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俺達と彼女の12ヶ月  作者: 徒花 紅兎
3月~The last month~
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癇に障ると放任主義と幽霊

優李は一人考え事をしていた。


―――初めて、北斗に会ったのは、

   鷹友(たかとも)に身を移し数年経った頃だった。


鷹友で大きな事件があり、

それを機に拠点をヨーロッパに移した。

その一年後ぐらいのことだっただろうか。


日本でちょっとした仕事があり、

帝人様の助言で、周殿の動向の偵察がてら、

家に寄った時だった。


「あら!珍しい!!帰ってきてたの?優李?」


ただでさえ、癇に障る川伊達の声に苛立ったが、

その隣りに立つ小さな存在に目が行った。


「紹介するわね、この子は北斗。

 優李の弟にあたるわ。」


俺の母親は小さい頃に亡くなったらしく記憶は残っていない。

まともに父親とも会うことは無かったために、

彼の交友関係など知ったことではないが、

女がいても不思議ではないと思っていた。


だから知らない間に弟が生まれても、

何ら驚くことは無かった。


「それがどうした?」

「相変わらず反応薄いわね?

 弟か妹が欲しいとか思ったことないわけ?」

「大した用件が無いなら失礼する。」

「んもー!!ちょっとぐらい話をしなさいよ!!

