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色紙とベッドと名刺

「繁牙警部!お客様をお連れしました!!」


万遍の笑みの半崎が部屋にやってきた。

その腕にはしっかりとサインの入った色紙が抱きしめられている。


「………ねぇ、ここってさぁ……」

「取調室ってやつ?」

「あはは、流石、繁牙さん!

 朱鷺さんの話通り、性格曲がってますね~♪」

「黙って座れ、馬鹿ども。手錠かけるぞ。」


渋々ながら椅子に座ると半崎がお茶を並べてくれた。


「すみません!警部ってこういう雰囲気好きなんで、」

「さっさと出ていけ、半崎。」


しょぼんとしながら部屋を後にする半崎。

扉が閉まっても空気は重いままだが、

先に口を開いたのは繁牙だった。


「周殿 北斗と話をするとは聞いたが、他の2人は聞いていない。」

「今、朱鷺さんは所用で出かけちゃってて、

 俺が二人の護衛を引き受けてるんです。

 別々に行動されちゃたまんないんで、そこは大目にお願いします。」

「…俺のことは空気と思っててかまわないよ。

 特に話すことなんて無いので。」


そう言うと、藤は本を取り出して読み始めた。


「よく荒方が許可を出したものだな。」

「朱鷺さんには言ってません。」

「「「!?」」」


思わず、北斗と藤も驚いてしまった。


「貴様が人前に姿を現すのも珍しいとは思っていたが。

 ………城酉、何のつもりだ。

 荒方の側近のお前があやつに断りもなく行動するなど。

 お前らしくないのではないのか?」

「俺にも譲れないものがあるんですよ。」

「何だ?」


珍しくも真っ直ぐで真剣な表情に身構える繁牙達。


「正直に答えてください。朱鷺さんは―――」


握る拳に力が入る。


「繁牙さんと同じ部屋で一晩過ごしたことがあるんですか!?」

「は?」


北斗はやっぱりと力を抜き

藤はお茶で咽た

繁牙は呆れながらもため息をついて答えた。


「一晩も何も数年過ごしたが?」

「えぇ!?数年!?同じ部屋で!?」


思わず清理は立ち上がった。


「数年、あやつと同じ仕事をしていたからな。

 危険も隣り合わせだったこともあってそうした。

 特に個室も必要なかったが。」

『いや、個室はいるでしょ』

『これは瑠依さんの予想もあながち外れてなさそうなきがしてきたな。』


顔が真っ青になり、手を震わせ恐る恐る、清理は口にした。


「……………べ、ベットは何個ですか?」

「買うのも面倒だったから一つだが?」


言葉にならない悲鳴を上げて清理は部屋の隅に倒れかけた。

繁牙はわかっていないのか、怪訝な表情を見せた。


「………荒方さんと付き合ってたの?」

「ちょっ、北斗さん!!」

「そんなわけなかろうが!仕事の都合だと言っただろう!!」

「………数年も同棲で同じベッドで寝てたのに何にもなかったの?」

「何が言いたい!というより、貴様は空気じゃなかったのか!!」

「はっきり言うなら体の関係はあったの?」

「無いわ馬鹿者!!!」

「キスは?」

「するか!!!」

「繁牙さんてゲイなんですか?」

「違うわ!!!」

「女性経験は?」

「いい加減にしろ!!貴様らはそんなことを聞きに来たのか!?」

『『『話をそらしたな』』』


ただ気になっただけとは言えず。


「瑠依さんが気にしてたから聞いてみただけ。」

「瑠依が?」

「荒方さんが違うなら誰がもらってくれるんだと。」

「まったく…あいつも要らぬ心配を………。」


妹の話になるとびっくりするほど大人しくなる姿に、

割と扱いやすいかもと思ったのはここだけの話である。


―――1人だけいた、もうこの世にはいない。


そう言った、朱鷺の言葉を思い出した。

彼女にとっての大切な人の事。


「じゃあ、荒方さんの知り合いで、

 千羽 太一に似てる人って誰かいるか知ってる?」

「千羽 太一に……?いや、それは知らないが何故だ。」

「そういう知り合いがいたって言ってたから…、

 というより、荒方さんのことって詳しいの?」

「どうだろうな、数年一緒に過ごしはしたが、

 仕事以外の話などほとんどしないに等しい人間だ。

 決して利益でもないことに嘘をつくような奴ではないが、

 容易く己のことを話すような奴でもないとは思う。」


『荒方のことを詳しく知っているとすれば私では無く―――』


ちらりと北斗を見た。

思い浮かぶのは彼の兄の姿。


『周殿 優李であろうが…。』


