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醜態と自責と選択肢

優李が指笛で合図を送った。


周殿の集団のその周りを取り囲む集団が現れた。


「全員、武器を捨てて大人しく投降しろ!!」


周殿の集団の倍の人数の警官が取り囲んでいた。

繁牙 蛍が指揮をとり、彼らを取り押さえていく。


「優李!貴様!」

「もう十分だ!これ以上お前の醜態など見たくは無いわ!!」


兵佳に近づこうとした優李の前にまだ数名の黒服が湧いて出た。

その隙に兵佳はその場から離れた。


「邪魔をするな!!」


追いかけようとした優李だが阻まれる。


「私が行く。二人を頼んだ。」


身軽な動きで朱鷺が兵佳の後を追った。

一瞬苛立ったが、北斗と藤の姿を見て、諦めた。


「優李兄貴。」


だいたい片づけた頃、北斗は優李に声をかけた。


「流石にもうお前を抱えるのは無理だな。」


彼の言いたいことがすぐに理解出来て、

何とも言えない気持ちになる。


「……ありがとう、北斗。」

「え?」

「全てをお前に背負わせてしまったかもしれない。」

「そんなこと思ってないよ…。」

「お前はそう言ってくれる。だからありがとうと言ってるんだ。」


優李の優しい笑顔に北斗は何も言えなくなった。


『………そんなこと言ってもらえる人間じゃないんだよ。

 ごめん、優李兄貴。俺はそれでも兄貴を―――。』


自責の念で、拳を握りしめた。


********************


兵佳の後を追ってた朱鷺。


『…あまり気に入らないが

 掴まえた狸を優李に引き渡してもいいかもしれないな。

 どうするかは知ったことではないが。』


だが、どうにかして兵佳の弱みを見つけたい気持ちもあった。

利用できるならば最大限に利用するのも手だと。


ただ、北斗の件でもケリをつけたい。


そんなことを考えてるうちに兵佳の姿をとらえた。

ヘリを用意してあったらしい、乗り込もうとしているのを見て、

速度をあげようとしたその時だった。


目の前で彼女の動きを止めるように大きな腕が現れた。


寸前で足を止めてその腕の主を確認して驚く。

何故、という疑問をよそに、

その腕の主はゆっくりと弓を引いた。


一本の矢が真っ直ぐに飛んで、兵佳の顔をかすめて突き刺さった。

矢が飛んできた方向に視線を向けた兵佳。


「ほう、こいつはまた珍しい。

 名も無き変人がわしに何の用じゃ!?」

「まぁ、とりあえず、その封筒の中身でも確認したらいかがですかねぇ?」


野猿がにやりと笑みを見せた。

矢についていた封筒を手に取り、中身を確認する。

そこには一枚の写真が入っていた。


その一枚で、あの周殿 兵佳が青褪めた。


「貴様……なぜ………。」

「なぁに、ただの写真ですよねぇ?

 車とあなたが写っているだけの写真……ただし、

 “あの方”が見たらなんと仰いますかねぇ?」


その言葉に兵佳の手が震える。


朱鷺は驚いていた、あのアジア一帯で恐れられている男が、

この素性も知れない男相手に、

今まで誰も見たことがないような、

噂にも聞いたことがないほどに狼狽えている。

彼女にも何が起きているのかわからなかった。


「ちょうどいいですねぇ!

 あのお嬢さんにお渡しいたしましょうか?

 きっと届けてくださるかもしれません!!」

「ふざけるな!!!」


野猿に銃が向けられた。

だが、彼は変わらない笑みで言う。


「私の身に何か起これば、すぐに連絡がいく手はずになっていますよ?」

「くっ………。」

「あなたは逃げるので手一杯でしょう?

