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俺達と彼女の12ヶ月  作者: 徒花 紅兎
3月~The last month~
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忘れ物とプランとゲリラライブ

朱鷺が一歩を踏み出そうとした。

だが、彼女は足を止めて立ち止まる。


「どうしたの?荒方さん。」


朱鷺は突然額に手を当てて叫んだ。


「やってしまった!!」

「はぁ!?何を!?」

「こんな入口で叫ばないでよ!」


朱鷺は2人に振り向いて腕を掴んで引っ張る。


「車に忘れものだ!!私としたことがなんたる失敗!!」

「だから、別に俺らはっ…」

「あんたって人は……。」


三人は来た道を戻っていく。


その様子を優李は部下から報告を受ける。


「申し訳ありません、帝人様。」

「聞きたくありません。」

「朱鷺たちに逃げられました。」

「!?」


やまねは驚いた。


「詳しい報告を。」

「建物に入る直前で唾を返したそうです。」


退路を断つ前に感づかれた。

帝人の顔に笑みが浮かぶ。


「流石、朱鷺。実に聡明で優秀ですね。」


ICレコーダーと手帳を仕舞い、紅茶を飲む。

失敗したのに嬉しそうな帝人と、

対照的に冷静な表情の優李だが、

焦るような雰囲気は一切見せなかった。


「やまね、次に会うときは是非とも朱鷺と一緒に。」


彼女の返事も待たず彼らは部屋を出て行った。

残されたやまねは呆気にとられていたが、

白百合の声にはっと我に帰り部屋を出る。


「皆、無事!?」

「大丈夫ですぅ~!でも腕が激イタですぅ~!」

「下の様子も見ましたけど、全員あっという間に撤退したみたいですわ!」


向日葵と秋桜がすぐに報告にやってきた。

なんという鮮やかな動き。

まるで軍隊並みの動きだとぞっとさせられる。


「野菊!荒方に連絡を!」


すでにパソコンの前に座っていた野菊に声をかけたが、

彼女の動きが固まっていることに気が付いた。


「監視されております。」


彼女の言葉に監視カメラを見上げた。


「どういうこと?」

「システムもセキュリティも全て乗っ取られています。」

「待って、ここのシステム系は荒方が全て手を加えているはずよ!?」


パソコンでデータを解析する野菊。


「このサインは………。」


データの隅に残されたサイン。

野菊にとってはなじみの深いものだった。


「野菊?これは誰のサインなの?」

「………コードネームは白菊です。」

「何でかしら、初めて聞くのにだいたい予想が付くのは。」


机の上の写真立てを手に取る。


―――荒方様。


小さい頃、朱鷺に出会って世界が変わった。

幼い野菊が誘拐事件に巻き込まれ彼女を助けたのは朱鷺だった。

その時のことは今でも鮮明に覚えている。

今と変わらないその姿で彼女の前に現れ、

抱えて軽々と建物から抜け出した。


恐怖だった世界に突如現れたヒーロー。


そんな朱鷺に憧れて精いっぱい勉強をした。

いずれ彼女に必要とされるために。

彼女の力になれるように。


例え、この目の前のサインが、

世界一の強敵であろうとも。


野菊は引き出しからノートパソコンを取り出した。

パソコンとそれを繋いで準備完了。

深く深呼吸をする。


「野菊?」

「全力で参ります。」


その横顔が、朱鷺を思わせやまねは笑みを浮かべた。


『勝負です、お母様。』


野菊は勢いよくキーボードをはじいた。


*************************


車に乗り込んだ帝人は後部座席で寛ぐ。

優李は運転席で耳にイヤホンをあて、現状を確認する。


「すぐに姿をくらませたようです。」

「流石、君が術を仕込んだだけありますね、手際がいい。」

「“土竜(もぐら)”に情報を流させますか?」

「…あれはこういう時のために潜り込ませているものではありませんよ。

 別の方法を使いなさい。

 君に任せます、久しぶりにその腕を振るいなさい。」

「承知いたしました。」


優李は助手席にパソコンを広げた。

事前に準備してあった地図を開く。

イヤホンに手を当てて指示を出した。


(やしろ)、例のプランを発動しろ。」


確認を取ると、車にエンジンをかけ発射する。


『逃げるのも想定済み―――そうでなくては、優李。』


帝人は満足そうに体の力を抜いた。


連絡を受けた人物はビルの屋上で一度伸びをした。


「やっぱり逃げちゃいましたか!

