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最短と気に入らないと意地悪そう

「やまね、入るぞ。」

「入ってから言うんじゃないわよ。」


冷静に朱鷺に突っ込むやまね。

読みかけの書類をデスクに置いた。

朱鷺は気にもせず彼女の横に来ると別の書類を重ねる。

何も言わず、それに目を通す。


「………これをいつまでに実行しろと?」

「今すぐ、最短で。」

「あんたは手続きやらにどれだけ時間がかかると思って、」

「わかっているから最短でと言っている。

 交渉方法は秋桜と百合に既に通達してある。

 それと、」


やまねは気が付いた。

何やら部屋の外が騒がしい。

朱鷺の顔をちらりと見た後、外の様子を見る。

そこにはあるスペースに次から次へと機材らしきものが

運び込まれているようだった。


「………荒方、あれは、」

「私の組み立てたコンピュータだ。」

「なんでここに、」

「野菊に使わせる。」

「何のために、」

「私以外であれを最大限に使いこなせるのは野菊だけだからだ。」


扉を閉めて再び椅子に座る。


「何が起こっているの?」


もう一つの書類を投げ渡す。


「これは………黒宇 奄?」

「周殿が本格的に動き出した。

 お前も懸念していたことだろう?」

「北斗を預かってからずっとね……。

 今まで何もなかったことの方が不思議なくらいよ。

 でもなぜ今更?」

「さあな、あ奴らの環境が整ったということか……、

 北斗自身にも何も知らされていない所を見ると、

 本気で北斗を連れ戻さなければならない状況に追い込まれている。

 とも受け取れるが、何とも言えない。」

「先珠のほうは問題ないの?」

「早急に調査をさせている。

 藤達には言ってはいないが、

 黒宇の件に関わっていないとは考えていない。」

「まさかドラッグとは………。

 厄介なものを持ち込んでくるわね。」

「ほう、この業界では珍しくないとは思っていたが?」

「馬鹿ね、噂を聞く程度よ。少なくとも私はね?

 ただ、この周殿のドラッグは…もはや、殺人兵器じゃないの。」

「それが周殿 兵佳の恐ろしいところだ。だが、止めねばなるまい。」

「……………荒方。」


やまねがどこか申し訳なさそうに目を伏せた。


「ごめんなさい。」

「何がだ?」

「私はただ、北斗をあの家から引き離せればと考えていたわ。

 引き離してあの子が普通の生活になれればと。

 それが、ドラッグやら殺人兵器やら…こんな話になるなんて。」

「いかに自分が無知であったか思い知ったであろう?」


その言葉はやまねにとって突き刺さる言葉だった。

噂や情報、耳に入ってくることはあっても、

目にしたことは無く、まるで夢物語のようだった。

やまね自身はそんな世界に身を置いたことは無い。

朱鷺の様子からして、彼女はこうなることを、

予想できていたと言わんばかりだ。

取るべき対応も仕事も準備し迎え撃とうとしている。

格の違いというべきか。

自分よりもぐっと年若く見える彼女が途方も無いほどの

経験の差を感じさせられてしまうのだ。


そんなやまねの様子に朱鷺はふっと笑みを浮かべて言った。


「知らなくていい。こんな世界など。」


真っ直ぐなその瞳に見抜かれた。


「私はたまたま知っていて、お前は知らないだけなんだ。

 知っているほうが偉いとか経験しているから得だとかいうものではない。

 逆に知っているからこそ、損をする場合もある。

 だから、お前は知らなくてもいい。

 むしろ知らないままでいるほうがずっといいと思うがな、私は。

 知らないからこそ描ける世界がある。」


荒方 朱鷺は一体どんな世界を生きていたのだろう。

確実に自分とはかけ離れていて、

想像もできないようなものをその真っ直ぐな瞳に、

映してきたのではないだろうか。


未来を予測し、人の行動や心を見抜く。

時折、人間離れしたその技術や話術にぞくりと鳥肌が立つ。


『あなたは一体何者なの?』


触れてもこの手には掴めないような気がした。


「荒方。」


部屋を出ようとする朱鷺に思わず声をかけた。

振り返った彼女はなんだ?という表情を見せる。


「あんたは何でここまでするの?

