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ハグと不愛想とスリーサイズ

「Hi,HOKUTO!It's been ages! How have you been?」

(やぁ、北斗!久しぶりだ!元気だったか?)

「I've been good, thank you.」

(あぁ、元気だよ。)


白人男性と軽いハグを交わす北斗。


「(ルニスも相変わらず忙しそうだね)」

「(はははっ、北斗も日本で大人気らしいじゃないか!

  日本に来たのも数年ぶりだけど、お前のポスターだらけだ。)」

「(だけど、今日の主役はルニスだろ?ケエラ警部補?)」

「(まさか、自分がやってたドラマが映画化されるとはね…

  おまけにお前のいる日本でも公開されるなんてね。)」

「(日本でもシリーズが大人気だから当たり前だろ?)」


このルニス。

アメリカでは有名な俳優であり、

ケエラ警部補というキャラクターでドラマの主人公を演じている。

作品もシーズン7を超える人気ぶりで、

日本でも海外ドラマ好きには王道の人気作品である。

そしてついに映画化され、

今日は日本での試写会に出演するため来日してきた。

北斗はプレゼンターとして会場に来ている。


「(大学で一緒にやんちゃしていた北斗も俺も俳優やってるなんてな…)」

「(いや、俺は真面目だったはずだけど)」

「(そういうところが相変わらず可愛げが無いんだ!

  初めて会った頃もお前は10才以上下だったはずなのに、

  俺よりも年上のように悟った顔をしていやがって…)」

「(そんな俺に“何つまらなさそうな顔してんだよ!”って

  遠慮なしに話しかけてきたのは君の方でしょ)」

「(そりゃそうだろ!大学って中に見るからに子供が混じってるんだから!

  お前何者だよ!ってなるじゃないか!

  まぁ、不愛想なところは今も健在みたいだな!)」


北斗とルニスの出会いはアメリカの大学だった。

ルニスは現役の大学生ではあったが、

北斗は年齢関係なしの飛び級で大学に入っていたのである。


「(そんな不愛想が今やテレビで笑顔見せてるなんて

  いまだに信じられないけどな。)」

「(俺、そんなに不愛想だった?)」

「(不愛想っていうか無表情というか、ロボットかと思った。

  大学の同期の奴らに今のお前の映画見せると、

  決まって“おいおい嘘だろ?”“これはそっくりさんだろ!”