今日の様子からして、彼らは、

鷹友グループのことは知ってはいない。

つまり、朱鷺と優李の関係性も知らないのであろう。

先月の時も繁牙と瑠依とは話をしていたが、

優李とは極力話さないようにしていた様子ではあった。


『瑠依も鷹友のことは知らないみたいだったからな。』


繁牙本人も、朱鷺と優李が話している所も、

会っている所も見たことは無い。

朱鷺本人の口から優李の名前が出たことすらない。

鷹友会長の名前も出たことは無いが、

話すときは常に“親父殿”と呼ぶ。

朱鷺が、鷹友 帝人の愛娘であることは仕事の関係上で

知りえた情報なだけであって、

本人の口から説明をされたことはただ一度もない。

だからといって、繁牙が朱鷺に深く聞くことも、

踏み込むような真似もせず、

ただ仕事で協力をしあっていたからこそ、

繁牙が彼女の信頼を得られたと言っても過言ではないが、

そのことに彼自身は気が付いてはいない。


『迂闊に教えるのは得策では無かろう。』


無自覚で朱鷺の意図を理解し、実行することも、

朱鷺が彼を気に入っている理由の一つである。


「それで、お前たちは何を聞きに来たのだ。」

「あ、そうだ、荒方さんがサンタを信じてるんだけど………」

「まだ………あぁ、あ奴はずっと信じ続けるのであろうな。」

「どこにでもプレゼントが届くって本当?」

「本当だ、私と過ごしていた時も毎年どこにでも届いていた。」

「誰かは知らないんですか?」

「………調べたが何一つ痕跡は残っていなかった。」

「えぇ…それって、繁牙さんが本気で調べても駄目だったってことっすか?」

「そうだ。

 逆を言うなら下手に手を出すと危険かもしれないということだ。」


『『『何でそんなやばい奴がサンタなんかしてんだよ。』』』


「それで、周殿。」

「あんまりその呼び方は好きじゃないんだけど。」

「そんなことはどうでもいい。」


いかにも興味が無いという言い方に嫌悪感を抱く。


「周殿の家の情報を渡す気はないか?」


その一言に、すっと熱が冷めるのを感じた。


「渡す情報なんて何もないけど?」

「わかっているだろう?

 周殿という家が今の我々警察にとってどういう存在であるかは。

 なんなら、貴様のことも調べていいんだぞ、先珠?」

「どうぞ、お好きに。こっちも渡す情報なんてないけど。」


『『どうりですんなり話をしたわけか。』』


手強いといっていた割には簡単に話をした。

いくら溺愛する妹からの頼みといっても、

あまりにも容易すぎた。


繁牙の狙いは周殿の情報収集だった。


「まだ、キリをつけてなかったの。」

「瑠依のことがあったのはあったが、

 正直、この仕事をしている限り切り捨てられそうもなくてな。

 親戚のよしみで、情報を渡してもらえれば早いのだが。」


繁牙は名刺を取り出して北斗の前に置いた。


「気が変われば連絡をするといい。」

「―――いいや、それは無い。」


北斗は名刺を突き返して言った。


「あるなら、言うべきは荒方さんだから。」


繁牙が「そうだな」とふと笑った。

あまりに素直なその反応に気が抜ける。

だが、名刺はもう一枚増え、藤の方にも差し出された。


「―――もし、荒方に何かあれば連絡をしてくれ。」

「どういうこと?」

「どうもこうもない。

 ただ、あ奴は誰かを頼ろうともしない。

 今までならそれで良かっただろうが、

 誰を相手にしているかは貴様らがよく知っておろう。

 私もすぐに手を出すわけにはいかんが、

 無いとは思いたい、だが、近頃は万が一を考える。

 昔とは違う、私自身も年をとった。

 あ奴は見た目はさっぱり変わっていないが同じだけ歳をとっている。

 だからこそ、何かが起こった時に何も知らなかったとは言いたくない。

 ただ、それだけだ。」

「じゃあ、これは荒方さんのためってこと?」

「いいや、所詮、自己満足なだけだ。」


『『素直じゃないとこは荒方さんにそっくり。

  心配なら心配と言えばいいのに。』』


藤と北斗には、繁牙が朱鷺との距離感を大事にしているように見えた。

例え近くにいても遠くにいても二人の距離感は常に一定を保たれてて、

それがお互いに信頼を置いておける距離のような。


余計なことはしない。

だけど、気づかれないように想いを置いておく。


北斗と藤は繁牙の密やかな優しさを感じて思わず笑みをこぼした。

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