リズムと鼻血と内ポケット
ドアをノックする。
ただし、リズムは決まっている。
―――コンッコココココンッコンッコンッ
それを合図に中にいた男はドアを開ける。
「まだ交代の時間じゃあ、」
男はすぐに視界を闇に奪われると同時に口も塞がれる。
次に理解をした時にはすでに拘束された状態だった。
目の前にはよくテレビで見かける男、藤。
背後には別の人間の気配がある。
「悪いけど、大人しくしててね。」
しばらくカチャカチャというキーボードの音がしていたが、
「すみません、これはちょっと厳しいやつです。」
という声が聞こえた。
藤は拘束された男の前に屈んで掌に触れた。
いくつかの質問をする。
だが、口を塞がれた状態の男は答えられない。
しかし、彼は気にも留めていないのか、質問を続ける。
しばらくすると立ち上がり、
「もういいよ、眠らせて。」
そう言った後、男の意識は途絶えた。
藤はモニターがいくつも並んだ場所に立ち、
先ほどまで清理があたっていたキーボードを打ち込み始める。
「パスワードを簡単に解除するなんて…一体何をしたんです?藤さん。」
「だから魔法だって言ってるでしょ。」
「ここにたどり着くまでに、
何人の人間がどこにいて、どう行けばどう接触するか。
ここに入るための合図までわかるなんて、
どういう魔法をって………まさか藤さん!」
「何?」
真剣な顔の清理に視線をやる。
「童て、」
「いい加減に黙りなよ。」
「いや、だって男の子は30過ぎまでだったら魔法が、」
「モニター映るよ。」
画面にあちこちのカメラの映像が映し出された。
「朱鷺さんたちです!」
「………おばさんについて行ってるみたいだね。」
2人の無事な姿を見てとりあえず安心するが、
「何かあったみたいですね………って、藤さん!鼻血!」
清理は慌てて鞄からティッシュを取り出す。
「大丈夫だよ、久しぶりだから………。」
「何がです?魔法がですか?あぁ、もう本当にわけがわからない!」
「とりあえず、ここで何をしようか。」
「全部扱えるんですか?」
「扱えないことも無いけど…はっきり言って、
専門知識があるわけじゃないから時間がかかる。」
藤の言葉に少し深く考え込む清理。
「ならば、外部と連絡が取れるようにできますか?」
「………たぶん、出来るとは思う。」
「野菊さんにさえ、連絡が取れればここにいる必要はなくなります。」
「………あの子にこのシステムを乗っ取ってもらうってことだね。
やってみるよ、ただ、すっごい集中するから………、」
いつの間にか清理は先ほど拘束していた男の服を着ていた。
「御身の守りはお任せください。」
「………任せるよ。」
キーボードに触れて全神経を集中させた。
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朱鷺と北斗はスタジオに連れてこられていた。
「何これ…クイズ番組?」
クイズ番組用に設営されている。
「そうよ、これに出てもらうの。
ま、生放送は出来なかったから残念だけど。」
「クイズ番組の収録なんてやって何するのさ。」
「た・い・け・つ♪」
「「!?」」
2人の視線の先にはある人物が立っていた。
「…太一!?」
「ちっ。」
真っ青な顔の仙羽 太一がいた。
彼の方に行こうとしたのだが、
「ダメよ?ねぇ、太一君。」
太一はそれを合図に裏の方へ歩いて行った。
「太一に何をしたの!?」
「べーつに?私はなーんにもしてないわよ?」
「川伊達、何が目的だ。」
にっこりと笑って川伊達は答えた。
「引退をかけたクイズ番組よ。」
「は?」
「仙羽 太一が負ければ彼が、HOKUTOが負ければ北斗が引退。」
「何を馬鹿な…事務所がそんなものを許可するはずが無い。」
「最氷プロダクションはね?」
「………そういうことか。」
「何?どういうこと?」
「太一殿の事務所が許可をしたんだな。
だから彼は従わざるを得ない。」
「何で太一の事務所がそんな許可を!?」
「だから顔の効く権力婆は嫌いなんだ。
圧力など朝飯前だからな。」
「やーね、あんな弱小事務所になんて圧力なんていらないのよ。」
にやりと笑う川伊達に北斗は近づいた。
「俺のことをわかってて、クイズなんてもの持ってきたんだな。」
「あんたなら余裕で勝てるものね?」
「悪趣味にもほどがある。」
「ならば、負けてあげれば?」
彼女の言葉に眉間にしわを寄せる。
「そうしたら、兵佳様と一緒に迎えに行ってあげるから。」
拳を握りしめる北斗の腕を朱鷺が引っ張る。
「逃げてもいいわよ?それとも暴れる?
