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あなたの先輩  作者: 下水痛
3/4

見せ場の到来だ!

今回なかなか長くなりました。

とある豪邸で一つの会話が終わった同時刻、上神と翔太は自分達の住まう寮についた。

この寮、特に決まった名称はなく二番目に立てられたから「第二寮」なんてよばれている。外見も五年前ほどに立てられたので特にボロい、汚いというイメージはない。しかし、よくみると多少劣化している部位がありものすごく綺麗な訳でもない。はっきり言って特徴がない。トイレも一階と二階に二ヶ所ずつ、一階に食堂が一つ、ごく普通の寮。

僕も入学の頃は漫画やアニメの影響で「かわいい管理人さん!」だとか「ボロすぎてちょっと訳あり!なんかの物語が始まりそう!」なんて期待していた。実際は学校の寮なので管理人は学校の40歳半ばの先生、もちろん男。そして、まったく物語が始まりそうにないカードキー管理のセキュリティのドア。今時なら指紋管理のセキュリティだろうに。中途半端な……

そんな文句を口にする勇気は無いので心のなかでぐちをたれていると僕の部屋についた。僕の部屋は一階の右端109号室である。その左の部屋が108号室の翔太の部屋だ。これで「隣の部屋に女の子が!」のイベントは無くなった。いや、そもそも男子寮なのでそんなことはありえないのだが。

ドアにカードキーを通して中には入ると案の定翔太も転がり込んできた。

「いやー相変わらずなんもないね。上神の部屋は」

「なんか置こうと思うんだけどなかなかいい物がなくて」

「ポスターでも貼ってみたら?多少は見栄え良くなるよ?」

「別に好きな俳優とかアイドルがいるわけでもないし……」

「観葉植物をおこう!マイナスイオン!」

「すぐ枯らす。」

「なんか模型でも作ろう!」

「めんどくさいなぁ」

「アロマとか!香水とかも並べると綺麗だよ」

「女子かよ」

「否定ばっかだなー。そんなんだからモテないんだよ。」

「お前が言うとホント腹立つな。」

「まぁ上神よりはモテるね。」

これ見よがしにどや顔をする翔太の肩を軽く叩く。

ゴメンゴメンと爽やかな笑顔で返す翔太。

本当に憎めない奴だ。



「あっ この人なんてどう?成績は上の中、技能はC+、二年生だから歳も近いよ。」

翔太はパソコンに向かいながら隣で獅子道先生に出された課題に取り組んでいる僕に言う。

「あー、その人でいいよ。うん。」

「適当だなー。もしこの人になったら最低でも半年は固定なんだよ?」

「え?マジで?」

あからさまに困惑する僕を見て翔太は呆れる。

「あのねぇ。契約しました。やっぱり自分とは合いません。さようなら。なんて無責任な事ゆるされるわけないじゃないか。ましてやお金が絡んでるんだよ?」

「……ごもっともです。」

「まったく……上神から何か希望は無いの?男とか女とか、文系の強い人とか理系の強い人とか、性格が優しいとか熱意のある人とか」

「そう言われてもなぁ」

僕が曖昧な返事を返しながら数Ⅰのテキストの問題を解いていると翔太が何かを発見したようにやや興奮気味に僕の肩を叩く。

「上神!上神!この人しってる!?帆側 雫先輩!どうせ知らないでしょ?この学校の会長さんだよ!なんでこんなのに会長が登録してるんだろ?」

さらっとバカにされた……。

それにこんなのって……。

たまに口が悪くなる翔太。多分本人は無意識だから余計たちが悪い。

「……見たことはあるよ……名前も知ってる……そりゃ会長さんだって遊びたい年頃なんだからお金欲しいさ。女子なんだからオシャレもするだろうし」

「会長さんの家はものすごいお金持ちでお嬢様として有名だよ?ホントに見たことがあるだけなんだね。」

「ほーん だから補助学生なんかに登録しなくてもお金はあるってことね」

「そうそう。 一回申請してみようよ!」

翔太は目を輝かせながら僕を見る。

確かにこの人についてもらったら成績は上がりそうだ。

技能の方も今よりはマシになるだろう。

あれ?アリだぞ?

「良いかもしれない。あっ でもこれすでに申込み100件越えてるよ。 さすが人気の会長様だ。」

「ホントだ。無駄に規模はでかいからね。この学校。人気者はすぐ完売だ。」

説明を忘れていたが、僕の通う学校、大和東校(やまとひがしこう)は他に大和西、大和南、大和北の3つの学校と繋がっており、一つの学校に1500人前後の生徒が通っている。全て合わせると約6000人で一つの学校としては凄まじい桁である。基本的にくるものを拒まずの精神なので僕のような落ちこぼれの学生もいれば会長さんのような凄まじい人もいる。

「こりゃ 無理だな。次だ次。」

「そうだねー。一回申込んじゃうとしばらく他の人には申し込めないみたいだし、しかたないね。もう少し倍率の低い人にしようか。」

こっちが申込みをしても決めるのは相手だ。基本女子は女子しか選ばない。当たり前だ。見ず知らずの男の所に誰もいきたいとは思わないだろう。

こんな無謀な挑戦は時間の無駄だ。身の程をわきまえるとはこの事だ。

うんうん。


ドンドンッ!


