香水と配信開始と指示
がやがやと騒がしい人だかり。
会場にはいくつものテーブルとイスがセッティングされ、
様々な人達がゲーム機を片手に集まっていた。
数か月前、藤のスペシャルドラマのイベントで使用された会場に、
太一と悟は仲良く手を振りながらイベントトークを披露していた。
そのステージの隅に設置されたテーブルとイス。
テーブルの上、真横に区切られた衝立の奥は会場からは見えにくくなっている。
そこに座っているスタッフ風の二人組。
「…北斗、変装などしなくとも、
普通におぬしも2人とイベントに参加すればいいのではなかったのか?」
「荒方さんさ、イメージってわかってる?」
「別に、短期間でレベルマックスになるほどの
やりこみ型ゲーマーなどとは公表するわけでもあるまいし。
むしろ意外性があってうけるんじゃないのか?」
「世の中のLadyはそういうわけにはいかないの。」
「……女心とは難しいものだな。」
「君がそれ言うの…。」
北斗の呆れ声に賛同するかのようにイヤホンからため息が聞こえる。
ため息の主である藤は清理とともに近くのカフェで待機中。
清理は店員に扮して近くにはいないが、
イベント会場は見渡せる、かつて太一が待機していた場所だ。
この日、一行は悟の言っていたゲームのイベントに参加していた。
会場ではプレイヤーが集まり各々、チームを組み、
ひたすらに協力プレイをするというイベントである。
悟はこのゲームの主題歌を担当していたがために参加。
ゲーム仲間として太一も紹介されたのだ。
「しかし、何故こんなに人が集まるものなんだ。
家でもどこでもやってるのであろう?」
「今日は特別にこの会場のみで配信されるクエストがあるんだよ。」
「…おぬしも欲しかったのか。」
「別に…そういうわけじゃ…ないけど…」
「コレクターの血が騒ぐのだな。」
「だからそんなんじゃないって。」
「香水のコレクションはしているじゃないか。」
「だからそれは……………って、何で知ってるんだよ。」
「鍵付きの引き出しにぎっしり入っているしな。」
「君って人は………。」
正直、もはやこの程度では驚かなくなったことに、
月日の流れを感じた。
「だいたいコレクションって言ったって
気に入ったものしか買わない主義だし。」
「ほぉ、最近はどういう香水が気に入ってるんだ?」
「…植物系だよ。あんまりきつくないやつ。」
「具体的に?」
「………Maple。」
「本当に小さきものが好きだな。」
「誤解生むような言い方やめてくれる?本当に違うから!
楓が二十歳になったらあげたいって思っているだけだから!」
「優李殿の耳に入らないといいな。」
「…香水全部勝ち割られそうだよ………。」
この日何度目かのため息がイヤホンに漏れる。
『どうしてこの人は緊張感が無いんだか。』
「不思議な方でしょう?朱鷺さんって。」
清理が注文した珈琲とケーキを運んできた。
いつの間にか周りに客はおらず、店員も清理一人のように見える。
「この階は貸し切りにしてあるんでお気になさらず。」
「そこまでする必要があるの?」
「・・・・・・・・・ご自分の知名度理解出来てます?」
「……………」
ばつが悪そうに珈琲を一口飲む。
イヤホンからは北斗の吹き出した声が聞こえた。
「本当に朱鷺さんといい藤さんといい、どこかしらぬけて」
[いらぬ口を開けるな、縫い付けるぞ。]
「やだなぁ、朱鷺さん。冗談ですよ♪」
[それより、何の問題もないか?]
「今のところは、ってとこですね。
見張りのメンバーからも特に連絡はきてませんし。」
腑に落ちないという表情の朱鷺。
「何か気にかかることでもあるの?」
「タイミングからしてこの会場で何かあると思ったんだが…」
「ねぇ、今物騒なこと言わなかった?」
「事実を言ったまでだ。」
[・・・・・・・・・もっと早く言わない?それ。]
「だいたいゲーム好きでも何でもないあのちんけな歌手が
こんなイベントに呼ばれること自体おかしいと思わないのか。」
「いや、まぁ、多少は思ったけど………。」
[一応主題歌は任されてあるんだよ?]
「この間の変な気配といいタイミングが怪しくてな。」
「荒方さんから見て何か気になるところはないの?」
「このテーブルだな。あきらかに会場とは逸脱してある。」
このテーブル自体は太一と悟のプレイ用のものだが、
衝立は主に北斗が隠れるために朱鷺が設置したものである。
会場に着いた時にくまなく調べはしたのだが、
オンラインでつなぐための無線設備以外はおかしなものは無かった。
「はーい!それではプレイヤーの皆さん!
