ロスとブッシュドノエルと再検査
9カ月。
とても騒がしい月が来た。
イベントごとが多くて
いつも以上に華やかで賑やかで
大きなことは起こらないけど
やっぱり君は面倒な人だ
この感情は“楽しい”なのかな
[12月]
「おっはようございま~す!
城酉 清理、出勤いたしました!!」
「…いつからあんたはこの家に出入り自由になったのさ。」
「野暮なことはきいちゃいけないです…よ………」
テレビ前で生気を無くした寂しい北斗の背中が清理の目に入った。
画面にはクリスマスを彩る賑やかな映像が流れている。
「な、何なんですか、一体。」
「毎年、クリスマスは楓ちゃんと楽しく過ごしてたからね。
いつもこの時期はプレゼントは何にするだの、
ケーキはどこのどんなやつにするだの、
生き生きしながら考えてたから………」
今年から楓は遠い地で両親とクリスマスを共にする。
一応、プレゼントは送るつもりでもあるし、
月に一度、電話で話す約束も取り付けてはある。
だが、会えないという虚しさが逆に積もることになった。
「………“楓ロス”ってとこですか。」
「イベント時期は一層辛くなりそうだよ。」
今まで存在していたものが無くなる。
その辛さをひしひしと感じる2人だったが、
『『もうすぐ40歳』』
と思ったことは心に留めておいた。
「そういえば、朱鷺さんはどうしたんです?
まだ起きてないんですか?あ、これ届いてた郵便物です。」
「食事は済ませたんだけど、何かバタバタしてるみたいで、
少し前から部屋に引きこもってるよ、今日は休みだしね。
っていうか、あんたは何しにきたわけ?」
郵便物を受け取りながらも不機嫌な表情を隠さない藤。
「あー、時間がある時に朱鷺さんと打ち合わせしとこうかと思いまして。
この時期になると色々ごたごたしだしちゃうんで…」
「……ねぇ、何かあるわけ?」
清理のえへっという笑顔にイライラ度が増す。
手を握りしめたところで爪が割れてることに気がついて爪切りを取り出した。
「まぁ、とりあえず朱鷺さんの部屋にでも…」
清理の言葉と同時に廊下を慌ただしく走る音が聞こえた。
「藤!頼みが、」
勢いよく扉が開かれたの同時に朱鷺が口を開いたが清理の姿を見つけて止まる。
「来ていたのか、清理。何用だ。」
「今日はお休みだって聞いたんで、打ち合わせでもと思いまして。」
「あぁ、それもそうだな。じゃあ、私の部屋に、」
「いや、荒方さん、俺に何か用があるんじゃないの?」
「あ、そう、だ…」
ふと藤の爪切りに目がとまる。
「……あんたも爪切る?」
「ん、あ、いや大丈夫だ。」
「それで―――」
藤が聞こうとした瞬間、朱鷺は彼の目前に迫り必死な顔で言った。
「藤!これを作れるか!?」
印刷された紙を広げられる。
「「「………“ブッシュドノエル”?」」」
ロス状態から我に返った北斗も含めて三人で声をそろえた。
「フランスの伝統的なクリスマスのケーキでな!
薪の形を模したもので………」
「「大丈夫、何かは知ってる。」」
「朱鷺さん、食べたいんだったら俺が買ってきますよ。」
「違う!私が作りたいんだ!」
「へ、朱鷺さんが作るんですか?」
「そうだ、だから藤に作れるなら教えてもらいたくてな。」
「ブッシュドノエル自体は作ったことないけど、
ケーキの類は作ったことあるから大丈夫だよ。」
「本当か!?」
嬉しそうな朱鷺を前に北斗が首をかしげる。
「でも、これ作ってどうするの?」
「差し上げるんだ!手作りに勝る真心はないからな!!」
「「誰に?」」
疑問の藤と北斗の隣であぁ~と何とも言えない表情の清理。
朱鷺は一際目を輝かせて言い放った。
「サンタさんだ!!」
「「…………は?」」
思わず固まる。
だが、朱鷺のキラキラした目は変わらない。
「毎年、サンタさんがプレゼントをくれるのだがな!
もらってばかりでは申し訳が立たないのでな!