一応、教えといてあげるわね?
逃げれば太一君がどうなるかわからないし、
暴れればテレビ中継してあげるわよ?」
「………その必要は無い。控室はどこだ?」
「案内してあげなさい。」
1人のスタッフが控室に案内する。
番組用の衣装まで準備してある。
椅子に座って考え込む。
だけど、答えの出ないもどかしさに苛立たしくなる。
「今度はお前か。」
「は?」
暢気な口調の朱鷺に顔をあげる。
「前は藤の方が対決をしていただろう?」
「………あぁ、料理対決のね。」
8月。それも玄宇 奄の話だ。
「でも、あの時ほど簡単じゃない。
今回は太一まで巻き込んでるんだ…おまけに、愛さん……。」
色んな感情が駆け巡る。
そんな北斗の前にある机に朱鷺は腰かけて北斗の顔を見つめる。
「藤は乗り越えた。過去もその時の現在も。」
「………。」
「北斗、お前はどうしたい?」
ゆっくりと朱鷺の瞳を見つめる。
「藤が己の持てる力を全力で叩きつけたことは、
何よりもお前がよく知っているはずだ。
ならば、お前は?
お前には何が出来る?
何がしたい?考えられるものは何だ?」
「それは……………。」
「何でもいい、いくらあってもいい。
思いつくままで構わんから言ってみろ。
私がお前の道を切り開いてみせる。」
焦りが消えていくのを感じた。
「それが私がここにいる意味だ。」
―――自分に出来ること、したいこと。
ゆっくりと目を閉じて、考える。
今日あったことを思い出す。
「太一。」
答えを出した。
「太一の様子がおかしかった。
だから太一と話がしたい。」
真っ青な顔の彼。
いくら事務所の指示であろうとも、
こんな無茶な条件に従うとは思えない。
何より、川伊達の指示を大人しくきいていたのも妙だ。
「確かに、それは私も感じていた。
太一殿の事であれば私よりも北斗の方がよく知っているから、
お前が直接話すほうが適任だろうな。」
「出来れば、愛さんたちには気づかれないように話せればベストかな。
荒方さんなら出来る?」
朱鷺は自分の体の至る所を触り何かを確認し、
何かに納得すると顔をあげた。
「少し出てくる、着替えて準備をしていろ。」
ドアを少し開け、様子を伺うと素早い動きで姿を消した。
北斗は言われた通り、適当に衣装を選んで着替える。
しばらくすると朱鷺が音も無く戻ってきていた。
「流石にびっくりするんだけど。」
「いい加減になれただろうに。」
「多少はね。」
鏡に向かった北斗の背後に立ち髪をセットする。
「………毎回、思うけど。
ヘアセットからメイクまで君が全部出来るのも不思議な感覚だよ。」
「私の仕事というものはいかなる時も、
すべて己の腕でなんとかしなきゃいけないことが多いのでな。」
するりと北斗のジャケットの内側に手を滑らせる。
「………こういう時にちゃんと内ポケットのあるものを選ぶのは、流石だな。」
「腕のいいマネージャーに色々仕込まれているんでね。」
耳の後ろに小さなものを取り付け、髪の毛で隠す。
「前の通信機に似ているね?使えるの?」
「今はまだ使えないが、もう少しすれば使えるようになる。」
「それって…」
言いかけた北斗の顎を引き上げて上を向かせる。
「それまで、時間を稼げるか?」
「どういう状況になるまでの話?」
「結果が決まるまでの話だ。」
「……………。」
少し考えた後、朱鷺の髪の毛を彼女の耳にかけて言った。
「いいよ、やってみるよ。」
「頼んだ。」
強気の笑みをお互いに浮かべた。




