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とある幼児の生活2(魔王様南国へ行く)

作者: りょうくん

魔法を使っていますが、あまり魔王らしくないかもしれません。

前作「とある幼児の生活」をお読みいただいてから読んでいただいた方がいい話となっています。

見果てぬ大海原は夕焼けに照らされきらきらと光っている。

ザザーンとときおり聞こえる波音。海風に煽られ潮風にあおられ俺の髪がハタハタと揺らめく。

「ひとみくん!カニだよカニ!」

石で頭をたたきつぶしたのか両手に戦果のカニを持って嬉しそうに佳也子が笑う。


波打ち際からは銛のような長い武器を片手に、ポニーテールの少しスレンダーな女の子がこちらに向かってくる。獲物の先にはまだ生きている40センチほどの魚ががピチピチともがいている。

彼女は俺に気が付くと嬉しそうにぶんぶんと武器を振りながら駆け寄ってくる。

勇者の剣はどうやら任意で形を変えられるようだ。


「兄貴、果物とってきやしたっ!」

両手いっぱいにマンゴーっぽい果実を載せて嬉しそうに茶髪のチャラチャラした男が俺の背後の森から現れる。


今日も海の幸と果物のご飯になりそうだ。

俺はだぶだぶのTシャツがずり落ちそうになるのを襟をたぐってもとに戻した。

「ああ、白米が食べたい……」



事の始まりはやっぱり佳也子だった。

季節は新年も明け雑煮も食いあきた頃。商店街の新春大セールにちなんだ福引で特別賞を佳也子が当てたのだ。

カランコロン。

「おめでとうございます!特賞のハワイ旅行が当たりました」

景気よく大きなカウベルを鳴らしながらオレンジの法被(はっぴ)を着たおじさんが大きな声で興奮しながら叫ぶ。


「きゃーっ、やったよ!ひとみくんっ!」

ぎゅっと佳也子に抱きしめられ俺はぐっと小さく呻く。

おい、苦しいから。まじ苦しいから。

俺は少し涙目になってじたばたと足掻く。


「あ、ごめんね。興奮しちゃって。へへっ」

佳也子は俺から腕を離しへらりと笑う。

さらさらの茶色の髪に上気した顔にくりくりとしたつぶらな瞳はやや涙目。口はぷっくりのあひる口。

水色のスモック姿に小さなカバンを肩から下げて、頭には黄色い帽子をかぶった幼児である俺の愛らしい涙目に福引会場にいた奥さん達はほぅと軽く息を吐く。


へへっじゃないだろう!絞殺されるかと思ったわっ!

俺は不機嫌にぷいっと横を向き、ぷぅと唇を突き出す。


俺は笠原瞳。現在4歳。保育園のひよこ組に所属している。

これでも前世は400年生きた魔王だった。この世界じゃないけどな。

勘違い勇者に強襲をくらいあっという間に殺されてこの地球に生まれ落ちた。前世の記憶はつい最近戻ったばかりである。オムツをはいている時期に記憶が戻らずに心からよかったと思っているこの頃である。


「奥さん、これ。チケットね。往復の飛行機のとホテルの宿泊券。3泊4日で4人まで行けるから」

オレンジの法被姿の商店街会長がチケットが入った封筒を佳也子に渡す。

嬉しそうに佳也子はそれを受け取るとすりすりとチケットに頬ずりする。


ペアでなく4人まで行けるとは剛毅な。

ただ落とし穴があっていつでも行けるのではなくいく日が決まっていた。

その夜帰ってきた親父が泣きそうな顔で何度もその日付を確認する。

「ああ、何度見ても学会とかぶってる。なんでだぁ……」

無念そうに泣き叫ぶ親父。


うちの親父は中学生くらいの年には博士号をとり、30にもならないうちに立派な研究所の所長様だ。

今回は知り合いの教授に頼まれてアドバイザーとして学会に参加させられるらしい。

前からの約束でどうしても断れないとのことだ。


いい年してまじに泣いている親父に仕方なく俺はスモックのポケットからハンドタオルを取り出し渡してやる。

「うう。ありがどう。ひどみくんっ」

親父はめそめそと泣きながらハンドタオルで顔を拭う。


「パパが行けないのなら、他の人に譲る?」

佳也子は少しだけ残念そうにチケットをひらひらと振る。

「僕は行けないけど、佳也子と瞳くんは行っておいでよ。どうせ僕はその間京都に出張だし」

泣きはらした親父は赤い目でにっこりと笑う。


「世界を見るのは早ければ早い方がいい。瞳くんにとっていい経験になるだろう」

うんうんと親父は頷くと俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「可愛い子には旅をさせろというじゃないか。瞳くんはこんだけ可愛いんだから、旅をしないとね」


