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あなたの先輩  作者: 下水痛
4/4

オリジナル

時刻は18時前

買い物帰りの主婦や部活帰りの学生がちらほら見える住宅街を全力で走る少年が一人。

はぁはぁはぁ……

あ、あれ?おかしい……追い付かない……

なんで?

前回足に自信あり!とか豪語したのにこのままじゃダサすぎますやん。

なぜ追い付かない!

僕が全力で走っていると後ろから翔太が地面をまるでスケートのように滑ってきた。

「上神!大丈夫?

いったいどういうことなんだい?」

あぁ……技能か……そう言うことか……

道理で追い付けないわけだ。

「はぁはぁ……ほら、あそこ リュックサック抱えて…走ってるのが染谷先輩だ。……あの人が下着泥棒だ。捕まえてくれ。」

「わかった!任せて!」

翔太は強く返事をするとものすごいスピードで滑って行った。

僕もうまく技能が使えれば……

あれ?なんだ?目から汗が滝のように……!!

走ってるからかな?



しばらくして住宅街を抜け学校とは逆側にある大きな森に入る手前で翔太と染谷先輩が対峙しているのを見つけた。

翔太は方膝と右手を地面についている。おそらく翔太の得意分野である。植物を操作する技能お使っているのであろう。

「はぁはぁ……やっとおいついたぜ。」

息を整えながら翔太の隣に立つ。が、翔太の様子がおかしい。

「……うん……置いてったりしてごめんね…」

「おい、どうしたよ。顔色がすげー悪いぞ?」

「ごめん……染谷先輩を足止めするので手一杯なんだ。」

よく見ると染谷先輩の足には木の根が絡み付いて逃げるのを阻止している。

しかし、人の動きを止めているだけでこんなに消耗が激しいものなのか?

いや、そんなことは無いはずだ。人間の筋力に負けるほど技能の力は弱くはないはずだ。野郎と思えば骨だって折れるだろう。もちろん相手も技能を使う人間なのだから阻止しようと技能をつかってくるだろうが、D+の翔太がここまで追い込まれるほどの力を染谷先輩が持っているのだろうか?

二年生の平均はだいたいC-かD+のどちらかだ。仮にC-で格上だとしてもこの短時間でここまで追い込まれることは無いだろう。つまり染谷先輩はC+かBランクの人間?

僕が思考をめぐらせていると、染谷が口を開いた。

「お前らッ 今なら痛い目を見ずにすませてやるッ!

だからここは見逃せ!学校にも言うな!」

「ふざけんな!この下着泥棒!あんたこんなことやってて恥ずかしくないのかよ!」

染谷先輩の叫びに近い命乞いを僕は同程度の声量でかえした。

「恥ずかしい?バカな !蛍と俺は愛し合う運命にあるんだよ!だから問題ないんだよ!だが回りの連中はストーカーだのキモいだのとぬかしやがって!蛍も俺の事を愛しているはずだ!俺達の恋を邪魔するやつは俺が蹴散らす!」

驚いた。ドラマや漫画などで見たことはあったがこんな台詞を実際聞ける日が来るとはおもわなかった。

本当に狂った思考をしている。

「……上神……染谷先輩に何をいっても……無駄だよ。この人は前から蛍先輩の事を追いかけ回してるストーカー…なんだ。」

翔太は技能を維持しているだけで今にも倒れそうなぐらい疲労困憊である。

仕方ない動けない人間なら僕でも取り押さえれるだろう。

「翔太!後はまかせろ!」

僕は染谷先輩に向かって走り出す。

「おい一年!お友達がなんでそんなに疲れてるかわかんねぇのか?」

「えっ?」

「上神……ダメだよ…アイツが使っているのは"ドレイン"…技能の源の精神力を吸いとる技能なんだ」

「何だよそれ……聞いたことねぇぞ!」

「そうさ!これは俺のオリジナルだ!」

人間は一般的な技能に加えそれぞれ唯一無二の技能が備わっていると言われている。その技能が生きているうちに覚醒する人もいれば覚醒せずに一生を終える人間もいる。しかし、だいたいの人間は後者で更に学生の内に覚醒する人間は極まれである。

「この"ドレイン"は今もお前の友達の精神力を吸いとっている!外から見れば友達が足止めしているように見えるが、実際は俺がそいつを捕まえてるんだよ!!友達が殺されたくなければ俺の言うことをきくことだなぁッ!」

「ちくしょうッ!」

これじゃあ手がだせねぇ…!

