プレートとアピールとレジェンド
「む……。」
『『そんなに慎重にならなくても大丈夫なんだけどな…』』
パーティを終え家に帰りつくとすぐさま
ブッシュドノエル作りに取り掛かった。
朱鷺は必死に最後のプレートをセッティングしていた。
その様子を何故かハラハラした気持ちで見守る藤と北斗。
サンタさんへ、と書かれたプレートが無事に着陸。
出来た!!と目をキラキラさせて喜ぶ彼女の姿に、
思わず微笑みと拍手を送った。
「宅配ボックスに入れてくる!!」
準備していた箱に入れてラッピングをすると、
わくわくした顔で一階へ向かう姿を見送る。
「こけたりしないよね?」
「大丈夫なはずなんだけどな。」
どうしてだか、不安が襲ってくる。
今までにあまり見たことのない彼女の姿だ。
以前、“親父殿”の話をしようとした時以来の気がする。
窓を見ると、そこにはメッセージカードが。
サンタさんに向けて、
宅配ボックスに贈り物を入れておくこと、
鍵の番号が何番であるかということが書かれている。
セキュリティ上、監視カメラやセンサーを切ることは出来ないが、
今までもそんな心配をしたことはないそうで、
監視カメラのチェックもしなかったらしい。
『『今年はその姿を拝めそうだけど。』』
朝一で清理が来ると打ち合わせをしている。
朱鷺に内緒で監視カメラを確認するつもりだ。
北斗がテレビの前で何かごそごそし始めた。
「どうしたの?」
「ルニスが向こうでクリスマスのスペシャルやったらしいんだけど
荒方さんへのプレゼントでブルーレイ送ってくれたんだよ。」
「……寝るまでに何回見るかな、あの子は。」
「もう一回が何度………、」
北斗の手が止まる。
何事かと彼の手元をのぞき込む。
そこにはかつて紛れ込まされていたディスク。
2人の“激しい”映像が録画されているものだ。
「………藤。」
「あの子はそれを見ても何も言わずに……聞かずにいてくれたね。」
「態度が変わることも……無かった。」
そのことがどれほど2人にとって救いになったのか、
今更ながら気が付いてしまった。
そうだ、荒方 朱鷺という人間はいつも、
大事な時には何も言わず聞かず、
必要な時には与えて伝えてくれる。
誰かがそれに気づいていようがいまいが関係なく、
彼女はそうやって“守る”ことをしてくれている。
「……北斗、荒方さんに話してみる?
たぶん、色々と気づいているかもしれないけど。」
気づいていても知らないふりをしてくれる。
がちゃりと慌ただしくドアが開いて、
半ば興奮気味の朱鷺が戻ってきた。
「テンション高すぎでしょ、あんた。」
「い、いや、初めての試み故、緊張が………。」
「ちゃんと寝ないと来てくれないかもよ?」
「そ、それは嫌だ!!」
まさに子供の反応に笑いを堪えるのが大変だが、
藤が冷蔵庫から作っておいたケーキを取り出した。
「食べたいなら、一切れだけ許可をするよ。」
「食べる!!」
藤に一切れを大きく切らせようとアピールをしつつも、
彼の却下に交渉を繰り返す。
あどけないその姿に楓を思い出し、思わず電話をかける北斗だった。
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「うおおおおぉぉぉぉーーー!!!プレゼント!!!!!!!」
雄たけびのような朱鷺の声で流石の藤も覚醒した。
「ちょっと……何時だと…、」
部屋を出たとこで大興奮の彼女と、
半笑いの清理の姿があった。
「あんたも早すぎない?」
「いや、これも毎年しなければいけないことなんですよ。」
「は?なにが?」
「すみません、お二方もお付き合いください。」
「だから、なにを」
「三人とも聞いてくれ!!プレゼントが届いてたんだ!!」
会話を遮って朱鷺がぶっこんできた。
何故か彼女に掴まれてリビングに連れていかれ、
椅子に清理ともども座らされた。
ちょっと待ってと言われ放置され、
少ししてキッチンから戻ってきた朱鷺の手には珈琲。
それぞれの前に置かれて、朱鷺も座った。
「包みを開けてもいいか?」
「「「どうぞ………」」」
本当に心底嬉しそうに丁寧に包みを開ける。
珈琲を啜りながら、藤と北斗は清理に視線を向ける。
清理は静かに頷いた。
毎年恒例、クリスマスプレゼントの開封式である。
開封した後はそのプレゼントが朱鷺にとって、
いかに凄くて嬉しいものであるのかを彼女が落ち着くまで聞かねばならない。
清理が早朝にここにいるのも、朱鷺からの命令である。
『『早く言えよ』』
嫌ではないかもしれないが、
彼女の気持ちを想えばある程度話を合わせなければならない。
ぶっちゃけ面倒ではある。
「こ、これは!」
開封して朱鷺が声をあげた。
持つ手が震えている。
アンティーク調のガラス瓶の中には、
繊細に作られた雪の結晶形の砂糖菓子がいくつも入っていた。
「すご………。」
「細か……それ砂糖菓子?」
「今年は一段と凄いっすね……」
まるで雪がガラスの中に閉じ込められたような美しさ。
「レジェンドだ。」
「レジェンド?」
