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俺達と彼女の12ヶ月  作者: 徒花 紅兎
3月~The last month~
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フルネームと雨とバージンロード

その後、龍真は私を家に連れて帰った。

どうにかこうにかお風呂に入れて、

新しい服を着させて、


「面倒だから、剣臣の隠し子ってことにしとこう。」

「は!?何でそうなるの!?」

「だって、君もいい歳だし、結婚せずに、

 色んな女の人と遊び歩いているからあってもおかしくないでしょ?

 ね?荒方教授。」

「あらかたきょうじゅ?」

「そうだよ、朱鷺。

 これから一応この人は君のお父さんっていう設定。

 それで、君は荒方 朱鷺っていうフルネームになるの。」

「ふるねーむ?」

「おいおい、本当に大丈夫かよ……。」


当時、龍真は広いお屋敷みたいな所に住んでいて、

よく荒方 剣臣が遊びにきていたらしい。

お手伝いさんも限られた人数しかいなくて、

ほとんど会うことも無かった。


そこで、主に龍真は私に言葉を色々教えてくれた。

私の瞬間記憶も理解を示してくれた。

何よりもとにかく一番は丼ものをよく作って食べさせてくれた。

たくさん食べると何故だか彼はすごく嬉しそうだった。


一日中一緒に過ごした。

本を読んだりテレビを見て世の中を見たり、

彼は元々引きこもり体質だったせいか、

室内での過ごし方のスペシャリストで、

ありとあらゆる室内遊びを教えてくれた。

そしてたまにやってくる剣臣が彼と私を連れ出して、

外の世界を楽しんだ。


龍真は私が何かに興味を示すととことん付き合ってくれた。

片時も離れず、とにかくずっと一緒にいてくれたのだ。


そばにいるだけから、

手をつないで歩いて、

彼の膝の上に座って、

彼の腕に抱きしめられる。

そのうち、キスをして特別な存在になって。


それでも彼との生活は変わらなかった。

一緒に何かをして過ごす、

穏やかな毎日が幸せだったと今更ながら思い知る。


剣臣の勤める大学に遊び行くこともあった。

龍真はそこのOBでもあったようだが、

彼もまた天才と呼ばれる人間で、

4年を1年足らずで卒業したと聞く。

たまにふらっと現れて、

後輩の研究なんかを見たりしていた。

と、言っても、「つまんないんだよね」

とたまにこっそり呟いていた。


研究することが割と好きだった彼は、

アドバイスを求められればすぐに応えてあげる存在で、

後輩や教員からも好かれていた。

ジャンルは問わない、

生物学のようなものが好みだったらしいが、

プログラミングや歴史、基本的にどんな分野においても、

彼は理解をしていた本当の秀才。

だけど、彼自身は人と距離を置いていたように感じた。

1人で好き勝手にやるのがいいんだと言っては、


「それでお前の後始末を俺がやらされるんだけどな。」


と、剣臣によく言われていた。

そんなある日、学内のパソコンに異常事態が起きた。

なにやら龍真自身も少し苦戦をしている風に見えた。


だから、代わりにパソコンに触れた。

何をどうすればいいのかわかるから。

高度なハッキングだったように思えた。


解決するとみんな大騒ぎだった。

流石、龍真だと盛り上がった。


彼は適当に相手をした後、

すぐに大学を出て家に帰った。


「朱鷺、絶対だめだからね!」

「何が?」

「もう二度と、あんなことしちゃだめだから!!」


今までに見たことのない彼の険しい表情に驚いた。

というより怖くなって、逃げ出した。


「朱鷺!!」


どこをどう走ったのかはわからなかった。

ただただ、走ってどこかにいってしまいたくて。


暗くなった山道を歩いた。

そのうち、雨が降ってきて、岩陰に座り込んだ。


どうして彼があんなことを言うのか理解できなくて。

龍真の険しい表情が頭から離れなくて、

足を抱えこんだ。

何となく、わかる気もしたけれど、

心細くなったのか、とにかく、怖かった。


でも、しばらくすると、


「やっぱり、計算間違ってなくて良かった!」


そう言って龍真は現れた。

着ていた白衣を私にかぶせてそのまま横抱きで歩き出した。


「龍真……。」

「ごめんね、怖いことしちゃったね。

 朱鷺が悪いわけじゃないんだ、つい、焦って…あぁ、とにかくごめん。」


抱きかかえる彼の腕は力強くて。


「私は普通じゃないの?」


龍真の足が止まる。


「龍真みたいに爪を切ったりしないし、

 髪の毛も伸びたりしないし、

 他の人とは違うの?

