。自走自動車よりも安心な乗り物になっています。」

「あ、そう。でもこの色使いは派手じゃないか?  黄色って・・・」絶句・・

『ま、全自動運転システムの今の車よりも安心ならいいか』と独り言を言いつつ促されるように「オスプレイ」いや、黄色の「セカンドライフ号」に乗った。

 さすがに中はちょっとしたリビングみたいになっていて、シートベルト付のソファー、テレビモニター、テーブルにはグラスと各種のドリンクカプセル、このドリンクカプセルはちょうど薬のカプセルの様な形をして、クラスに入れて水又はお湯を入れると、そのカプセルに刻印してあるドリンクに早変わりするものだ。

本当はコーヒーを飲みたかったが『コーヒーは豆から派』の俺は同じ黒い液体としてコーラーを選んだ。

コーラーのカプセルを取りキンキンに冷えた冷水をグラスに注ぐと、グラスの中のカプセルが溶け出し中のキンキンに冷えた水が、あれよっとばかりにコーラーに大変身。

「う~うまい」

俺はこの満足感を満喫していた。定年後の海外旅行。しかもただ。コーラーの炭酸が俺の胃の中で膨らむ度に満足感も膨らんでいた。少しゲップも出たが。

 やがて15分が過ぎ空港に到着した。オスプレイいや、『セカンドライフ号』はコンコルドの真横に着陸しそのままコンコルドに乗るように促された。

 コンコルド内はこれまた豪華な造りだ。ファーストクラスとはこんなもんなのかと感心しながら、「俺も立派になったなぁ」と意味もなく独り言をつぶやく。

 乗客はせいぜい15人ばかり、俺を合わせて7,8人程が定年退職者だろう。あと半分は黒いスーツの男達だった。

 乗務員はCAが4名程だが内3名はアンドロイドだ。ま、日本が誇るロボット産業の最高峰とでも言うべきで見た目では人間と区別がつかない。ただ、国際規定で眼球をすべて黒色にすることが決まっているので民間のしかもサービス業務を行うアンドロイドは大体サングラスを着用するのが常識になっている。通常、サービス業はサングラスなんかかけて仕事をしないので恐らくアンドロイドだろう。

「この飛行機はまもなく離陸いたします。シートベルを指定の位置でしっかりとお締め下さい。」

人間・・のCAがアナウンスを続ける。

「なお、離陸後5分ほどで成層圏に入り、多少機内が揺れる事がございますが飛行には心配ございません。・・・・」

やはり、大気圏内を行くのか。何Gぐらいになるんだろう・・

「ちょっと、お姉ちゃん。」俺は思わず近くにいた美人アンドロイドに話しかけた。

「これ、大気圏内に入るときに『G』が掛かるんだよね。俺ら年寄りは大丈夫なの?」

サングラス越しの微笑みで多少怖くはあるが顔を近づけて喋りかけてくれた。

「この飛行機は加速度軽減設計になっていますので、多少揺れたり、加速度を感じたりしますが、体に感じる加速度は『1.5G』程度でございます。安心しておくつろぎ下さい。」

加速度軽減装置?? いつの間にそんなのを作っちゃったのか。

しかし、グラサンが異様だが、綺麗な姉ちゃんのいい香りがたまらない・・・

そんなこんなしていると機首を上向きにしたのか体にちょっと重力がかかってきた。

あれ、だんだん重くなるが・・・あれ?き、きつ・・い・・・


 それからどれくらい眠っていたのか、いや寝たんじゃなく気絶だ。

『この野郎』と思い体を起こそうとすると、あれ?動かない。

と言うか4点式シートベルトはもちろんしていたが、手足も固定されている。なぜ?

「なんだこれは!!」

「(手足拘束とは)どうゆうことだ!!」

俺は叫んだ。

すかさずスーツ姿の男が近づいてきた。あの不気味なニコニコガッチリ男だ。

「お、あんた生きてたのかい。運が悪いね~」

相変わらずニコニコしてやがる。

「この中の生存者は南の島で永住生活が待っていますよ。いや~、ほ~んとに運が悪いな~」

『み、南の島?? マレーシアじゃねえのか!?』と心の中で呟きながら、

「俺を何処に連れて行く気だ!! 運が悪いとはどういうことだ!!」

と叫んでも、手足をバタバタさせてもガッチリ男はニコニコと俺を見ているだけ、この野郎・・・

『頭を冷やせ』と思い冷静に辺りを見回すと確かにスーツ姿の男数名以外で生存者は俺だけだ。

よく見るとガッチリ男以外のスーツ姿の男はみんな同じ体型で髪型、髪の色は違っても顔は似ている。

いや、瓜二つ。 あ、アンドロイド?・・・だ!!

え? 頭が混乱してきた。

CAも澄ました顔で俺を見ている。ま、アンドロイドだからな。1人以外は。

「あと5分ほどで到着するから席に座って下さい」機内放送。おそらくパイロットだろう。

俺はこのあとどうなるのか。

『南の島』『運が悪い』とはどういう事なのか。

と、考えているといきなりシューという音が聞こえて来てガスマスク姿のCAが俺にガスマスクを被せてきた。え? 何事??