可愛いから旅をさせるの?何それ?

まぁ確かに俺は可愛いがなっ。

ふんっと俺は仁王立ちして腰に手をあててふんぞり返る。


「じゃあ行ってくるね。あと二人は萌子ちゃんとシャッカイに聞いてみるね」

佳也子は上機嫌に携帯を取り出すと早速勇者へと電話をかける。

俺を倒した勘違い勇者もこの世界に転生しており、木下萌子という名の女子高校生をやっている。

シャッカイは同じく魔族で前世は魔王城の門番をやっていた小物だ。

ちなみに母親の佳也子は魔王の雑用係の下っ端だった。


シャッカイは俺のうちでハウスキーパーをやっているくらいだから誘えば二つ返事で頷くだろう。

あいつも大概暇だからな。

問題は勇者のほうだろう。学校があるのだから。

『いくいくっ!絶対に行く!』

電話の向こうから大きな声が返ってくる。


いいのか、女子高校生。普通に平日だぞ。

俺はちろりと携帯で話中の佳也子を伺う。

「そうだよね。行くよね。なんなら私がお母さんのふりして学校に電話しようか?」

佳也子がへらへらと笑いながら物騒なことを言っている。


「それ、犯罪だから」

「えーっ、ひとみくんは誰の味方なの?タダでハワイだよ、ハワイっ!」

俺の突っ込みに佳也子はぷぅと頬膨らませる。

親父の稼ぎでハワイくらい余裕で行けるだろうに。何をそんなにはしゃいでいるんだ。全く。


「あ、うん。判った。じゃあそういうことで。またねっ!」

佳也子は上機嫌で電話を切る。

「萌子ちゃんは大丈夫だっていってるから、明日シャッカイに話して一緒にパスポート取りに行こうね」

携帯をエプロンのポケットにしまい込むと佳也子はいそいそと食べ終えた食器を台所へと運びだす。


そして旅行当日。

どうやって学校を言いくるめたのか、上機嫌な勇者と佳也子は二人でガイドブックを広げて楽しそうに話し込んでいる。

俺はというと飛行機の座席でぴんと背筋を伸ばしてしゃちほこばった姿勢のまま固まっている。


「兄貴、大丈夫ですよ。落ちませんって」

隣の席のシャッカイが俺の姿をみて苦笑する。

「自分で飛んだほうが安全だろう、これ」

俺はギギギと首を横に向けてじとっとシャッカイを睨む。

そう。俺は初めて飛行機なるものに乗っている。小さな窓からは下に浮かぶ白い雲しか見えない。


「普通の人は空を飛べません。飛行機は滅多に落ちないですよ」

「滅多にって落ちるときは落ちるんだろう?」

ぎんっと俺は目を尖らせる。

自分の魔法なら落ちることはないが、人の手で浮いているものなど信用できん。


「そんなこといってたら乗り物に乗れなくなるじゃないですか」

呆れたようにシャッカイは溜息をつく。

何だ。俺よりこっちの世界が長いからって大した余裕だよな。

俺はシャッカイの頬を両手でつまんでびよーんと伸ばす。


「いたっいたひですよ」

モゴモゴとシャッカイは間延びした口で文句を言う。

「お飲物はいかがですか?あら」

飲み物をサーブしていたキャビンアテンダントが俺たちをみてくすりと微笑む。

俺は仕方なく奴の顔から手を離す。


「ワインください」

手を離してもらったシャッカイは頬を両手でマッサージしながらお姉さんに頼む。

「赤と白それかロゼになりますが、どちらをご用意いたしましょうか?」

「白で」

かしこまりましたとお姉さんはコップに白ワインを注ぎ紙ナプキンと一緒にシャッカイの席に置く。ついでにおつまみのナッツが入った小袋も置く。


「お客様はいかがなさいますか?」

俺に尋ねて来るが、俺はぷるぷると首を振る。

飲み物を飲んだらトイレに行きたくなる。トイレに入ってるときに落ちたら大変だ。

「それでは入用になりましたらお呼びくださいね」

丁寧に会釈をして彼女は次の列へ向かう。


