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おばさんとスーパーマンと軍議

10カ月。




明けましておめでとう

新しい年がやってきた

いつもと違う始まりが

予感となってやってくる

もう嫌だと叫んだあの頃から

何年経っただろう

始まることを待ってた

だから、自分で始めようと思うんだ



ねぇ、どうして君はそんなに





[1月]





「ねぇ、北斗。私とゲームをしよっか?」


まだ小さい頃。

愛さんは目の前に屈んでそう言った。


「愛おばさん、何でゲームするの?」

「愛さ・ん!北斗はゲームが好きでしょ?」


誰かとつるむことも話すことも嫌いだった俺は、

勉強や読書に飽きると決まってゲームをしていた。

やりたかったからではなく、

ただ、いろんな世界を見ることができて、

その構造を考えたり、計算をしていい効率方法を探したりする

ただの暇つぶしの意味だったけれど。

周りからしてみれば引き籠りにしか見えなかっただろう。


「愛さんは何のゲームをするの?」

「テレビは使わない、頭を使うゲームよ?」


首をかしげた俺に愛さんはにっこりと笑って言った。


「私と北斗、どっちが兵佳(へいか)様を喜ばせられるか?っていうゲームよ。」


この笑顔ほど嫌いなものは今でもない。


***********************


「北斗、頼まれていたものだが………本当に見るのか?」


朱鷺が珍しくも眉間にしわを寄せてメモリを差し出してきた。


「見るよ、俺の予想じゃあ見ないほうがいいってことかな?」

「………頼まれごとを拒否するつもりはない。」


朱鷺はパソコンにメモリを差し込み、データを取り出す。


「これが画像でこっちが脳波やら血液やらのデータだ。」


いくつかの情報を画面に出して席を譲る。

北斗は事細かにそのデータを確認していく。


「………お前はそのデータの意味がわかるのか?」

「だいたいはね………数週間前から意識がなくなってるんだね?」

「そうだ、医者の話では最初は錯乱状態だったそうだが、

 徐々に大人しくなり、突然意識を失いこの状態らしい。」


画面には体中に色んな装置をつけられ横たわる男の姿があった。


「………黒宇(くろう) (えん)なの?」


入口に藤が立っていた。

朱鷺は近くの椅子を引っ張って北斗の隣に座らせる。


「そうだよ。黒宇 奄の現在だ。」

「どうしてこんなことになってるの?」

「………ドラッグの影響なんだ。」

「ドラッグ?」


朱鷺が書類を藤に手渡した。


「繁牙が調べたが、黒宇は自分の痕跡をすべて消していた。

 だが、何とか見つけ出してわずかにな残っていた情報を調べた。

 すると、注射器の痕跡があったらしい。

 黒宇の診察にあたった医者からも薬物の痕跡が、

 体に残っていて、それは一度や二度では無く、

 恐らく短期間にかなりの量が使用されたものだと診断が出ている。」


苦々しい表情で書類を読んでいく藤。


「何で、ドラッグをそんなに大量に必要だったの?」

「このドラッグは普通のドラッグじゃない。」


それに答えたのは北斗のほうだった。


「このドラッグは、気分を高揚させるものじゃないんだ。」

「いい気分にならないってこと?」

「そう、気分は変わらないし、意識もはっきりしている。

 ただ、集中力を高めたり、腕力や脚力とかの体力も向上させ、

 何でもできるようになるせいか恐怖心などが消え去る。

 ようは一時的にスーパーマンになれる薬って事。

 ただし、致命的な欠点がある。」

「それは?」

「脳を破壊する。」


北斗の言葉に藤は画面に目を戻す。


「少しずつ、本人は気が付かない間に脳の組織が破壊されるんだ。

 だから、黒宇は脳にダメージを受けて今の状態になった。

 ましてや、短期間に大量の薬を使ったとなれば………。」


黒宇の脳がどれほどダメージを受けているのかが想像できない。

だが、この画面を見る限り、希望の類は一切見えない。


「………彼は……死ぬの?」

「わからない。もし進行が止まっているなら、

 これ以上は悪化することはないと思いたい。」

「治らないの?」

「人の脳の自己再生能力がどれほどのものかは説明できない。

 証明することも難しい。

 だから………希望はほぼ奇跡を待つしかないかもしれない。

 ただ、詳しい検査結果も俺は医者でないから見てもわからないし、

 現代の医学がどこまで通用するかも知らない。」

「現状では何もわからないってことなんだね………。」


正直、朱鷺も北斗も黒宇の自業自得だと思っていた。

自らの勘違いから藤を一方的に憎み、

ありもしない復讐のために、

手を出してはいけないものに手を染めた。

そして、自らの命を危険にさらしたのだ。


だが、藤は違う。

