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俺達と彼女の12ヶ月  作者: 徒花 紅兎
3月~The last month~
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見つけ出してと黒髪と枷

4人がやってきたのは自宅だった。


「こ、ここで大丈夫なの?」

「大丈夫だ…清理。」

「はい!」

「きついだろうが、今しばらく見張りを頼めるか?

 私の部屋のパソコンのモニターで十分だと思う。」

「お任せください!!」


そう言って清理は朱鷺の部屋へ行こうとしたが、


「待って、これ。」


藤が珈琲を清理に渡した。

それを受け取って礼を言うと今度こそ部屋へ向かった。


人数分の珈琲をそれぞれ渡すと、

特に言葉に出すことも無く、

3人ともいつもの定位置の椅子に座る。


「…荒方さん、とりあえず説明してもらえる?」

「何から聞きたい?」

「んー、とりあえず“マザーシステム”かな。」


一口運んで朱鷺は答える。


「一部の人間に残っている“伝説”のようなものだ。

 大昔、それもどれくらい昔なのかもわからない時代に、

 人の記憶を操作するためのシステムが開発された。

 それが“マザーシステム”と呼ばれるものだ。

 ただ、実際にどんなものだったかは謎で、

 誰が何のために作ったのかも全てが謎だった。

 わずかに残る情報があるにはあるが、

 信ぴょう性にかけるものばかりで、誰も信じてはいない。

 そんな噂のような存在だったのだが………。」

「それを見つけ出してしまったのが、君の婚約者だった“龍真さん”?」

「………そうだ。」

「君の親父さんは君は知らないだろうって言ってたけど、

 君が知っていることを隠していたの?」

「そうだ、龍真の意向にしたがったんだ。」


藤と北斗は一度目を合わせて確認をした。

そして、藤はゆっくりと口を開いた。


「さっき、少しだけ思い出したことがあるんだ。」

「何をだ?」

「龍真さんに俺たちは会ったことがあるみたい。」

「ただ、それは…俺たちの母さんが、龍真さんを銃で撃った記憶だった。」

「……そうだ、龍真は撃たれていた。

 そうか、お主たちの母親が…間違いなかったんだな。」


どこか気落ちする彼女に、続けて伝えた。


「その時、龍真さんさ、君と同じ形で小さい俺達を抱きしめてたよ。」


彼と同じということが嬉しかったんだろうか。

少しだけ顔をあげた。


「優しい笑顔をする人だったんだね。」


あぁ、と懐かしそうに微笑む朱鷺。

本当に大切だったんだと感じた。


「……ただ、龍真は私を守ろうとしてくれていたんだ。」


ぽつりと呟いた朱鷺は内ポケットから手帳を取り出した。

それを開いて2人の前に差し出した。

そこには少し若い帝人と思われる人物と、

その隣に今の朱鷺と全く変わらない笑顔の姿があった。


「これは30年ぐらい前の写真だ。」

「「は!?」」

「龍真が亡くなって1,2年後。

 私が独立をする際に親父殿と撮ったものだ。」


当時、藤と北斗はまだ幼い子供だ。

つまり彼女は2人よりも年上になるのだが。


『『それにしたって、見た目が全く変わってないなんて…。』』


驚く2人の考えていることが手に取るように朱鷺にはわかった。


「私は龍真に出会う以前の記憶が無い。」

「「え?」」

「というより、いつどこで生まれたのか、

 どこで育ったのか、両親の顔も名前も………知らない。

 自分の名前も年齢も何も知らないんだ。」

「記憶喪失ってこと?」

「唯一、覚えていることがある。」


朱鷺は背筋を正すと二人を真っ直ぐに見つめて答えた。


「誰かはわからないが、私は“マザー”と呼ばれていた。」

「「!?」」


手帳に触れて、指の先で撫でる。


「私は爪を切ったことが無い。」


だが、彼女の爪は綺麗に整えられたままだ。


「髪をとかしても抜け毛も、白髪も一本も無い。

 ――――切ったことも無い。」


その黒髪は常に長さが変わらなかった。


「私はもう何年この姿のまま生きているのかもわからない。」


ただ一つ理解できるのは、



「私が―――“マザーシステム”なんだ。」



言葉の意味は受け取れるのに実感が無い。

頭の中でうまくかみ合わない。


「それってどういう…」


戸惑う彼らに朱鷺は悲しそうに微笑んで説明をした。


「私は……人間ではない。

 だからといって何なのかと問われても、

 正直自分自身でもわからない。

 老いることも、成長することも無くこのまま。