「何だお前、ワインなんて飲むのか」

シャッカイのくせに生意気な。

俺はじっとシャッカイとコップに入ったワインを見比べる。

「いえ、俺はどちらかというと蒸留酒のほうが好きですね」

そう言いながら奴はこっそりと俺のテーブルの上にコップを置く。

「こういうときは飲んで寝ちまったほうがいいんですよ。白だから甘くて飲みやすいですよ」

俺はじっとコップを見下ろす。


ハワイまで9時間の旅程でまだ1時間しか経っていない。あと八時間もこのまま緊張しっぱなしであるのも正直疲れるのは俺も判っていた。

俺は覚悟を決めてくいっとコップの中の白ワインを飲み干す。(よいこは真似してはいけません)

どうせ落ちるときは落ちるのである。

体が幼いからなのか飲みなれないアルコールが体を支配する。

俺はきがついたときにはぐっすりと眠り込んでいた。


後から聞いたというか家に帰ってから見たデジカメの写真ではぐっすりと眠る俺の頬にちゅーをしながらVサインをする佳也子と勇者の姿があった。

あいつらより先に寝る危険性をこの時の俺は知りもしなかったのだ。

俺の大事なほっぺが汚された!



なんとか無事にハワイのホノルル空港へ辿り着き、入国審査も無事通過。

空港の出口で現地のお姉さんに花輪をかけられ、「キュート」と笑顔で頬にキスをされる。

その姿をばっちりとデジカメで撮影した佳也子はVサインを送ってよこす。

隣のシャッカイはだらしなく笑みく崩れている。ああいう大人にはなりたくない。


空港からワイキキトロリーを使い、俺たちがまず向かったのは宿泊予定のホテルだ。

世界でもお騒がせ姉妹で有名なホテルにチェックイン。目の前の綺麗な海が展望できる部屋だ。

ツインルームが二つなので俺はシャッカイと男部屋へと入ると早速窓を開けて眼下に広がるマリンブルーの海を眺める。


「アトラスの海に似ているな」

俺は良く見えなかったので椅子の上に乗ってぽつりと呟く。

同じく俺の隣で海を眺めていたシャッカイが同意したように頷く。

「俺はこっちにきてから汚い海しかみてなかったんで、みんな同じかと思ってましたよ。確かに故郷(アトラス)を思い出しますね」


俺の国アトラスとは異なり海岸には人魚などいやしないが、それでも俺は美しい海をじっと眺めた。

ピンポン、ピンポン、ピンポン。

無遠慮に部屋のチャイムが押し鳴らされる。

気分が台無しだ。

そそくさとシャッカイが部屋のドアを開けて、ハイテンションの佳也子と勇者が飛び込んでくる。


「観光!観光に行くよっ!」

待ちきれない佳也子がガイドブックを片手にぶんぶんと振り回す。

すでに夕方近い時間では行動できる時間は少ない。今日はアラモアナショッピングセンターを見学。明日はボートをチャータして海に行く予定になっている。

明後日はダイアモンドヘッドの観光。あとは気の向くままの他のところも見る。

最終日は帰りの便が早朝なので殆どこちらで何も行動はできない。


気合の入った女性陣にずるずると引きずられて俺たちは部屋を出る。

というかホテルで両替ちゃんと忘れずにしとけっ。

空港で本来するはずが、テンションが高い二人がそのまま飛び出たから両替をしていないのだ。

ワイキキトロリーはオプションとして当たった旅券についていたのでそのまま利用できたに過ぎない。

有名なホテルだったので日本語で無難に両替を終えると俺たちは夕焼けの中トロリーバスに乗り込んだ。


とまぁ、それなりに観光を楽しんでいたのだが雲行きが怪しくなったのは二日目。

俺が幼いのでダイビングが出来なかったがボートを出してもらいかなり海の先まで進んだ時だ。

天候はいまいち曇り空だったのが、突然雷雨となったのだ。

小さなボートが激しい雨風に煽られ揺れまくる。

誰だ天気予報を確認したのは!


