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建物と異様と文武両道

8月の話だ。

新人として人気絶頂だった黒宇 奄。

藤にライバル宣言をし、対決を挑んだが敗北し姿を消していた。

先珠 桜が朱鷺たちへの警告として送り込んでいた人物だ。


[相変わらず、お元気そうですねー藤さん♪]

「そういうあんたはだいぶやつれたように見えるけど。」

[………俺も色々あったんで。]


普通に会話をしている風にはしていたのだが、

藤も清理も内心はがくがくに震えていた。

原因は奄の後ろに見える建物だった。


[っていうか意外だったなぁ、藤さんがそんな場所まで辿り着くなんて]

「そうだね、自分でも結構意外だよ。」

[まぁ、荒方の右腕と一緒なら仕方ないですよね~、城酉 清理だっけ?]

「うわぁ、俺って有名人!」

[安心してよ、家族はまだ見つかってないから。うまくやるよね。]

「そんな簡単に見つかるほど荒方 朱鷺の右腕は伊達じゃないんでね。」

[そういうむかつくとこ、大好きだけどなぁ♪]


けらけらと笑う奄。

明らかに以前の彼とは雰囲気が違う。


「で、ここまで手の込んだことして黒宇さんは一体何がしたかった?

 残念だけど、全部突破しちゃったんで、意味ないよ?」

[あぁ、大丈夫。

 狙撃なんてただのレーザー当ててただけだし、ただの脅し。

 ゲームのクリア条件なんてのも大した意味なんかない。

 ・・・・・・・・・もう察しついてるんじゃないの?城酉さん?]


後ろの建物を指さす。


[あの建物が何なのか、城酉さんは知ってるんでしょ?

 あぁ、藤さんは知らないかもしれないから

 せっかくだし、教えて差し上げますよ!!]


いいや、本当は知っている。

何度も前を通っていた月に一度。


[周殿家の所有なんですよ。

 住んでいるのはえぇっと誰だったかな?]


わざとらしく頭をかく奄。

あぁ、そうだ、と呟いてにっこりと笑う。


[不桟 瑠依と娘の楓ちゃんだった!

 誰かっていうと、周殿 北斗の義理の姉と姪っ子さんなんですよ!]

「やめろ。」


藤の言葉にも反応せず、奄はスマホを取り出した。


[荒方 朱鷺も城酉 清理もそこにいる。

 俺にはそれだけで十分だったんですよ。]

「やめ」


叫ぼうとした瞬間、清理が藤の口を抑え、

そして奄がスマホをひとなでした瞬間。


―――どおおぉん!!!!!!


奄の背後の建物が火柱をあげて吹き飛んだ。

一瞬の間に建物は粉々になり、噴煙を巻き上げる。

黒々とした煙がふわりと広がった。


そのやりとりをイヤホンで聞いていた北斗は呆然と立ち尽くした。

音だけで、状況が読み込めない。

というより、読み込むことを頭が拒絶しようとしていた。

だが、北斗と朱鷺の携帯が同時に鳴り響いた。


「………なんだ?」


北斗が画面を見ると周殿の警備からということを確認した。

瑠依達の家で爆発が起きたことを告げる電話だった。


頭の中で瑠依と楓の笑顔が思い出された。


返事もせずにすぐに向かおうとした時、

朱鷺がすかさず彼の耳に自分の携帯をあてた。


[―――もしもし!ほくとのけいたいですかぁ?]

「・・・・・・・・・楓!?」


絶望的な世界から一気にまぶしい現実に引き戻された。

目の前の朱鷺のうっすらとした笑みが安堵を呼ぶ。


[あ、ほくとだぁ!ママ!ほくとのけいたいだよ!]

[もしもし!北斗!?大丈夫なの!?]

「瑠依さん!無事なの!?」

[少し前にね、荒方さんの部下さん?お知り合い?だったかしら、

 えっと、向日葵さんと秋桜さんって方がいらしてね、

 すぐに避難をしてって言われたのよ、

 SPと一緒に別の周殿の所有物件にきたんだけど

 何か凄い音がしたんだけど…北斗は大丈夫なのね。]


ほっとした様子に思わず座り込む北斗。

朱鷺はイヤホンの会話に耳を澄ませていた。


「・・・・・・・・・黒宇、あんた、自分で何したかわかってるの?」

[何ですか?藤さん?俺が何したんでしょうかね~?]

「あんたは先珠の関係者だったはずでしょ?」

[まぁ、そうですね。]

「爆破したのは周殿の所有物だよね?」

[その通り!!]

「つまり、それは………」

[大丈夫ですよ、

 ちゃんと俺がやったってわかるように痕跡は残しましたから]


つまり


[先珠が周殿に喧嘩売った。ってちゃんと見えますよね?]


その一言に聞いた4人の顔色が変わる。


「あんたは馬鹿なの!?

 その2つがぶつかったら抗争が起きかねないんだよ!?」

[あぁ、どうでもいいです、そういうの。]

「どうでもいいだって!?」

[………俺には“先珠”も“周殿”もどうでもいいんだよ。]

「黒宇、何がしたいんだ。」



[あんたたちをぶっ潰せればそれでいい!!

 どこの家柄だろうが、どこの財閥だろうが、

 ぜーっんぶどうでもいいんだよ!!!!!