  って、口をそろえて言われるぞ。)」

「(っていうか、何見せてるんだよ!!)」

「(日本にも知り合いがいるからな、

  映画やら写真集を送ってもらってるんだ。)」

「(なんでそんなこと…日本語わからないだろ!)」

「(お前に頼んでも送ってくれないし、

  言葉なんてどうにでもなるんだよ。)」

「(ルニスも昔から変わってないな…そういうところ…)」

「(そうか?これでもずいぶん大人しくなっ)」

「(なってない、全然変わってない。)」


思わずため息をついた。

昔から変わらない、すぐ振り回されてしまう。

懐かしさに思わず、二人して笑う。


「(しかし、北斗。

  お前のボディガードが女だとは驚きだ。

  おまけにずいぶん若く見えるが…どう見ても年下だろう?)」

「(あー…年齢までは知らないんだけどね。

  でも大丈夫だよ、あの人、びっくりするぐらい腕が立つから。)」


ルニスが目を丸くしたまま北斗を見つめる。

視線に気まずくなった北斗が何かとたずねると。


「(お前…本当に北斗か?)」

「(正真正銘間違いないから安心してよ。

  というより、一体何が言いたいんだよ。)」

「(だって、あの北斗が他人をほめたんだぞ!?)」

「(俺も大人になったってことだよ!!)」


北斗の態度にケラケラと笑いだすルニス。

いい加減めんどくさくなってきた。


しかし、ふと北斗は朱鷺の様子がおかしいことを思い出した。

ルニスへの挨拶もさくっと終わらせたかと思うと、

いつもならしばらくは様子をその場で見るというのに、

今日に限ってはそのまますぐに姿を消したのだ、それも焦ったように。

ここ数日、落ち着きがないというか、

何か腑に落ちない感じの彼女の様子に藤と一緒に頭を悩ませている。


なにせ、あの荒方 朱鷺が“焦り”を見せているのだ。


『荒方さんが焦るだけでこんなに不安になるとか…』


彼女が2人に与える影響力の大きさを痛感する。


「スタンバイお願いします!」


スタッフの声に北斗が顔をあげた。


「(ルニス、そろそろ時間だってさ。準備はいい?)」

「(いつでも大丈夫だ!)」


観客の待つ会場のステージへ2人は進んだ


*************************


「……あのさ、城酉さん。」

「だいじょーぶです!なーんの問題も無いですよ!朱鷺さんなら!」

「それ、絶対大丈夫じゃない返事だから。」


試写会の会場の隅で藤と清理は控えていた。


「あんたは理由を知ってるの?」

「朱鷺さんのことならスリーサイズまでわかりますから!」


きりっとした表情の清理にいらっとくる藤。


「それセクハラじゃないの?荒方さんに怒られない?」

「大丈夫です、叱ってもらえるなんて至福の極み。」

「ただの変態なだけじゃん。」

「ちなみに、スリーサイズの数値を言って殴られたら“正解”ってことです」

「そんな情報いらないから。」

「あと、俺の特技で見ただけでサイズわかるんで。」

「うわ、いらない特技…」

「藤さんのもわかるんで当てましょうか?」

「ねぇ、聞いてる?いらないって言ってんだけど。」

「そうですねー上から」

「荒方さんは何であんなに様子が変なわけ?」


清理が藤の襟を掴んで顔を近づけた。


「大丈夫って言ってんでしょぉ?聞こえてますぅ?」

『またこれか…』


迫力満点の清理の睨みに口を閉じる。


「いいですか、藤さん。いかに朱鷺さんといえども

 俺たちが踏み込んじゃいけない領域があるんですよ。」

「あんたでも踏み込めないとこがあるの?」

「そりゃもちろん!なにせ朱鷺さんですから。

 あの人は踏み込めた!と思った瞬間遠いところに立ってるんですよね。」

「そんな人の様子がおかしかったら気になるのもわかるでしょ。」

「わかるけど、踏み込めないもんは踏み込めないんですよ。

 たぶん……」

「たぶん?」


少し困ったような清理は薄く笑って言った。


「俺たちが思っている以上に繊細な人なんだと思うんです。朱鷺さんは。」


なんとなく理解は出来る言葉だった。

自分のことを必要以上に話さない人間だ。

清理にも話さないことがあってもおかしくはない。

そしてそれが清理にとっても悔しいものであるのだろう。


追いつきたくても追いつけない。


彼女の背中を追っている男にとってはつらいことなのかもしれない。


「あと、ほら。」


真剣な顔の清理の声に前のめりになる。


「朱鷺さんもあれでも一応“女の子”ですから、色々あるんですよ、きっと。」

「あんた、今一応って言った?」

「本人に言ったら殴られるんでやめといたほうがいいですよ。女の子って。」

「いや、そこじゃないってば。俺が言ったのは。」


会場が拍手と歓声に包まれる。

ステージを見れば、北斗とルニスが並んで笑顔を振りまいていた。


大学時代の友人だとは聞いてはいたが、

英語で談笑する様子はちょっと予想以上に仲がよさそうな雰囲気である。


北斗が楓と太一以外の人間にあんな表情を見せるのは珍しいと思った。

藤に対してはよく見せはしているが。

藤の知らない時代の北斗が見えているような不思議な感覚。


「もしかして妬いているんですか?」

「もうあんたいい加減黙りなよ。」


雰囲気をぶち壊す清理に切れてしまいそうになる。

だが、ふとあることに気が付く。


「っていうか、荒方さんはどこで何してんの?

 今日のことは何も一切聞かされてないんだけど。」

「………いや、俺も藤さんについておけしか言われてなくて…………。」


思わず顔を見合わせてしまう。


『どうなってんだよ!荒方さん!!』


心の叫びも虚しく、彼女の姿はどこにも無かった。

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