今年こそはお返しをしたくてな!!」
「毎年、くれるの…?」
「そうだ!毎年欠かさず、どこにいても、どんな状況でも、
必ずクリスマスの朝にはプレゼントが私の元に届くのだ!」
「届くって郵送で?」
「いや、そんなことはない!サンタさんだぞ!?
流石に枕元とかではないが、扉とか窓とかわかるところにあるんだ!」
「あー…えっと、どうやって渡すの?」
「そこが問題なんだ。
今年のプレゼントがどこに届くのかがわからない。
ましてやセキュリティの高いこの建物に、
サンタさんが無事に入ってこれるのかも心配で………。
まぁ、そこらへんはまだ検討中だ!」
2人は困惑していた。
突っ込みどころが多すぎる。
どこまで本気で何の冗談を言っているのかと。
だが、朱鷺の瞳は純粋な輝きそのもので、
決して嘘でも冗談でもないことが明らかである。
子供の夢を壊してはいけない親の気持ちがひしひしと理解できた。
「あ…それはそうとして、荒方さんに郵便物届いていたけど。」
「何?」
話をそらそうと封筒を手渡す。
「ねぇ、それどういうこと?」
藤の視線が鋭くなる。
理由は封筒に書かれた文字。
北斗も気が付いた。
「“検査結果在中”?君、何か検査したの?」
「いや、そんなことは………」
封を切り、中を確認する。
「朱鷺さん、健康診断思いっきり引っかかってるじゃないですか!
要再検査ってはっきり書いてますよ!!」
「は?なぜ……」
全員で結果の紙を確認するが間違いなくはっきり書かれてた。
「あんたね…早く再検査に行ってきなよ。」
「放っておけ、そんなものはただの」
三人ともがテーブルをバンっと叩いた。
「君、それ本気で言ってるの?」
「朱鷺さん、それが俺だったら何て言います?」
「い、いや…だからこれは…」
「言い訳無用!再検査しないならブッシュドノエルも作らない。」
「な、なに!?」
「当たり前でしょう!?だいたいあんたは食生活酷いんだから!!
最近は俺が作ってるの食べてるからまだいいかもしれないけど、
それまでは日がな一日丼ものばっかり食べてて、
合間合間には砂糖菓子ばっかり食べてるでしょ!?
珈琲や紅茶にも砂糖入れてるの知ってるんだからね!!」
うんうんと他の2人もうなづく。
「俺も今まで朱鷺さんには軽く言ってきましたけど、
見た目も何一つ不健康そうなとこもなかったんで甘かったですね。」
「流石に検査結果がこれじゃ…フォローのしようもないね。」
「だ、だからこれは!」
「ダメって言ったらダメ。
ちゃんと再検査受けて、結果をもってくるまで、
ブッシュドノエルの件は実行しない。
俺は本気だからね、荒方さん。」
三人の強い攻めに返す言葉も見つからず、
封筒を握りしめた朱鷺は後ろを向いた。
「………病院に行ってくる。」
「「「行ってらっしゃい。」」」
勢いよく飛び出していった朱鷺。
よほど、ブッシュドノエルを作りたいのであろう。
ここまで素直に効くとは思わなかった。
「さてと………城酉さんにはじっくりと話を聞かなきゃいけないよね?」
重い低音ボイスと共に右肩をがっちり藤につかまれる。
「それは俺も大賛成。」
もう片側もがっちりと北斗に掴まれ、完全に退路は断たれた。
「サンタってあんたなの?」
「残念ながら俺じゃないです。」
「じゃあ、誰がやってるの。」
「残念ですがそれもわからないんです。」
「あんたねぇ…」
両肩の手に力が思いっきりこめられる。
「本当なんですよ!!俺が朱鷺さんに出会う前からあるみたいで!!
一度調べようとしたら、朱鷺さんには“サンタさんになんてことを!!”
って言ってしこたま怒られるし!!
どんな場所でもプレゼント送ってくるから俺だって怖いんですよ!!」
「どんな場所って…」
「抗争中の危険地帯だろうと、
朱鷺さんが身を隠すのに使ってる隠れ家だろうと、
もう、本当にどんな場所でもプレゼントがくるんですよ!!」
得体のしれない恐怖が三人を包み込んだ。




