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俺達と彼女の12ヶ月  作者: 徒花 紅兎
3月~The last month~
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援助と不毛な時間と根掘り葉掘り

「は?何を仰って…、」

「君は私に二度も言わせるつもりですか?」


声が出なくなる。

口元は笑っていても目は笑っていない。


「そういう意味ではありません。

 理由を知りたいだけです。」

「2人の身柄が必要だから、それだけです。」


詳しい内容は教える必要は無い。

多くを言わない帝人のやり口だ。

彼が皆を言わなくても全てを伝えてくる。


「一応、言っておきますが、移籍という話ではありませんよ?」


優李は帝人の合図に書類を取り出し、やまねの前に置いた。


「こちらが契約書です。」


それに目を通すやまねはさらに血の気が引く。


「今後、彼らとの関与は一切出来ないものとする…?」

「あの2人はこの会社でも重要な売り上げを担っているようですね。

 もちろん、その損失に関しては援助なり融資は致します。

 私、自ら。」

「そ、それは!」

「あぁ、勘違いしないでください。

 何もこの会社を傘下に加えるというつもりはありません。

 金銭面のみの援助ですから、経営に関しては、

 まったく口を出すつもりはありません。」


そうではない。

確認したいのはそうではない。

頭ではわかっているのに口が動かない。


何故か。

聞きたくないのだ。

確認したくない。

知るのが怖い。


「やまね、不毛な時間は要りません。

 聞きたいことがあるならどうぞ?」


「まだ、あの2人はこの業界でも上り詰めている途中です。

 あの子たちをどうするおつもりですか?」


やっと出た言葉に、帝人は答えた。


「芸能界には、二度と戻ってこない。

 その後のことは君には関係のないことです。」


今すぐにでも辞めさせる。

帝人に引き渡した時点で、彼らは完全にこの世界から消える。


「出来ません。」


それだけは絶対に出来ない。


「あの子たちはこの世界で輝く存在。

 私にとってもそれが本来の願いです。

 それを――――」


とんっと一度だけ机を指で叩く。

たったそれだけのことで、やまねは声が出せなくなった。


「やまね、間違えないでいただきたい。

 私は君に相談をしているわけではありませんよ?」


―――それ以上は聞きたくない。


「これは“決定事項”です。

 それをお伝えしているに過ぎません。」


にっこりと笑う彼の表情に頭の中が真っ白になる。

だが、それでも抗わねばならない。


「荒方が……お嬢様が許すとは思いません。」


朱鷺の名前に帝人の表情が変わった。


「あの子は契約を交わしている以上、それを貫きます。

 例えどんな状況になろうとも、

 一度決めたことをどんな理由があろうとも覆しません。

 私の意見や意向など関係ない。

 今、彼女は2人のことを最優先に行動をしているのです。」


どれほどの命の危険があろうとも、

彼女は2人の輝ける場所を守り抜く。


「荒方 朱鷺という人間は、鷹友 帝人の指示を聞きますか?」


笑みが消えた彼の表情に「やはり」と思った。


『あの子は相手がこの人であっても………。』


2人を必ず守り抜く。


「そこで君にお願いをしにきました。」

「…なんでしょうか?」

「朱鷺から二人を引き離していただきたい。」

「それは、」

「大丈夫です、別々の部屋にいればいいだけの話ですよ。」

「2人とは別の部屋にお嬢さんを入れればいいということですか?」

「そうです、優李。」


優李が隣に立ち、説明をする。


「今、三人はこちらに向かっています。」

『やはりスケジュールも確認済みなのね。』

「彼らが来た時に、朱鷺だけをこの社長室に呼んでもらいます。

 そうすればあとは我々が実行するだけです。

 朱鷺は警戒心が強い、自然にふるまっていただきたいものですが…。」


優李の冷たい視線がやまねに注がれる。

2人そろって圧力をかけるのがそっくりだ。


「やまね、この会社全員に自然にふるまうよう指示しなさい。」

「お嬢様の警戒心の強さをご存じであれば…。」

「心配はいりません。君が失敗しても大丈夫なように、

 この会社全体を掌握させていただきました。」

「どういうことです?」


代わりに答えたのは優李だった。


「三人がこの建物内に入った時点で逃げ道を断つ。

 どんなに暴れようとも逃がすつもりはない、ということです。」


次元が違いすぎる。

あの荒方の逃げ道を断つなど。

あっさりと言ってのける。

やまねは白百合に帝人の言うとおりに指示をした。


「もう一つ、君にお願いがあります。」

「何でしょう。」

「朱鷺と彼らを引き離すのはなるべく成功させたいのです。

 全力でしていただけますか?」

「引き離すことに何か意味があるのですか?」

「成功したら、朱鷺には私の関与を黙っていてほしいんです。」

「は?」

「2人に何が起こったのかの一切を黙っておく。

 お願いできますよね?

