シスコンとキスとキュン
繁牙と半崎を含む部下たちが
黒宇を車に乗せるため裏口から外に出た時だった
近くを警護していた部下たちがざわついた。
「待て!とまっ」
そう静止した部下が軽々と投げられる。
向かってくる男は顔色一つ変えずに進む。
他の部下も向かっていくが次から次へと投げられた。
半崎が急いで近づいて
「公務執行妨害でっ」
「邪魔だ。」
男は半崎の腕を掴んだ。
だが、繁牙によってすぐに振り払われた。
「下がっていろ、半崎。」
すかさず、繁牙の腕を掴みにかかったがまた払われる。
逆につかみ返されるのを防ぎ、距離をとる。
「何者だ?」
「その男を引き渡してもらう。」
「こちらで逮捕した、それは出来ん。」
「知ったことか、そいつは俺の手で始末する。」
「それは警察の仕事だ。」
「俺の妻になる女と娘を危険にさらした!償いはさせる!」
『…この男、どこかで………』
繁牙は面識が無かったが、男―――周殿 優李は引かない。
警棒を取り出してかまえる。
繁牙も警棒を取り出して同じく構える。
「半崎、さっさと連れていけ。」
「は、はい!」
半崎たちが車に向かおうとしたのと同時に優李は警棒を振り上げた。
その時。
「やめて優李!!兄さん!!」
ぴたりと二人の動きが止まる。
声の方に目を向けるとそこには
車いすも使わず、そこに立っている不桟 瑠依の姿があった。
「「瑠依!?」」
思わずお互いを見る。
「兄さん?」
「優李…だと?」
『まさか瑠依の兄か。』
『周殿 優李なのか!?』
数秒各々悩んだ後、はっと気づく。
「車いす!?」
「生きてたのか!?」
またも同時に声をあげてしまい、お互いに睨みあう。
「だから、やめろと言っておろう。
大の大人が狼狽えて情けない。」
「貴様……」
「荒方………お前の差し金か!!」
「兄さん!!いい加減にして!!荒方さんは悪くないんだから!!」
間近で目にする妹の姿に未だに信じられない様子の繁牙。
「本当に……瑠依なのか…。」
「ごめんなさい、荒方さんにお願いして死を偽装してもらったの。」
「何故!そんなことをした!!!!」
思わず声を荒げたが、朱鷺は冷静に言い放つ。
「黙れシスコン。」
「しっ、しすっ!」
「元はといえば貴様の重度のシスコンのせいだろうが!」
「なっ、どういうことだ!」
「そうよ、兄さんが私の仕事のことで色々手を回してくるから、
大事な潜入の仕事が台無しになりかけたんだからね!!」
「そ、それはお前が危険な仕事をっ」
「あのね!私もきちんとした手順で仕事をしてるの!!
いい加減妹離れしてよね!!」
「だ、だが………」
「見苦しいぞ、蛍。」
「くっ…!」
こっそり陰ながらその様子を見ていた半崎は、
妹に言い負かされる繁牙の姿を微笑みながら見守っていた。
置いてけぼりの優李は入口近くに、
楓を抱き上げた北斗の様子を見つけてため息を付き、口を開く。
「で、潜入先というのが周殿だったというわけか。」
「優李………。」
「先に言っておくが、瑠依の事故は本物だ。
狙われて怪我を負ったのも事実だ。
あとは2人で話せ。」
嫌がる繁牙を無理やり2人から引き離す朱鷺は半崎と北斗のほうに近づいた。
「………周殿に入るために俺に近づいたのか。」
「えぇ、そうよ。あなたしか糸口が無かったから。」
「それで?目的は達成できたのか?」
「たぶんね………でも、これ以上は危険だと荒方さんから言われて、
もう引き上げることにしたの。」
「そうか………。」
「でも、ただ一つ、誤算だったのは――――」
優李の目を強く見つめる瑠依。
「私があなたに本気になってしまったことよ。
だから、子供を欲しくなった。
楓が生まれてきてくれたことは例え誤算でも
後悔なんて微塵もしてないわ。
あなたを騙したことだけは悔いてるけど。」
変わらない彼の表情に思わず下を向く。
「あなたが望むならどんな責任も負う。