「佳也子っ!」

最初にボートから落ちたのは佳也子だ。俺は精一杯手を伸ばすが小さすぎて海面にさえ手が届かない。

シャッカイが手を伸ばしたときに、ボートが転覆する。


ごぼぼぼぼぼ。

俺は海中に放り出され必死に両手を使ってもがきながら海面を目指す。

緊急用に念のため救命胴衣を着けていた体が海面へと浮かびあがる。


勇者が勇敢にも嵐の中を泳ぎ、俺と手を繋ぐ。佳也子はシャッカイが見つけたようでこちらに向かって手を振る。ボートを運転していた案内人の姿は見えない。ボートの下にでも押し込まれたのだろうか。

俺は片手を振り上げると水の魔法をひねり出す。

ボートが下から突き上げられる水流に乗って突き上げられる。


――――いた。

ずぶ濡れのブロンドの髪が波間に見える。

俺は水魔法を操って彼をこちらに引き寄せる。

勇者が荒波の中彼に近づき、様子を確認する。

「意識はないけど生きている。でもどうする?」

誰もボートを運転することなどできない。俺はボートをもとに戻し全員を浮遊させてボートの上に乗せる。あとは無理やりボート毎魔法で動かすしかない。


ただ問題なのは方向が判らないことだ。

どちらにオアフ島があるのか、全く分からない。

「あっちに行ってみましょう」

とりあえずシャッカイが嵐とは逆向きの方向を指さす。まずは嵐から出ることが先決のようだ。

俺は魔力を使って船ごと動かし嵐に逆走する。


強い雨に目が開けてられない。

佳也子は俺がふきとばないようにしっかりと俺の体を抱え込みボートのヘリについている柵を握りしめる。俺はひたすら持てる魔力を使い嵐を抜け出すために力を振るう。


あれから1時間程経ったのだろうか。

暴風圏内から船は抜け出し、空はからりと晴れ波は落ち着いている。

俺はずるりと体を滑らせしゃがみ込む。体力は普通の幼稚園児とたいして変わらない。

先程までは魔力で全身を包んでいたから踏ん張れたのだ。


「お疲れ様」

勇者はぽんと俺の肩を叩き微笑む。

佳也子も俺と同じようにずるりと座り込む。こいつは魔力も弱いので普通の人間とは大して変わらない。

「はぁーっ、死ぬかと思ったよっ!」

いつもの間抜けな顔で疲れたように佳也子は笑う。

こいつはどんなときだってきっと笑い続けるに違いない。それほど能天気なやつだ。


「駄目ですね。なんか壊れてるっぽいです。無線機とか」

キャビンを覗き込んできたのかシャッカイが難しい顔をして戻ってくる。

まさかの遠い異国で漂流かよ。

俺はげんなりとゆらゆらと揺れる海面を眺める。

船のエンジン自体も壊れているらしく、俺が船ごと魔力で運ぶしかないのだが問題はどちらに行けばいいのか判らない。


勇者はガタゴトとキャビンに降り何かやっているようだ。

俺は立ち上がると小さなキャビンを覗き込む。キャビンといっても操舵室に毛が生えたようなものだ。

あるのは冷蔵庫っぽいもの(壊れている)くらいで他には何にもない。

