ぶっ壊すと狭い空間と鬼の形相
その時は突然やってきた。
「清理。」
[はい!]
とあるテレビ局の中。
朱鷺が北斗に、清理が藤にそれぞれついていた時の事。
彼女はすぐに気配を察知し、清理に連絡を取った。
「気をつけろ、くるぞ」
[りょ――――(プツッ)]
「………ちっ。」
「どうしたの荒方さん。」
「連絡が途切れた。」
「電波が届かないってこと?」
「遮断されたな。」
「ここテレビ局だよね?」
「お主も気配を感じているんだろう?」
「だって、テレビ局だっていうのに、誰もいないんだよ、この廊下。」
不気味なほど静かすぎる廊下。
誰一人として人間の姿が見えない。
「目指すは出口?」
「どうせロック済みだろう。」
「どうやって出るの?」
「ぶっ壊す。」
「wild♪」
「だが―――」
ようやく人影が現れる。
「通してはくれなさそうだな。」
川伊達 愛がとびっきりの笑顔で二人を出迎えた。
「やっと会えたわね?ほ・く・と?」
「会いたくなかったんだけどね。」
「あらやだ、冷たいわね~?ま、わかってたけど。
小さいころはまだ可愛げがあって、」
「俺が愛想をふるのは芸能界のお仕事げ・ん・て・い。」
「そうね、昔っからあんたは愛想の一つも無かったわね。」
北斗の前に朱鷺は立ち、川伊達の視線を遮る。
「朱鷺ちゃん?悪いんだけど、
その子と二人っきりで会話をさせてくれないかしら?」
「すまんな、貴様は北斗の守備範囲外らしいのでな。」
「あら?初恋の相手は私だったんだけどなぁ~。」
「それは絶対無い。」
「まったまたぁ、恥ずかしがっちゃってこの子は♪」
ぱちんと指を鳴らすと二人の前後に川伊達の部下たちが現れた。
2人を取り押さえようとかかってくるが、
「北斗、じっとしていろ。」
北斗を壁際に追いやると朱鷺は一瞬飛んだかと思うと、
部下たちの合間を次から次へ飛んだりしてすり抜ける。
彼らは朱鷺に目もくれず、北斗に近づき手を伸ばした。
だが、体が動かない。
気が付くと体にロープが巻き付いていた。
いつの間にと考える間もなく、
その先端を持っていた朱鷺が引っ張ると、
全員がその場に引き倒された。
朱鷺は先端を手近な場所に縛り付け動きを封じた。
「君のそういうのは相変わらず鮮やかだよね。」
「中々披露する機会が無くてな。」
「あー、もう。城酉くんなら楽だったのになぁ。」
その言葉に北斗は表情を強張らせるが、
朱鷺は眉一つ動かさずに言い放つ。
「馬鹿か、寝言は寝て言え。」
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「ねぇ、どうしてなんだろうね。」
「さぁ、何ででしょうかね?」
同じ建物内にいる藤と清理。
かなり狭い空間にかなり近い距離で闇に潜む二人。
お互いにギリギリで顔をそらしている。
「あんたと一緒だとこう危険が多いのかな。」
「いやいや、藤さんだけには言われたくないですって。」
隠れている彼らの近くを追手たちが通り過ぎる。
「ってか、何で隠れてるわけ?
