無能と自信と謝罪
「まったく、面倒なことばかりしてくれる。私は忠告しておいたはずだろう?」
「なんで、場所がわかった?」
「お前達の体に最低限3つは発信機を取り付けてある。」
「は!?発信機!?」
思わず衣服を調べるが、それらしいものは見つからない。
「簡単に見つかるはずないだろう?私はそんなヘマはしない。」
その言葉に諦めがついた。
「いつから、どこにいるかわかってた?」
「終わったと連絡が入った時から。」
「それ最初っからじゃねぇか。」
「どうして、俺達が出てくるまで待ってたの?」
藤が疑問を投げかけた所で、ちょうど信号待ちになる。
朱鷺はバックミラー越しに二人と視線を合わせた。
「食事をしていたんじゃないのか?」
「そうだけど?」
「なら、食べ終わるまで待つのが普通だろう?」
彼女の言葉に思わず言葉を失う。
驚いたままの表情の二人に朱鷺は首をかしげた。
「何が言いたいのかわからんが、食事の邪魔などはしない。」
「いや・・・駄目じゃないのか?」
北斗の言葉に朱鷺は首を傾げた。
「何故、駄目なんだ?」
本気で疑問に思ってるとわかった。
だからこそ、かえって二人は戸惑った。
「いや………一応有名人だからな、外で食べるのは控えろって………。」
「女社長が言ったのか?」
「前のマネージャー全員に言われたよ。色々、騒がれたりするのはまずいって。」
車は再度発車をした。
朱鷺は、軽くため息をついて答えた。
「それは違う。ただ単にそいつらが無能だっただけだ。」
びっくりする暴言だが、まだ話は続く。
「大体考えてみろ、お前達が外食をしてはいけない理屈がどこにある?
どれほどお前達が有名だろうと、人は人だ。
行きたい場所があれば行けばいい。食べたいものがあるならば食べに行けばいい。
人ならば当然の権利だ。」
「だけど、俺達はいわば俺達そのものが商品なんだろう?
人に騒ぐなって言ったってどうこうしようもない。
行く場所を選ばないと、周りに迷惑が、」
「無断で外食した奴の言う事とは思えないな。」
思わず、言葉を詰まらせてしまう。
だが、朱鷺は笑みを浮かべた。
「目立てば、騒がれることもあろう。
だがな、何もかもが駄目だ駄目だといったところでどうなる?
もちろん、商品に傷がつくようなことになれば大問題にはなるがな。
ただ、お前達も前のマネージャーもよくわかっていなかっただけだ。
やりたい事を成すためには、それなりのルールを守り、先に安全策を講じておく必要があること。
それさえしておけば、出来ないことなどほとんど無いって事をな。」
彼女の言葉は静かに耳に届く。
「確かに、イメージを守るのは大事なことだぞ?
でも、イメージを守る=何もしないって事では無いだろう?
前任者達のことは一度全部忘れてしまえ。
やりたいことがあるなら、きちんと私に伝えろ。
その上で、何が必要で何をしなくてはならないのかを考える。
お前達の自由も、イメージもまとめて守るのが私の役目なんだ。」
かつて、そんな風にいった人間がいただろうか。
二人の脳裏にそんな想いが湧き上がった。
「なんだって言っていいのか?」
「私をそこらへんのマネージャーなんかと一緒にするなよ。
この手の仕事で私に不可能という文字は皆無だ!」
どうだ!という表情がバックミラー越しに見えた。
その自信がかえって怖いというものではあるが、何となく、大丈夫なような気がした。
「嘘ついて悪かったね。」
「嘘がいかに役に立たないかは思い知っただろ?」
「………そうだね。」
素直に謝った藤だったが、彼女の返しの言葉に少しいらついた。
「予定は早めに言っておくようにな。
そうでないと今回みたいに先行公開なんて事になるからな。」
「先行公開・・・・・・・・?」
ふと、その言葉にふわっとモニターを思い出した。
「ちょっと待て!!あのドラマとCMはお前の仕業か!?」
「仕業とは失礼な、あぁでもしなければ獣の群れの目が逸らせなかっただろうに。」
思わず、北斗の素が出てしまう。
「よく、公開の許可がおりたね?」
「許可?そんなものは無い。」
「は!?」
「大丈夫だ、後の処理は社長に任せた。」
「うわぁ・・・・・。」
未だかつて無いほどに、心の底からやまねに申し訳ないと思った瞬間である。
「また、社長もよくOKを出したな。」
「まあな、ドラマとCMの映像と“昨晩のお前達の”映像のどっちがいいか選ばせたからな。」
「そっか・・・・・・ん?」
ふと、納得しかけて、思考が止まる。
声に出して確認する。
「昨晩の俺達の映像・・・?」
「あぁ、そうだ。“激しい”って言ってたやつ。」
ぞわりと背筋が凍る。
「ま、待て、冗談だよな?」
「それって本当なら盗撮になるよね?」
ミラー越しに見えた彼女はにやりと笑みを浮かべ、
「さあな。」
と、呟いた。
この時、二人の頭には“不安”という文字がくっきりと浮かび上がった。
これが三人の共同生活の始まりである。
これで4月が終わりです。