二人の意見が一致し、次の人を探そうとし始めたとき、二階の部屋から

床を叩くような音がした。

「やばっ 少し騒ぎすぎたかな?」

翔太が少し焦るように言った。

「そうか?全然大きい声で話していたつもりはないけどなー

。」

おおかた何かを落としたとかその辺だろう。

「そうかなー。」

「お前は変なところで心配性だな。大丈夫だって」

僕がそう言うと翔太はまだ引っ掛かる所があるがしぶしぶ了解と一言言ってパソコンの作業にもどった。


「そう言えばあの会長さん結構性格がキツイって有名だよ。何でも生徒会に入りたいって申請した生徒をほとんど罵倒と共に切り捨てたんだって。まぁほとんどが会長とお近づきになりたいとかでやましい気持ちがあった人達なんだろうけど」

「あー そんな感じするなー 美人なんだけどほとんど無表情ってか怒ってる雰囲気に近い気がする。」

「そうそう。でもそれがいいって人も多くて男子だけでなく女子にも人気らしいよ」

「宝塚とかにいそうな感じするもんな。あの人、劇とかで男役したらさまになるだろうなぁ。」


ドンドンッドンドンッ


そんな無駄話をしているとまた二階から床を叩く音がした。

「おいおい 全然騒いでないぞ何なんだ」

「確かこの上って佐原先輩の部屋のだっけ?」

「そうそう。あの人ホントめちゃくちゃでさー。この前なんてインドにカレーを食べに行く!とかいって飛び出したっきり帰ってこなおんたよ。マジであの人インド行ったのかなー?とか思ってたら昨日、国際電話で佐原先輩からお土産なにがいい?ってインドから電話きたんだよ。マジで行ってたよ。行動力ありすぎでしょ。」

「ふーん。 あれ?佐原先輩インドなの?」

「そうだよ。スゲーよなあの先輩」

「いや凄いんだけどさ。じゃあこの上の二階には今は誰も住んでないの?」

「当たり前だろ?佐原先輩の部屋なんだから…………あれ?……」

「…………」

「…………」

「あっ……僕そろそろ部屋もどるね!じゃ!」

「ちょっと待て!ちょっと待てよ!そうじゃない!お前のするべき事はそうじゃない!お前は今からこの部屋で晩御飯を食べるんだ!そしてシャワーを浴び、今日は泊まっていくんだ!なぁに、友人の家に泊まるのなんて何らおかしくはない!大丈夫だ!」

その場から逃げようとする翔太が立ち上がった瞬間、僕は翔太の足にしがみつき、これでもかとひきとめる。

「嫌だよ!僕ホラーは大の苦手なんだ!」

翔太は今すぐ走って外に出ようと力任せに引っ張る。

「知ってるよ!お前が中学のころ臨海学校の肝試しでものすごい泣いてお漏らししたことも知ってるよ!」

「わぁー!!言うな!黒歴史を言うな!」

「あの時クラスのメンバーは肝試しのゴールにいて泣き声しか聞こえなかったから同じペアの僕が泣いたってことでかばってやったじゃないか!」

「うっ……!」

言葉を詰まらす翔太。どうだ!僕の切り札!

「その時の恩を忘れたわけではないだろうなぁ」

「クソッ……!」

勝った。最後に自分の持てる最高に卑劣な顔で翔太に止めの一言を言ってやった。

翔太は両膝を床について床を拳で叩いた。






そして、何事もなかったかのように立ち上がった。

「まぁ もともと泊まっていくつもりだったけどね。冗談ですよ。」

「ですよね。」

知ってた。そう言う流れである。翔太は僕をほったらかしにして帰るような人間ではない。始めに言ったが翔太はものすごくイケメン、そして性格もイケメン。親友思いなのである。

まったく本当に憎めない奴だ。


「でも不気味だね。人のいない部屋から音がするなんて」

そうだ。本題はそっちだった。忘れてた。

「ホントにな。佐原先輩のストーカーとか?」

僕が適当に返事をすると翔太がすぐに否定にはいった。

「ないない。あの先輩のストーカーしてたら気が遠くなるよ。旅費がいくらあっても足りやしない。」

「だよなー。寮にいるよりも海外にいるほうが多いもんな。」

「もう何かいろいろとめちゃくちゃな人だよね。

うーん どうしよう。一回様子見に行く?」

「空き巣とかの可能性もあるしな。

よし、一回覗きにいこう。」

僕らは話し合いの結果様子を見に行くことにした。

本当に空き巣だったら僕では手も足も出ないだろう。

しかし、翔太の技能の成績はそれなりに良くD+となっている。

技能の評価は上からA B C D E Fの六段階評価にそれぞれ上位は+、下位は-、となる。因みに僕はF+で一応能力が出るので最下位ではない。ここ重要。最下位ではない。


僕らはドアを出て二階への階段へ向かう。うわー、ドキドキする。佐原先輩の部屋へどうやって侵入しよう。いきなりドアを開け「動くな!警察だ!」とか?脅しにはなるのではないか?物静かに入り込んでスッと背後に回り込み首筋に一撃……!…………カッコいい……!