 だから龍真は焦ったの?

 誰かに知られたらよくないから?」


しばらく黙り込んでいたけれど、彼は静かに答えた。


「そうだね、朱鷺は特別だから。」


地面に下ろされるとぎゅっと抱きしめられる。


「でも、みんな違うんだよ。

 みんな同じ人間なんていない。

 例え、朱鷺が少し特別だとしてもそれは当たり前のことで…。」


頭を撫でられる。


「でも、それを理解してくれる人は少ないかもしれないから、

 さらけ出さないほうがいいこともあるんだ。」


その後、家に帰ってシャワーを浴びて、

暖房の前に二人でひっついて座る。


「もしかしたら、朱鷺の体は時間が止まっている状態なのかもしれないね。」


私の手に触れて龍真は言った。


「何かのきっかけで、また時間が動き始めるかも………。」


う~んと悩む彼は突然何かを思いついたように顔をあげた。


「そうだ!子供を作ろう!」

「?」


よほどいい閃きだったのか、

とにかく彼は嬉しそうだった。


「朱鷺の体に変化を起こせば何かが起こるかもしれない!

 もしかしたら、眠りについてるだけかもしれないから、

 だから、子供を作ってみようよ!」

「そうなの?」


正直、よくわからなかった。

でも、彼はすぐに何かを悩みだす。


「待てよ、子供を作るんならちゃんとしとかないとだめか。

 うん、それなら、僕たちは夫婦になろうね!」

「ふうふ?」

「うん、そうすれば、誰も文句は言わないだろうし。」


そう言って、龍真は何やら計画を立て始めた。

彼はこうと決めたら真っ直ぐに実行をせざるを得ない性格だ。

とにかくそんな様子が楽しそうで、

何も言わず、ずっとその姿を眺めていた。


後日、剣臣に報告すると


「またお前は突拍子もないことを…。」

「でも剣臣は朱鷺のパパだから、

 バージンロードは歩いてくれなきゃね?」

「はぁ!?勘弁」

「しないよ!よろしくね!!」


剣臣も何故だか龍真の押しには弱かった。


そして、初めて会った。


「親父!俺、この子と結婚するから!」


滅多に行かない自宅の本館。

その一室に龍真は突撃して、

中に入るや早々、そう言った。


「………龍真、何事だ。」


書類を見ていたであろうその男は静かにそう言った。

その傍らの人物は龍真の来訪に少し驚いていたようだ。


「この子は荒方 朱鷺。

 剣臣の娘で、まぁ、訳ありでさ、最近再会したらしいんだけど。

 俺、この子と結婚するんだ。」

「結婚………。」

「あ、朱鷺。この人は俺の親父。鷹友 帝人っていう親父。」

「親父殿…?」

「で、横にいるのが、周殿 優李って言って。

 親父の…お手伝いさんみたいなものかな?」

「龍真様…突然で何を……。」


戸惑っているのか若いころの優李は固まったままだった。


「それで、結婚するからなんだ?」

「結婚式するからさ、親父も出てよ?」

「………。」


親父殿はほんの少しだけ驚いた顔をしていた。

だけど、すぐに真顔になって、「わかった」と答えた。


「日時決まったら連絡するから、よろしく!」


そう言って龍真と私は自宅に戻った。

これが親父殿との出会いだった。


自宅に戻った龍真はドレスのカタログを広げて、

それと私を交互に見ながら、


「どうしよう、やっぱキュートなのもいいけど、

 エレガントなのも捨てがたいよな!!」


とにかく、ひたすらに彼は楽しそうだった。

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