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俺達と彼女の12ヶ月  作者: 徒花 紅兎
3月~The last month~
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ブレーキと不定期とオーラ

深い眠りの中で藤は夢を見ていた。


森の中を走っていた。

車を追いかけていたんだ。

それは家族が乗っている車。


すぐに車体が見えなくなるから、

音を頼りにその方向へ進む。


進んだ、その先に、道が開けたと思った。


だけど、そこは崖で海が広がっていた。

車は気づかなかったのか、

ブレーキが間に合わなかったのか、

崖を飛んで、海に落ちた。


大きな爆発音とともに黒い煙が上がる。


幼いながらもその状況を理解した。


「うああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


叫んで手を伸ばす。

俺も一緒に行きたかった。


「!」


北斗はその声に気が付いた。

まだ暗い明け方。

いつもの時間だと確認して部屋を出る。


「藤!」


藤はベッドの上で叫んでいた。

頭を抱えて体を激しく揺らして暴れる。


彼の両手を力づくで引っ張って押さえつける。


「藤!!」


何度か力強く呼ぶ。

何度目かでようやく目を覚ます。


「藤、大丈夫だよ……大丈夫だから。」


肩で息をする藤が北斗をようやく認識する。

すると、堰を切ったように涙があふれだした。

子供のように泣き叫ぶ彼を抱きしめる。


藤の手に触れようとして避けられた。


不思議な話をすると、

北斗は藤の手に触れると“伝わる”