その瞬間ガッチリ男はガクっと崩れ落ち、その後ガスマスクのCAは「目を伏せて!!」と叫び手を高く上げると機内に閃光が走った。

閃光と同時にスーツ姿の男達いや、アンドロイド共がバタバタと倒れ動かなくなった。

何が起こっているんだ。

「あら、おじさん運が良かったね。」

CAがガスマスクを外しながら話し掛けてきた。

「え?姉ちゃん何者?」

「うふふ、あたし? さて、何者でしょう。あとで教えるわ」

と言ってCAのアンドロイドに指示をしている。

「あなた、この子につかまりなさい」

と言って手足の拘束を外すと俺をCAのアンドロイドの傍に行くように言った。

するとそのアンドロイドがガッチリと俺を羽交い絞めにしやがった。と言うより俺は抱きかかえられた。

「おい、何をする気だ! 離しやがれ!!」

とジタバタしても身動きが取れない。情けない。

「おじさん、これから機内ここを出てそのまま香港に向かうからちょっと寒いけど我慢してね」

と言って非常用扉を開けた。 え?まじ?

と考えている暇もなくCA(恐らく人間だろう)とアンドロイドのCA2体、そして俺を抱っこしているアンドロイドのCAが次々と外へ、上空へ飛び出した。『うぁ~ さ、寒い。』

先に降りたアンドロイド達はいつの間にか背中から羽が生えていた。

恐らく俺を羽交い絞めしているアンドロイドも羽を生やしているのだどう。そのまま落ちていると言うよりは飛んでいる感覚だ。

「防寒バリヤーを張ります」アンドロイドが言った瞬間、俺ら(羽交い絞めしているアンドロイドもろとも)はシャボン玉の様な物に包まれた。『暖かい・・』ようやく生きた心地がした。

 それから何時間飛び続けたのだろう、と言うか俺は安心して眠っていたのだが目を覚ますと巨大なタンカーに着陸(?)する所だった。

 

 巨大なタンカーに降りると遠くの方で男が手招きをしている。

『あれ?見た事がある男だ』と思いCAの姉ちゃんにつれられるように近づいて行った。

「お、元気だったか」男が叫んだ。

「あれ、先輩!! どうして此処に」

そう、その男は俺の会社の先輩だった。

先輩は7つ上で俺が部長になる前の前任者だ。

当時は随分しごかれたが、お陰で俺みたいな人間も部長職に就く事が出来た,まぁ恩師みたいなものんだ。

「お前が生きててよかったよ。安心した。」

と先輩は見せた事もない慢心な笑顔で俺を迎えた。


俺はそのまま先輩達の後について行き部屋へ案内された。

その部屋の中には老人が待っていた。

「あれ、じいさん」俺は思わず口走った。

「何がじいさんじゃ!! この野郎!!」

老人は俺を叩こうと持っている杖を振り上げた。

「まあ、ボス怒らないで下さい。」

先輩が間に入ってくれ俺は叩かれずに済んだ。『あぶね~』

老人は俺のマンションの隣に住んでいて昔はとても口うるさい存在だったのだが数年前から大人しくなり、最近は軽く会釈を交わす間柄だ。

でも、こいつは昨日あったじいさんより若い気がする。いや、若い、弟か?

 俺はそのまま思考停止に追い込まれていた。『何が起こっているんだ・・・』

俺の顔が強張っていたのだろう、先輩が笑いかけ熱いコーヒーを差し出した。

「安心しろ、アフリカ産の豆だ」

何時間ぶりに覚えのある味のコーヒーを飲んで俺の思考が動き出した。

「先輩、ここは何処ですか? で、どうなっているんですか?」


「まず、お前に話さなければいけない事がある。」

薄暗い艦内の部屋で先輩が俺の質問に口火を切った。

「俺たちはレジスタンスだ。」

え?レジスタンス・・また、目眩がしてきた・・

先輩は動揺している俺をさとす様に語り続けた。

「まあ驚く事は無理もないが、俺たちは国際的な人権侵害工作組織を壊滅する為に作られたレジスタンスだ。」

「こ、国際的人権侵害工作組織って・・・『セカンドライフカンパニー』の事・・ですか?」

驚いた口調で俺が答えた。

「そう、『セカンドライフカンパニー』もその一部だ。この人権侵害工作組織はアメリカ、ヨーロッパ、極東アジアの3つの組織からなっている。『セカンドライフカンパニー』は極東アジア支部だ。」

先輩は話を続けた。

「極東アジアと言っても日本と韓国、中国から独立した香港がやつらのテリトリーだ。」

話しは続いたが説明は下記に示す。


人口密度の増加と自然災害等で深刻となった食糧危機、エネルギー問題、格差の増加による貧困、下がらない各国の失業率。これらの問題を是正する為に、アメリカ・EU・極東アジアの3つの連合国が各国の生活人口を管理する組織を立ち上げた。

生活人口とは、0歳から18歳までを育成期(医療費、学費は無料)。

19歳から64歳までを活動期(学生は準活動期として医療費、学費は無料だが生活費《食費・家賃等》は特別な事が無い限りは就労の義務化により自分で稼がなければならない)。

