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集団と奇妙な物体とこの世

「ここって先珠の敷地内でしょ?」

「国境すらも気にしない男だぞ?」

「っていうか、何なのこの集団。」

「俺も初めてだよ。」


黒ずくめの男たちがいかにも危険そうな武器を持ち、

三人を取り囲むように並んでいる。


「で、君はどうするつもりなの?」

「私が何の策も無くここにいると思うのか?」

「そうは思ってないけど…。」


朱鷺は何やら準備運動をし始める。


「全く…なんで大人というものはここまで愚かなんだろうな。」

「俺達も一応大人なんですが。」

「いかに無駄な行動かということを教えても、

 理解していないのか、馬鹿な行動ばかりおこす。」

「……………。」


ぎくりと藤の顔が引きつる。


「私がどういう人間かわかっているとは思っていたのだが、

 どうも、きっちり理解できる頭を持っていないらしい。」

「あ、あのさ、荒方さん………。」

「くだらん小細工など、私には通用しないといい加減わからぬも、」

「悪かったよ!!本当に悪いと思ってるから!!」


遠回しに藤への嫌味を込めていることに勿論気が付く。

北斗は笑いを必死で堪える。


「とりあえず、ここを突破する。」


朱鷺は懐から真っ黒なゴーグルを取り出す。

二人にも同じものを投げ渡し、

藤にはイヤホンを渡した。


「二度と外すなよ。」

「わかってるよ!」

「私についてこい。」


彼女は手のひらサイズの奇妙な物体を取り出した。


「それ何?」


北斗の質問ににやりと笑って答える。


「光の玉だ。」


それを宙に投げる。

途端に物体は一帯が見えなくなるほどの光を発した。

周殿の部隊は視界を奪われ、

やがて光がおさまるが、そこに三人の姿は無かった。


三人はすでにその場から走り出していた。


「建物内に入ったほうが良かったんじゃないの?」

「建物ごと狙撃されるぞ。」

「いくら親父でもそこまで、」

「北斗、お主はほとんどあやつとの関わりを持っておらんな?」

「………まあね。」


「知らないほうがいいということもあるが………。」


言葉を濁した彼女に、ふと不安が込み上げる。


北斗はほとんど、軟禁状態だった。

学校も行ってはいなかった。

物心ついた頃の部屋にあるものは勉強などで使う本ばかり。

テレビゲームも漫画も知らなかった。


だから優李に連れ出された時は本当に新鮮だった。


歳離れた兄は北斗に世界というものを教えてくれた。

川や海や山も、テレビやゲームも漫画もありとあらゆるものを。

自分の足で走ったり自転車をこいだり、

泳いだり、木を登ったり、飛んだり、手を伸ばすことも。


何に対しても興味を抱かなかった北斗が、

僅かに興味が向くものを見つけられたのは優李のおかげだった。


けれど、それでも周殿 兵佳という人間については、

本当に知らないことだらけで、

知ろうとも思わなかった。


ただ、それを今でも悔いている。


「荒方さん。」

「何だ。」

「俺にドラッグを打ってもいい?」

「「は?」」


思わず、立ち止まる。


「北斗?何を言って、」

「けっこう真面目に言ってる。」

「その根拠を話せ。」

「親父はこれからも執拗に追いかけてくるよ。

 俺は知らないけど、荒方さんはどんな手を使うかは知ってるんでしょ?」

「そんなものはとうにわかっている。」

「親父に必要なのは俺の脳であって俺自身じゃない。

 だから、脳に損傷を与えればいらなくなるはず。

 逆を言えば俺の脳が無事な限り、ずっと追われ続けるってこと。」

「なぜだ。」

「何が?」


「お前の脳であ奴は何をするつもりだ?」


冷静な朱鷺の質問に北斗は隠すのをやめた。


「新しいレシピを作る。」


その言葉に朱鷺はぴんときて「まさか」と呟いた。

まったく理解できていない藤に、北斗は苦笑しながら言った。


「あのドラッグを作ったのは俺なんだ。」

「は!?どういうこと!?」

「………はじめは、ただのゲームなんだと思ってた。」


川伊達のいつもの「ゲームをしよっか」でそれは始まった。

まだ世間をよく知らない幼い彼が、

人並外れた高い知能を持っていることを彼らは気づいていた。

だから、ゲームに興味を抱いていた彼に持ち掛けたのだ。