 ただただただただ、あんたたちが憎くて憎くて仕方がないんだよ!!!!!!!!

 人に恨まれるっていうことがどんなことだか、

 その身をもって思い知って、怯えればいいんだよ!!!!!!!!!!]


はははははははと狂ったように笑い声をあげる黒宇。

異様なその姿に藤は言葉を失った。


「じゃあ、藤さん。ま・た・ね?」


ぷつりと映像が切れた。

呆然とする藤の肩を強めに清理が掴む。


「……藤さん」

「耐えろって言いたいの?」


「こんな状況でも、朱鷺さんはすでに心を決めてるんですよ。」


はっと我に返る。


「……君も。」

「もちろんです!さ、朱鷺さんたちと合流しましょう。」


清理たちが合流地点に向かう頃。

朱鷺たちもステージを下がる頃だった。


「仙羽殿。」

「なーに?」

「先ほど、北斗が歌っていた曲は有名なものなのか?」

「うん、そうだよ。ちょっとだけ古いけど。

 でも最近の若い子でも好きな人はカラオケなんかでうたったりするかもね」

「…そうなのか。」

「朱鷺ちゃんは知らないの?」

「あ、いや、ちょっと聞き覚えがあっただけだ。

 それほどありふれたものならば、どこかできいたんだろうな。」


懐かしい旋律に胸が痛くなる朱鷺だったが、

頭をすぐに切り替え、己の仕事に戻った。


***********************


清理と共にマンションに帰ってきた。


「まさかとは思いますけど、朱鷺さんとは寝室別ですよね?」

「あんたね、わざわざ人の家でそれ言うこと?」

「放っておけ、藤。無理に付き合うな。脳みそ腐るぞ。」

「いやいや!大事な話ですって!!

 俺ですらまだ閨を共にしてないんですから!!」

「君も大変なんだね、荒方さん。」

「何も言うな北斗、口に出すだけ虚しくなる。」

「だいたい朱鷺さんは警戒心なさすぎなんですよ!!

 いくら自分の身は守れるほど強いからって、

 風呂上がりなんてノーブラでいたりしてんじゃないんですか!?」


次の瞬間、清理の体が吹っ飛んで廊下の先に消えた。


「すまんな、藤、北斗。」

「「い、いや……気にしないで。」」


一瞬ノーブラかどうか気になったことは心の奥底に仕舞った。


「まぁ、冗談は置いといてですよね!」

「ほお、うまくかわしたか。成長したものだな。」


清理が足取り軽く戻ってきた。


「北斗、周殿からは何か連絡は無いのか?」

「警備からだけだよ、あぁ、SPには一応連絡したけど、

 親父からの連絡もないみたい。

 まぁ、元々俺とも連絡とるような人ではないけれど。」

「あの周殿 兵佳が自ら動くとは思えないしな。様子を見るしかないな。

 藤、先珠のほうは何か情報を掴めたりするか?」

「あぁ…申し訳ないけど、俺は逆に桜さんとしか連絡とれないから

 彼女に連絡して直接きくしかできないんだけど……」

「今、連絡するのは得策ではないな。」

「頃合いを見計らって出来たらやってみるよ。

 でも………荒方さんから見てこの状況はどうだと思う?」

「何事もなければと願いたいが、そうもいかないだろう。

 先珠と周殿がまともにやりあえば勝敗は目に見えている。」

「……先珠が追い詰められるね。」


日本とアジア一帯の規模の差がある。


「先珠が潰れるのは君にとって好都合なんじゃないの?

 どちらかでも勢力が減れば片方に集中できる。」

「いいや、そうもいかない。

 先珠が潰れる以上周殿にも撤退してもらわねばならない。

 周殿がもし先珠にとってかわってしまえば、

 この国のネットワーク自体が根本から変わる危険性がある。

 それが周殿という恐ろしい名の力なんだ。

 周殿が引かない以上は先珠にも生きていてもらわねばならん。」

「………まず、どうすればいいの。」

「黒宇 奄をどうにかせねばなるまい。

 これ以上荒らされては面倒だ。

 清理、探して見つけ出せ。」

「御意!」


清理はベランダから姿を消した。


『どうしてあの人はいつもまともなところから行かないのかな。』


藤は不機嫌そうにベランダに通じる窓を閉める。


「それはそうと、向日葵さんと秋桜さんは何で避難させられたの?」

「あの家は野菊に元々監視をさせていた。

 異常を検知したのだが確認が取れなかったので二人に行ってもらった。」

「何であの二人?危なくない?」

「………ムエタイの元王者と合気道の達人コンビに、

 周殿のSPがついていれば問題なかろう。」

「「は!?」」

「最氷プロダクションの華の四天王が文武両道でないはずがない。

 それに秋桜の交渉術があればSPも丸め込めるし、

 向日葵がいれば小さき姫も怖がりはするまい。」

「まぁ、確かに………」

「………飲み物入れるよ、珈琲でいい?」

「あぁ、頼む。」


『しかし、あの男が黙ってるとは思えないんだがな。

 出来れば関わりたくないんだが……。』


朱鷺の中に浮かび上がる男の存在に思わずため息がでる。


こうして彼らの10月は過ぎていったのだ。

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