65歳からは各国の補助を受け働く事もなく悠々自適に生活が出来る安定期。

この安定期は一般人は入るが会社の重役、政治家、芸能人などの定年がない職種、又は退職すると一般人に支障をきたす職種の人は含まれない。何故か金持ちも含まれない。

この、3つの期間のことを生活人口と言い特に安定期を管理するのを重点に置かれた。

 西暦2020年、AIコンピューターの発達によりアンドロイドが一般販売出来るようになり、人間の職種もアンドロイドの管理が主になり誰でも職に就き易く、また、就職自体が義務行為になり失業率も減少していった。

また、アンドロイドも軍事用、民間(商業用、工業用、家庭用)と種目によって異なってはいたが、以前に話したように世界基準では眼球を黒くすることが義務つけられている。それ程アンドロイドの完成度は高くなっている。

しかし、あのコンコルドに乗っていた黒いスーツのアンドロイドの目は普通だったのには驚いた、今にして思えば俺らを騙すために仕組んだ細工だったのか・・・

話を戻すが、アンドロイドの活躍で人件費の減少、雇用の増加(人間の危険・汚い・暗い職業からの脱出にて)、福利厚生の充実で就業の義務化でも人々の幸福度は高まって行った。

 先に言ったエネルギー問題も太陽エネルギー送電システムが現実化になり化石燃料の希少価値も失われ中東及びアフリカにおける原油争いに終止符が打たれた。

化石燃料を必要としない太陽光を衛星で直接電気に変換し地上に送電するシステムは画期的で数十年前にクリーンエネルギーの代名詞だった原子力発電を上回る発電効果で日本が誇る技術の一つだ。

各国がそれぞれの加盟国の人工衛星を使って、平等に電気を分け合う時代になった。

もちろん化石燃料も少しは使われるが今は高額で一部の富裕層に買えない代物である。

一般庶民はリサイクル技術の進んだ(中古の)石油科学製品を使用している。それでも満足。

一方、原子力技術はと言うと、今では低温核融合鈩を親指の大きさにまで縮小する技術ができ、新しい燃料電池へと発展している。

もちろん低温でも危険な事は間違いないから主に軍事用としてしか扱わないと聞いているが。何に使っているんだろう・・・

 さて、もう一つが食糧問題だ、増えすぎた人口をカバー出来る程の食糧を作るのに地下栽培・畜産もあったが今では世界共通の宇宙ステーションを使って栽培・畜産をやっている。

そのうち月にも作る予定があるみたいだが、月は死刑撤廃で増えすぎた終身刑の囚人を収監する場所になっているからなぁ・・たぶん無理だろう・・・


「何だ、良い事だらけじゃないか? 何処が人権侵害なんだ?」

俺は思わず話を遮った。

「まあ、待て話はこれからだ。」

さっきまで時折笑顔を見せながら話していた先輩は急に真顔になった。

「昨日、ボスと挨拶したと言ったな。」

「ああ、じいさ・・いや、ボスと挨拶しましたよ、今よりも少し老けてましたが、あれは実はお兄さんだったんですか?」

「いや、あれはワシじゃよ。」とボスが話に入ってきた。

「え?? どういう事???」

やっぱり目まいが・・と言うか胃までキリキリしてきた。

「あれはワシをコピーしたアンドロイドじゃ」

「え?? 人間をコピーする事は国際法違反じゃないですか??」

「国が法律を作ったから国が破ってもいいんじゃよ」

「だめですよ~ そんなの~」

俺は動揺を紛らわすためにとりあえず3杯目のコーヒーを飲みほした。あ、胃が痛いのはこれのせいだ。

「まあ聞け、お前は65歳の誕生日に連れられて来たんじゃろ?」

「はい、シンガポール旅行をプレゼントとか良い事言って騙されました。死ぬかと思いましたよ。」

「わしもじゃよ」

「俺も7年前にな」とボスに続いて先輩が言った。

「え!!・・・」

あっけにとられている俺を少し面白そうにしながら先輩は話を続けた。

「今から10年前の2,022年、前の年に国連の常任理事国になった日本は、少しづつ世界を席巻し始めた。

もちろん、世界のリーダー的存在のアメリカには善良な顔をしながら、ロシア・中国を経済・軍事・政治それぞれを掌握していた。」

「ちょっと待って下さい、それじゃアメリカが許さないじゃないですか?」俺は慌てて質問した。

先輩は続けた

「今の・・いや、当時のアメリカは財政的にひっ迫し日本の経済援助がなくてはどうする事も出来ない状態まで来ていたんだ。日本は東南アジア・アフリカへの援助を続け、今では『東亜・アフリカ連合』って大きな経済市場を作ってきたからね。それにアメリカが同盟国の名の元に乗っかってきた状態だ。」

