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ガラクタと剛速球とキャンプ

周殿 兵佳が手を振り下ろした。

だが、


カチン


という乾いた音が響いただけで、

銃弾が放たれることは無かった。


「どういうことだ?」


朱鷺はにやりと笑って答えた。


「悪いな、うちの右腕は潜り込むのが得意でな。」


彼女は取り出した袋の中から部品をばらまいた。


「機械というのは単純に部品一つ無くなれば、

 ただのガラクタになるわけだ。」


こっそり集団の中に忍び込んでいた清理が、

彼らの銃から部品を取り外していたのだ。


兵佳はため息をつくと、手で別の合図を送った。

武器を投げ捨てた集団は一斉に三人に向かって走り出す。


「じっとしていろよ?」


2人にそう伝えると朱鷺は丸いボールをいくつか取り出した。

それを勢いよく何方向かに投げつけた。


「なんだこれ!?」


ボールが当たった瞬間、それは破裂し液体が飛び散った。

体にはりついて固まって動きが取れない。

勢いよく破裂するため、何人も巻き込まれた。


「剛速球。」

「メジャーリーガーみたいだね。」


思わず綺麗なフォームに感心する二人。

動きが取れなくなった人の間をすり抜けて出てくる。

だが、一歩踏み出した足に軽い衝撃が走った。


「何だ!?」


足が地面にはりついて動けずこける。

こけた人間に後ろから来た人間が躓いてこける。

今度は靴にあの液体が付着していた。


それは次から次へと捉えられていく。


「狙撃されているぞ!!」


辺りを見回すがどこにも姿が見えない。

だが、間違いなくどこからか液体が飛んできている。


「…流石、白百合。」


彼らから見えない位置に白百合は身を潜めていた。


「あの人、狙撃手(スナイパー)だったの?」

「命中率は100%だ。」

「ねぇ、あの会社って一体何なのさ……。」


ちらりと兵佳の顔を見る。

うっすらと笑みを浮かべている。


「そろそろ来るか。」

「何が、」


倒れた集団を飛び越えて、

数名の黒服たちが現れる。


「周殿家の精鋭部隊だ。」

『俺の家って本当に何なの!?』


器用に彼らは白百合の狙撃を避けて近づいてきた。

ただならぬ気配に北斗も警戒をしたが、


「問題ない、そこから動くな。」


一歩、駆け出したと思った。

だが、2人の目が捉えたのはそこまでだった。


気が付けばまだ離れていた場所の黒服が一人吹き飛んでいた。


「「!?」」


そして次から次へと黒服が衝撃で飛ばされる。

目で追うのが大変だった。

朱鷺の動きがあまりに早すぎて何をしているのかも見えない。


次から次へと増えてくはずの黒服が、

片っ端から地面に伏していく。


ぐるりと二人の周囲を回りながら、

たった一人の人物によって、消えていく。

まるで、その動きは人ではないような、

CGで作られたかと思うぐらいの無駄のない動き。

やっと、目で追えるようになったかと思った時だった。


兵佳が再び合図をした。


「荒方さん!!まだ来るぞ!!」


一気に人数が増した。

朱鷺は一度、北斗たちの方を見た。

だが、その眉間に皴を寄せたのが見えた。


「やっぱ、まずいのかっ」


北斗がそう呟いた瞬間、その声は背後で聞こえた。


「案ずるな、考慮に値しない。」


背後の黒服が吹き飛んだ。

その背中に北斗は目を丸くした。

兵佳は珍しくも舌打ちをし、怒鳴りつけた。


「どこまでも邪魔をするか!!優李!!!!!!!!」


目の前を適度に片づけて、涼しい顔で優李は言い放つ。


「黙れ、外道。」

「貴様、親に向かって!!!」

「何が親だ、下劣が!!!」


優李の大声に辺りがしんと静まる。


「俺の妻子や弟にしたことを俺が許すとでも思っているのか?