どこかで自分のせいだと思っている。

黒宇とちゃんと話していたなら、

彼はこんなことにはならなかったのではないか。

自分が誤解をさせるような真似をしてしまったのではないか。

もっと方法があったのではないかと。


好きでは無い人間ではあったが、

少しでも関わりを持った他人に対して、

藤は無関係さを感じることが出来ないのだ。


そしてその藤の感情を北斗は感じ取っていた。

たかだか他人にどうしてそこまで心を痛めることができるのか、

北斗には到底理解は出来なかったが、

藤のその感情の豊かさというのか優しさというか弱さというか、

そういうところが人間らしさを感じさせて、

北斗に教えてくれるような気がして、嫌いになれなかった。


「北斗がそのドラッグを詳しいってことは………。」


藤と朱鷺の視線が北斗に向けられる。

微かに彼は頷くと口を開いた。


「このドラッグは周殿が開発をしたもので、

 周殿しか扱っていない彼らの最強の武器だ。」

「じゃあ、黒宇に与えたのは………、」

「恐らく周殿だろうね。ただ、そこに先珠が関わっているかはわからない。

 そうでしょう?荒方さん。」

「共同戦線を張ったとなれば、協力している可能性はある。

 まあ、現段階では周殿の関与も先珠の関与も証拠は出ていない。

 だが………懸念するべき点がある。」

「何?」

「北斗、このドラッグの本来の目的は何だ?」


北斗の動きが止まる。


「効能を聞けば金を積んで買うものは多いだろう。

 だが、これほどの脳のダメージを受けては買い手が減ってしまう。

 それではネットワークを作ることは出来なくなる。

 このドラッグは資金集めの目的の物ではないな?」


黙る北斗を見つめる藤。

ため息をついて北斗は説明をした。


「周殿にとっての敵や要らない人間を潰すために作られたものだよ。」

「は?どういうこと?」

「傷をつけても人間はどうやっても復活してくる。

 だけど、脳を潰せば……………。」

「脳を潰せば記憶も失われて証拠も痕跡も消える。

 気が付かないうちに自分自身を殺し、

 やがて、その勢力は自滅していくということか。」

「周殿はアヘン戦争でも始める気なの!?」

「そうやって勢力を伸ばしてきたんだ、それが周殿の事実だ。」


朱鷺はもう一つの事柄を危険視していた。


「それが日本に入ってきたということか。」

「………まだ使う頃合いではないと言ってはいたんだけど。」

「もはや、お前の話を聞く相手ではあるまい。

 大方、それを自由に使用できる環境が整ったのであろう。

 どうせ、元締めは色んな金持ちにコネがあり、

 敵も多く持っているあの女だな。」


「………川伊達 愛。」


「間違いないよ、あのドラッグは慎重に扱われる。

 親父の信頼を絶対的に受けている彼女が最前線で使うはずだ。」

「逆を言えばあ奴しか扱えないということか。」


朱鷺は少し考えこんだあと、電話を取り出した。


「清理、すぐに来い。軍議だ。」


そう言ってすぐに切った。


「北斗、あとでもう少し詳しく教えてもらうぞ。」

「あぁ、いいよ。ま、今の俺の情報なんて少しぐらいだけど。」

「少しでもあるなら十分だ。

 今から調べ物がしたい、部屋を出てもらえるか?」


藤と北斗はわかったと返事をすると部屋を後にした。


北斗は藤の背中を見た途端、急激に不安を感じた。

彼にも話していなかったことだ。

こんな世界を知っていると知って、藤がどう思っただろうか。


『………軽蔑されていないのかな?』


聞くのが怖くなった。

彼が今どんな表情をしているのかわからなくて。

黒宇の様子を見ただけでもあんな状態だ。


藤の心情を知るのが恐ろしくてたまらない。


足が止まって、目を瞑る。

深く深呼吸をして口を開こうとした。


だが、藤の手が伸びてきて優しく北斗の頭を撫でた。


「ごめん、正直、先珠と比べても怖いと思ったよ周殿が。」


顔は見えなかったけど、声からして正直な気持ちだと思った。


「でも、そんな世界の中で北斗は生きてきたんだよな?」

「………そうだよ。」

「怖いと思ったことは無かった?」

「………………。」

「もしかして、あっても“怖い”って思わないようにしてた?」


―――あぁ、そうだ、だから藤にはかなわない。

―――君はいつだって隠そうとしたものを見つけてしまうから。


「怖いものだってわかってるから、荒方さんにも話したんだね?」


やっと見えた優しくて温かいその表情に何も言えなくなる。


「大丈夫。」

「うん。」

「もう大丈夫だから。」

「うん、わかった。」


何が大丈夫なのかははっきりわからないけれど、

その言葉で心底ほっと出来た気がしたんだ。

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