「あ! そこで、日本が次のターゲットにロシア・中国を移しても何も言わないのか」

と俺は納得するように言った。

「そう、アメリカの兄貴に上納金を納める名目でやっている事だから目をつぶるわけ」

少し口は綻んでいるが目は笑っていない先輩が話を続けた。

「お前も知っていると思うが今のロシアと中国はだいぶ衰退している。あまり大きくなりすぎて統率も恐怖だけでは維持できなくなってきた。

ロシアは日本の技術提供で石油採掘が一時期は良かったが、化石燃料の需要が減るにつれ衰退の一途を辿る事となり。

一方、中国は一時期、経済大国にのし上がったが、香港革命により香港が独立した事で共産国自体バラバラとなり今は小国の集団となった所まではわかるな。」

「はい、そして極めつけが、『核の無力化』でしょ」俺の思考もだんだん正常になってきた。

先輩はニヤリとし

「そう、その『核の無力化』だ。

昔の漫画『宇宙戦艦ヤマト』に出た『放射能除去装置』の発明により核兵器に対する脅威がなくなってきたのが両国の衰退の一番の原因だ。

『放射能除去装置』によって核軍縮が一層進み、地球上から核兵器が無くなったのは凄い事だった。

まあ、そんな両国を援助の名目で手なずけるのは日本のお家芸で、そのお陰で国連の常任理事国を獲得出来たと思っている。」

俺の思考も正常になり、先輩の話に前のめり聞いていた。

「やっと、まともになったな。話を続けるぞ。

日本が大きくなり実質№1となった今、問題は増えすぎた自国民をどうするかだ。

世界に手を伸ばし利益を拡大させても自国民に搾取されるのは国としてもいやだろう。」

「え! そんなに日本人はいませんよ・・・あ、東亜連合か。」と俺はすかさず納得した。

「そう、東亜連合だ。経済協力もさることながら日本の国民健康保険・年金システムを東亜連合で一括で行った事だ。

当初、反対もあったんだが。目先の利権に目をくらました政治家が強硬に推し進めた奴だ。」

「目先の利権って?」

俺もこの事だけは納得がいかなかった。国内の保険・年金も破綻しかけているのにどうした何だろうとは思っていた。

先輩は一層真面目な顔で話を続けた。

「それが話の核心だ。

まず、日本政府はアメリカ・EUにも日本の保険・年金システムの導入を呼びかけた。

もちろん、システム自体が自転車操業なのを知っている両連合国は最初は話を聞き入れなかった。

だが、日本政府はそれに新しいシステムを導入したそれが『セカンドライフ・プロジェクト』だ。

名前自体は格好の良い呼び名だが、そのシステムの中身は年金受給者を騙して隔離するシステムだ。」

「か、隔離っすか?? 俺、殺されそうになったんだけど・・・え?? もしかして、『姥捨て山』からのアイデア???」俺は声を荒げたが先輩はそれを手で制止し話を続けた。

「まぁ待て、最後まで聞け。ここ2、3年は収容所も満杯近くなっているから奴等のやり方もだいぶ荒くなってきている。

奴等は年金受給者を海外旅行と偽り、闇に葬る。そして代わりにアンドロイドを自宅に帰す。

アンドロイドは最先端技術で家族にもばれず、年1回の更新(老人化)をするだけで後は管理会社に遠隔で管理するだけ、たまに暴走する事があるが奴らは直ぐに駆けつける。

全て監視し管理されている状態だ。そう全て、日本人全てが監視対象で管理されている」

「遠隔管理って...あ、最近流行っているロボット管理会社の事か」と俺が話をさえぎる

「そう、それが『活動期』における全国民労働制に貢献しているだ」話を戻す先輩

「もちろん、優遇処置によって隔離対象にならない奴らもおるんじゃが。」とボス

「あ、定年制度にひかからない一部の富裕層や政治家たちか....」俺の脳にアドレナリンがジュワ~っと音を立てて刺激していく感覚で段々と頭が冴えてきた。

2対8の関係。20%の富裕層と80%の中間層と貧困層。

その限りある資産から国の運営をするためには、8割もいる中間層と貧困層の中から「口減らし」の為にコストのかからない対策をしなければならない。そうなると、老人たちによる医療費の拡大。団塊ジュニア世代の俺達は『目の上のタンコブ』。世間から抹殺しなければならない。殺すわけにはいかない。しかし、邪魔な存在。

そこで、アンドロイドの出番。

俺ら『邪魔な老害』を収監し代りに世間にアンドロイドを置いて世間を欺く。

アンドロイドは電力ある限り動けるし毎日の生活で学習もできる...いや、学習機能をオフにして少しずつバックアップを消去すれば弱っていく年寄りにもなれる。コストは殆ど掛からないって事か....

「さすが、物分かりが早いな」

顔の表情で全部を察知した俺をみた先輩が言った。

「そこで俺たちの出番だ」

「俺たちはこれから、極東アジア本部『セカンドカンパニー株式会社』の本部に乗り込む」

「え!!」俺の顔から血の気がサ-っと引くのが感じられた。

「まじっすか!? 国を相手に喧嘩売る気ですか!?」俺はまた目眩に襲われた...夢でありますように....

「本気じゃよ、お前もこれを聞いたが最後覚悟を決めんか!!」

この年寄りは昔から無理難題を俺に吹っかける...

「無理っすよ!」

あはははははは...

先輩たちの笑い声が部屋中にこだまする。

「遅いよ、もう向かっている。」と先輩

「そう、決選じゃ! 覚悟を決めんか!!」とボス

「え~俺無理っすよ...」俺はこの場を逃げる為に何をしていいかを考えた。

「あら、あなた大丈夫よ。だって訓練したじゃない。」

「え!」やっと口を開いた女が、俺は何を言っているかが理解できなかった。

「私を忘れたの?」

???誰????

女はカツラを取りメガネをかけた...

あ!?...え!?.....おまえ.....

こないだ別れた彼女だ。別れたと言うか音信不通になった女が目の前にいる...

