360度とハンドルとハグ
「あ奴らはそんなに代物なのか?」
「そりゃ、そうだよ。ほぼほぼ伝説的な。」
「でも老若男女問わずに人気はあるからね。」
2人の答えに目を見開いた。
「やられた!急ぐぞ!!」
「は!?」
「どうしたの!?」
朱鷺が突然走り出した。
わけもわからず2人も追いかける。
近くの建物の陰に隠れ、様子を伺いながら、
朱鷺は今まで以上に慎重に進む。
「何がやられたわけ?」
「あのステージには360度のカメラが設置されていた。」
「それで?」
「それだけの代物なら誰もがステージに向かって行く。
その中で、反対へ進む人間がいるならどう思う?」
「…逃げている。」
「逆にステージの観客に紛れ込めばどうなるかわかるか?」
「監視カメラに取られて映像解析ののち、見つかるってこと?」
「その通りだ。」
ぴたりと朱鷺の足が止まる。
前方に一般人を装った集団が見えた。
「ちっ、きたか。」
来た道を戻ろうと振り返るが、そこにも集団。
「ねぇ、荒方さんの目には何が見えてるの。」
「前後に一般人に扮した手練れの集団だ。」
「どれくらい手練れ?」
「周殿の精鋭部隊より格上だ。」
流石にこの人数の相手は2人をかばいながらでは朱鷺でも厳しい。
だが、通らねばならない。
「ついてこい!」
二つの集団が交わる前に一方を突破する。
朱鷺の速さに間に合わなかった集団の一人が飛ばされる。
2人目、3人目と投げ飛ばしていくが、後ろの集団が近づいてくる。
『街中では使いたくないが。』
鞄に手をかけたその時。
残っていた集団の二人がぶっ飛んだ。
驚いていると、怒声が飛んでくる。
「貴様ともあろうものが何をしている!!」
「蛍!」
繁牙の姿がそこにあった。
そして、すぐ目の前に車が止まる。
「早く乗ってください!!」
運転席から繁牙の部下の半崎が声をかけた。
急いでその車に乗り込む。
すぐに発車してその場を離れた。
「蛍!何でここに!」
「貴様らは一体何をしでかした!?」
力いっぱいの声で怒鳴られる。
「それがわかれば苦労はしない。」
珍しく困惑している朱鷺の姿に頭を冷やす蛍。
半崎が運転しながら説明した。
「お三方とも指名手配されてますよ、緊急で。」
「「は!?」」
「なんで警察が……、」
「それが俺にもわからんのだ。
容疑も何も説明が無い、上の判断で出されておる。
貴様らの行動も色んな警官から入ってきたからな、
すぐに位置がわかったからいいものを…。」
「蛍、警官何て一人も見ていない。」
「何だと?」
「恐らく監視カメラで特定されてその情報を警官内で流されている。」
蛍は口に手を当てて深く考え込む。
「荒方、お前たちは追われているんだな?」
「だが、誰から追われているかわからない。理由もな。
最氷プロダクションも掌握されているようだし、
ここら一帯の監視カメラも何者かが操っている。」
朱鷺の機械で確認するが、相変わらずアクセス出来ない。
「誰を敵に回したのだ!貴様は!」
「だからわからんと言っているであろう!!
