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モヤモヤとIQとエンジン

翌朝、いつもと変わらない朝がやってきていた。


あらかじめ藤が用意をしてくれていた朝食の準備をしていると、

あくびをしながら北斗が起きてきて、

「おはよう」と言って、トーストと珈琲の準備をする。

その間にテーブルには三人分の朝食が並べられ、

藤が来る前に二人が食べ始める。


「藤の体調は大丈夫そうなのか?」

「問題ないよ、夜中に起きて軽く食事取って寝てたから。

 今日は起きてくるの少し遅くなるんじゃないのかな?」

「まぁ、今日の予定は午後に少しだから大丈夫だろう。」


朱鷺の周りには当初見かけていたラジオは置かれていない。

新聞は折りたたまれたまま、

テレビは相変わらずニュースではあった。


『本当に何も聞かないんだな………。』


藤の鼻血のことも、輸血のことも、

特に昨日持ち帰っていたパソコンの事も。

わかっているのだろうか。

それであえて聞かないのだろうか。


モヤモヤして居心地が悪い。

パンをかじりながら考える。


「………言いたいことがあるなら言え。

 視線が鬱陶しい。」


思わず目をそらす。

馬鹿にしたようなため息が聞こえて、

尚更居心地が悪くなる。


「君は俺たちに興味がないの?」

「馬鹿に興味はない。」

「それ懐かしいね。」


思わず笑ってしまう。

初めて会ったときに言われた言葉だ。


「だが、お主は“馬鹿”では無いな。」


新聞を開いてパラパラとめくる。

いつもはゆっくり見ていたはずだが、


「そうか、瞬間記憶をバレないように、

 わざとゆっくり読んでたわけだ?」

「お主は私をどこで見たか覚えていたのに、

 わざととぼけていたであろう?」


お互いに手の内を隠していた。


「で、君の分析じゃあ、俺はどう見えるの?」

「記憶力だけでは無く、計算力も人より優れているな。

 それだけでは無い、知識力もさながら、

 物の構造を把握すること、はたまた分解し分析すること。

 つまり、簡単に言えば“天才”と呼ばれる人材。

 ちなみにIQはいくらだ?」

「興味が無いから知らない。」

「お主の目に映るものは物ではない。

 大方、どんな配合の素材で出来ているのかと見えるのだろうな。」

「それは君も同じなの?」

「まぁ、そんなところだ。」


新聞を再び折り畳み、北斗を見つめる。

周殿が北斗を跡継ぎにさせたい理由はこれだ。

いわば“天才”と呼ばれる脳。

豊富な知識力と高度な計算力を持ち合わせる彼は、貴重な存在だ。

トップに立つ器では無くても、

その脳を存分に扱えばいいだけの話だ。


「それで、周殿 兵佳達はお主に何をさせた?」


その一言に北斗から表情が消えた。


『やはり、“何か”が問題か。』


北斗が周殿に戻りたくない絶対的な何かが感じ取れた。


「それは―――、」


意外にも北斗が口を開いた。

だが、廊下で物音がした。


「あ―――…起きたかな。」

「………行ってやれ、怪我されてはかなわん。」


苦笑しながら北斗は藤を迎えに行った。

廊下から聞こえてくる藤に呼びかける北斗の声に、

思わずふっと笑ってしまったのはここだけの話だ。


*************************


「ほんっとーに!!ほんっっっとに心配したんだからね!?」

「わ、わかってるよ、太一。ごめんって。」

「どうして藤くんはケガをしたり出血したりが多いのかな!?」

「多いって言ったって二度目なだけで、」

「二度もあってるんだよ!?」

「だから、悪かったって思ってるって…。」


頬を膨らましながらも、太一の手は鮮やかに、

次から次へともんじゃとお好み焼きを焼き上げていく。

もはや藤と北斗では食べきれない量であるのは明らかだが、

この間の一件のこともあって、言い出せない。


「だいたい!今日は僕の移籍のお祝いじゃないの!?」

「お祝いだから俺たちここにいるんだけど。」

「っていうか、お祝いなのに太一のリクエストがこれっていうのも…、」


お祝いなのに主役が調理をしている。


「だって!朱鷺ちゃんにたっくさん食べてもらえるのが、

 僕にとっては一番うれしいことなんだよ!!」

『『そう言うと思ったけど。』』

「なのになんで朱鷺ちゃんは来ないのさ!!」

「あー、朱鷺さんはちょっとご用事があるだけです。

 ちゃんと後から来てくれますから!」

「じゃあ、朱鷺ちゃん来るまで清理さんがちゃんと食べてくれる?」


目前の山を見て、一瞬固まったが。


「大丈夫だよ、太一。

 この人はやる時はちゃんとやってくれる人だから。」

「そうだよ、何たって荒方さんの右腕だよ?」


清理が答える間もなく、藤と北斗がプッシュした。

