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的中と触れ合うだけと支え

前触れなどは無かった。

何の問題もなくステージ上の仕事をこなし、

プログラムの全てを終えて檀上を降りた。


だが、そこにいるはずのスタッフの姿が一人もいない。


「(ごめんルニス、全力で走るよ)」

「(は!?)」


北斗は彼の腕を引っ張って駆けだした。

その直後、背後でかつんと突き刺さる音がする。


『投げナイフか………銃じゃなくて良かった。』


時折飛んでくるナイフを器用に避ける。


「(何かさっきから飛んできてないか!?)」

「(黙ってて、音が聞こえなくなるから。)」

「(!?)」


北斗の耳にはナイフの空気を貫く音が微かに聞こえていた。

その音を頼りに方向角度を確認してギリギリ避けているのである。


ルニスを連れて避けながら決められたルートを通る。

それは事前に朱鷺から教えられていたものだ。


「北斗、私の予想ではまず狙われるのはお前たちだ。」

『がっつり的中したね、荒方さん。あとは……。』


角を曲がった瞬間、差し出された掌に手を触れて通り過ぎる。

すぐにその掌は姿を消してその場から離れる。

一瞬だけ見えたその笑顔に思わず笑みがこぼれる。


『流石、藤はよくわかってる。』


消えた掌の持ち主、藤は清理とともに走っていた。


「どう?見られてなさそう?」

「それは大丈夫です!っていうか、

 そんなタッチだけでちゃんと情報は渡ったんですか!?」

「大丈夫だよ、俺たちの仲だから。」

「どこまでが本気なんですか?それ。」

「俺たちぐらいともなれば言葉なんていらないんだよ。

 触れ合うだけで十分に伝わるってこと。」

「なんかもう色々突っ込むの面倒くさそうですね。」

「食べたいものなんて目を見るだけで…」

「もういいです。ご馳走様です。」


珍しくも清理がげんなりし、藤が勝ち誇った顔をしている頃。

北斗たちは最終地点である少し開けた行き止まりに到着していた。


「(おい、北斗。もう逃げられないんじゃ……)」

「(大丈夫、もう逃げないから。)」

「(え!?)」


北斗はポケットから取り出した黒い手袋をはめた。

次の瞬間ルニスの腕を引っ張って飛んできたナイフを交わす。


「………もう鬼ごっこは終わりですかね?」

「もう飽きたしね。」


黒宇(くろう) (えん)がゆっくりと歩いて近づいてくる。

その手にはナイフが握られていた。

北斗はルニスを自分の後ろに下がらせた。


「じゃあ、もういいですかね?」


遠慮なく黒宇はナイフを投げる。

一本目は避けたが直後に二本目、そして三本四本が飛んできた。

だが、慌てることなく北斗はナイフを順番に手で掴み取る。


「は?どういう反射神経してんの?」

「………悪いね、育った環境上、護身の類はある程度叩きこまれててね。」


周殿という名前の重みに思わず舌打ちをする黒宇。


『というか、この手袋本当に切れないんだな。』


黒い手袋は朱鷺が開発した特殊なもので、

刃物を直接持っても切れないという手袋だ。


「君さ、ナイフは全部で5本でしょ?もう無いんじゃない?」

「………いつの間にそんなことまで?」

「俺には差し伸べてくれる手があるからね。」

「あぁ~あ、まじ意味わかんない系ですか、あんた。」


大げさにリアクションをとる黒宇だが、にやりと笑みを浮かべる。


「もういいや、終わらせるよ。」


背中から銃を取り出した黒宇は銃口を北斗に向ける。

その瞬間だった、


「(屈め、北斗。)」


北斗が絶妙なタイミングで屈むとルニスが銃を構えていた。

そのせいで黒宇の反応が一瞬遅れた。


―――――パンッ


軽いはじけた音。


「何だよこれ!!!」


黒宇の拳銃に粘液性の塊が付着した。

思わずそれを落としたが、背後から声が聞こえた。


「黒宇!!」


清理と現れた藤の声に笑みが浮かぶ。


「会いたかったですよ!!藤さん!!」


もう一つ、隠し持っていた銃を藤に向けた。


「私もだ、黒宇 奄。」


向けたはずの銃が消える。

代わりに目の前には荒方 朱鷺の姿。


「なんっ」


有無を言わさず腕をひねり上げ、地面に押さえつけ、

すかさず持っていた特殊なバンドで両腕を縛り上げる。

叫び暴れる黒宇を足で踏みつけ、やれやれとため息を付いた。


「荒方さん、ライト持ってる?」


北斗の言葉に朱鷺はペンライトを渡した。

彼はすぐにライトを点けて黒宇の目に当てた。


「何すんだ!?まぶしいだろうが!?」


反応を確認した後、北斗は黒宇の袖をまくり上げ、険しい表情を見せた。


「ふざけんな!!離せ!!ぶっ殺してやる!!