藤の考えてること、見えたこと、

色んなものが映像や言葉になって伝わってくるのだ。


『なんの夢を見ているのか絶対に教えてもらえない…。』


何でも北斗に打ち明ける藤が唯一教えない事。

それがこの夢の記憶だ。

何度お願いしても絶対に微塵も教えなかった。


だけど、彼は不定期ではあるが、

こうして明け方に夢を見て発作のようなものを起こす。

その声に気が付いて北斗は彼の部屋へ飛んでくるのだ。

起こして落ち着かせなければずっとあのままだからだ。


“激しく”叫んで暴れて泣き叫ぶ。


あのディスクに録画された“激しい”映像。

それはこのことだった。


声は朱鷺の部屋まで聞こえてくる。

勿論、彼女もこの騒ぎに気付かないはずがない。

様子を見に行こうとしたけれど、

いち早く北斗の方が対処するので見守ることにしている。


北斗は藤の“発作”だと呼ぶ。

そして、藤が内容を打ち明けようとしない事、

時に酷ければ拘束具を使わなければいけないことも話していた。


藤の声が聞こえなくなってきた。

ようやく落ち着いてきたらしい。


『朝には濃いめの珈琲でも淹れてやるか。』


朱鷺はベッドに横になり、再び眠りについた。


**************************


ある日の日中。

最氷プロダクションのビル前に、

次から次へと車が止まる。

中からスーツを着た人物が大勢降りてきた。


優李は彼らを率いて建物内へ入る。

突然の出来事に従業員は慌てるが、

スーツの人物たちがその動きを静止させる。


優李は構わず、社長室のある階まで行く。


「全員動くな!」


優李の言葉に秋桜と向日葵が動こうとしたが、

あっという間にスーツの人物たちに拘束される。

野菊もパソコンから引き剥がされた。


「何者ですか!?」


白百合の目の前に優李は立ちはだかる。


「最氷やまねは?」

「社長室への立ち入りは許可できません。」

「やめなさい百合!」


流石の騒ぎに社長室からやまねが出てくる。

社内の状況に驚く。


「一体何が目的なの!?」

「現地点をもって、ここを我々が掌握させていただいた。」

「あんたは一体誰!?」


「その子は周殿 優李ですよ。」


ゆっくりと歩いてくる帝人。


「み、帝人様!?」


驚いた顔のやまねに、帝人はにっこりと笑った。


「久しぶりですね、やまね。」


優李は道を開け、横に控えた。

やまねの前に帝人は立つと周りをぐるりと見渡す。


「君と話がしたいのですが、かまいませんか?」


有無を言わせない彼の空気に社長室へ案内した。

部屋に入るとすぐに優李はソファに上品な敷物を敷く。

そこに帝人は当たり前のように腰かけた。

白百合が飲み物の準備をしようとしたのだが、

それを優李が静止させる。


彼は隅の机に大きめの鞄を広げ、

中からカップやティーポットを取り出した。

小さいヒーターでお湯を沸かし、

無駄のない動きで紅茶を淹れ、

帝人とやまねの前にそれぞれを置いた。


帝人はすぐにそれを味わう。

納得したように笑みを浮かべるとやまねに視線を送る。

やまねはカップを手に取って飲むが、

得体の知れない恐怖に指先が震えるのを隠せない。


「美味しいでしょう?

 彼はいつも私のために最高の物を淹れてくれるんですよ。」

「もったいないお言葉です、帝人様。」

『緊張で味なんてわからないわよ!!』


ただそこに座っているだけというのに、

帝人から発せられる威圧に、

息をするのも重くなりそうな気分だった。


「君に会うのはどれくらいぶりですかね?」

「もう何十年も経っております…。

 ヨーロッパに行かれたと聞いておりましたが、

 いつ頃こちらにお戻りに?」

「ちょっと所用がありましてね、

 先月からこっちにいるのですよ。

 君もずいぶんと立派になったようで。

 まだ駆け出しだった頃の君が懐かしいですね。」

「いえ!そんな昔などお恥ずかしい限りです!」

「あの頃の君は初々しくて、走り回って、

 よくヒールの部分を折っていましたね。」

「お忘れください!!」


それは今でも変わっていない事を黙っておくことにした。


「朱鷺も君に世話になっているようですね。」

「……荒方ですか?」

「あの子は優秀でしょう?

 私の可愛い娘ですからね、血は繋がってはいませんが。」


―――ヨーロッパの大企業のトップ。


『まさかとは思っていたけれど!!』


真っ青になるやまねに気にも留めず、

帝人は優雅に紅茶を口に運ぶ。


月日が経ち、見た目にも流石に歳はとっている。

だが、やまねの記憶に残る帝人とはほとんど変わりがない。


彼は若いうちから色んな業界で注目されていた。

鷹友 帝人と会話が出来るだけでも誉れ高いのだと言われるほど。

やまねもずっと若いうちに彼と知り合い、

多少ながらも経営に関して手ほどきを受けていた。


どんなに著名な人物であろうとも、

彼の前に立つと背筋が伸びる。

どんなに優秀な人間であろうとも、

彼の前に膝をついてしまいたくなる。


そのような謳い文句がつけられてしまうほど、

知性、行動力、決断力、全ての事柄において、

誰にも引けを取らない。

まさしく、


―――皇帝(エンペラー)


その異名のオーラと威圧はあの頃から変わっていない。

いや、むしろ貫禄が出た分、

重圧という名で押しかかってくるような気配。


そんな男がわざわざ出向いてきたのだ。

おまけに社内は彼によって掌握されている。


『尋常じゃない。』


やまねの内心は非常に焦っていた。

彼の涼しい顔が尚更恐怖を感じさせる。


ちらりとその隣を見る。


話だけは聞いていた。

ようやく姿を見れた。


「あなたが北斗のお兄さんなのね?」


その言葉に優李は眉間にしわを寄せた。


若いながらも帝人に見出され、

実家から引き抜かれたという、

彼もまた様々な業界でも有名な人物だ。


やまねも噂だけは知っていたが、

実際に会うのはこれが初めてだった。


「やまね、話というのは、その“北斗”という人物の件です。」

「はい?」


カップを静かに置いた帝人は手を膝で組んだ。


『そのポーズも変わらないわね。』


やまねは思い出していた。

彼がこの癖を出すときは、

本当に重大な話を出す時だったと。


「最氷プロダクションに所属している、

 周殿 北斗、そして、先珠 藤。」


藤の名前まで出てきてやまねは目を丸くしたが、

次の言葉に声を失った。


「両名を引き渡していただきます。」

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