普通さ、こういう時って切り抜けない?」
「通常ならばそうなんですけどね。
朱鷺さんと連絡が取れない状況で迂闊に動き回れないんですよ。
まぁ、まず状況を掴みたいんですが、
あいつらの動きが早くって、とりあえず隠れてチャンス待ちです。」
僅かな隙間から外の様子を伺う清理。
「もし荒方さんだったらどうしてる?」
「片っ端からぶっ飛ばしてますね。」
「あんたはしないんだね。」
「避けるのは得意なんですけどね。
叩き潰すのはまったくダメです。
藤さんは逃げるのも駄目ですもんね。」
「無駄口だけは優秀なようだね、あんた。」
「!?」
気配を察知して息を潜める。
かなり近くに来たが、気づかれずに通り過ぎた。
「………どちらにしても、動かないと。」
「見つかるのも時間の問題っぽいっすね。」
「プランは何があるの?」
「電波が遮断されたところを考えると、
出口に向かっても封鎖されてますね。
朱鷺さんならぶっ壊すとか言い出しそうですが、
それも想定内とは思います。
この建物のシステム全部が乗っ取られている可能性大。
身を隠せる場所に隠しておいて朱鷺さんの動きを待つか、
どこにいるとも知れずの状態で合流を試みるか、
まぁ、扉ぶっ壊して脱出もいいですが出ても狙われるでしょうね。」
「システムを取り戻すことは出来るの?」
「建物の位置は全部把握しているんで、
辿り着くのにどれだけ避けれるかが勝負です。
ただ、俺が対応できるプログラムであることを望みます。」
「………それは大丈夫だよ。」
「は?………!?」
ゆっくりとした足音が通り過ぎる。
「ねぇ、誰か一人を拘束できる?
喋らせない暴れさせない意識は失わせないで。」
「生け捕りですか?難易度高いですけど………。
場所は多分あそこがいいし、タイミングを狙えば……。
あとは………。」
狭い場所で鞄をごそごそと漁る。
「これも持ってきてるから大丈夫かな。
………でも、何するつもりですか?」
藤はにこっと笑って、
「魔法を使うだけだよ。」
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出口に来た朱鷺と北斗だったが案の定、ロックがかかっていた。
「で、ぶっ壊すの?」
「そうしたいのは山々だが………どうも気にかかる。」
振り返った先には変わらない笑顔の川伊達。
「いい加減に目的を言ったらどうだ?
お前のことだ、どうせ何か企んでいるんだろう?」
「企んでるなんて嫌ね。
これでも敏腕プロデューサーなんだけど?」
「もういいよ、愛さん。逃げるのも飽きたし。何するつもりなの?」
川伊達は北斗の記憶と変わらない笑みを浮かべてこう言った。
「ねぇ、北斗。ゲームしよっか?」
朱鷺は気が付いた。
その言葉に、いつも余裕の北斗の表情が、
見たことのない険しいものに変わっていたことに。
『トラウマか、何かの合図か…どちらにしてもろくでもなさそうだ。』
川伊達がこっちだと合図をして、歩いていく。
「………荒方さん、あのさ、」
「大丈夫だ。」
前に言われた藤の言葉と重なって少し驚いた。
「私もゲームは得意だ。」
「あ、そっち?」
思わず気が抜ける。
―――でも、大丈夫なんだ。
ほっとして、川伊達についていく。
「ねぇ、北斗。久しぶりだから昔話でもしない?
朱鷺ちゃんも聞きたいでしょう?昔の北斗の事。」
「特に興味は無いから大丈夫だ。」
『………ちょっとだけ寂しいな、それも。』
「北斗は部屋にこもりがちで、
ほとんど人と会話なんてしなかったのよ。」
「予想通りで何ら面白みも無いな。」
『自分がよくわかってるよ。』
「そういえば、朱鷺ちゃんは―――」
「貴様は周殿 兵佳ととあるアジアの貧困街で生まれ育ったらしいな。」
ぴたりと足が止まる。
「川伊達 愛というのも本名では無かろう?
そもそも周殿と血のつながりもあったものかも怪しい。
その戸籍はどこで手に入れたものだ?
あぁ、私が直々に調べてやってもかまわんぞ?」
ゆっくりと川伊達が振り向く。
「………まさに、鬼の形相だな。」
流石の北斗も恐怖を感じた。
「死地を乗り越えてきた女の顔だな、まさに。」
「やめておきなさい、小娘が口に出していいことじゃないわよ?」
「違うだろう?
忘れたい過去を掘り起こされるのが嫌なだけだろう?」
「なめるんじゃないわよ、荒方 朱鷺。」
「貴様たちがやろうとしていることの意味がまだ分からんのか?
己のすべてをさらけ出されても文句は言えない。
自分だけが嫌なことから逃げられるとでも思っているのか?」
川伊達の目前に立つ。
「私という生き物を相手にするという意味を教えてやる。
さっさと目的地に連れていけ。」
睨みつけて、川伊達は再び歩き出した。