 仕事だから?それとも北斗のため?

 まさか、この国のためとかじゃないわよね?」


それを聞いて彼女はにやりと笑う。


「気に入らないからだ。」

「は?」

「人を道具として扱うのは構わない。

 だが、道具というものは使い方をよく考え、

 きちんとメンテナンスまでしなければすぐに使えなくなる。

 ましてや生きている道具なら、なおのこと。

 その道理も弁えず、まるでゴミのように使い捨てる人間が大嫌いでな。

 それを偉そうに道具扱いすることが気に入らない。

 それが私の目の前に現れたのなら叩き潰すまでは気が済まない。

 ただ、それだけだ。」


そう言って彼女は部屋をあとにした。

やまねは、


『やっぱり、あの子の感覚は理解するのが難しいわ。』


と、思わずため息をついた。


***********************


「荒方様。」


部屋を出るとすぐに白百合がやってきて書類を見せる。


「一応私なりに条件を考えてみたのですが………。」

「大丈夫だろう。まぁ、万が一のために次の手も用意しておくといい。」

「承知いたしました!」

「荒方様!」

「荒方様ぁ!」


続いて、秋桜と向日葵もやってきた。


「ご指示のものは一通りそろってますわよ?

 すぐにご入用であればお持ちいたしますわ?」

「そうだな………、」


秋桜のリストに指示を書き込んでいく。


「これは今日持ち帰るから準備しておいてくれ。

 あとはここに書かれている通りに。」

「はぁい♪仰せの通りに!」

「荒方様!ご依頼されてました服は明日には準備完了ですぅ!

 他にはございませんの?」

「流石に早いな、あぁ、そうだったついでにこれも頼まれてくれるか?」


ポケットからメモを取り出して向日葵に手渡した。

彼女は嬉しそうにそれを握りしめて走り出していった。


そして部屋の片隅。

たくさんの機材が設置された場所に足を運ぶ。


「………野菊、大丈夫か?」

「はっ、はい!!申し訳ありません!!」


机に俯せる珍しい姿に思わず噴き出した朱鷺。

野菊は慌てて身だしなみを整える。

彼女の手元には扱い方のマニュアルが書かれた分厚い冊子があった。


「読み終えてはいるようだな。」

「はい!以前、荒方様に速読の教えをいただいておりましたので…。」


朱鷺は鞄からあるものを取り出し、

野菊の額に張り付けてやった。


「あ、あの荒方様っ、これはっ。」

「ただの熱さましだ。

 考えすぎたり、頭がいっぱいになったときはこれを張ると、

 少しは落ち着けるだろう?」


買っておいた箱ごと彼女に手渡した。


「お、お気遣い痛み入ります…。」

「お前には大きい負担をかけるな、すまん。」

「いっ、いえ!何を仰られます!!」

「清理の馬鹿はこういうことはセンスが無くてな…。

 というより、私の知っている中で、

 お前しか私の代わりが務まるものがいない。」

「そんな私など荒方様の足元にも…。」

「謙遜するのはいいが、今は私が出来る全てのことをしてもらわねばならん。」


ぴしっと言い放つ彼女の言葉に、野菊は背筋を伸ばした。


「お任せください。この野菊、遅れは取りません。」

「………母親に似ず、真面目だな、お前は。」

「あの人は大雑把すぎるんです!」


ぽんぽんと頭を撫でてやる。


「あ、荒方様………私一応大人になったんですよ?」

「あぁ、すまんな、お前に初めて会ったのはまだ、

 腰よりも小さい時であったからな。

 ついつい、あの頃の癖が抜けない。」


恥ずかしそうに顔を赤くする野菊に、笑いかける朱鷺。


「お主もずいぶん大きくなったものだ。

 まさか、あの小さき者に私の仕事を頼むことになろうとは、」

「思っていたからこそ、私に色んなアドバイスをなさったのでは?」


野菊の鋭い返しに朱鷺は意地悪そうな笑みで返事をしたのだった。

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