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アポなしと綺麗言と戯言

朱鷺が最氷プロダクションに到着すると、

事務所内では異様な空気が流れていた。

秋桜と向日葵と白百合がしかめ面を合わせていたのだ。


「何事だ?」

「荒方様……実は社長にお客様がいらしているのですが…」

「川伊達 愛がきてるのよ。」

「アポなしですっごい上から目線で嫌な感じですぅ~!!」

「………おおかた何の話かは予想できている。

 貴殿らは仕事に戻るといい。

 下手に手を出さずとも大丈夫だ。

 やまねも誰も入るなと言っていたのであろう?」

「そうではありますが………。」

「あれでもこの会社のトップだ、その手腕をよく学んでおくといい。」


そう言って三人を解散させた後、

朱鷺は野菊の方に向かった。


「野菊、首尾はどうだ?」

「お疲れさまです、荒方様。

 特に今のところ問題は無さそうです。」


ちらりと朱鷺を確認した後、

彼女はすぐにパソコンに向き直り作業を再開した。

通常であれば野菊の巣穴に人が立ち入ることは出来ないのだが、

敬愛しているせいか、朱鷺は問題なく奥まで入れる。


「…やはり動きは見せないか。」

「というより、先珠は動きたくても動けないのではないでしょうか?」

「だろうな、黒宇を探してはいるようだが、

 どうもいまいち、動きが鈍いというか…周殿からの牽制にあっているのか。」

「目に見えて、行動しないのは流石というべきでしょうか…

 もう少し深く探って――――」

「いや、それは必要ない。どうせあいつが黙ってはないだろうし。」

「あいつ?ですか?」

「あぁ、こちらの話だ、気にするな。」

「承知いたしました。」

「それとこのコードにアクセスしてもらえないか?」


朱鷺が野菊にコードを書いたメモを手渡した。

受け取り、素直にアクセスをすると

画面に映像が映し出された。


「………社長室にカメラ仕掛けてるんですか?」

「やまねには言ってないから秘密で頼むぞ。」


やまねには悪いと思いつつもどこか嬉しさに頬を赤らめる野菊である。


*****************************


「ん~、相変わらずいい豆使ってるのね、やまねちゃんは。

 たかだか珈琲一杯が贅沢な味がするわぁ~」

「あんたは相変わらず嫌味だか褒めてるのかわからない言い回しね。」

「やーね、年取ると疑り深くで嫌だわぁ~、素直に受け取りなさいよ!」

「一応、あんたと変わりませんけどね?」

「やっぱり、やまねちゃんは好きだわ。

 そんな風にはっきりモノ言ってくれるの、もうあなたぐらいだもの。」

「そりゃ、天下の川伊達 愛にモノ言える人間なんてそういないでしょうに。」

「やだ、天下なんて!」

「あら、ごめんなさい。首狩りの魔女の川伊達だったわね。」

「だったら、わかってるわね?首をもらいにきたの。」


にやりと笑みを浮かべた川伊達に、

思わずやまねは背筋がぞくりと冷えた。


「あら、ちょっと言い方間違えたわね。

 大丈夫よ、首って言ってもちゃんと胴体もつながった状態のことだし。

 っていうか、このクッキーも美味しいわね!」


お茶うけに出された菓子を頬張りながらも話を続ける川伊達。

やまねは珈琲を一口運び、ため息を付いて返す。


「…北斗を渡すつもりは無いわ。」

「残念だけど、北斗と藤くんもよ?」

「は?」


思いもよらぬ提案に唖然とするやまねに対し、

川伊達はにっこりと微笑む。


「聞こえなかった?

 周殿 北斗と先珠 藤の2名を渡しなさいと言ってるの。」

「なんで…藤まで……」

「先珠とは共同戦線をはることにしたの。」

「……なんですって。」


不穏な単語にやまねはしかめ面を見せる。


「どっかの暴走した馬鹿がうちの建物爆発させちゃって、

 ちょっと迷惑したんだけどねー、

 桜ちゃんもその馬鹿は好きにしてもいいって許可くれたし、

 何より目下の面倒はやまねちゃんと朱鷺ちゃんなのよねー。

 桜ちゃんも馬鹿のおかげで面目丸つぶれだけど、

 藤くんさえ手に入るならどうでもいいみたいだから、

 あたしが交渉役をかって出たってわけ。」

「よくもまぁ、べらべらと手の内を明かすものね。」

「手の内も何も現実をやまねちゃんに突き付けてるだけよ。

 あ、ちなみに交渉はあなたとやるつもりはないから。」

「荒方に言っても無駄だと思うけど?」

「大丈夫よ、北斗に交渉するから。

 悪いけど呼んでもらえる?