勇者は壊れた冷蔵庫からジュースを取り出し、俺に渡す。

一番頼りになりそうな案内人はまだ気絶しているらしい。


―――――さてどうするか。

「たぶんあっちに陸地がある気がする」

佳也子が左側を指さす。どうもこいつの感は信用できない。

俺は佳也子が指さした方向と逆方向へと船を走らせる。

「あれ?ひとみくん、そっちじゃないよ」

きょとんと佳也子が俺を見下ろす。


俺はジュースを飲みながら佳也子を無視する。

「ねぇねぇ、ひとみくん」

しつこい佳也子を俺は黙って無視する。

「ねぇねぇ、ひとみくん」

無視だ無視。

「ねぇねぇ、ひとみくんってば!みてみてこれコンブ」

ビローンと俺の目の前にコンブを広げて嬉しそうに佳也子が笑う。


「……シャッカイ。黙らせろ」

「はっ!」

ぐいっとシャッカイは佳也子を引きずって俺の傍から離れていく。

「ええっ!ひどいよ、私はひとみくんのお母さんなんだよ!」

向うから何か聞こえるが無視。俺は船の速度を上げる。


「あっ、島が見えるよ!」

勇者が前を指さして叫ぶ。

勇者は俺と違って身体能力が非常にいい。

俺にはまだ島の影など見えないが勇者が指さす方向に船を向け更にスピードを上げる。

やっと俺にも島が見えて来る。どうみてもオアフ島ではない。

こじんまりとした島だった。


そして現在に至る。

あれからこの島を捜索し、なんとか水場を獲得した俺たちは魔法で火を起し、この島で2日を過ごしている。案内人はこの島を見つけたときに意識が戻り、壊れた船を目の前に顔を真っ蒼にした。

この島もよく知らない島だったようで、彼は泣きそうになりながら感で船の無線を修理している。


そろそろ俺たちのホテル側でチェックアウトしない客を不審に思い警察が動き出す頃だろう。

いや、その前にこの案内人の知り合いが動いているか。

幸いパスポートと財布だけはしっかりと持ってきている。この島から抜け出しさえすれば無事に日本に帰れるだろう。


みんなが原始的に食料を確保するためにいろいろと動き回っている間に俺はこっそりと島から抜け出し空を飛んで陸地を探している。海の上では方向がよくわからなくなるので、真っ直ぐにしか飛べないのが難点だ。今のところ北と東にそれぞれ50キロほど飛んでみたが陸地を見つけることが出来ていない。


「カニ~カニ~カニだよーん」

佳也子は嬉しそうにカニを火であぶっている。

勇者もシャッカイも生き生きと動き回っているようでこの生活を苦と思っていないようだ。

「学校で勉強しているよりは私にはこっちの生活のほうが気楽だわ」

勇者は聖剣を小刀に変形させ、枝を削って魚を焼くための棒を作っている。


俺も俺でこのようなキャンプのような生活は元の世界を思い出させるものではあるが、風呂に入れないのが我慢できない。海水ではべたべたするので自分で水魔法を使って洗ってはいるのだがシャンプーや石鹸がない時点でアウトだ。(水場の水は飲む専用だ)