まさか警察まで………というか、私たちを助けるなら、
お主の立場も危うくなるだろうに!」
「馬鹿か!理由もわからん指示に従えたものか!!」
「指名手配の指示が出された瞬間に、
理由は何だと上司に凄い形相で詰め寄ってましたもんね。
すっごいしんぱ」
「黙っていろ!!半崎!!」
『『耳が真っ赤。』』
朱鷺はすぐに気が付いた。
「検問があるぞ!!」
目前に広がる検問。
だが、半崎は、
「あ、余裕です。」
遠慮なく速度を上げて行く半崎は、
近くにたまたまあったキャリアカーに向かって行った。
「え、ちょ、ちょっと待って。」
「つかまって居ろ、馬鹿ども。」
「ほいじゃあ、久しぶりのスリルですね。」
ちょうど荷台が下がっていたのを「ラッキー」と言って、
そのまま突っ込んで検問の上を飛び越した。
ケラケラと笑う半崎。
声が出せない藤と北斗。
「…まぁ、蛍の部下だから、ただ者ではないと思っていたが。」
「ハンドルを握ると変わるのだ、この男は。」
かつて、朱鷺におびえまくっていた男の欠片も残っていなかった。
「でも、警部。なんか見られてるっぽいですよ?」
半崎が指を指す。
その先の空には何やら物体が。
「ドローンか、厄介だな。」
「めくらましぐらいならできるが…。」
鞄から小さな物体を取り出す朱鷺。
「貴様は相変わらずそういう開発を…。」
「趣味だ。」
「それと同時に降りるか。」
「車が止まれば降りたと特定されるぞ。」
「じゃあ、もう少し行った先の角で、
急ブレーキかけて曲がるんでその勢いで飛び降ります?」
「「それがいいかもな」」
「「よくないって!!」」
慌てて藤と北斗が止める。
あたかも自然な会話でえげつない計画を立てる3人に青褪める。
「文句を言うな、最善の策だ。」
「それ絶対危ないよね!?」
「私が失敗するとでも?」
う、と詰まる。
こういう時に返せない。
「だが、お主たちはどうするつもりだ?」
「俺はこのまま運転して誘導しときますよ。
警部はお三方と一緒に行くんでしょ?」
「………荒方、城酉はどうした?」
「あ奴はちゃんと別の役目をこなすために別行動している。」
「……………。」
「警部?」
黙り込んだ蛍に首をかしげる半崎。
「部下についててやれ、蛍。」
「え!?」
「相手がどんな奴ともしれん。
もし、部下が捕われた時、太刀打ちは難しいだろう?
だが、お前がついてやればどうとでもなろう?
私たちの方はここまでくれば問題ない。
一応行先は、これを渡しておく。」
行先の書いたメモを渡す朱鷺。
「…すまん。」
「警部!俺は大丈夫ですって!!」
「やめておけ、半崎とやら。
私たちの追手がどれほど危険か、
正確に理解できているのは、私と蛍だけだ。
その状態で部下を置いておけるほど冷酷な男ではない。」
「警部………。」
悔しそうな蛍の表情を見て、
朱鷺は助手席のヘッドレストごと彼の頭を抱きしめた。
『『荒方さんがハグした!?』』
「や、やめんか荒方!!」
慌てふためく蛍に、朱鷺は笑みを浮かべてそっと伝える。
「いつもすまない。ありがとう、蛍。」
心からの感謝に、蛍は落ち着いた。
「貴様はいつも―――」
そう言いかけた時、半崎が叫ぶ。
「そろそろ角に行きますよ!!
準備してください!!!」
速度を上げる。
朱鷺は窓から上を確認。
勢いよく物体を空へと投げ、前方にも物体を投げる。
すると宙を舞った物体はある程度の場所で破裂。
白い煙のような靄が辺りを覆った。
急ブレーキをかけ、曲がる。
それと同時にドアを開けて勢いよく外に飛び出す。
というより飛び出された。
だが、着地点にはいつの間にやら大きなクッションが広がっていて、
3人は無傷で転がった。
車はそのまま速度を下げることも無く走り去る。
クッションを手早く片付けて、脇道を進む。
空を確認したがドローンはいなかった。
目的地にたどり着いて車に乗り込む。
車に乗せてあった服に着替えて、
朱鷺も変装用の帽子をかぶった。
「あの2人は大丈夫なの?」
2人の心配そうな顔に朱鷺は余裕の笑みを返した。
「私と数年同じ仕事をしてきた男だぞ?」
その一言で納得した。
「繁牙さんにはハグをしたりするんだね?」
「なんだ、お主たちもしてほしいのか?」
「あ、いや、そういうわけじゃ………。」
『『いい雰囲気だったんだけどな。』』
何故か複雑な心境にかられる2人であった。