 あの子ったらこっちからの連絡を全部無視しちゃってるのよ。

 本当、反抗期って面倒だわ~。」

「あんたに会せるわけないでしょ。」

「会せるのがそんなに怖い?

 あ~、怖いわよね?だってあたしは北斗のことよくわかってるから。

 まぁ、この間は朱鷺ちゃんに邪魔されちゃったけど。

 そんなに心配しなくても、次に会ったらちゃんとすぐ済ませるから。

 時間はとらせないわよ。」

「よくわかってるですって?」


やまねの握るカップがみしりと鳴る。


「そうよ、あの子を一番理解してるのはあたしなの。

 北斗が一人前の跡継ぎになれるように、

 た~っぷりと時間をかけて可愛がってあげたの。

 おかげで従順な子に育ってくれたはずなんだけど、

 この10年ぐらい自由にさせてあげたら大事なことも忘れちゃったみたい。

 だからもう一度教え込まないといけないんだけどね。

 でも大丈夫よ、この間の様子だとすぐに戻れるわ。」


怒りに震えるやまねの様子にふうとため息をついた川伊達は続ける。


「…あなたたちにはわからないでしょうね。

 本来の跡継ぎだった愚兄の優李が若いうちから家を出て、

 残された北斗が一人で周殿という家を支えなきゃいけなくなって、

 その重みがどれほどのものなんて………

 そんなしがらみも無い世界で安穏を過ごしてきたあなたたちには、

 あの子の背負ってるものがどれほどのものか理解出来ないでしょう。

 それでも、あたしには北斗を立派に跡継ぎとして支える使命があるの。

 彼のために、周殿のために………だから、たとえ北斗が嫌がろうとも、

 あたしはあの子のために人生をかけてもやり通すと決めてるの。

 それが、周殿という家に生まれた北斗の宿命だもの。」


やまねはゆっくりとカップを置いた。


「――――それは大きな間違いよ。

 本当に北斗のためを思うならば、あんたのやり方は間違ってる。」

「普通の家と一緒にしないでくれる?

 北斗は他の人間とは別物なの。普通とは違うのよ。」

「違わない。」

「だから、周殿は―――」

「あんたはあの子の笑顔を見たことがあるの!?」

「そりゃあるわよ。」

「大人になってあんたに笑いかけたことがある?

 愛想笑いじゃなくて、本当の心の底からの笑顔よ!?」

「………なにが言いたいの。」

「あんたに北斗の価値はわからないってことよ!」

「価値?」

「北斗と藤はね、あの表情に価値があるの。

 表情や感情、行動に言葉に姿勢や佇まい、

 とにかくあの子たちのそのものが人を魅了する力を持ってる。

 彼らの姿のためにどれほどの人間がどれほどのお金を時間を、

 いろんな労力をつぎ込むと思ってるの?

 そんな人間が腐るほど世の中にいると思ってるの?

 もし、それがわからないんだったら、

 魔女と言われたあんたの目は節穴、本当にがっかりだわ。」

「なんですって?」

「どれほどの人間があの子たちを望んでるかわからないの?

 その中には生きがいにもしている人間がいるの。

 そんなことができるあの2人の魅力をつぶさせるわけないでしょ。

 求められているのよ、あの子たちは。

 誰もが胸を張っていられる、この明るい世界でね。」

「やまねちゃん、あなたは賢いと思っていたけど、

 とんだ買い被りだったようね。

 この弱肉強食の世界の中で甘い理想論なんて、

 そんなくだらない綺麗言が通用するものじゃないのよ。」

「あら、それはこちらのセリフよ。」


今度は川伊達の方が眉間にしわを寄せる。

だが、やまねは一切ひるむことなく言い放った。


「この世の中は戯言だけでも生きてはいけないのよ。」


馬鹿みたいと呟いて川伊達は立ち上がって部屋を後にした。

彼女と入れ替わりに朱鷺が部屋に入ってきた。

朱鷺の姿に安心したのか、やまねの肩の力が抜ける。


「………よくやった。」

「馬鹿ね、この程度で褒めないでよ。」


珍しくも笑う朱鷺の表情に安堵のため息が思わずこぼれた。

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