 それでこそ朱鷺姉さんっス!!」


イヤホンに手を当てる。


「あ、白菊さん!案内お願いしますね!」


そのまま切ると彼は呟いた。


「朱鷺姉さん待っててください!

 この八馬弦(やまづる) (やしろ)もうすぐ会いに行きますから!」


そう言って彼は飛び降りた。


************************


一方、朱鷺たちはビルから離れて駐車場には戻らずすぐに脇道へ。

異変を感じた二人は大人しく彼女についていく。

すると、近くにあったゴミ箱の中から鞄を取り出した。


「これに着替えろ。」

「え、ここで?」

「急げ!!」


人通りは無い細い脇道だが着替えるのは躊躇われる。

だが、朱鷺もすぐに着替え始めた。

と言っても彼女は下にウェットスーツらしきものを着ていたが。


「上着だけでかまわん!」


その一喝に二人は急いだ。

脱ぎ捨てた服はまとめてゴミ箱へ。


「スマホも出せ。」


2人が渡したスマホも朱鷺のと合わせて叩き割られた。


「「!?」」


驚く間もなく彼女は新しいスマホを2人に渡して、

イヤホンもつけるように指示をする。

彼らの体につけておいた発信機も破壊して、

新しいものを取り付ける。


「何があったの?」

「最氷プロダクションに異変があった。」

「え、ちょっとそれって、」

「詳しくはわからんが、一見、平然を装ってる風に見せかけていたが、

 あれは間違いなく異常な事態が起こっている。」

「なんでそんなことを、」

「入口のメンバーに非常事態の時のために合図を教えておいた。」


準備が整うと、朱鷺は鞄を背負った。


「社長たちは!?」

「問題ない、生体反応は変化なしだ。」

「じゃあ、そんなに………、」

「私のセキュリティも全て突破されている。

 それがどういう意味かわかるな?」


はっと気が付いた。

それは、かなりの強敵が現れたということ。


「まさか、俺たちの……、」

「憶測は出来ない。取りえず安全な場所に逃げるぞ。」


2人に帽子と眼鏡を装着させる。


「絶対に私から離れるな。」


脇道から大通りへ出る。

人の多さに紛れ込んで歩いて進む。


「どこに向かうの?」


イヤホンが小声でも会話を可能にさせた。


「近くに別の車がある。

 とりあえずそこまでは歩いていく。

 いいか、どこで見られているかもわからない。

 相手の規模も全くわからない状態だ。

 俳優ならば一般人を装え。全力で。」


2人を連れながらも朱鷺は神経をとがらせていた。


『周殿以上に厄介な相手がきたのは間違いない。

 あのビルを抑え込める規模ならば、

 街中を見張られていてもおかしくは無いはずだ。』


だが、視線を感じない。


『視線を感じさせない人間など優李ぐらいのものだ。

 あのレベルの人間は正直会ったことがないし、

 聞いたことも無い…ということは、』


街中のあちこちに見かける監視カメラを確認する。


鞄から小型の機械を取り出して起動する。


『アクセス出来ない…やはりな、誰かが掌握している。

 野菊のほうも乗っ取られているなら頼れないな。』


広い公園に出た。

カメラの少なくなる場所。

木々をうまく使えば隠れやすくなる。


その判断で通った。

だが、突然音楽が聞こえた。


―――この曲は、


三人というより、その場にいた全員が音のほうへ振り向く。

その歌は依然、ゲームの会場で北斗が口ずさんでいた、


朱鷺にとっても思い出のある歌。


「嘘!?本物!?」


次から次へと人が走っていく。


「ゲリラライブみたいだね。」

「ほとんど表舞台に立つような人たちじゃないから大騒ぎになるよ。」


この位置からでもそのステージが見えていた。

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