どうする?考えろッ考えろッ!

住宅街から離れこんな場所滅多に人は来ないので助けも無いだろう。

今の僕では技能では到底勝てない。それなら……!




「わかった。先輩の条件を飲もう。だから、翔太を解放してくれ。」

「か、上神!?」

僕は両手を上げ降参のポーズをとった。


「……ははっ ものわかりがいいじゃねぇか!だがお前が嘘をついている可能性がある。両手を上げたままこっちにこい。」

上神は言われた通り歩き出す。そして、染谷の前に立った。

すると染谷はポケットから一つの植物の種を取り出した。

「これ何か知ってるか?我食花がしょくかって言う花の種でな。この種を食べると花を育てた人間の言いなりになるよう精神を食い潰すんだとよ。これをお前に飲んでもらう。本当は蛍に飲ませるつもりだったんだがストックはまだあるから問題ないだろ。」

「……ゲスな事を考える」

僕が呟いたのを染谷は聞き逃さなかった。

「あぁ?お前状況わかってんの?」

ドサッ

それと同時に後ろで嫌な音が聞こえた。

振り替えると翔太は息をするのもやっとの状態で倒れている。

「染谷!!お前!!」

「おいおい!先輩が抜けているぞ。一年。

さぁ この種を飲め!友達を助けたいんだろ?ほらよ。」

染谷は種を地面に投げ捨てそれを僕は拾い上げる。

「上神……ダメだよ……頼むょ……やめてくれぇ……」

翔太が弱々しい声で僕に語りかける。ごめんな。僕が弱いばっかりに。

覚悟を僕は決め種を飲み込もうとした。


「待ちなさい。」


透き通った声が響く。

振り替えるとそこには二人の女性が立っていた。

「間に合ってよかったわ。上神くん。いつまでたっても私に補助生徒の申請が送られてこないと思ったら、こんなところで油を売っていたのね。」

一人は大和東校の会長 帆側 雫。

「雫ちゃん雫ちゃん 早くあの変態なんとかしてよ……

何かさっきから凄く見てくるんだけど……」

もう一人は大和東校の副会長そして今回の下着泥棒の被害者 安藤 蛍。だった。


「ほ、蛍ちゃん?蛍ちゃんだよね?俺の所にみ、自ら来てくれたんだね!!」

染谷は興奮しながら叫んだ。そして弱りきった翔太の操作していた木の根を無理やり引き剥がし、安藤先輩に近づく。

「ひっ!!」

明らかに怯える安藤先輩。

「え?何その反応?俺に会いに来てくれたんじゃないの?俺と愛を深めに来たんじゃないの!!?」

その反応にショックを受けたのか染谷は少し後ずさりした。

「あなたはバカなのかしらこの反応であなたの事が好きだと思う?」

そんな染谷に帆側先輩が追い討ちをかける台詞を言う。

「嫌だ……嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!俺の事が好きじゃない蛍は嫌だ!無理やりにでも服従させてやる!!」