そっか!と嬉しそうに笑う太一に、

清理も真っ青な笑顔を返した。


************************


「それで………川伊達の様子はどうだ?」

「まるで抜け殻だ、何も言わず、虚ろな目をしておるわ。」


停車中の車の運転席と助手席で繁牙と話す朱鷺。

彼の答えにため息をつく。


「残念そうなため息だな。」

「あの強気一直線だった婆が抜け殻とはな。

 人間とはわからぬものだと思ってな。張り合いがない。」

「周殿 北斗の存在が意外と大きいものであったのかもしれないな。」

「性悪狸一筋かと思っていたんだがな、女というものは理解出来ん。」

「貴様が言えたことか。」

「なんだと?蛍ちゃんなら私を理解出来ように。」

「馬鹿者、貴様がそれを本気で言うと信じると思うか!?」

「可愛げのない、たまには騙されてみろ。」

「何年も騙してくれたがな。」

「本当に妹のことになると鬱陶しい奴だな。」

「なんだと!全く貴様も瑠依も余計なことばっかり!」

「瑠依が何か言っていたのか?」


は、と固まる。


「………何でもない。」

「歯切れの悪い蛍ちゃんは気持ち悪いぞ。」

「けい、と呼べ!!」

『呼んだのが2回目だと気づいてないのか?』


荒くなった息を落ち着かせ、繁牙は朱鷺を見つめる。


「………どうやって周殿 北斗を説得した?」


突然、今回の計画の連絡が来て繁牙はかなり驚いていた。

何かしら条件が出されるかと思ったのだが、それも無く。

ただただ、北斗は川伊達を差し出した。


「私は説得も何もしていない。」

「なんだと?ではなぜだ?」

「それは私にもわからぬ。

 あ奴らの考えも一定の領域で遮断されるからな。

 ただ、川伊達に対しては北斗は元は怒り心頭だった。」

「怒り?」

「可愛がっていた姪とその母親の命を危険にさらしたからな。

 あ奴は、意外と自分の気に入ってるものに手を出されると、

 それを許さない性格ではあるらしい。」


だが、それと同時に忘れられない。

過去にあったわずかな思い出も。

彼の脳では消え去ることが不可能だ。


川伊達に対する怒りと愛着がごちゃ混ぜになり苦しかったはずだ。


「………よく、決断したものだな。」


2人の会話をマイクを通して聞いていた。

繁牙にとっても、あの川伊達の反応は意外だった。

そして、そうさせたのが周殿 北斗という人間であることも驚いた。


自分が追い続けていた巨悪にそんな世界があったのかと、

今でも信じられない気持ちでいるのだ。


「と…………(こほん)荒方、無茶をするなよ。」

「何だ、急に気持ち悪い。」

「真面目に聞け、川伊達を逮捕したということが、

 どういうことかはよくわかっているだろう?

 あの男が黙っていると思うのか?」


周殿 兵佳が黙っているはずがない。


「お前の考えが正しければ、

 全力で周殿 北斗を奪いにくるぞ。

 どんな手を使ってでもな。

 例え、右腕をもがれたといっても、あの男は違う。

 普通の人間ではないのだ。

 何を仕掛けてきてもおかしくは無い。」


朱鷺は車のエンジンをかけた。


「じゃあ、今からお主の力を貸してもらうぞ。」

「は?」


有無を言わせず朱鷺は出発したのだった。


**********************


「えー!?この人が楓ちゃんのおじさん!?

 っていうか朱鷺ちゃんの知り合いだったんだ!?

 あ、初めまして!北斗くんと藤くんの大親友の仙羽 太一です!」

「い、いや…そのだな……。」


潜入捜査時代、(一応変装してはいたが)何度も顔を合わせているはずだった。

その後も何度か顔を合わせている。

なのに、太一に全く認識されていないことに繁牙は

不本意ながらもかなりのショックを受けていた。


「ちなみに朱鷺ちゃんとはどれくらいの知り合いなんですか!?」

「あ、荒方とは何年も前からっ、」

「何年も前からの知り合いなのに名字で呼んでるんですか!?」

「え、」

「なんで名前で呼ばないの!?」

「いや、別に、」

「ねぇ太一。繁牙さんって荒方さんと何年も同棲してたらしいよ?」

「え!?」

「は」

「ベッドも同じだったって聞いたけど、本当なの?荒方さん。」

「それがどうした?」

「いや、」


太一は繁牙の肩をガシッと掴んで軽く引き寄せた。


「ちょっと二人でお話しましょうか?」


低いトーンで繁牙を引きずる太一。


「俺もお手伝いしますよ。」


と、嫌な笑顔で清理も参戦した。


「………どうかしたのか?」

「「大丈夫、何でもない。」」


さ、食べなよという誘導に朱鷺はまんまとはまったのだった。


続く

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