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インタビューと破裂音と白衣

ある部屋の一室で北斗はインタビューを受けていた。


「HOKUTOさんのクリスマスのご予定はあるんですか?」

「イブに綺麗なお嬢さんと会ってお話する予定ぐらいだね。」

「え、それって彼女ってことですか!?」


クスクスと人懐っこい笑顔を見せると北斗は呟いた。


「ってことは、君が俺の彼女になってくれるってこと?」

「えぇ!?あ、いや!!確かに今日はイブですが!!

 あ、あれ!?あ、インタビューの事だったんですか!?」


インタビューの女性は慌てふためく。

その様子にまたクスクス笑いだす。

からかって反応をみて楽しんでいるのか、

ただのリップサービスかはわからないが、

確実に面白がっているのは間違いない。


その様子を離れた場所から朱鷺は眺めていた。


あれから周殿側からの接触は無かった。

はたから見れば何ら変わりのない男。

少し人より顔がよくて、ミステリアスで、

魅力かフェロモンというものかがあふれているらしい。


だが、周殿の跡取りというなれば能力的に見ても、

圧倒的に優李が必要とされるはずだと朱鷺は分析している。

若いころに帝人に見出されたとはいえ、

周殿との関わりを断ってはいない優李をこうも手放しているのか。

能力でも劣っていると思われる北斗に執着しているのかが、

どうしても納得いかなかった。


あの周殿 兵佳と川伊達 愛が見誤ろうなどとはありえない。

彼らがどんな汚道を通ったとしても、

修羅場を生き抜いてきた事実は確か。

人を見抜く力も、動かす力も正直、常人を超えている。


『………まだ、私に“話せない事”が関わっているのか?』


彼らの過去はとうの昔に調べ上げてはいるし、

それ以上の情報となれば恐らく、

周殿の中でもトップクラスのシークレットであろう。


―――朱鷺、二人だけの秘密にしよう、ね?


びくりと肩を震わせた。

突然思い出した懐かしい声。


『病院のせいだな。

 最近は必要以上に思い出す………。』


思わず額を手で押さえる。

病院から優李のことを思い出し、苛立つ。


「だ、大丈夫?」


インタビューを終えた北斗が控えめに声をかけてきた。


「どうした?」

「いや、なんか、すっごい機嫌悪い空気が出てるけど。」

「………すまんな、むかつくやつを思い出してな。」


すっと切り替える。


『こういう切り替えの早さは素直に尊敬するよ。』


朱鷺と一緒に車に乗り込んで家路を急ごうとしたのだが、


「あ、そうだ、荒方さん。

 ちょっと事務所によってくれない?」

「かまわない、何かあったのか?」

「社長から呼び出しがきてた。」


スマホの画面には“ちょっときて”の一言。


「………意味が分からんな。」

「いつものことだよ、いい加減慣れなよ。」


***********************


会社に着き、いつものフロアでエレベーターを出た瞬間だった。

北斗は両腕をがしっと掴まれた。

そこには秋桜と向日葵の姿。


「さあ!北斗様!!」

「別室に早急に移動しますわ!!」

「は?え、ちょ、」


有無を言わさず、北斗はあっという間に連れ去られた。

呆然と見送る朱鷺の元に白百合が苦笑しながらやってくる。


「百合、何事だ?」

「荒方様はこちらを。」


すっと差し出される服。


「………それは、」

「お召ください。」


にっこりと、こちらも有無を言わさない笑顔に、

戸惑いつつも素直に受け取り更衣室へ向かった。


着替えを済ませた朱鷺は待っていた白百合と共に、

いつものメンバーがいる部屋へ向かう。

白百合に促され、扉を開いた瞬間。


パン!パン!パン!


「「「「「メリークリスマス!イブ!!!!!!!」」」」」


いくつかのクラッカーの破裂音と共に賑やかな声が広がった。


いつもの部屋にはクリスマスの飾りが施され、

華やかなテーブルクロス、その上には数々の料理。

まさにパーティ会場と化していたのだ。


「お疲れ様~!朱鷺ちゃん!!」

「貴殿もおられたのか、せん、」

「た・い・ち!!!」

「………た、太一殿。」

「もっちろん!ってか、いいね!朱鷺ちゃん!!