 言い訳やごまかしは君に任せます。」

「何故、そんな面倒なことをなさるのです?」


帝人は嬉しそうに答えた。


「朱鷺には絶対嫌われたくないのですよ。」


緊張感が音を立てて崩れる。

隣りの優李も微妙な表情になっている。


「優李、時間はまだありますか?」

「はい。」

「そうですか、では、」


優李からICレコーダーを受け取り机に置く。

内ポケットから手帳を取り出しページ捲って、ペンを取り出した。


「やまね、時間があるので話してもらいますよ。」

「何をお話すれば?」

「君が関わった全ての朱鷺の事です。」


背筋が冷えた。

もはや取り調べに近い。

恐怖を感じたのだが、

帝人の次の言葉で再び音を立てて崩れ去る。


「私の知らない朱鷺の一面が知りたいのですよ。

 恐らく、可愛らしくて仕方ないとは思いますが、

 出来ればどんな仕草だったか、表情はどんなだったのかも、

 なるべく詳しく教えていただけますか?

 あぁ、もちろん、朱鷺には内緒で。」


あの皇帝と呼ばれた男が、

愛娘の魅力を根掘り葉掘り聞こうとしている。

証言を音声に残して、そして、自ら手帳にメモをとろうともしている。

それも、今まで見たことがないほど嬉しそうに。

衝撃過ぎて逆に恐怖を感じる。


ちらりと優李を見ると、

残念そうな顔をすっと背けた。

優李の苦労を少し哀れに想った。


2人の引き渡しに賛同したつもりはない。

野菊も拘束されていたために、

こちらから朱鷺に連絡をとるのは極めて難しい。

もはや時間は無い。


帝人に話をしながらも、やまねは祈っていた。


『荒方、あんたを信じるわ!』


************************


朱鷺の運転する車の後部座席に二人は乗っていた。


藤は北斗の違和感に覚えていた。

もちろん、朱鷺も気づいてはいるのだが、

普段、こういう時に素直に話すのは北斗の方だった。

その彼が何かを話そうとしないという事実が、

朱鷺にためらいを生ませていたのだ。


「………北斗。」

「大丈夫だよ、藤。」


北斗自身、伝えたいのは山々だった。

優李との間に起こった出来事は、

決して藤も朱鷺も無関係では無かった。

だが、


―――信じてほしいなら、言うな。


優李の言葉が胸に突き刺さる。

決して彼と敵対したいわけじゃない。

何よりもこの何十年間。

ずっと支えてくれた存在は優李だ。


何かが起こっても彼に話そうとしなかった自分を、

外に連れ出して変えようとしてくれた。

引き籠りだった自分のために体力のつけ方も、

身の守り方も外の世界も教えてくれた。


これ以上、優李を裏切ることが出来ない。


「大丈夫だよ、北斗。」


藤の言葉に視線を向ける。

オウム返しのような言葉だけれど、

その真意は別の物だとわかる。

藤の目は優しさそのもので、ほっとする。


「北斗が口に出来ないのはそれなりの理由があるからでしょ?

 無理やり聞きたいなんて思わない。

 だから、俺たちに話せないことを悔やんだりしなくて大丈夫。」


何故かはわからないが、

唯一、北斗の手に触れても、心や記憶を読むことは出来なかった。

どれだけ試しても全く読めない。

気を許すと逆に読まれてしまうのだが、

コントロールしていれば問題ない。


彼の手にそっと触れる。


ただ、それだけで北斗は安心できた。

たとえ、自分の心を読まれなくても、

藤は自分の気持ちや考えを理解してくれる。


「ありがとう、藤。」


君にもどれほど助けられただろう。

昔から、何度も―――。


やがて車は駐車場に止まる。

三人は降りて事務所に向かう。


そして、朱鷺を先頭に、入口に足を踏み入れた。

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