体力とパソコンとsong
「清理、探す人物は私の姿が見える位置にいて、
恐らくはそれほど離れてはおるまい。
あと、パソコンらしき機械を持っているはずだ。」
[それは何故です?]
「私たちの受け取ったクエストデータ自体がこの会場のものとは別物。
ならばこの4人だけに配信されるように工作しなければならない。」
[…配信データを別に送り込める機器が必要ってことですね。御意。]
会場全体を見渡して持っていたノートに
予想できる場所を書き込んでいく清理。
「一応、聞いておきますけど。
藤さんって体力に自信はあります?」
「・・・・・・・・・人並程度かな。」
「年間何本もドラマや映画撮ってる人の体力ってそんなもんなんですか?」
「うるさいな、俺はアクション系はダメなんだよ。」
「体質的に筋肉をつけようとしても中々つかないパターンですか。」
「だから人並はあるけど、あんたたちみたいなどこからでも
出てこれるような体力馬鹿みたいなものは持ってないだけだよ。」
「とか言って、普通なら逃げ切れるくせに、
肝心な時にうっかり足首ひねっちゃうとか無いですよね?」
「あぁもう!どうしてあんたたちはそう余計なことばっかり!」
「図星なんですね。」
「悪かったね!!」
イヤホンから聞こえてくる騒動に思わず朱鷺のため息が零れる。
北斗はうっかり「可愛いなぁ」と呟く始末だ。
「とりあえず、パパっとこれに着替えてくださいね!」
清理から手渡されたのはイベントのスタッフの服装。
彼はすでにいつのまにか着替えていた。
「はい、あと眼鏡と帽子は深くかぶって、外れないように。」
服を着替える途中の藤にささっと2つのアイテムを装着させる。
ノートを広げて藤にルートの確認をする。
「今からこのルートで会場をまわります。
なるべくついてこれる速度では進みますが、
一般人に見つかったり、ましてや敵に見つかったりは避けたいので、
ある程度、速いですので頑張ってついてきてください。
それから、今後声を出しません。
もし、何かに気づいたなら服を引っ張るなり合図を送ってください。
いいですね?」
「わかった。」
「朱鷺さん、城酉 清理参ります。」
[任せたぞ。]
早速清理は裏手に回り、何故か窓を開けた。
そこから足の踏み場も片足だけが入るような場所に立った。
「いや、それはむっ」
藤が抗議をしようとした瞬間彼の胸倉を掴んだ清理はドスのきいた声で
「いいから黙って着いてこい」
と、睨みつけた。
覚悟を決めた藤は彼にならって建物から外に出る。
清理は清理でなるべく人目に晒されない、
尚且つ最短ルートでまわるために必死で目を凝らしていた。
有名人である藤を連れて歩くのはリスクが高かったが、
一人残して、もし襲われでもしたら本末転倒だ。
『ましてや、朱鷺さんが俺に一任してくれた。
その期待には絶対報いなければ。』
それは先月の話だった。
「え、朱鷺さん俺に辞めろって言ってます?」
「あぁ、そうだ。」
「また、何をおかしなことを。熱でも出てるんですか?」
「本格的に先珠と周殿を相手にするんだ。
お前も下手すれば無事ではすまんぞ。」
「俺がいなくてどうやって相手にするつもりなんですか。」
「今までとはわけが違う。」
「嫌ですよ、俺は朱鷺さんから離れません。
そのために家族も遠い安全地帯にうつしてるんですから。」
「責任とれんぞ。」
「俺は朱鷺さんに責任なんて求めてません。
ただ、あなたについていくことだけを求めてるんです。」
『責任とれないとか嘘言っちゃって…』
何事かあれば無責任に放り出すような朱鷺ではないことを清理は知っている。
なにより、何が何でも守ろうとするということも。
こうしたやりとりは本当に危険な仕事の時に必ずする。
何度も同じ返事をするというのに、決まって彼女は辞めろと切り出し、
清理の折れない返事に少しだけ悲しそうな顔をする。
朱鷺の失った大切な人物を知らない。
いつどこでどんな風に失ったかも何も知らない。