デリケートな俺の肌が荒れるっ!断じて許さん、そんなこと。


だいたい魔王が漂流とか締まらないから、まじで。

勇者はとっても似合っているがな。


俺は魚と果物で腹を満たすと早速今日は西に向かって空を飛んでいく。

余り高度が高いと軍にミサイルで撃ち落とされる危険もある。俺は海面より2メートル程の高さを凄まじいスピードで飛びぬけていく。その衝撃で海面に水しぶきが跳ね上がる。


「おっ!」

俺は遠くにうっすらと陸地が見えるのを肉眼で確認する。

ややスピードを下げ高度をぐんと上げる。空飛ぶ保育園児などホラー以外なにものでもないだろう。

俺たちが漂流した島では人気が全くなかったが、今近づいて行っている島には人の気配が濃厚だ。

だがマウイ島ではない気がする。マウイだったらもっと人がいるはずだ。


さてどうすべきか。

俺だけここに流されたふりをして「あっちにお母さんがいる気がする」とかいってあの無人島の方向を指して通じるのだろうか。

なんか無理な気がする。

俺は浜辺に近づくと人から見えない岩陰に着水しゆっくりと海から浜辺に上がる。


とりあえず近くにいたおばちゃんに日本語で話しかける。

だが、ぽっちゃりとしたおばちゃんには日本語が通じないようだ。ここは親父に買ってもらった睡眠学習の実力が試されるようだ。

俺は少し舌ったらずな英語でおばちゃんに話しかける。


『すみません、日本に電話したいのですけど国際電話をかけれるところがありませんか?』

4歳の幼児がたった一人で流ちょうな英語を話しかけることにおばちゃんは驚いたようだが、俺の言葉がきちんと伝わったようで公衆電話のある場所まで案内してくれた。


わりとビーチから近くにあった公衆電話に俺は近づくが背が足りなくて受話器さえ持ち上げられない。

ぐぬぬぬっ。

おばちゃんがいなければ空中にでも浮かびあがったところだろう。

親切なおばちゃんは俺を抱き上げてくれる。

俺はお礼をいって受話器を持ち上げると佳也子から渡されたコインを大量に放り込み親父の携帯番号にかける。事前に念のために電話の掛け方を学習してきてよかった。


しばらくすると親父が電話に出る。

「親父、俺っ!瞳だ!」

『えっ?ひとみくんどうしたの?』

俺はおばちゃんから今いる場所がハワイ島であることを素早く聞き出し、事情を説明する。俺がなんでここに辿りついたかは端折る。


だが親父はそんなことに気が付かないほど動転しており、すぐに知り合いの米軍に頼んで俺たちを保護してくれると約束してくれた。

さすがもつのはグローバルな親父様だ。

俺は受話器を置くとおばちゃんに笑顔でお礼を言う。


『ありがとぉ』

俺が小首を斜め45度に傾げて笑顔でおばちゃんに礼を言ったら、おばちゃんはうっとりと俺を眺めていた。俺の顔は万国共通で可愛いのだから仕方ない。だが現在は綺麗に洗えていないので威力が半減しているけどな。駄目だ、そんなの。早く帰らねばっ!


ついでに近くの店でサンドイッチとジュースを大量に買い込み、俺はこっそりと海岸に戻ると元いた無人島へと高速で移動した。


「おかえり」

俺は少し遠回りをして無人島に戻る。案内人に空を飛ぶところを見られるわけにはいかないからだ。

佳也子は俺に気が付くと笑顔で答え、俺の持っている紙袋をまるで動物のようにくんくんと匂いを嗅ぐ。

勇者も動物的な感を働かせて俺に近寄ってくる。


「飯だ」

俺が紙袋をその場に置くと佳也子と勇者が競うように紙袋をびりびりに破いていく。

俺は米が食いたかったがあいにくその店では売ってなかったので、サンドイッチだ。

「おおっ!パンだねっ!」

「パンだねっ!」

佳也子と勇者はサンドイッチを取り上げると頭上高く持ち上げ嬉しそうに叫ぶ。


「あまり騒ぐな。見つかったらどうやって入手したか探られても困る」

船で作業している案内人には聞こえなかったようだが、俺は二人の足をどかどかと軽く蹴り倒す。

「ふぎゃっ!」

二人は軽く悲鳴を上げるがあまり痛くなかったようで、口元に指を当て「しーっ」と顔を見合わせる。


さっき昼飯を食ったばかりだがパンは別腹なのか凄い勢いでもしゃもしゃと二人の腹の中へと消えていく。俺は俺の分をひとつ確保していたが、シャッカイの分は消え失せた。

いない奴が悪い。うん。

俺は自分の分を食べ終えると紙袋と包装紙を薪の中へ突っ込む。証拠隠滅だ。


それから1時間後にバラバラとヘリが数機こちらに向かってくるのが見えた。

船から案内人が飛び出し浜辺で大きく手を振っている。

軍用ヘリが浜辺に降り立つと迷彩服を着た兵士がばらばらと降りて来る。

「カヤコ=カサハラ?」

隊長らしきサングラスをかけた男が佳也子に尋ねる。

「いえ~す」

佳也子は元気よく手を上げて返事をする。小学生か己は。


こうして俺たちの無人島生活が終わりを告げた。

帰りはなぜか軍用機で日本まで送り届けられたので俺は飛行機の中で落ちないかずっとソワソワしながら8時間を過ごした。漂流生活のほうがまだ心に余裕があったのは気のせいなのか。


「佳也子~!ひとみくぅぅん!」

降り立った厚木基地で迎えに来ていた親父と合流する。

親父は俺と佳也子をぎゅっと抱きしめるととめどなく涙を流す。

「よかった、よかったよ」

親父に向かって軍の一個中隊が敬礼をする。どうやら家まで豪勢な外車で送ってくれるとのことだ。


親父どんだけVIPなんだ?