「人の力をパワーアップさせるにはどんなものがあるか?」


資料として、いろんな素材のリストを持ってきていた。

当時、北斗は暇つぶしがてら、化学的な勉強もしていた。

素材の効果や組み合わせも頭の中には入っていた。


それらを組み合わせればいいだけの話だった。


川伊達とのゲームでは全敗していた北斗。

心のどこかにあった負けず嫌いが生まれていた。

見返そうと、今度こそ勝とうと。

だから、彼は没頭した。


そして生み出された。

一つのレシピ。


医学的な勉強はしていなかった。

そして、そのレシピを何に使うのかも知らなかった。


ただ、初めて、兵佳に、


「よくやった。」


と言ってもらえたことが嬉しかった。


だが、数年後、成長した彼はふとあのレシピのことが気にかかった。

成長のせいか、警戒心の強くなった彼は、こっそりと調べた。


あのレシピがドラッグに変化していた。

それも、副作用として人の脳を破壊していた。

知らない人間が知らない場所で数える人数も恐ろしいほどに。


その後に川伊達に詰め寄った。

だが、もっと恐ろしかった。

そのドラッグの話を延々北斗に聞かせた。

人がどんな風に変わっていくのか、

どんな最後を迎えるのか、

自分たちがそれをどんなふうに使っているのか、


それが北斗のおかげで可能になったのだと。


レシピを作って兵佳に褒められて喜んだ自分を憎んだ。


どんなものであるかを理解せず、

何に使われるのかも考えもせず、

ただ、負けたくないという愚かな意地で、

自分が何を生み出したのかもわかっていなかった、

そんな自分が憎くて憎くて仕方がなかった。


それを川伊達は利用した。

彼の精神を掌握し、時にいたぶって縛り付けた。


「それでも、俺には人が…優李兄貴やルニス、

 太一に社長に、藤がいてくれた。」


何も見えなくなりそうな世界がいつしか温かくて。

楽しいと思える場所にたどり着いた。


「だから、ここにいたいと思うんだ。

 少しぐらい打っても普通の人とは変わりがないと思うからさ。」


ここにいたいから、

完璧な脳を切り捨てたい。


周殿から解放されるために。


「馬鹿なの!?」


藤に怒鳴られた。


「少しぐらいとか本気で言ってんの!?

 お前はいつからそんなに大馬鹿になったんだよ!?

 少しだろうが多かろうがそんなものは関係ない!!

 それを打った事実が絶対にダメなことなんだろ!?」


殴られるかと思うぐらいの迫力だった。


「荒方さん!!絶対許可しないから!!

 そんなことするくらいなら北斗を監禁して!!

 自分で動けないように拘束もして!!

 絶対、お前の自由なんか許さないから!!!!!」


藤の目に涙がたまってるのが見えた。

彼の言葉の意味が理解できる。


「だけど、これしか―――、」

「残念だが。」


朱鷺が言葉を遮った。


「周殿 兵佳という人間が、

 ドラッグ一本打ったぐらいで諦めると思っているなら大間違いだ。」


さっと血の気が引いた。


「あの男はお前の脳が壊れて死ぬまで、

 誰かを人質にとってでも使い切る………そういう人間なんだ。」


『俺はこの歳になってもまだ無知のままだったんだな。』


悔しくてたまらない。

大人になって何でもできるようになったと思っていたのに。

結局、誰かに何かをされなきゃダメなんだと思い知らされる。


「そして、お前たちは違う。」

「「?」」


辺りをぐるりと一周見渡すと、視線を2人に戻した。


「お前たちは飢えたファンたちに悦という名の餌を与える。」

「ちょっと、言い方!!」

「時にそれは人として生きがいにもなり、気分も良くする。

 まぁ、ある意味ドラッグと変わらんものだな。」

「微妙な表現だけどね、それ!」


そして自信満々の笑顔で朱鷺は言う。


「それを徹底的に守れるのが、この私という、

 正真正銘、誰よりも優秀で完璧なマネージャーということだ。」

「あんたって人は…、」

「まさに、あれは私のためだな“この世をば”」

「“わが世とぞ思ふ―――”って、君は世界を手に入れる気なの?」


もはや、規模の違う発言に脱力するしかなかった。

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