 父親だからと、あくまで目をつぶっていたが、無駄だな。

 この状況において、俺が許す価値など微塵も無いと改めて理解した。」


優李の脳裏に一つの過去が思い出されていた。


それは物心ついた北斗が数年成長したころの事だ。

いつものように、彼に会いに行った。

変わらず、部屋に引きこもっていた。


「―――北斗?」


だが、一瞬でいつもと様子が違うことに気が付いた。

いつも整頓されていたはずの部屋が、

まるで強盗にあったかのように荒らされていた。


そんな悲惨な部屋の隅で北斗は体を縮こまらせていた。

体を丸め、両手で両耳を塞いで小さくなって、

周りのありとあらゆるものを遮断するかのように。


「北斗、何があった?」


そう問いかけても彼は何も言わず、

何の反応も返してくれなかった。

ただ、ただ、体を固くして、殻に閉じこもっていた。


―――初めて、家を出たことを悔いた。


自分の家で、自分の弟に何が起こったのかもわからない。

こんな状態になっていることも気が付いてやれない。

本当なら、自分がこうなっていたかもしれなかった。

それを北斗一人が背負うことになってしまったのかもしれないこと。


まだ、大人になりきれていない、

未熟な体と心に一切を拒絶させる傷をつけてしまったこと。


そして優李は縮こまる彼の体を抱えて連れ出した。

どこでもよかった、とにかくこの場所から離れさせたくて。


何の反応もしない彼を連れてとにかくあちこちを回った。

車の助手席に乗せても彼はずっとそのままで、

それでも優李は何時間もかけていろんな場所に連れまわした。

車からは降りなかったが、

今まで一緒に行った場所をずっと回った。


暗くなった時、「戻らなきゃ」と北斗がぽつりと呟いた。

帰らせたくなかったが、それでも彼の言葉を聞くことにした。

家に着くと、彼は自分の足で車を降りてとぼとぼと部屋へ戻っていった。

優李はその後を静かについていく。

部屋に戻ると綺麗に掃除がされていた。


振り返った北斗は優李に何かを言おうとして目を丸くした。

それは何故か。

優李の腕には何かが抱えられていた。

その視線に気づき、優李はそれを広げてセットする。


部屋の中にテントが設営された。

そして寝袋が二つ。


「この部屋でキャンプでもするの?」

「まだしたことが無かったからな。」

「寝袋で寝るの?」

「キャンプだからな。」

「兄貴、今日は泊まるの?」

「キャンプは宿泊してなんぼだろう?」


と優李は呟いた。

北斗は驚いていた。

優李は遊びに連れ出してはくれていたが、

家に泊まることは一度も無かった。

この家を嫌っているのは知っていたし、

あんまり長時間居たがらないのもわかっていた。


そんな彼がここに泊まると言い出した。


優李はキャンプの雑誌を広げて、北斗を隣に座らせた。

どんなキャンプがあるだの、道具は色々あるだの、

場所によってもどんな経験が味わえるだの、

ただ、それの楽しさをひたすらに説明してくれた。


そして、北斗はたまらなくなって泣き出した。


優李はそんな彼を黙って抱きしめた。

泣きつかれて寝てしまうまで、

背中や頭を優しく撫でてやった。


結果的に彼に何が起こったのかはわからないままだった。

周殿の家を出た優李に周殿の人間が詳細を教えるわけがない。

だが、北斗の川伊達に対する反応を見て、

彼女が北斗に何かしらの影響を与えたのだと推測だけは出来た。


なるべく離れさせたくて海外の大学も勧めた。

それでも彼は周殿の家に帰ったのだが。


ずっと北斗に申し訳ない気持ちでいた。


だけど、彼は自分を心配してくれた。

そして、自分にとって大切なものを大事にしてくれた。

代わりにたくさんの愛情を注いでくれたのだ。


だから、強くなりたかった。

彼を守れるように。

周殿の家から引き離せられるほどの力を手に入れたくて、

帝人のそばで必死で色んなものを学んだ。


そして、北斗は自分の気持ちで決めた。

周殿の家には戻らないことを。


『それをさせたのは俺では無く、朱鷺ではあったが。』


自分の持てる力を全力で出し切る。

二度と、後悔をしないためにも。

何より大事な家族を守るために。


「………二度と弟には手を出させない。」


北斗と兵佳の間に立つ。


「俺が終わりにしてやる。」

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