 ほら、北斗!!あんたのお兄さんよ!挨拶しなさい!」


川伊達に言われ、顔をあげる北斗。


「………ほくと、です……。」


消えそうな声でそう呟いた後、

彼はすぐにまた下を向いた。


川伊達は何か文句を言っていたが正直覚えていない。

ずっと下を向いたままの彼の存在が目に焼き付いていた。


それからしばらくして、

何となくではあったが北斗の様子が気になり見に行った。


廊下を歩いてくる小さな塊を見つけた。

手にはたくさんの本を抱えていて、

書庫から持ってきていたのだろうか。


その本をまとめてとりあげてみた。


存在に気が付かなかったのか、

驚いてそのままの態勢でかたまったまま見上げてくる。


「こんなに運ばずとも書庫で読めばいいだろうに。」


そう言うと、また下を向いた。

その様子に首を傾げた。


「何か理由でもあるのか?」


逆に驚いた顔をされたのだが、北斗は呟いた。


「部屋にいなさいって……。」


ふと、廊下の角に視線を感じた。

手伝いの人間だ。

北斗の様子を隠れてみていたようだが、

俺には近づこうともしないために距離がある。


北斗に部屋へ案内をしてもらう。

彼の部屋に着いて、唖然とした。


ベッドと小さな机と椅子しか置いていない。

他に家具らしきものが一切置いていなかった。

とりあえずその机に本を置いた。


「………着替えはどこに置いてある?」

「朝、机に………。」

「学校用の道具とかは?」

「………学校は行ってない、です…………。」


正直、わけがわからなかった。

確かに放任主義な父親ではあったが、

ここまで放置するとはどういうことかが理解できない。


ましてや学校にも行かせないとなると、

いよいよおかしな領域になってきた。


だが、北斗は気にも留めていないのか、

椅子に座って本を読みだした。

何を読んでいるのかと気になってよく見てみれば、

科学の難しい本だった。


「………それは、研究レベルの内容だろうに、わかるのか?」

「ん……なんとなく?」


他に持ってきていた本をよく見れば、

どれもこれも大人にとっても難しいレベルの物で、

またジャンルが様々だ。


特に楽しそうに読んでいるわけでもないし、

ノートにとって勉強しているわけでもない。


瞬時に知能の高さを感じ取った。


後日、もっとレベルの高い本を持ってきてみた。

すると彼は目を微かに輝かせた。


何となく、お互い似ているのだと理解出来たせいか、

親近感というものがわいた。

知能の高い会話が、こんな小さい弟と出来るとは思っていなかった。


話しているとたまに手伝いという名の監視がやってくる。

俺たちの様子をうかがっているのだろう。

俺自身、あいつらは嫌いだった。

だが北斗も苦手なようで、いつも顔が曇っていた。


だから、外に連れ出した。


最初、部屋から出るのも怖がっていたのだが、

肩車をしてやって、そのまま家を出た。

特に笑ったりはしなかったのだが、

嫌なそぶりも見せなかったから、そのまま連れ出した。


はじめは、家の周りを歩きながら話をした。

そのうち慣れてくると少し遠出をしてみた。


引きこもりのせいか、体力がとにかく無かった。


だから、なるべく時間が出来れば会いに行った。

人としての当たり前を奪われ、抵抗できなくなる前に。


己の身をちゃんと守れるように。


そして、いい人間に育ってくれて良かったと思っていた。


「HOKUTOさん!少しお待ちください!」


スタジオ内で撮影をしていた北斗。

スタッフからの指示で、

控室に入った瞬間だった。、


「騒ぐな。」

「!?」


口を手で塞がれ、首にナイフをあてられる。


「…優李兄貴?」


いつもとは違う、冷たいその目に背筋が冷える。


「兄貴だと?よくもそんな呼び方が出来るものだな。」

「な、んで………。」

「まさか、あの馬鹿な父親だけでなく、

 信頼をしていたお前にも騙されていたとはな。」


その言葉に全身が固まる。


「今すぐにでも殺してやりたい気分だ。」


初めて向けられる、

優李の殺意と憎悪に何の言葉も発することが出来ない。


「だが、貴様にはどうしても聞かねばならんことがある。

 素直に答えろ。」


ぐっとナイフを押す力を増す。


「“マザー”はどこにある?」


その言葉に、北斗の力が抜けた。


「な、なにそれ?」

「とぼけるな!!」


北斗を押さえつける優李の力が強くなったのだが、

予想外にも北斗は完全に困惑していた。


「とぼけるも何も“マザー”って何の話?

 俺の母親ならもう死んでる。」

「いい加減にしろ、この状況でもまだ騙すつもりか?」

「騙すも何も、そのマザーが何なのかさっぱりわかんないって!」


北斗のその様子に優李の力が少しだけ弱まった。


「本気で言ってるのか?」

「嘘を言ってるかどうかぐらい、わかるでしょ、兄貴なら。」

「兄貴と呼ぶな。」


その一言は北斗の心にざっくり刺さる。

もう何十年と呼び続けた、今更。


「どういうことだ…お前は確かに関係しているというのに。

 消えるはずのない記憶が無いと言いたいのか?」

「どういえばいいのかわからないけど、

 とりあえず俺の記憶の中に“マザー”という固有名詞は無い。

 聞き覚えも、何かを感じる気配も無いよ。」


今度は優李の方が困惑をしだしたようだ。

北斗から手を離して、深く考えだした。


「あ、あのさ、兄貴……、」

「なれなれしく呼ぶな。」

「………黙ってたことは悪かったと思ってる。

 だけど、正直俺もどうしようも無くて…。」

「貴様に感謝を告げた自分を殴ってやりたい。」

「だけど、俺は―――、」


「お前は自分が何をしたか理解できているのか?

 お前だけの問題では無い。

 周りの人間も巻き込んでいるんだぞ?」


その言葉に返す言葉がない。

だが、このままではいられない。


「逆に聞くけど、何を知ってるの?」

「何?」

「俺にあるのは命を狙われた記憶だけだ。

 それがどこの誰で、どうしてかもわからないんだよ!俺は!

 その理由や誰かを知っているわけ!?」


北斗の訴えに、再び考え出す優李。


『記憶が無くなってるのか?』


状況がおかしいことになっている。

あるはずのものが消えている。


その時、優李の時計がピピっと音を鳴らした。

それに触れて何かを確認すると、

北斗の胸倉を掴んで言った。


「いいか、朱鷺には何も言うな。」

「は?え?荒方さん?」

「お前の言葉を信じてほしいなら、

 絶対にあの子には知られるな。いいな?」


そう言って、優李は窓から姿を消した。


「いや、ここ8階!」


慌てて窓の外を確認したが、

もうどこにも優李の姿は無かった。


あっという間の出来事に状況がつかめなかったが、

数分後、


「北斗、準備が出来たそうだぞ。」


朱鷺が呼びにやってきた。


「どうした?顔色が悪いぞ?」

「え、あ、いや………。」


―――“朱鷺”には何も言うな。


『兄貴が荒方さんを名前で呼んだ?

 それって、ただの知り合いじゃないってこと?』


北斗のおかしな態度に朱鷺は嫌な予感がした。


「北斗?何があった!?」


彼女の言葉にはっと我に返る。

聞きたいことがある。


「荒方さん、どうしよう、俺………、」


だが、優李の言葉を思い出し、


「幽霊見えちゃったかも。」

「………ど、どうするかな……。」


必死でごまかした。

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