 お前ら全員、俺が殺してやる!!!!!!!!!」

「………いい加減にやめておけ。」

「やめるかよ!?俺は絶対にやめないからな!!

 どんな状況になろうがどれだけ時間がかかろうが、

 絶対にあきらめたりしないんだよ!!!!!

 どこにいてもどんな時でも俺はあんたたちを憎んでやるんだからなぁ!!」


はははは!!!と狂ったような笑い声をあげる黒宇。


だが、


「奄、もうやめてっ………。」


その視界が両手に包まれる。

懐かしい声に息が止まる。

視線をあげれば見覚えのある泣き顔。


「もうやめて、奄!」

「あ、ねき…?なんで?」


抵抗が無くなり、朱鷺は足をどけて離れた。

黒宇の姉は彼が体を起こすとぎゅっと抱きしめる。


「違うのよ……。」

「何が?」

「藤くんじゃないのよ!私を騙したのは……。」

「は?何言ってんの?」

「確かに同じグループにはいたけど、違う人なのよ!」

「同じグループだったら結局!」


「でも、藤くんは他のメンバーにばれないように助けてくれたのよ!!」

「え………」


思わず絶句する。


「お金は確かにとられた…でも時間をかけても、

 藤くんは全部取り返してくれたのよっ………。」


藤を見ると気まずそうに眼をそらした。


「ごめんなさい!結局騙されたことにショックで立ち直れなくてっ、

 奄に心配をかけてっ…こんなことさせて…本当にごめんなさい!

 もっと、あなたにちゃんと話すべきだったのに!

 あなたのことも気づいてあげられなかった!!

 私が自分のことばかりでっ、ごめんなさい!!

 だから、もう、やめてっ…お願いだから!!!!!!」


言葉が出てこなかった。

正直、何の話をしているのかもうまく呑み込めなくて。

頭がついていかなくて。


自分のやったことは何だったんだろう。

抱いていた憎しみは何だった?

ただの勘違いだけでここまで大事にした?

どうして?

守りたかった人が泣いてる。

自分がしたことは―――


ぽんっと頭に手が置かれた。


「もう、いいんだよ。」


藤の顔が見えたはずだった。

だが、すぐに滲んで見えなくなった。


「うああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」


声をあげて泣き叫ぶ奄を姉は力いっぱい抱きしめる。


その姿から目をそらしてため息をつく藤。

隣に立つ時がぽそりとつぶやいた。


「ずいぶん甘いことをするんだな。」

「そうじゃないよ、黒宇も先珠に利用されただけだし。」

「だが、自らで選んだ道だ。方法ならいくらでもあった。」

「でも―――――」


もう一度、姉弟の姿を目に入れる。

藤は柔らかく笑って言った。


「こっちは聞く耳はもったみたいだしね。」


彼の言葉に肩の力を抜いた朱鷺だった。

そこに数名の足音が近づいてきた。


「もう気は済んだか?荒方。」

「あぁ、大丈夫だ。繁牙(しげが)警部。あとは任せる。」


部下を引き連れた繁牙が黒宇の確保にきた。

朱鷺は黒宇の姉に話しかける。


「この男は強面ではあるが、悪い奴ではない。

 任せておけばいいが、黒宇のサポートにはおぬしの協力が必須であろう。」

「………はい、この子は私がしっかり支えます!」


そこに北斗が近づいて朱鷺に耳打ちをした。

彼女は少し悩んだ後、あるメモを取り出して繁牙に渡した。


「黒宇をここにつれていけ。必要になる。」

「………面倒なことを。まぁ、いい。」


黒宇は暴れることなく連行されていった。


「清理、藤とゲストと一緒に出てこい。

 北斗は私と一緒に少し急げ。」


「「は?」」

「了解しました!」


朱鷺は北斗の襟元を掴むとそのまま引きずるように連れて行った。

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