なんだ、この展開。ドッキリか???

「うふふ、驚くのも無理ないわね。私よ、ワ、タ、シ」

「なんだ、最初から騙したいたのか!!」俺は声を荒げた。

「まて、こいつは俺の娘だ」先輩がとっさに言った。

「お前が、定年したらセカンドライフカンパニーの餌食になると思って対抗策を実行したまでだ」

「え?娘?娘を俺に...」

「そう、お前の全力で立ち向かうバイタリティーに賭けてみたんだ」

「でも、娘を差し向けても俺なんか....あ!デートか」

この女、いや先輩の娘さん、デートの度にサバイバルゲームやら、ロッククライミング、バンジージャンプ、挙句の果ては週3の筋トレ・ジョギング強要...とにかく大変だった..でも、おかげで同窓会では一番若かった。

俺はこの女、いや先輩の娘さんに知らず知らずに訓練されていたんだ!

俺の顔を見て俺自身が事の流れを悟ったのを察知した先輩が

「そう、俺がそのデートの段取りを考えた」

「え?なんで俺なんかに?」俺は疑問を持った。

パニックで顔面蒼白(だと思う...)気味の俺とは逆に落ち着いた口調で先輩が言った

「お前は、昔から真面目で一直線で、不正は嫌い、義理堅く、人情身厚く、俺らの計画に賛同し実行できる人物と判断したからだ」

先輩は続いた

「俺らはレジスタント、いわゆる反政府組織だ。世間の常識から逸脱した人間の集まりだ。しかし、今の常識は人間として、いや神から頂点を与えられた霊長類のトップ、地球最高の生命体として間違っていないか? 世論を僅かばかりのトップが欺き、強い者は更に強く、弱い者は生死に関わる人生を歩まざる世界。20世紀、21世紀弱肉強食の世界は資本主義の世界では当たり前だとしても、俺ら底辺に生きるものにもチャンスはあった。しかし、今は一部の富裕層が世界を掌握し、底辺層のチャンスまでも奪いとってしまう。これが『セカンドライフカンパニー』の目指す世界だ」

先輩はまるで指導者の様に語った。

俺はもう従うしかなかった...半ば諦めかけて。

「これからどうするんですか?」と問いかけながら自分自身に、あのサラリーマン時代のギンギンとした闘志を甦らせてた。

「お!やっと本気になってきたな」先輩は俺の肩を叩きながら言った。

この先輩は俺の師匠とさっき紹介したが、人をやる気にさせるのが非常に上手く、10年たっても平社員で特にとりえもなく、ただ真面目一直線の俺に光を当て育ててくれた人物である。

俺は例え騙されていても先輩には逆らえないし逆らおうとは思わない。この人に付いて行ってダメだったら敵諸共自爆しようと言う気になってしまった。それが正解か不正解かは時に任せて ”なるようになる” で突っ走ろうって気になってしまった。

「今、フィリピン諸島にタンカーを向かわせている。そのフィリピンに『セカンドライフカンパニ-』の養生施設がある。もちろん政府公認で非公開施設だが」

「そこを襲撃するんですね」俺は先輩に続いて言った。

しかし先輩は

「襲撃は襲撃だけど、荒っぽい事はここではしない、俺らの同胞、いわゆる年金受給者が囚われている所。つまり人質を取られている形だ」

「そうですね、ここでドンパチしたら大変ですからね」

「そう、そこでじゃこいつの娘の出番じゃ」

あ...ボス..おったんですね・・

「こいつがセキュリティーシステムに侵入し囚われているわしらの同胞を解放するんじゃ」

女、いや先輩の娘さんが続く

「それだけじゃないわよ、同時に管理システムに侵入し日本にいる偽の年金受給者アンドロイドを機能停止に持ち込むの。そしたらどうなると思う?」

俺はその時を思い描いた。突然機能を奪われたアンドロイド達。

最初は、集団突然死みたく大騒ぎするだろう。

しかし、突然死した遺体が全部『年金受給者』&『アンドロイド』だったと言う事実。

第二次大戦時では政府とマスコミの力で事実を捻じ曲げる事が可能だったが、21世紀に入りSNSの発展とともに真実を政府がコントロール出来なくなり、おそらく政府を揺るがす民衆のパニックに陥るだろう...とは俺でも想像できた。その上で待っているものは...もしかしたらカオスと化した混乱の世界....

この社会が嘘にまみれた物だったと民衆が気づき、保守勢力が席巻していた政治・司法が崩れ民衆による革命が起きた時、俺らはまた、争いの中に身を置かねばならない。

俺は嘘で塗り固めれてた安定した平和と、平等の名の元に立ち上がった民衆による革命の狭間で迷ってしまっていた。

「俺どうしよう...」心の声だ。

「また、考えすぎてるの? あなたの悪い癖だわ」

さすが、俺の元カノ、いや先輩の娘さんだ。

「行動を起こす。起こす前に考えて躊躇するよりは、行動してから考える方が早く仕事が出来る。失敗したらまたやり直せばいい」と先輩も続く。

この親なら子も子だ。とりあえず俺も反論。

「こういう場合、失敗はやり直しがきかないじゃないですか?」

「そう、きかないな~死ぬかもな~」先輩笑ってるし...