「砂糖菓子界のレジェンドの逸品だ。
繊細過ぎるがゆえにどこにも売られていないはずのもの…。」
『『『誰かまったく聞いたことないな。』』』
朱鷺は瓶を開け、一つ口に含む。
藤はもったいないと思わず思ってしまった。
「なんという………食べてみろ。」
「「「え」」」
三人に差し出される。
見慣れないものを食べるのに抵抗はあるが、
食べなければ開封式が終わることは無い。
覚悟して、食べるには惜しい繊細な芸術を口に運んだ。
『『『なにこれ』』』
驚きのあまり、固まってしまった三人を見て、
得意そうに笑みを見せる朱鷺。
『砂糖菓子ってこんな感じだっけ!?』
『口に入れた瞬間に溶けるように消えた!?』
『懐かしいような優しい甘さに香りがふわっと広がる!?』
軽くパニックを起こしている。
満足そうににこーっとしている朱鷺に気づきもしない。
だが、藤がふと気が付いた。
「荒方さん、そのカードは何?」
包みに小さなカードらしきものが付いていた。
朱鷺も気づかなかったようで、慌てて確認する。
「“監視カメラ”とだけ書いてある?」
首をかしげながら、全員で朱鷺の部屋へ。
監視カメラの映像を確認する。
「サンタさん!?」
そこにはケーキを宅配ボックスから取り出す
サンタの格好をした謎の人物の姿が映し出されていた。
サンタは箱を開くと、ポケットからフォークを取り出し、
一口、ケーキをすくって口に運んだ。
ゆっくりと味わうそぶりを見せた後、
カメラに向かって親指を突き立てた。
「お、美味しかったということだろうか!?」
「え、あ、た、たぶん?」
「藤!!ありがとう!!」
「い、いや、荒方さんの頑張りじゃないかな?」
あまりの嬉しさに走ってリビングに行ってしまった朱鷺。
清理はその隙をついて入口から出るサンタの姿を確認する。
だが、
「消えた?」
一瞬でその姿が消える。
「この映像、解析できないの?」
「朱鷺さんの許可が要ります。」
「許可するわけない。」
向こうでは嬉しそうな朱鷺の声。
こちらでは大人の男三人がそろえて深いため息をついた。
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数時間前にさかのぼる。
ケーキを抱えたサンタは歩いて道路を横切る。
近くに止まっていた高級車に近づいて窓をノックした。
すると窓が開いてある人物が姿を現す。
ケーキの箱を彼に渡した。
「もう大丈夫だ、服を脱げ。」
「りょーかいっす!」
サンタの衣装を脱いで、それもすべて車の男に手渡した。
「ポンとやら、今日はご苦労だった。」
「いやぁ、いいっすよぉ~?楽なぁバイト?っしたし!!」
相変わらず変なノリで喋るポン。
男から封筒を渡される。
「まじでぇ、こんなにいいんすか?」
「正当な報酬だ、だが、契約はわかっているな?」
「もち、ろん!お宅らのことは俺は知らないし!
このバイトもしたことはないってことですよね!?」
「そうだ、話は以上だ。」
「つかれした!!」
るんるんとした足取りでポンは去っていった。
男は窓を閉めると、後ろから声を掛けられる。
「優李、外の監視カメラはどうしました?」
「すでに細工済みです。
朱鷺もサンタのことになると調べたりしませんから。」
「でしょうね、あの子は本当に可愛らしいですから。」
『それは関係ないと思いますが。』
後部座席に座る高級スーツを身にまとう男はケーキを口に運ぶ。
「………まさか、朱鷺の手作りケーキが食べられるとは。」
「お味はいかがですか?」
「人生で一番美味しいケーキです。毎日食べたいですね。」
『それはご勘弁ください。』
優李は口元が引きつりそうになるのを必死で堪えた。
「それで………例のものの行方は見つかりましたか?優李。」
「それがお恥ずかしながら難航しております。
間違いなく形跡はあるのですが、どうも細工されているようでして。」
「白菊には?」
「分析してもらっていますが、どうも手こずっているようです。」
「ふむ、それは珍しい。
彼女を手こずらせるとは…ただ者ではありませんね。
君も気をつけなさい、優李。」
「お気遣い痛み入ります。」
「本当に厄介なものですね…しかし、諦めることは出来ません。
龍真の後片付けはきっちりやらねば。
だからこそ、頼みましたよ、優李。」
「お任せください、必ずやマザーを見つけて見せます。」
スーツの男はまたケーキを食べると、優李に車を出すよう合図をした。
「………本当にお会いになられなくてよろしいのですか?」
彼の言葉に微かに笑みを浮かべる。
「あの子が望まないことをするつもりはありません。」
「会いたがっているとは思いますが………。」
「何か理由があるのでしょう。私は朱鷺を待つつもりですよ。
それに、あの子に嫌われたくありませんからね。」
その言葉に納得した優李はハンドルを握る。
「承知いたしました………帝人様。」
帝人は朱鷺の作ったケーキをじっくり楽しみながら味わった。
続く
あと三か月分………早く終わらせたい。
今年中には…頑張りたい、頑張ろう。