その過去が彼女にそんな表情を作らせているのだということだけはわかる。
―――だからこそ、俺はついていかなきゃ。
彼女のあの悲しい表情をされなくするために。
朱鷺の信頼を惜しみなく受けて、その隣に立っていられるように。
『ここも違うか。』
会場内を回るのだがどうにも見つからない。
時間ばかりが刻々と過ぎていく。
ある程度、速度は落としているものの、
やはり藤に遅れが出始めていた。
少し、通りづらいルートを使っているせいもある。
『もう少し、回り道を…多少時間が……。』
時計を確認する、思いの外時間がかかっていた。
残り5分になる前に見つけなければならない。
それまであと10分。
『迷ってる暇なんか―――』
ぐいっと服が引っ張られる。
藤が指を指した方向に不自然なケーブル線を見つけた。
清理はすぐに近くの木に登り、その線の行く末を確認する。
『見つけた!』
降りてすぐにその場所へ向かう。
藤も清理を必死で追いかけた。
やがてたどり着いたのは開けてはいるが、
他の人の目にはつかない場所だった。
だが、そこには人の姿は無く、
朱鷺の姿を映すためのカメラと一台のパソコンが置かれているだけだった。
「マイクは無いようですね。
カメラの性能がいいので予想より離れた場所にあったわけですね。」
周囲を確認し、安全を確かめると藤を近くに呼ぶ。
「しかし、閉じられたノートパソコンとは…危険な香りが。」
藤は躊躇なくそのパソコンに触れ。
「何してんですか!?まだ安全確認とれてないですよ!!」
「大丈夫だよ、開けたら爆発なんてものじゃないよ、これ。」
「何で言い切れるんだか。」
「伊達に長い間先珠してないって。」
「は?」
「俺にも得意分野があるってこと。」
ノートパソコンを開く藤。
その画面には何かを打ち込むようなウインドウが開かれていた。
「うわー……やべ。」
[何事だ清理。]
「何かプログラムっぽいです。」
[・・・・・・・・・貴様の苦手分野だな。]
「見たことないです。」
[映像をこちらにまわせば教えてやれんことも無いが]
「それじゃあ、時間がかかるでしょ荒方さん。
俺でもそれは出来るけどそれよりもこれは打ち込んだほうが早い。」
[何を打ち込むかわかるか?]
「ただのパスワードじゃないよ。文字数が多すぎる
数えてざっと611文字?…随分中途半端だね……
あと…このめちゃくちゃな旋律のBGM・・・・・・・・・」
[…これは。]
[song、だね]
「611文字の歌を特定してその歌詞を打ち込めと…」
「また面倒なものですね。」
一同がため息をつくと、北斗が提案をした。
「荒方さん、ゲームの指示をお願い出来る?」
「…かまわんがどうする気だ?」
「Of course, I sing.」
そう言うと北斗は静かに歌いだした。
それを聞いた藤は聞くと同時にパソコンに打ち込んでいく。
「うわっ、北斗さんその曲懐かしいっすね!」
「凄いいい曲だよね~」
「仙羽殿、回避だ。」
「うわっ、危なかった~!!」
北斗の歌をBGMに藤は打ち込み、
朱鷺たちはゲームの敵を倒していく。
そしてちょうど歌詞を打ち込み終えた頃。
クエストもまた5分前を切った。
「全員、下がって。」
北斗の合図でプレイヤーは離れ、北斗の大技が発動。
見事、強敵を倒し、クエストクリア。
「よっしゃー!!!!!!!!!」
「すっごい!時間ばっちり!!凄いよ北斗くん!!」
「ありがと。」
大興奮な二人をよそに、落ち着きを払った北斗は朱鷺の視線を感じた。
「随分、頭の回転が速いんだな。」
「まあね、って言ってもどうせ君も似たような事出来るんでしょ?」
「そうではあるが。」
「多分、君の脳と俺の脳はちょっと似てるんだと思うよ。」
「……おぬしは」
朱鷺が言いかけた朱鷺。
イヤホンから驚愕の言葉が聞こえた。
「―――玄宇 奄…?」
パソコン画面にはにこやかな笑顔で手を振る奄の姿が映し出された。
「お久しぶりですね、ふ・じ・さ・ん♪」
にやりとした笑みにぞくりと悪寒がはしった。