「まあ、どっちみち死ぬ運命じゃったし、今さら命なんて惜しくないじゃろ」ボスまで...

覚悟を決めるという時はおれの人生の中で数あったが、生死に関わる覚悟は初めてだ。

死ぬかもしれない、生きたい。でも...この人達に囲まれていると正義と言う無謀な挑戦を受けざるを得ない気持ちになる。これが『群集心理』というやつか...

俺の中で忘れていた感情が沸々と湧き上がっていた。

厳しい父親に育てられ『いつかこいつを見返してやろう』という一心で青春時代を過ごしてきた俺

親父は、中学を上がる前に亡くなってしまった。

高校はお袋のお蔭で卒業できたが、親父に自慢する事が出来なかった。

今、その思いが湧いてきた。

天国の親父に自慢できる。

そう、自慢してやる。

「やりますよ、生死なんか関係ないですよ!」

「お、やけに元気になったな!」先輩は始終笑顔で言っている。

あれ、俺がやる気になるのを見据えていた...

「じゃあ、さっそく指令だ、俺の娘と東京に飛べ」

「え?東京??」

「そう、サポートしろ。娘に怪我させたら承知しないぞ!」

「はぁ..で、どうするんで?」

「作戦の指揮は私が取るわ。あなたはついてきて。」

まったく、こいつはいつも自分勝手。若いからって偉そうに...いや先輩の娘さんだ。

「お、オッケイ俺に任せろ!」

「うふふふ...」先輩とその娘が笑ってる...バカにしやがって...

俺達は2班に別れた、先輩とボスの実行班と俺と娘さんの工作班。あれ?

俺は気づいた、4人だけ...俺の班についているのは先ほどCAの姉ちゃんたち、アンドロイドだ。

先輩の班は果たして人員はいるのか、まさかアンドロイドばっかりじゃないだろうな。

一抹の不安を心に収めながら俺は彼女たちと東京行きの潜水艦で北へ向かった。


東京とは言っても俺達はレジスタント、しかも潜水艦での上陸である。

夜中の内に東京湾に入り浸水した潜水艦から外へ出る。

水深15m以上はあるんじゃないか、でも俺は元カノ..いや先輩の娘さんからのデートで訓練済みだ。

なんてことは無く上陸できた。まて、スカイダイビング、ダイビングときて今度はロッククライミング&サバゲーか??

ま、訓練(?)済みだし大丈夫か。

明け方に本拠地、と言っても高層ビル内に設置されたセカンドライフカンパニー社の管理施設。

いくつものテナントを設けたビルの一室だ。

しかし、セキュリテーはとてつもなくしっかりしているだろうって感じは出入り口に立っている二人のガードマンから感じ取れる。

彼女、先輩の娘さんがそのガードマンに近づいて耳元で話す。一人のガードマンが硬直する。もう一人のガードマンにささやく、そのガードマンも硬直。

彼女は、俺らに合図、俺らは合図を確認してビルの出入り口から中に。

「普通に歩いてね、カメラで監視されているから」と彼女が微笑みながら言う。

俺もニコニコしながらうなずく。侵入成功だ。

外に3人残しながら、彼女と俺と2体のアンドロイドでエレベータに乗って移動。

「ねぇ、どうやってガードマンを黙らせたんだ?」移動中のエレベーターで俺は彼女に質問した。

「彼らもアンドロイドよ。この道具があればどんな精密機器でもフリーズするわ」

と棒状の金属を見せながら彼女は言った。あ、コンコルド内で使用したやつだ。

エレベーターのボタンは最上階が光っている。敵のアジトは最上階か..チン

と言う音でドアが開いた。

「さ、こっちへ」と彼女が先に歩いていく。

俺の心臓はバクバクとなり足もガタガタ震えてきた。そしてある疑問が横ぎった。

「あれ?俺 武器を持っていない」

「静かに!!」「平常心で歩くのよ。監視カメラがあるわ。下を見て!私についてきて!」

うつむきながら彼女が言った。

「部屋についたら計画を説明するわ。それまで平常心でいる事!いい!?」

その言葉を聞いた俺は何故か笑顔になり、顔を上げて普通に歩き出せた...

これもデートとか言う訓練の賜物か?緊急時に平常心を装う事も出来るなんて....

「さぁ、ここよ」と言うと彼女はカードをあててドアのロックを外し室内に侵入した。

中は空だった....

「え?何もないけどここがアジトか?」

「いいえ、対象は下よ、この下」

「した?」

「そう、これから下の部屋に外から侵入するの」

「外から?」と言っても俺はあまり驚く事はなかった。マヒしているのだろう。

「そう、そこの窓から出て、下の階の窓から侵入する。簡単でしょ」

たしかに、お前のデートよりは簡単だ。ロッククライミングで何度か死ぬ目にあったもんな...

と心で呟きながら俺の中で野生の本能が芽生えていく感じがしてきた。

「で、そっからどうする?」

「やっと本気になったわね。頼もしい」

いや、頼もしいのはお前だ。

「侵入したら私がこの棒..名前はエレキクラッシュというの。これで中のコンピュータを破壊するからあなたとアンドロイド達は私を援護するのよ」

「で、俺の武器は?」

「あ、そうそう武器ね。」と言うと彼女はアンドロイドの一人(?)に目をやった。

指示を察知したアンドロイド達は体の中からバラバラになったマシンガン、拳銃、催涙弾、閃光弾、各装備品(防護服)を出してきた。よう細い体に入ってたなぁ...