そろそろ本日のこの会場だけの限定クエストが、
まもなく配信開始されるので準備してください!」
「配信後、各々クエストを開始でオッケーです!!」
自分たちの準備のために太一と悟も定位置に座る。
「しっかし、朱鷺ちゃんも北斗くんも凄いよねー。
僕たちのプレイしてるとこ一度見ただけで、
そのままプレイ出来ちゃうんだもなー
なーんにも教えてあげられなかったし。」
「だから必要ないと言ったではないか。」
「俺なんて一番先に始めてたのに、今じゃ一番レベル低いし。」
『まぁ、敵を倒すだけだから効率の問題なんだけどな。』
数分後、配信開始の合図が会場に響いた。
それぞれが配信されたクエストを確認。
「朱鷺ちゃん、北斗くん、心の準備はいい?」
「「Let's go!」」
「俺のことも忘れないでくださいね!」
「よし、いざ出陣!!」
太一の掛け声とともにクエスト開始。
「「えぇ!?」」
「これは……」
「……ラスボスだね。」
「マジっすか!?俺、まだ最後まで行ってないっすよ!?」
「僕もだよー!勝てるかな!?」
「2人ともちょっと待って……チュートリアル?」
画面に何やら戦闘についての説明文が出てきた。
「え、何これ、どういうこと?」
「つまり、プレイヤーの誰か一人でも力尽きれば即終了。」
「マジっすか!?」
「加えて、時間制限残り5分の間に敵を仕留めなければならない。
5分前に倒しても即終了。」
「えぇ!?そんなの無茶クエだよ~!!」
いまだかつて聞いたことのない条件のクエストに不信感を抱く。
その時、イヤホンに慌てる声が入った。
[嘘でしょ、荒方さん!]
「なんだ?」
[朱鷺さん、仙羽くんの頭にレーザーが………]
「「!?」」
朱鷺たちの位置からは見えないが、
藤たちの位置からは薄っすら見える。
太一に照準が当てられた赤い印。
「2人ともどうしたの?」
突如、言葉を出さなくなった二人を心配して太一が声をかける。
「いや、何でもない。しかし、面倒なクエストだな。」
こっそり、立ち上がろうとした朱鷺だったがすぐに清理から静止が入る。
[長生くんにも印が付きました。]
『ちっ、どこからか見ているな』
朱鷺が体制を元に戻すと、悟の印が消える。
ここから離れるなという警告。
ならば、このクエスト自体も無関係ではない。
「荒方さん…このクエスト・・・・・・・・・」
「このテーブルのメンバーだけのようだ。」
会場内のプレイヤーの唇を読み取る。
一向にメッセージと同じ単語が出てこない。
つまり、即終了ということは、太一の狙撃ということだ。
『このクエストをクリアせねばならない…。
だが、それだけで終わる保証がない。
会場にいる敵を見つけねば安全は確保できない。』
「清理。」
[はい!]
「藤と一緒に会場一帯を捜索しろ。」
[[え!?]]
「私の動きが見える位置を徹底的に探せ、
お前の能力なら可能なはずだ。
ただし、見つけても手は出すな。
まず、このクエストをクリアしてから…」
「太一、君のスキルで敵のHPを確認してくれる?
できれば5分毎がいいな。」
「了解!今はだいたい……」
太一の答えに北斗が何やらぶつぶつ呟く。
何事かとその様子を眺めていた朱鷺だったが、
彼は気にも留めず、一分ほど考えた後、よし、と呟いた。
「荒方さん、悪いけど、弱点を徹底的に攻めてもらえる?
破壊できるとこ全部破壊して。」
「しょ、承知した。」
「太一は遠距離だから、安全そうな位置からの攻撃を。
あとはみんなの回復役をお願い。」
「了解!」
「悟はなるべく敵の左側で攻撃してて、そっちのほうが避けやすいから。」
「オッケーです!」
「ただし、力尽きたら絶対許さない。」
「…は、はい。」
「俺は地味にパワーためて大技繰り出すから、
巻き込まれないように、合図したらすぐに離れてね。」
「「ラジャー!!」」
朱鷺の耳元に顔を近づける。
「クエストの方は俺が2人に指示するから、
荒方さんは別の2人の指示をするといいよ。」
「・・・・・・・・・あぁ、そうさせてもらおう。」
改めて朱鷺は清理と藤に指示をするのであった。