これだな……


「それじゃあ 僕は管理の先生呼んでくるね。カードキー無いとドア開けれないし。」

「あっ……うん……そうだね」

先生が来たら多分僕が出る幕は無いだろう。

人の夢と書いて儚と読む。


僕が先に二階に上がると階段を上がってすぐにフードを深く被ってパンパンにったリュックサックを背負ううちの生徒であろう人がいた。

顔は後ろ姿なので見えない。背丈肩幅から男だと思われる。怪しい。

しかし、一般の生徒でただの学校の帰りと考えてもまったく違和感がない。現在17時過ぎなのでちょうど下校時刻で部活のない人間なら帰ってきていてもおかしくない。僕たちも帰って来ているわけだから。先に行っておくが僕は部活のをしている。今日は先生に呼び出しをされ、怒られていたから休んだのだ。決してサボりではない。うん。


「すんません。ちょっといいですか?」

よし。もし上級生だったときのためにちゃんと下手に出て質問を投げ掛ける。これで普通に振り替えれば白。逃げれば黒だ。

さぁ……どっちだ!?




「な、何ですか?」

男は立ち止まり振り向かずに言った。



灰色かな?


いやいや、明らかに挙動がおかしい。声も上ずっている。限りなく黒だ。

「一回こっちを向いてくれませんか?」

「はぁ?嫌だよ こっちは忙しいんだ。後にしてくれ」

明らかに苛立った態度で男は足早にその場を去ろうとする。

不振と言うだけで取り押さえるわけには行かないので僕は男の去っていく姿を見ていた。

別にビビったわけじゃないよ?マジビビってねぇし!!


僕が自分に言い聞かせていると、去っていく男の鞄からなにかが落ちた。四、五メートルほどの距離で何かわからないがピンク色の何か。

男は気づいてないので僕はそのピンクの物体を拾い上げた。




ブラジャーだ。




え?ブラジャー?

一瞬頭が真っ白になり、色々な思考がめぐった。

彼の彼女のもの?彼の肉親のもの?え?まさか彼自信が着用しちゃうの?いやいや、それにしてはカップ数がデカイ。凄くデカイ。E?F?

なんだこれ?ん?ん?

僕が混乱していると男は僕の拾い上げている物に気づきものすごいスピードで戻ってきた。

「この野郎ッ!返せ!」

男は僕からブラジャーをひったくるとすぐに引き返そうとする。

男がこちらを向いた時に顔が見えた。

染谷(そめや)先輩だ。この寮の歓迎会のとき端のほうで一人孤立していたのを覚えている。

そして僕はブラジャーを握って思考が回復した辺りでしっかり目に入ったものがあった。


名前だ。

安藤(あんどう) (ほたる)

この学校の副会長だ。

失礼だが、この男があんな人と付き合っているとは思えない。

というか安藤先輩をこの寮で見たことがない。

黒だ。間違いなく、黒だ。


「おい、染谷先輩 その下着どうした。」

少し強めに染谷先輩に叫ぶ。

染谷先輩は体をこわばらせてたちどまる。

しばらく沈黙が続き…………一階から管理の先生と翔太が

やってきた。

「上神。こんなところで何してんの?先生連れてきたよ?」

それと同時に染谷が走り出す。

「クソッ 待て!」

「え?上神!?どうしたの!?」

「下着泥棒だ!」

一言僕が叫び追いかける。


「え?男子寮で下着泥棒?え?」

管理の先生と翔太は困惑し、顔を見合わせた。



染谷は廊下の窓から外に飛び降り技能で着地の衝撃を押さえる。

僕も続けて飛び降り着地の衝撃を押さえる!…………事はなく、衝撃でものすごい激痛が走った。

「ぎゃああああぁぁあぁあ!!!!!!」

当たり前だ。技能の成績は最下位。もちろんとっさの着地なんて無理だ。でも今の自分なら行けると感じた。なんでだろ?素直に階段使えばよかった。

僕はその場で悶えながら多少他の技能よりマシな治癒の技能で涙目になりながら足を癒す。


少し遅れたがまだ染谷先輩の背中は見えた。

ここで僕の唯一の長所が輝く!

僕の長所……それは! 足が速い!

何を隠そう僕は陸上部なのだ!

中学の時は全国にただって出場した。

そんな僕に走りで勝負だって?笑わせるッ!さらに染谷先輩はリュックサックを抱えている。追い付くのも時間の問題だ!

これで犯人を捕まえ安藤先輩に惚れられめでたくゴールイン!

完璧だ!待っててください!安藤先輩!僕が必ず捕まえます!


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