「あと17分で作戦開始よ準備して」

バラバラになった各武器、装備品を組み立てるのは簡単だった。これもデートと言う名の訓練のお蔭だった。


恐らく15m以上あると思われるビルの外で俺と彼女とアンドロイドの2体はへばりつき作戦実行をまっていた。

この高所でも平常心を保てたのは訓練のお蔭だったのかも、では彼女は俺を訓練するためだけに近づいてきたのか? 

「実行開始よ」俺の心とは裏腹に時間は迫っていた。

窓に仕掛けられた火薬が破裂して空いた穴に彼女が催涙弾とエレキクラッシュと言う名の金属の棒を投げ入れた。

一瞬閃光が走り、窓ガラスが割れた直後に鳴っていたセキュリティ音は止まった。

俺達は空いた窓から侵入し中の人間を確保した、数人フリーズ状態の人がいたがそいつらはアンドロイドだろう。

「さて、コントロール室確保できたわね。任務完了よ。第一段階は。」

たしかに、こんな荒っぽい事をして警察がだまっちゃいない。作戦成功だったら早く逃げなきゃ。

「いま、お父さんたちが年金受給者収監施設を襲撃して囚われた年金受給者達を解放している所だわ」

「私たちは年金受給者に成りすましているアンドロイドのコントロールを全て破壊したの、年金受給者とその偽物が発覚したらどうなると思う?」

「恐らく、民衆が真実を求めて革命が起こるだろうな...ってそれが狙い?」

「ふふふ、そうよ。一部の富裕層の為の社会なんかは許せないのよ。私たちは平等よ。」

「でも、混乱が起きるだけじゃない...」

「知ったことじゃないわ!『人の上に人を作らず』っていうじゃない。」

社会主義、いや共産主義と言うべきか、平等の中の不平等を彼女は知らない。

パニックを起こしてまでも平安でいた社会を変える行為。善なのか悪なのか。

このシステム自体は俺ら年寄りの人権を無視する行為だか、社会全体としては弱肉強食が体系化しており、画期的、合理的なシステムだ...と俺は感じた。

「さて、ここのコンピューターシステムを破壊して私たちは帰るのよ」

「まて、今までこのシステムのお蔭でこの国が平穏で暮らしてきたんじゃないか?」

「システム自体を壊したら混乱の世の中になるんじゃないか?」

俺は今さらながら彼女に言った。

「なに言ってるのよ。あなた人権が迫害されているのを観て平然と出来る?」

「あなた殺される所だったのよ」

彼女は俺に詰め寄った。男勝りの女に弱い俺の性格が仇になる...

「おお..そうだな...」俺の返答はそれだけだった...


爆薬をセットして部屋の来た窓からダイブ...俺と彼女はアンドロイドに抱えられながらおよそ300mの高さから背後の爆発音を聞きながら潜水艦のある地点まで滑降していた。

もう、俺の中で恐怖は微塵も無かった。ただこれから起こりうるパニックが心配だった。


潜水艦に戻った俺達は祝杯を挙げた祝杯と言っても人間は俺と彼女だけ、後はアンドロイド...ちょっとさびしい気がするがこれからの展開に期待..大!!

「あら?おかしいわね?」

定期連絡をしている彼女が呟く。

「どうした?何がおかしい」

俺はワイン片手に彼女に聞いた。

「返事がないのよ。作戦は完ぺきなのに...」

「どう言う作戦だったんだ?俺に詳しく聞かせろ」

少し酔っているがまだ頭はまともだ。

彼女は神妙な感じで話した。

「私たちは管理システムを破壊する任務で、システム自体を破壊した直後にお父さん達が囚われている年金受給者を解放する段取りだったんだけど作戦成功の応答がないのよ。」

不安が横ぎった...俺達はしょせん小さな組織、巨大な国家に喧嘩を売っても太刀打ち出来るのだろうか?

とりあえず先輩の所へ行こうという事になり潜水艦はフィリピンに向けて出港した。


この潜水艦はレジスタントの物とは思えないくらい最新鋭だった。

音波吸収と偏光に特化した塗料で覆われた船体。

スクリュー音を完全に消し走行する航行システム。

完全に海中ではステルス機能を発揮する潜水艦だ。

船内も航行、ソナーを一元化して中央制御室で半径1㎞は全て3次元ディスプレーで見える形になっているし、航行の方は完全自動化..と言うかアンドロイド達が管理してる。

そのアンドロイドを管理しながら俺たちは南下している。

「もししたら、ばれたのかしら?」

彼女が不安そうに言った。気丈な性格だと思ったが、意外と挫折に弱いタイプ??

「そうだったら、その時の別のプランがあるだろ?」俺は彼女が不安になっている事に気づかないふりをしながら言った。

「いいえ、ないのよ。このプランは完ぺきだからってボスが強行したの」

「え?ボスが??先輩は何も言わなかったの?」

「お父さんは、ボスに助けられた義理があってボスには逆らえないの。しかもこの計画は5年の歳月をかけて練り直し作ってきた作戦だからお父さん自体も作戦には自信を持っていたの」

『計画は慎重に、行動は大胆に』

俺が先輩から教わったリーダー学の基礎である。

先輩は行動だけを大胆にやっていたのか?..5年の歳月をかけるなら別プランも練るはず...ん?

