募金の行方。
少しでも何か気分の変化が、プラスの方向になって頂ければ、喜びです。
普通、10円や20円、入れたことがあるのではないかと思う。
私もそうだった。飲食店の会計口に置かれた、貯金箱。
○○赤十字に、寄付を。
そんな文句の書かれた、入れ物。透明なその入れ物には、1円から50円玉までが、じゃらじゃらと入っている。
いつも、この手のものには10円ぐらいを入れるのである。
小学校の先生が言っていた。
「みんな、助け合いが大事だからね、人の身になって考えよう」
そんなことを言っていた気がする。
だから、私もいつもそうしてきた。
よくテレビでは、多大な寄付などで、贈呈式が放送されていたりする。宝くじの寄付でも、そうだと思う。
車いす用の車など、介護に便利な乗用車。特にそれだ。
その日、私も10円玉をまた、入れた。コンビニの貯金箱。
どこまでコンビニがピンハネしているかも、分からないが、とりあえず入れた。
じゃら。
この10円って、どんな役に立つんだろう。
「なぁ、美緒」
「え?なに?」
彼女の美緒に私は尋ねた。
「この間の地震の寄付、俺らのお金ってどんな風に使われてんだろうな」
私は率直に疑問に思った。
気になる、行方である。
「寄付だけじゃなくて、なんか送れるものってないのかなぁ?」
すると、目の前の床にモップをかけていた店員さんが、聞いていたのか、答えてくれた。
「よく以前は、下着や服なんかが送られていたようですけど、送料がバカになりませんから、今は現地で買うそうですよ。現在だと現金を入金の形が多いそうです」
「へぇ、そうなんですか…」
何度か頷いた時だった。
「この前のあの国の地震の寄付、衣類も遅れるって聞いたんだけどよ、これもいいのかよ」
40代のちょっと頭の薄い男性。会計口の店員が困惑した顔をしていた。
「お客様、申し訳ないんですけど、衣類は預かることができないんですよ…」
「そんなこと訊いてねぇよ、前の災害の時は良いって言ってたぜ?」
「申し訳ありません、規則ですので、衣類は現地で用意されることになってますので…」
「はぁ?」
舌打ちをする彼。
「じゃぁ、どうすんだよこれこっちは、折角送ってやるって言ってんだぞ?」
すると、先ほど詳しく教えてくれた男性店員が、近づいていった。
「お客様、よく考えられたんですか?」
「え?」
「まだ使っておられないんですか?せっかく購入されたこの衣類は」
「数えるほどしか着てねぇよ」
「でもね、お客さん…」
彼は言った。
「侮辱的だとは、思われませんか?」
「…は?」
「何度も着た、この服。ご自分で、もらわれたらどう感じますか?特にこちら、タンクトップやパンツなど、下着ですよね?」
男性は聞いて瞬いた。
「住む家もない、食べ物も限られた場所、他人が何度も使った下着や衣類を用意されたら、どう思われますか?」
「…ん…」
男性は押し黙った。
「もし、どうしても現地の方に着ていただきたいのであれば、新品を送って差し上げた方が良いですよ?ただし。送料はバカになりません…」
男性は苦笑する。
「ただ、一時的な自分の自己満足に浸りたいのであれば、何も言いませんが…」
男性は、周りの刺すような視線から解放されたいような顔をして、コンビニから出て行った。
よく、知ってるんだなぁ…。
私は、それから募金には、入金をするようになった。
「私、あれだけは分からないんです。あまり性分に合わないみたいなんですよね」
あの時の店員さんは言った。
「だって、募金や、寄付をしましたよ、って行動で示せばいいだけじゃないですか、『贈呈式』って、寄付した側のメンツを立てているような気がするんです…。そんなもの不要じゃないですか?お互いに寄付をする、される側が水面下で何気なく協力し合えば、済むことでしょう?わざわざ、“寄付しましたよ”、“ありがとうございます”って要りますか?」
私は思わず苦笑した。
そんな考え方もあるんだなぁって。
翌日、あのコンビニの前で、10歳くらいの女の子が募金箱を持っているのが見えた。
そこには、募金する人の姿が見えた。
あの40代の男性の姿が。
今日も、誰かが、誰かを支えている。
お読みいただきありがとうございました。