 白衣もかっこよく決まってる!うんうん!似合ってる!!」


何故か、朱鷺に渡されたのは女医の衣装だった。

ちなみに太一も救命士の衣装を着ている。

周りのメンバーもそれぞれ医療に携わる格好をしていた。


『何故、クリスマスにコンセプトが医療なんだ。』


という、朱鷺の疑問が解けることはなかった。


太一に引っ張られるように中央に連れていかれる。


「お疲れさま。」


藤からグラスを渡される。


「ノンアルコールだから大丈夫だよ。」

「………手術着か?」

「………今日の料理作ったからかな?」


ついでにいくつかの料理も盛った皿も渡された。


「いつからこんな企画をしていたんだ。」

「んー、2週間くらい前かな?

 太一がパーティやりたいって言いだして。

 それなら、せっかくだから皆でやろうかってことになって。

 気が付いたらこういう状況。」

「やまねがよく許可を出したものだ。」

「一番ノリノリだったけど?あ、北斗。」


ようやく北斗がやってくる。

長い丈の白衣をなびかせていた。


藤は料理とグラスを持って彼の方へ行った。


だが、朱鷺は動けないでいた。



なびく白衣の裾。


少しかための黒い髪。


すらっとした背丈。


後ろ姿。



もう何十年も前の話だ。

寒かったクリスマス。


「朱鷺はクリスマスを知らないの?」

「くりすます?………それはなんだ?」


彼は医者でも無かったのに、

毎日のように白衣を羽織っていた。

研究の仕事をしていたか、趣味だったかはわからないが、

長いこと白衣を着ていたら、無いと落ち着かなくなってしまったと。


クリスマスを知らなかった彼女のために、

それらしい料理とブッシュドノエルを準備してくれた。


「今日はしっかり眠らないとね?」

「なぜ?」

「いい子でいたらサンタさんが明日の朝、

 プレゼントを枕元に置いててくれるんだよ?」

「ぷれぜんと………。」

「朱鷺は何か欲しいものがあるの?」

「よくわからない……でも、」

「でも?」

龍真(りゅうま)がいてくれるならそれでいい。」

「本当に君って子は!」


その時の彼の笑顔がとても嬉しそうで、

今でも目に焼き付いて離れない。


寒くて冷えた手を温かくて大きな手が握りしめてくれた。

雪のように白くて儚い肌とは対照的なその温もり。

今でも忘れられない。


ずっと、そうやっていられると思っていた。

笑顔をそばで見られて、

温もりを感じられる。

そんな毎日があると。



「朱鷺ちゃん!!」


勢いよく飛びついてきた太一に気づかなかった。

思わず驚いて床に二人して倒れこむ。


「何やってんの太一!」

「ごめんごめん!朱鷺ちゃん大丈夫!?」


手を差し出そうとした藤だが、途中でびくりとなってやめた。

それに気づいた北斗が代わりに手を差し出して二人を立ち上がらせる。


「すまない、少しぼーっとしてた。」

「本当に大丈夫なの?らしくない。」


言い返すこともせず頭をかく朱鷺に調子が狂う。


藤と北斗は顔を見合わせて合図を送る。


藤が朱鷺にプレゼントを手渡した。


「「俺達からクリスマスプレゼント。」」

「………お前たち、サンタだったのか!?」

「サンタじゃなくてもプレゼントはあげるんだよ。」

「そうなのか!?」

『『どういう教え方されているんだよ。』』


包装を開けると瓶に入った色とりどりの砂糖菓子だった。


「おぉ!美味しそうだな!!」

「くれぐれも食べすぎには気をつけなよ。」

「検査で引っかかったらとりあげるから。」


二人の話が聞こえているのかいないのか、

朱鷺は瓶の中の甘い世界にくぎ付けになっていた。


『『本当に子どもみたい。』』


と二人して吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。

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