俺か? 俺が定年を迎えるその時を待って実行に移すという事は...まて、

考えろ...この俺を先輩が引き込んだ理由を...娘をあてがってまで俺を味方に引き込んだ訳を...

そうか、俺が考えるんだ!! 俺がプランBを考え指揮するのだ!!!

「よし!このまま南下して様子を見よう。何かあったかもしれないが、ただの通信障害かもしれない。情報を集めよう。テレビ・ラジオの全チャンネルでテロ事件のニュースが流れてないかチェックしろ。もちろんネット情報もチェックだ」

俺はその時バリバリ働いていた40代の頃の記憶が蘇った。

体はメタボでだらしなかったが、先輩の下で部下を動かす鬼軍曹のようだった。

もちろん部下だけじゃなく俺も朝から晩まで働いた。会社の為ではなく、尊敬する先輩のため、イコール自分自身の成長のため。

お蔭で部長まで上り詰めた、役員は叶わなかったが先輩の位置まではたどり着けた。

そんな俺を先輩は先輩自身が定年を迎える時に逆に祝ってくれた。

初めて先輩は俺をほめてくれた。俺も初めて人前で号泣した...そんな記憶が蘇った。


テレビ・ラジオ・インターネットあらゆる情報網にもテロのニュースは流れてなかった。

俺達はフィリピン近海に着いたがそこから俺と彼女、アンドロイド1体でフィリピンに潜入する。

潜入と言っても東京の時と同じく海底に潜った潜水艦の船体から夜中に出て近くの真っ暗闇の沿岸に上陸するという作戦。彼女のデート(訓練)のお蔭でメタボも治り、煙草も止め、刃金?のような筋肉もついた体では多少付いて行ける...かなりハードだが.....

地図を見てみれば解るがフィリピン自体大小の島々で形成され俺達はその中の小さな島に上陸した。

上陸と言っても真夜中に切り立った崖をよじ登らなければならない。

およそ2、30mあろうか? アンドロイドと彼女は難なく上がって行くが俺はそうは行かない。

ゼイゼイしながら一つ一つ岩肌をつかみ上がって行く。

恐らく中腹まで来ただろうか?上からロープが垂れてきた。先に上がったアンドロイドだ。

俺はそのロープにつかまり、ほとんど上げてもらいながら陸地へ上がった。

「さて、こっからどうする?」

「まず、島の反対側にある施設に向かうの、そこに着いたらまた考えましょう」

そうか、ここは敵地の反対側か。だからなんなく上陸が出来たんだな。


俺達はアンドロイドを先頭に真夜中のジャングルへ入って行った。

星空が綺麗だが新月で真っ暗闇。もちろん俺と彼女は暗視スコープを装着して周りを気にしながら前進した。先頭のアンドロイドは暗闇でも正確に目的地に着けるよう数々のセンサーと電波を傍受出来るらしい。

アンドロイドは迷うことなく、真っ直ぐではないが(恐らくトラップをセンサー等で見分けて)俺達を案内している。

『ザザ!』 たまに何かが動く音。ジャングルの住人だろう。アンドロイドはそんな事はお構いなく前進する。

俺達は警戒しながらも鉄の道先案内人の頼もしさに安堵感を得られ暗闇のジャングルでも平常心を保たれていた。

15分ほど歩いた時また『ザザ!』と何かが動く音。アンドロイドの足が止まる。

「どうした?何かあったか?」

「なに?何か見つけたの?」

俺達はアンドロイドに話しかけた...とその瞬間、閃光が...


俺が目覚めたのはベットの上だった。

手足は拘束されている。自由なのは頭と口だ。

『つかまったのか....』

「おや、目が覚めたのか、久しぶりですね」

ん?このにやけ顔は・・・あ、あの時の、最初に俺を騙しコンコルドに乗せたニヤケ男だ!!

「ここは、どこだ!?これはどういうことだ!?」

「ここはどこだって? ここは君たちが目指していたセカンドライフカンパニー社の本社ですよ」

「そして、あなたは年金受給者としここへ収監されたのですよ」

そう俺は囚われた。作戦は失敗だった。失敗したが気分は落ち込んだり、焦ったりはなかった。

右腕に点滴がされてあった。恐らく精神安定剤だろう。恐怖すら感じなかった。

もうろうとする意識の中で彼女の安否が心配だった。

「か、彼女は?」

「あ、彼女ね。あいつは国家反逆罪として、父親と一緒に月へ送られる事になりました。まぁ早く言えば終身刑、一生お月さんで生活だね。地球には戻れない。」

「あ、また眠る前に教えるけど、あなた達のボス、あれ私たちのスタッフ。つまりずっと裏切り者だったわけ。あなたたちレジスタントを撲滅するために仕組んだアンドロイド」

俺はそう聞いても感情が出てこなかった、悔しさ、悲しさ、情けなさ、なんの感情も湧かなかった。ただ心はニュートラルのまま深い意識の中へ堕ちていくだけだった。



































 




















 

次回作を構想中です。次回は月が舞台か?

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