そう叫び染谷は先ほどの翔太と同じように地面に手をつき植物の根を地面から出した。しかも、翔太より何倍も太く長い。

「帆側先輩!逃げてください!」

「大丈夫よ。上神くん。心配しないで。」

僕の叫びを軽くあしらい会長は下がらずゆっくり前に出た。真正面からは大量の木の根が襲いかかった。




しかし、根っこが帆側先輩のところまで届きはしなかった。

何故なら、会長の目の前で大量の木の根が全て凍りついていたからだ。本当に一瞬。目に求まらぬ速さとはこの事だろう。

帆側先輩はそれを払い除けるよう手を横に軽く振るうと、まるで粉雪のように氷塊が粉々になった。美しい。そして、圧倒的だった……。

木の根を出した染谷本人は腰を抜かして座り込んでしまっていた。

「あっ……ああっ……なんでだよ……なんで邪魔するんだよぉ……」

弱々しい声で威嚇する染谷。もう染谷に戦意はほとんどなかった。

「邪魔?違うわね。あなたは恋愛という戦争でルール違反をした。だから罰を与えるのよ。相手の気持ちを無視して手に入れようだなんてルール違反以外の何者でもないわ。」

「……意味わかんねぇよぉ……」

「わからないでしょうね。あなたには一生わからないわ。」


しばらくして、安藤先輩が呼んだ先生方に染谷は連れていかれた。下着泥棒だけなら謹慎処分だけだっただろうが、危険品種の植物の裁判をしていたということで警察にも厄介になるかもしれない。

そして、翔太もすぐに病院に運ばれ一命をとりとめた。しばらくは入院生活が続くだろう。今度お見舞いにいってやろう。僕は先生方に事件の内容を詳しく説明するために一度学校に向かった。この時点で時刻は19時前になっていた。


「大変だったなぁ。上神。まさか染谷があんなことをする生徒だったとは……内気な性格ではあったが成績が優秀だからと目を瞑っていたのが間違いだった。これは教師側の問題でもある。すまない!」

学校の職員室で今日僕が怒られていたまったく同じ状況で獅子道先生が僕に謝っている。なかなか不思議な気分だ。

「いえいえ、頭を上げてください。先生は悪くないですよ。先生に謝れると逆に罪悪感がわきます。」

「そうかそうか、そう言ってくれると先生も助かる。

今日はもう帰ってゆっくり休みなさい。補習の課題はまた今度でいいぞ」

「ありがとうございます。それではこの辺で失礼します。」

「おう!気をつけて帰れよ!」

僕は軽く会釈をし職員室を後にした。



11月中旬のこの時期。辺りは街灯無しでは歩けないほど暗くなっており、ほとんど人気は無くなっていた。都会ならまだまだ街の光で明るいのだろうが、あいにくこの辺りは近くに商店街があるだけで、何もない所なのだ。一番近いコンビニでも寮から歩いて10分はかかる。

11月の冷たい風に吹かれ、僕は体を強ばらせる。それと同時に今回の一件での自分の無力さを心の中で噛み締める。


なんで……なんで何もできなかったんだ……翔太の力になるどころか、足を引っ張っていただけではないか。

先輩が来てなかったら僕はほとんど死んだも同然だった。

僕一人ではだれも……何も守れなかった……。


気づけば頬を涙が流れるのを感じた。


高校生にもなったのに……情けない……。

翔太、大丈夫かな……



寮に戻ると管理人の先生が玄関に立っていた。

管理人の先生は僕を見つけると、中年太りで大きくなった体を重そうにしながらこちらに小走りでやって来た。

「上神くん上神くん!連絡は聞いているよ。怪我は無かったかい?」

「はい、先生。僕は特にケガはしてないです。でも翔太が染谷先輩の技能で病院に運ばれてしまいました……」

「うんうん。さっき付き添った先生に連絡したら命に別状はないみたいだから大丈夫ですって言われたよ。

ゴメンね、君たちが僕を呼びに来て二階に上がったら急に走ってどっか行っちゃうからからかってるのかと思っちゃって。本当に申し訳ない。」

「いえいえ、何も言わずに飛び出した自分の責任でもあるので。でも帆側先輩が助けに来てくれなければ正直やばかったです。」

「そうだね。まさかこの寮で危険品種の植物が育てられてなんて。誰が何をやっているか何てわからないものだね。一度みんなの部屋を調査しないといけないかな?」


それはまずい。翔太にも内緒の秘蔵エロ本コレクションを見られるわけにはいかない。冗談ですよね?先生?