俺は親父をじっと見つめる。

「ん?なんだい?」

親父はやっと涙が止まって赤くなった目で俺を見下ろす。

「どうやってあそこに漂流していたのか説明しなくて済んだのだが、その辺どうなっているんだ?」

親父がどうやって軍にそれを納得させたのか俺は気になってしょうがない。


まさか息子が漂流先から移動して電話してきたなどと言っても信じてもらえないだろう。

「ああ、二人の位置を衛星で見つけたんだよ。気になって調べたら変なところにいたから助けを求めたんだ」

親父は得意そうに俺に言った。

どうやら親父はこの軍の情報衛星のセキュリティ管理者も兼任しているらしい。

ナニヤッテルンデスカ。


俺はじっとまだ親父を見つめる。

親父は俺が言いたいことを判ってるようで、軽く指を口元にもってきて「しーっ」とまるで佳也子のように笑った。

「いいんだよ。言いたくなければ言わなくたって。僕は二人が戻ってきてくれてそれだけで嬉しいんだから」

「いやんっ」

佳也子は嬉しそうに親父に抱き付く。

勇者とシャッカイは二人の姿を見ていられなくなったのか車の外を不自然に眺め出す。

俺も同様に外を眺めた。このイチャイチャ馬鹿ップルは見るに堪えない。


「ひとみくん、これ」

親父は佳也子を抱きかかえたまま俺に小さな箱を差し出す。

箱を開けてみると中から出てきたのは少しだけゴツイ携帯だった。

「これは世界のどこにいても衛星を経由して電話がかけられる携帯だよ。ジャングルでも海の真っただ中でも大丈夫。これで今度は安心だね」

親父はウィンクをして俺を見る。


どこの世界に幼児にそんな携帯を渡す親がいるんだ。

佳也子に渡さないだけ理性はあるようだ。

俺はありがたく携帯を頂戴する。


それから数日後。

気にしていた二日間の無人島生活で傷んだお肌と髪はすぐに元通りのすべすべになった。

「ぷくぷくだねっ」

佳也子は嬉しそうに俺の頬をツンツンと指で突く。

ぱしっと俺はその手を払いのける。

俺の珠の肌を触るのではないっ!


「佳也子さーん、このデータもらってもいい?」

勇者は今日も俺のうちに通っている。ハワイでのデジカメの画像をキャーキャー言いながら楽しそうにそれを見ているようだ。

こいつらにとっては波乱があったハワイ旅行も楽しい思い出のようだ。


あれからの俺は保育園のカバンにその携帯と旅行用のシャンプセットとボディシャンプーセットをこっそりと忍ばせている。

備えあれば憂いなし。

美容と健康は毎日の積み重ねが大事なのだ。


「またみんなで遊びに行きたいね」

佳也子がデジカメのデータを覗き込みながら言う。

「海にいったから今度は山がいいですね。猪とか獲れる山がいいなぁ。私狩り得意なんですよ」

勇者は佳也子の言葉にうんうんと頷きながら何か物騒な事を言っている。


「頼むから米だけは持って行ってくれ。あと鍋もな」

俺はうんざりと二人を見つめた。

フィクションです!!ご都合主義全開です。

佳也子が書きたかった…そんな作品です。

ああも動じない幸せな人生を送りたいものです。(しみじみ


無人島は完全なでっちあげです。

ハワイは過去2回しか行ったことがなく、うろ覚えです……。

泳ぐのに寒そうだから南国になったという。


作者が書きたいだけ書いた作品ですので、微妙なものをここまでお読みいただいてありがとうございます。

だんだん主人公がナルシーになってきた気が。


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― 新着の感想 ―
[一言] あれ? 佳也子さん、1では最後妊娠してませんでした? 時系列がすこし違うのでしょうか。
[一言] パパさんの前世が神だとしても違和感がないな。 チートすぎる。
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