 選択肢をあげますよ。

 ここで私を殺すか………」


野猿はすっと真顔になった。


「この国から出て、二度とあの子たちに関わらないか。

 どちらか選べ、周殿 兵佳。」


その選択肢に朱鷺は頭が真っ白になった。

野猿が、北斗たちを守ろうとした。

危険を覚悟で兵佳にその姿をさらし、

あげく、あの周殿に圧力をかけたのだ。


『何故だ?』


わけがわからなかった。

野猿と周殿の会話の内容もまったく理解できない。


だが、


「覚えておくがいい………。

 後悔するなよ!!荒方!!!!!」


そう叫んで周殿 兵佳はヘリに乗って去っていった。


それを静かに見送る野猿にゆっくりと朱鷺は近づいた。


「何故、こんな馬鹿な真似をした?」

「何がです?」


「これからお前は一生周殿に追われ続けるのをわかっているだろう!?」


朱鷺の叫びに野猿はあははと笑った。


「私の生活はいつでも隠れ生活です。

 何ら変わりはありません、慣れています。」

「馬鹿を言うな!!どれだけ危険なことか知らないわけないだろう!?」


一呼吸おいて、野猿はそっと呟いた。


「…あなたはお優しい方ですねぇ。」

「何故だ!?何故お前が北斗たちを守る!?」


野猿はすっと手を差し出した。

首をかしげる朱鷺に彼は言う。


「お願いしていた例の物はありますか?」

「………あるが。」

「今回の件の報酬として頂いても?」


疑問に思いながらも、懐から一枚の写真を取り出して彼に手渡した。

野猿はそれを見ると嬉しそうに笑った。


「…何故、それが欲しかったんだ?」


彼に手渡した、依頼された写真。

それは北斗と藤の無邪気に屈託のない笑顔の写真だった。

営業のように作り笑顔ではない、本当の心からの笑顔。

それが野猿からの依頼だった。


「………私にも息子が二人、おりましてね。」


ぽつりと話し始めた。


「この子たちと同じ年ごろでした………無事であれば。」


優しい目で写真を見つめる野猿。


「私は、家族みんなで事故に合いましてね。

 皮肉にも私だけがこうして…まぁ、見た目は事故のせいで、

 依然とまったく変わってしまいましたが………。

 妻も息子二人とも失ったわけでしてねぇ………。」


ずっと喪失感が消えなかった。

失って生きる気力も何もかもが無くなって、

それでも、失ったことを認めることが出来なくて、

世間から隠れるように生活をしていた。


そして、見つけた。

テレビの中で輝くその存在。


はっとするほど近く感じた。

よく似ていて、どこかでほっとする。


「あの子たちが成長すればこんな感じだっただろうかと、

 勝手ながら思わずにはいられなかったわけなんですねぇ………。」


流れ落ちる涙が見えた。


「荒方さん、仰いましたよね?

 “色んなものや人や事柄を知って、そして、また求めればいい”と。」

「あぁ、言った。」

「私は多くを失いました………それでもやっぱり求めずにはいられません。」


顔をあげて、柔らかく笑みを浮かべて野猿は言った。


「私は“誰かのために生きる自分”が欲しかったんです。

 何もかもを失ったけれど、

 それでも、誰かのために生きていたいと思うんですよ!」


それが、失った息子を重ねた藤と北斗であっても、

守りたいと思ってしまった。

自分が出来ることを力の限り。

例え、誰かに馬鹿だと言われようとも、

何と言われようとも、

唯一残った願いがそれだから。


「だから…だからと言ってお前がっ…。」


危険に身をさらさなくてもいいじゃないか。


そう言いたかった。

でも言えなかった。


失っても、それでも何かを成し遂げたいと思う、

その気持ちは誰よりも理解できた。

自分にとって本当に大切な人を失って、

それでも、何かを求めたのは、


朱鷺も同じだったから。


「………必ず、連絡してこい。」


絞り出すように朱鷺は言葉を発した。


「耐えられなくなった時、

 どうしようもなくなった時、

 打つ手が無くなった時、

 どんな時でもいい、お前に助けが必要になった時に、

 必ず私に連絡をしてこい!

 どんな場所にいようが、

 どんな状況だろうが、

 私は必ず、絶対にお前の力になって見せる!!」


真っ直ぐに野猿を見つめた。


「それが、私の求めるものだ!!」


彼女の言葉に野猿はにっこりと笑ってすっと姿を消した。


朱鷺にとって、その野猿の、

後悔も迷いも無い笑顔が生涯忘れられないものになったのだ。

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