「それじゃあ私は染谷くんの事でこれから会議があるから失礼するよ。部屋に戻ってご飯にするといい。寮の食堂ならまだギリギリ間に合うと思うから急ぎなさい。」


そう言うと先生はまた小走りで駐車場へ行ってしまった。

学校までなら健康のために歩いていけばいいのに……。


ぐぅ~……


腹が減った……。

あの先生の言うとおり僕は基本、寮の食堂で食事を済ませる。

こんな時でも人間は腹が減るんだな……


食堂に急ごう。



「上神くん。」


食堂にいくことを決め、重い足を前に進めようとすると又も声をかけられた。振り替えるとそこには命の恩人である帆側先輩がまっすぐこちらに向かってきていた。


「あっ……帆側先輩……今日は、危ない所を助けていただいてありが……えっ?えっ?帆側先輩?近い近い!……ふごっ!」




抱き締められた。

帆側先輩は歩みを止めることなく、そのままの勢いで僕を抱き締めた。

生まれて初めて母親以外の女性に抱き締められた。

日本の高校一年生の平均的な身長は168㎝~170㎝らしいく、僕は丁度170㎝ぐらいで平均的な身長のはずなのだが、帆側先輩はそれを軽く越え177㎝か178㎝ぐらいでそれなりの身長差があり、僕の顔が帆側先輩のうなじあたりになった。


恥ずかしいとか、嬉しいとか、ムラムラしたとか、そんな感想よりまず混乱した。

そう、まったくもってエロいことは考えてない。

ましてや「何このねーちゃん、俺に気があるんじゃね?」とか「うはwww女の子柔らかすぎワロタwww」とか「どさくさに紛れておっぱいに触ることはできないだろうか……」なんてまったく考えてない。考えてないよ?



「あ……あの……帆側先輩?」

「良かった……良かった……あなたにケガがなくて……本当に良かった……」

あぁ……僕は本当に多くの人に心配をかけてしまったんだな……。

僕が勢いだけで染谷先輩を追いかけたりしたから……

あそこで冷静に先生に話していれば誰にも心配をかけることもなかったし、翔太が倒れることもなかったんだ……。

帆側先輩も大規模な学校の会長だけあって一人一人の生徒を家族のように思っているんだ。だから僕なんかでも抱き締めてくれる……。本当に器の大きい人間なのだろう。

すごいな……。僕も彼女のような人間になりたい……!

いや……なってみせる!!




「帆側先輩。僕はもう大丈夫です。

今、帆側先輩のおかげで決心がつきました!

僕……いや……俺!帆側先輩のような人間になります!

もっともっと強くなってみせます!」









あれ……?返事がない……

「ほ、帆側先輩」

もう一度名前を呼ぶが返事がない。


……すぅー……はぁー……すぅー……はぁー……


「!!!!!」 バッ!!


俺は首筋に生暖かい空気を感じ驚きのあまり一気に帆側先輩と距離をとった。

えっ?今度はなに?何なの今の風……


「ほ、帆側先輩……今何しました?」


「深呼吸よ。」


な~んだ深呼吸か~

「あなたの匂いを肺胞の末端まで満たしていたわ。最高の気分よ。」

「そ、そうですか。」


うわぉ…………今日は変態によく会う……



衝撃的な台詞をぶつけられ、頬をひきつらせながら季節外れの冷や汗をかく俺。

匂いに満足したのか、寒さと体温の温度差のせいでほのかに頬を赤らめながら胸の前で腕を組む帆側先輩。

11月の夜空の下。無言の男女が微妙な距離で見つめあう。

俺が覚えてる限りではこれが葉原井 上神と帆側 雫のファーストコンタクトだった。


















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