 ただ、お主たちのように一瞬で見たものを記憶でき、忘れない。

 そして、人の動作や反応で心を読み取ったり、

 物に触れて色んなことを読み取る力がある。

 まぁ、滅多に使うことは無いがな…。」


頭ではわかっているのに、理解が出来ない。

どう言えばいいのか声も出せない。

そんな2人のもどかしさに気づいたのか、

朱鷺は両手をそれぞれに差し出した。


「実際にどういうものか試してみよう。」


そう言われ、2人は手を彼女の手に重ねた。


「今から私の記憶をお主たちに“見せる”」


朱鷺に合わせて、目を閉じた。


ふわりという感覚。

真っ暗な世界の中で、

突然、肌寒く感じた。

驚いて目を開くが真っ暗で何も見えない。


その時、がちゃっという音がした。

音の方だろうか、薄っすら明かりが見え、

やがてその明かりはだんだんと近づいてくる。


「おいおい、こんな隠し部屋なんて地図には無かったぞ…。

 ってか、何だよここ、鉄格子の部屋?

 何、牢屋みたいな感じ!マジで怖ぇ!」

「いちいち煩いってば、剣臣。」


―――私がはっきり覚えているのはこの時からだ。


足音は徐々に近くなり、やがて眩しい光が向けられた。


「うわ!!何!?人!?」

「……………動いてる。」

「何でこんなとこに!?」


がちゃりという音がして近くなる。


「何で、手足に枷なんてついてんだよ…っていうか何者?」


2人分の人影がやっと認識できるぐらいだ。


「おい、大丈夫かよ?女の子?」

「ねぇ、君、名前は?」


そう聞かれ、思い出したのは一言。


「ま、ざー………」

「マザー!?は!?どういうこと!?

 え、どう見たって人間だろ!?」

「何言ってんの?君。」


良く見えないが、一人の手に触れた。

そうして読み取れたその人物の名前。


「た、かとも……りゅうま………。」

「「!?」」


彼は驚いて手を振り払った。


「触っただけでわかるの?」


彼の言葉に頷く。

1人は声にならない叫びをあげていた。


だが、もう一人は鞄から何かを取り出した。


「お、おい、龍真!どうする気だ!?」

「別に、採取するだけだよ。」


腕に何かを刺された。

しばらくすると抜かれた。

すっと彼らは立ち上がる。


―――ガシャンッ


両手足についていた枷は脆くなっていたのか、

彼から与えられた強い刺激ですぐに壊れた。


「好きにしなよ。」


そう言って彼は騒ぐもう1人を連れてどこかに行ってしまった。


よくわからないけれど、体を動かしてみた。

一つずつ思い出していくように、

立ち上がって、一歩一歩歩いていく。

壁を伝って、扉を開いて、暗いどこかを歩いてく。


やがて、たどり着いた場所は眩しすぎる場所。

真っ白な光の中、

ようやく目が慣れてきて見えたのは草木の生えた場所。

かつて噴水だったようなものもあった。


だけど、何も思い出せない。

自分が誰なのか、ここがどこなのか。


噴水のような場所に水がたまっているのが見えた。

思わずそれに手を伸ばしたら、


「それはやめなよ!!!」


さっきの声。

振り返ると、手を引っ張られた。

透明な容器に入った水を手にかけられた。


「そんな雨水なんか触るなよな!

 飲みたいならこの水でも飲んで!」


その容器ごと渡された。

彼は近くに腰かけて何か機械みたいなものと睨めっこしている。

その手には大きな器を持ってて、

もう片方の手にはお箸を掴んで何かを口に運んでいた。


よくわからなくてじっと見ていたら視線を向けてきた。


「何?お腹でも減ってるの?」


首を傾げたけど、彼は自分の隣りにくるよう手で合図をした。

その隣に座ると、お箸で何かをすくって差し出してきた。


「ほら口開けて。」


食べる、ということを思い出した。


「!!」


初めて口にするそれは何というのか衝撃的で。


「美味しい?」


彼にそう言われ、思い出した。


「おいしい!」


嬉しくなるこの気持ち。

その言葉を聞いた彼は嬉しそうに笑って、


「これの美味さがわかるなんて、君はなかなかだね!」

「これ?」

「“かつ丼”って言うんだよ。」

「かつどん。」


彼はまた口に運んでくれて、美味しさが口に広がる。


「……………朱鷺。」

「?」

「うん、君の名前は今日から“朱鷺”だ。そうしよう!」

「とき?」

「そう、君は朱鷺。僕は龍真。」

「りゅうま。」


これが、私と龍真の出会いだった。

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