ただ、楓のことだけは――――――――」
「お前は賢い女だと思っていた。」
はっと顔をあげる。
「だから、お前自らが周殿に身を置くと言ったとき、
何かがあるのだろうとは思っていたが調べもしなかった。
お前に怪我を負わせた負い目も正直あったしな……。」
「優李、それは!」
「だが、やはり俺の目に狂いはなかった。」
「!?」
優李は瑠依の顎に手をかけ、顔をあげさせた。
「俺の物になれ。」
「優李…。」
「許されたいというのであれば、
お前のこれからの人生の全てを俺によこせ。
一生俺の元で俺のためだけにいるんだ。」
瑠依は笑みを浮かべて
「もちろんよ!」
と答えて優李は彼女を抱き寄せて、
情熱的なキスをした。
その瞬間。
半崎は切れかかる繁牙の目を塞いで止めた。
朱鷺は特に反応もせず、
北斗はなんとなく楓の視線を外させ、
『…身内の濃厚なラブシーンほどきついものはないな。』
とため息をついた。
「どうしたの?ほくと?」
「いいや、何もないよ?」
北斗が笑みを浮かべると楓も嬉しそうに笑った。
「楓、これからパパと一緒にいられるかもしれないよ?」
「え!?ほんと!?」
思わず楓が北斗の腕から飛び降りて、優李たちの方に走った。
「パパー!!」
「楓!?」
「パパだと!?」
飛びついてくる楓を抱き上げた優李。
楓の存在に半崎の腕を振り払う繁牙。
「ねぇ、パパ!ほんと!?」
「何がだ?」
「これからパパといっしょにいられるの!?」
瑠依と顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「そうだな、一緒にいるよ。」
「やったぁ!!!」
「ここじゃなくて、もっと安全なところにいくから
もう怖い思いはしなくてすむよ。」
「ここじゃないとこ?」
「あぁ、ここからちょっと遠いとこになるけど。
今よりもっと楓と一緒にいられるんだ。」
「とおいとこ………ほくとは?ほくともいっしょにいられるの!?」
はっとなる。
生まれた頃から彼女を可愛がってくれた。
両親のそんな様子に首を傾げた楓はまたも飛び降りて、
北斗の近くに走っていった。
彼は彼女の視線と同じ高さになるように屈みこんだ。
「ほくとはいっしょじゃないの?」
「うん、ごめんね楓。俺は一緒には行けないんだ。」
「じゃあ、あえなくなるってこと………?」
「そうだね。」
しゅんと落ち込む楓。
その小さな頭を優しく撫でる。
「だけど、楓に会いに行くから。」
その言葉に嬉しそうに笑う。
「ほんと!?ぜったい!?」
「絶対!ね、荒方さん、行けるよね?」
「当たり前だ。」
「この人が言ったことは絶対だから大丈夫だよ。」
「やったぁ!!」
不意打ちで言われて思わず答えてしまった朱鷺。
ちょっと「めんどうだな」と思ってしまったのは余談である。
「じゃあ、ほくと………」
じっと彼を見つめて楓は言った。
「いつか、およめさんとしてむかえにきてね?」
可愛いお姫様の言葉に、
母親の瑠依は「あら、可愛い!!」とテンションがあがり、
優李と叔父である繁牙の2人は一応笑顔を見せてはいるのだが、
『2人とも、なんで警棒を持ち直してんだよ!!』
と、しっかり警告を見せていた。
「お、大人になったら考えような?」
なんとか言い回答を絞り出した北斗。
優李は楓を抱え上げた。
「蛍、瑠依達が安全地帯に行くまでは、
お前も海外につてが色々あるんだから手助けしてやれ」
「貴様に言われるまでも無いわ。」
朱鷺とのやり取りを見ていた優李はおもむろに、
「……楓、この人は楓のおじさんだ。」
繁牙に楓の視線を向けて紹介した。
「私のお兄ちゃんで蛍おじさんよ!」
じっと見つめたあと、楓はにっこり笑って
「かえで、です!けいおじちゃん!」
―――――キュンっ
不思議な音が辺りに響いた。
何の音かと朱鷺が辺りを見渡したが特に異常は感じられなかった。
繁牙 蛍。人生初の胸キュンであった。




